白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第23話 告げられたかった言葉の、続き

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収穫祭の余韻がまだ村に残っている翌日。

リオラは朝から落ち着かなかった。
昨日の“抱きしめられた瞬間”を思い出すたび、胸が熱くなってしまうからだ。

(あんなふうに……私を抱きしめて……)

顔を覆って転げ回りたい気持ちを必死に押しとどめていた。

そこへ、控えめなノック。

「リオラ、入ってもいいか?」

ラディスの声だ。

「は、はい!」

慌てて姿勢を正すと、ラディスが扉を開けて入ってくる。

今日は仕事の時間を削ったのか、夕方にもかかわらず早い帰宅。
穏やかな笑みを浮かべていた。

「昨日は……すまなかったな。あんなに強く抱きしめてしまって」

「い、いえ……助かりましたから……」

「助けるのは当然だ。君のことだから……」

(君のこと……?)

続きを待ったけれど、ラディスは一度言葉を飲み込み、
少しだけ視線をそらした。

いつも冷静で無表情気味な彼が、
いま、確かに“照れて”いる。

胸がじんわり熱くなる。


---

■夫婦の散歩のように

「少し……歩かないか?」

「えっ……い、いいですけど……」

気づけば庭へ。
夜の庭園は静かで、花々が月光を受けて淡く輝いている。

二人の影が、並んで伸びていた。

しばらく無言で歩き、ふいにラディスが足を止める。

「リオラ」

低くて、優しい声。

リオラは胸がきゅっと締めつけられる。

「昨日の収穫祭……君と踊れて、本当に嬉しかった。
俺は、あんなにも……胸が熱くなるとは思っていなかった」

「……ラディス」

ラディスはゆっくり振り向き、
月の光に照らされた横顔が、驚くほど綺麗だった。

「君は不思議だ。
最初は“白い結婚”でいいと思っていたはずなのに……」

一歩、近づく。

リオラの心臓が跳ねる。

「気づけば、君の笑顔が何より嬉しい。
君に喜んでほしくて、どうでもいい物まで買ってしまう」

「そ、それは……確かに最近……」

「君が夕食を作れば、それだけで1日の疲れが消える。
君が屋敷にいると思うだけで、帰りたくなる」

もう一歩、距離が縮まる。

息が触れそうなほど近くて――
逃げられない。

「リオラ。俺は……君のことを——」

(……っ!)

その瞬間。
胸の奥が激しく高鳴る。

ここまで言ったら、もう答えはひとつしかない。

ラディスの瞳は真剣で、優しくて、
まるで“告白”そのもので――。


---

■突如、響く足音

「旦那様!!」

遠くから、慌てた叫び声。

側近のハールトが駆け寄り、息を切らしながら叫ぶ。

「た、大変です! 急ぎ、執務室へ!
侯爵家の動きが——!」

ラディスは表情を引き締め、数秒間リオラから目を離さない。

まるで“言いかけた言葉”を残したまま、目で語るように。

「……話の続きは、必ずあとで」

優しい約束の声。

リオラは、ただ頷くことしかできなかった。

ラディスは一瞬だけリオラの手を取り、
その手を名残惜しそうに握りしめてから、側近とともに走り去っていった。

残されたリオラは、静まり返った庭の中で胸を押さえる。

「ラディス……」

ここまで言ってくれた。

あと少しで、言葉になっていた。

それがわかっただけで、
胸が、痛いほど温かくなっていた。


---

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