白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお

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第28話 「戻ってきてくれ」と言われても——もう、その家は“家族”ではない

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 ラディスの公式文書が侯爵家に届けられてから、わずか一日。

驚くほど早く、“その時”は訪れた。

屋敷の玄関前で、家令が困った顔で報告する。

「旦那様……侯爵様が……またお見えです」

「また……?」

リオラは思わず息を飲む。

エミが耳元でささやいた。

「昨日の文書……効きすぎたんじゃないでしょうか」

確かに——
あの警告状は“貴族への宣戦布告”に近い強さだった。

ラディスは冷静に頷き、玄関へ向かう。

そして扉が開かれた瞬間。

「リオラ……!」

侯爵——リオラの父が飛びつくように現れた。

昨日の尊大さなど完全に消え失せ、
汗をだらだら流し、顔色は土気色。

明らかに“怯えている”。

「り、リオラ……帰ってきてくれ……!」

「……は?」

あまりの豹変に、リオラは固まってしまう。

父は声を震わせながら言葉を続ける。

「す、すまなかった……噂の件も……白い結婚と言ったのも……すべて誤解だ……!」

(誤解じゃないでしょう……)

昨日あれだけ“便利に使う”と言ったのに、
今日になって土下座寸前の姿勢で懇願してくるなど、
理解の範囲を超えている。

「お前が公爵家の庇護を受けると、
我が家の政治的立場が……非常に……その……!」

(はぁ……結局それ)

リオラの胸の奥が冷えた。

父が求めているのは娘ではなく、
ただの“家の都合”だ。

それを悟ると、不思議と悲しみはなかった。

ただ、静かに醒めていく感じだった。

そんな中——

横から、一歩ラディスが進み出る。

「侯爵家は、昨日の文書の意味を理解したようだな」

低く、威厳ある声。

父はビクッと肩を震わせた。

「も、もちろんですとも……!
侮辱の意図はなく……その……!」

「君は我が妻を侮辱し、虚偽の噂を流した。
謝罪は受け取った。——だが」

ラディスはリオラの手を取り、
堂々と前に立たせた。

「決めるのは俺ではない。
リオラ自身だ」

リオラはゆっくりと息を吸い、父を見据える。

「父様。
どうして、戻ってほしいのですか?」

「そ、それは……家の名誉のため……!」

「私の幸せでは、ないんですね」

(ああ……そういうことなんだ)

自分の声は、不思議と震えていなかった。

「私は……もう二度と、
あなた方の都合のために利用されたくありません」

父の顔が一瞬で青ざめる。

「リオラ……!」

「あなたたちは、私の痛みに気づかなかった。
婚約破棄のときも、家を追い出されたときも。
私はただ、いない者として扱われました」

父は言葉を失い、母と弟たちも俯く。

リオラは続けた。

「でも、ここでは違いました。
ラディス様も、エミも、村の皆さんも……
私を“ひとりの人として”見てくれました」

胸の奥が温かくなる。

昨日、皆が守ろうとしてくれた光景が思い浮かぶ。

「私はもう、“帰る家”を得ています。
——だから帰りません」

はっきりと、言い切った。

父は膝から力が抜けるように崩れ落ちそうになった。

「リ、リオラ……そんな……!」

「あなたたちの娘であった時期もありました。
でも……
私を大切にしてくれる場所を見つけた今、
もう戻る理由はありません」

静かに、穏やかに言い放つ。

その瞬間——

ラディスが、横でふっと微笑んだ。

その笑みは誇らしげで、優しくて……
まるで“よく言った”と語りかけてくるようだった。

父は完全に言葉を失い、
母と弟たちも退散するしかなかった。

扉が閉まると同時に、
エミたち使用人がこっそり拍手してくれる。

「奥様、最高でした……!」

「すごい……はっきり言われた……!」

リオラは照れくさくて顔を赤くした。

その肩に、ラディスがそっと触れた。

「リオラ。君は強いな」

「そ、そんなこと……」

「君が自分の力で言ってくれたことが……俺は嬉しい」

ラディスの言葉に、
胸が甘く締め付けられる。

完全なる ざまぁ は達成された。

そして——
二人の距離は、またひとつ近づいた。

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