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第1章
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王都の北東に広がる上流貴族街《グラン・チボリ》は、朝から甘い春風と香水の匂いが混ざり合い、石畳の路地を満たしていた。そこへ一台の小ぶりな馬車が滑り込む。側面に金糸で〈Life‑Re:若返り出張サービス〉と刺繍された布製タペストリー。御者台に座るのは、淡い藤色のワンピースに白いケープを羽織った少女――ライフリィー子爵家の令嬢にして“出張エイジングケア魔法士”レミー・ライフリィーその人である。
「今日のお客さまは、エルダー侯爵夫人にベルデ公爵夫人……午前と午後で二件。終わったらハーブの補充も忘れないようにしなくちゃ」
レミーは手元の予約帳をぱたんと閉じると、緊張で固くなる自分の肩を軽く叩いた。若返り魔法は繊細だ。一滴の霊水の温度、薬草オイルの撹拌速度、魔力循環のリズム――どれを欠いても効果が半減する。だが、それを完璧にやり遂げたとき、鏡の前で歓喜の悲鳴を上げる貴婦人の笑顔は格別だ。レミーがこの仕事を辞められない理由でもある。
馬車が最初の目的地、エルダー邸に到着した。正門に立つ大理石の天使像を横目に、レミーは小さなトランクを抱えて降車する。中には携行式魔法陣シート、銀製メスシリンダー、霊水を充塡したクリスタル瓶、そして自家製ハーブオイル。彼女の“秘密のレシピ”がぎっしり詰まっている。
執事に案内され、日差しがたっぷり差し込むサンルームへ通されると、侯爵夫人が両手を取って出迎えた。
「まあレミー様! 先月の施術、周りから大絶賛ですのよ。おほほ、三人も“旦那様よりお若い”って嫉妬されましたわ」
「いつもご愛顧ありがとうございます。では本日も、肌質とお色味を確認させていただきますね」
レミーは夫人の頬にそっと手を添え、魔力を指先から流す。すぐに微弱な震えが伝わり、毛穴の状態、血流の滞り、ケラチン層の乾燥度――皮膚の“悲鳴”が読み取れた。診断を終えると、携行シートをテーブルに広げ、魔法円を展開。中央へ霊水を注ぎ、オイル数滴を垂らす。甘やかなローズマリーの香が室内に漂い、侯爵夫人は早くもうっとりと目を細めた。
「詠唱は開始から五十秒。どうぞ楽に目を閉じてください」
レミーの声は囁くように静かだが、魔法詞《アルカナ・ルクシオン》が紡がれると同時にシートの紋様が淡く発光し、うねる魔力が夫人の顔を包み込む。古い角質が剝がれ、真皮層のコラーゲンが活性化し、くすんだ箇所へ新たな血色が走る。五十秒の詠唱が終わると、夫人はぱっと鏡を覗き込み――
「まあっ……十年前の私がいるわ!」
歓声。レミーはいつもの光景に微笑を浮かべるが、その胸には小さな棘が刺さったままだ。――死者蘇生? 聖女? そんな大げさな噂が、どうして広まるのかしら。私はただ、美しい笑顔を増やしたいだけなのに。
施術後、侯爵夫人からは次回三か月分の予約と、友人五名の紹介状が渡された。馬車へ戻る途中、執事が耳打ちする。
「最近、王宮にもレミー様の噂が届いているとか。なにやら“大掛かりな依頼”が来るやもしれませぬ」
「王宮、ですか……」レミーは首を傾げた。王家といえば、政治と権力と面倒の巣窟だ。そんな場所で、美容魔法がどんな役に立つと言うのだろう――。
午前の仕事を終えた馬車は、次の公爵邸へ向かって走り出す。風に揺れるタペストリーの金糸が春の陽光をはじき、石畳にきらめく模様を描いた。レミーは小さく深呼吸をして自分に言い聞かせる。
「私は“聖女”なんかじゃない。ただのエイジングケア魔法士。今日も丁寧に、いつも通りやるだけ――」
しかし、この穏やかな決意が数日後、王都全土を巻き込む騒動の序章になろうとは、まだ誰も知る由もなかった。
午後の陽射しが柔らかく差し込む《薔薇亭サロン》は、いつにも増して熱気に包まれていた。グラン・チボリでも指折りの社交ティーサロン。金糸のテーブルクロスにルビー彩の紅茶が注がれるたび、膨らむ甘い香りより早く、噂話の泡が弾ける。
「聞きまして? エルダー侯爵夫人、今朝お肌がまるで少女のようだったとか!」
「まあ! ライフリィー子爵令嬢の出張魔法だそうよ。しわもシミも一晩で消えたんですって」
「ええ、そればかりか――まるで生き返ったようだ、とご本人が仰ったそうなの」
この「生き返った」という一語が、昼下がりの風に乗って拡散を始める。サロンの給仕娘がパン職人の恋人に話し、パン職人が早朝市場の魚屋に誇張して語り、魚屋は客の旅商人に「死人すら甦る」と付け足して売り文句にした。夕刻には《都心速報瓦版》が《奇跡の聖女現る! 触れるだけで蘇生!》という大見出しを刷り上げ、通りの角で飛ぶように売れていった。
***
翌朝、王都警備隊の守衛詰所では、見習い兵が瓦版の記事を朗読し、隊長が眉をひそめる。
「死人が甦る? 魔獣討伐で倒れた兵を生き返らせたとまで書いてあるぞ。まさかとは思うが、もし本当なら軍務省案件だ」
「隊長、これ誇張だと思いますが……」
「噂は噂でも、放っておくと混乱の元だ。情報局に報告書を回せ」
情報局の机上に積まれた報告は、さらに脚色されていく。宮廷筆頭侍医は「蘇生が事実なら医学の常識を覆す」と興奮し、大聖堂の高位神官は「神の奇跡を偽装した邪術かもしれぬ」と懸念を示す。賢者会議の魔導師長は「若返りと蘇生の境界を確かめねば」と沈思黙考。立場の異なる者たちが思惑を抱え、レミーの名はあっという間に書簡と機密文のあいだを飛び交った。
***
市場の喧騒のただ中では、庶民もまた想像を膨らませていた。老いた靴屋の主人は「もし本当に若返るなら、この腰痛も治して欲しい」と呟き、嫁入り前の娘は「十歳若くなるより婚約者が欲しいわ」と笑う。一方、裏通りの高利貸しは「死者が蘇るなら債務者を生き返らせて取り立てが出来る」と目を光らせる。善意も欲望も恐怖も、すべてが渦を巻き、「聖女」の物語に肉付けをしていった。
***
三日目の夜。王宮東棟の一室では、情報局長が急遽招集した上層部会議が開かれた。
「各方面の聞き取りでは、施術後に『生き返ったよう』と言ったのが始まり。実際には美容効果だけと見られますが、“死人蘇生”に変質しております」
議長席で腕を組むのは王国摂政アンセルム公。公爵は眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。
「貴婦人の戯言がこの短期間で“奇跡の聖女”に化けたか。情報統制を怠ったな」
「はっ。しかし噂の拡散速度は尋常ではございません。瓦版は増刷、商人は巡業で国境へも……」
「もはや鎮火は難しい。となれば先に囲い込むしかあるまい」
突如、重厚な扉が開き、第一王子エグバルトが悠然と姿を現した。
「囲い込む、とは興味深い。ならば我が王家が“奇跡の聖女”を正式に保護しよう」
摂政が目を細める。「殿下、自らお出ましとは」
「民衆は奇跡を求めている。ならば王家がその奇跡を抱え込めば、人心は揺るがぬ。……それに、聖女が美しい令嬢と聞けば、後宮に相応しいではないか」
その横顔には政治家らしい算段と、若さゆえの興味半分が交錯していた。
こうして、“ライフリィー子爵令嬢を聖女として迎える”という極秘方針が、その夜決定する。翌朝には黒塗りの馬車が子爵邸へ向かい、正式な召喚状が届けられる手筈となった。
***
一方その頃、レミーはベッドの上で施術予約帳と財布を見比べて悩んでいた。
「公爵夫人の次は侯爵夫人が五人、来週は首都外の温泉街からも招待状……嬉しいけど、体が持つかしら」
ふと窓辺を見ると、夜空に白い鳥が一羽舞っている――王家専属の伝令鳩だ。封蝋には双頭の竜紋章。
「……王宮から手紙?」
レミーは胸騒ぎを覚えながら封を切った。その瞬間、香油の匂いとともに仰々しい金文字が目に飛び込む。
《王家第一王子エグバルト・ルクレティウス・アルバレストは、貴殿を聖女として招聘し、王城へ参内することを命ず――》
読了と同時に、レミーは思わずソファへ沈み込んだ。
「聖女? わ、私が……? どうしてそうなるの?」
その呟きは、王都を包む熱狂の中心にいる当人だけが知らない戸惑いの吐息だった。伝令鳩は窓外へ舞い戻り、月明かりに黒羽をひらめかせる。翌朝から始まる“聖女騒動”の幕開けを告げるかのように――。
夜明け前のライフリィー子爵邸は、まだ湿った朝靄のなかで眠っていた。だが街の鐘が六つを告げる頃、正門前に黒塗りの礼装馬車が滑り込む。御者台には近衛騎士の紋章を刻んだ銀飾り、車体の扉には双頭の白竜。王家直轄の使節であることを示す威容だった。
当直の門番が慌てて門扉を開けると、馬車から燕尾服の初老の執事が降り立った。灰色の髪をぴしりと撫でつけ、手には朱と金の封蝋が光る羊皮紙――王家召喚状。
「ライフリィー子爵殿に緊急の奏聞がある。速やかに館主と令嬢を謁見の間へ通されたし」
低い声が石畳に響く。門番は「は、はいっ」と転げるように屋敷へ走った。
***
「いきなり王家の召喚状ですって!?」
寝間着姿のまま応接室へ駆け込んだレミーは、足を止めた。深紅の絨毯の中央に、父であるライフリィー子爵クラウスと母アナスタシア、そしてあの燕尾服の執事が並び、重々しい空気が張り詰めている。
執事は一歩前へ出て丁寧に礼を取った。
「我が主、第一王子エグバルト・ルクレティウス殿下よりの御沙汰にございます。――“ライフリィー子爵令嬢レミーを聖女として王城へ召喚し、謁見に引見する”」
金文字で綴られた宣旨が読み上げられると、父は愕然とし、母は椅子の背を掴んで息を呑んだ。
「聖女……? そ、それは何かの間違いでは?」
レミーが言うと、執事は目を伏せ穏やかに首を振る。
「殿下直々の命にて。さらに――」
執事は二通目の書簡を開示した。
《王家は“奇跡の聖女”の威光を広く示すため、正式に王家保護下へ置く。よって第一王子の婚約者として迎え入れる》
宣言を聞いた瞬間、レミーの背中に氷が這い上がった。
「婚約!? お、お待ちください! 私はただの美容魔法士で――」
「令嬢」執事の口調は柔らかいが、拒絶を許さぬ鉄の芯があった。「これは王命にございます」
父クラウスが震える声で娘を制した。
「レミー……王家のご意向とあっては抗えまい。子爵家が背けば、不敬罪。領地も爵位も剥奪される……」
母は涙ぐみながら手を取り、「心配しないで。王城に行っても、あなたなら大丈夫」と囁くが、その瞳は不安に揺れている。
しかしレミーの心を満たしたのは恐怖より疑問だった。なぜ若返り魔法が“聖女”に? 死人を蘇らせるだなんて、誰が言い始めたのだろう。施術のたび「生き返ったみたい」と笑うご婦人は確かに多かったが――それがこんな大事に発展するなんて。
「殿下は引見の折、令嬢に『奇跡の詳細』をお尋ねになるおつもりです」
執事の言葉に、レミーははっとする。奇跡でも何でもない。ただの肌細胞活性化をどう説明すればいい? 若返りは出来るが蘇生など到底不可能。もし“期待外れ”と思われたら――王子の機嫌を損ね、ライフリィー家に累が及ぶかもしれない。
「出発は明後日、辰の刻。護送馬車と近衛兵十名を差し向けます」
執事が深々と頭を下げると、用件は終わったと言わんばかりに静かに退室した。
***
応接室には沈黙が落ちた。
「父上、母上、私……どうすれば」
レミーは唇を噛む。父は重い口を開いた。
「我らは地方子爵家。王命に逆らう力はない。だが――レミー、お前は誇りを持て。美容魔法士として人を幸せにしてきた。その真実を胸に、正々堂々と王城へ行くのだ」
母は娘を抱きしめ、「あなたの優しさはきっと伝わるわ」と耳元で囁いた。
だが胸の奥の小さな声は囁く。〈若返り魔法を政治が利用しようとしている〉〈聖女という虚像を王家が作り上げようとしている〉――その危うさに、レミーの心拍は高鳴った。
彼女は深呼吸し、決意を帯びた瞳で両親を見つめる。
「分かりました。王城へ参ります。でも私は、“出来ないことは出来ない”とはっきり申し上げます」
父はほっと微笑み、母は胸に手を当て頷く。
やがて東の窓から朝日が差し込み、黄金の光が紅茶色のカーテンを照らした。新しい一日――そしてレミーの運命を揺るがす波乱の始まりを告げる陽光だった。
「聖女」としての召喚状を握りしめたレミーは、窓外の青空を見上げ、静かに呟いた。
「私は聖女じゃない。ただ、誰かの笑顔を取り戻したいだけ。――けれど王城がそれを許してくれるのかしら?」
馬車の車輪が遠ざかる音が微かに残り、屋敷には再び静寂が訪れた。だがその静けさの下で、王都最大級の誤解劇はすでに動き始めていたのである。
王城正門を越えた瞬間、ひやりと冷たい空気がレミーの頬を撫でた。四月の柔らかな陽光はここにも届いているはずなのに、巨大な花崗岩の城壁が放つ威圧感は、季節の温もりさえ押し戻すかのようだった。
ライフリィー家から護衛付きの馬車に揺られ、丸一日。辟易するほど丁重な案内の末、彼女は今、玉座の間へ通じる大回廊を歩いている。赤絨毯の左右には近衛騎士の長槍が整列し、鍬形飾りの兜が鈍い光を放つ。天井高く掲げられたステンドグラスから射す光が、床に色とりどりの紋章を描き、まるで虹の川の上を進むようだった。
だが胸は重い。数時間前、控えの間で王宮女官から渡された書面が脳裏を離れない――〈王家主催・聖女披露の祝宴〉。開催は今日の夕刻、国王を含む重臣・貴族二百名が参列予定。そして文末にはさらりとこう添えられていた。〈第一王子殿下より、聖女レミー・ライフリィーとの婚約正式発表〉。
(“相談”じゃなく“発表”……どういうこと?)
若返り魔法士であることを説明し、誤解を解いてから帰る――そんな目算は、到着と同時に崩れ去った。侍従長は「殿下はすでに万事お決めだ」と言うだけで取り付く島もない。レミーは懸命に理性を保ちながら、巨大な両開き扉の前で足を止めた。扉の向こうは謁見の間。中へ入れば、彼女の意思とは無関係に物語が進むのだ。
「ご準備はよろしいでしょうか、聖女様」
案内役の女官が小声で促す。レミーは「聖女と呼ばないで」と言いかけたが、喉の奥で飲み込んだ。今ここで抗えば、両親の爵位や領民の生活を揺るがしかねない。深呼吸。靴音を整え、扉が開かれるのを待った。
――ギイィィン。
重厚な蝶番が重たい軋みを上げ、扉はゆっくりと開いていく。半円形の玉座の間は金と深紅の絢爛たる装飾に彩られ、その中央に純白の絹衣を纏った国王、隣に豪奢なドレス姿の王妃が並んでいた。脇に控えるのは第一王子エグバルト。光沢のある紺の礼服に、紅い宝石が象嵌されたレイピアを佩き、余裕の笑みを浮かべている。
レミーは規定通りの宮廷礼「三歩進み、膝をつき、右手を胸に」で拝礼した。
「ライフリィー子爵令嬢レミー、謁見の栄誉を賜り大変光栄に存じます」
声は震えていない――はずだ。国王は柔らかな眼差しで頷いた。
「そなたが民のあいだで“奇跡の聖女”と噂される娘か。労苦に感謝する。早速じゃが、儂の息子エグバルトが直々に話があるそうだ」
王の合図でエグバルトが前に進み出た。琥珀色の瞳がレミーを値踏みするように細められる。
「レミー嬢、先の戦乱を未然に防ぐ奇跡――感服した。王家はその力を余すところなく守り、また用いたい」
“守り”“用いる”。その単語の選び方がすでに、レミーを“人”ではなく“道具”として扱う意識を物語っていた。
「よって、我が王家はそなたを正式に聖女として保護し、王家の一員――すなわち、余の婚約者として迎え入れる。これが王家の決定であり、そなたへの最大の栄誉だ」
間近で見ると王子の微笑は端正だったが、光沢の奥に見える独善的な自負心がレミーを凍えさせた。ここで「いいえ」と拒めば、王子の面子は潰れ、子爵家に災厄が及ぶだろう。しかし「はい」と頷けば、美容魔法士としての自由を、そして人々の笑顔を作る仕事を永久に手放すことになる。
数秒の沈黙。騒めきのない大広間で、近衛の鎧がきしむ音が遠くに聞こえた。レミーは口を開いた。
「光栄なお言葉、痛み入ります。ただ――」
その瞬間、王子の眉が僅かに動いた。「ただ?」を許さない空気が走る。
「ただ私は、“聖女”などという大それた者ではございません。若返りをお手伝いする魔法士に過ぎず、戦場の奇跡も偶然――」
言葉の途中で、王子が手を上げた。近衛が一斉に槍を半歩突き出し、レミーの背筋が粟立つ。
「謙遜は美徳だが、度を過ぎれば不敬だ。奇跡を否定するのであれば、そなたは我が国へ害を為す“偽奇跡師”ということになるのだぞ?」
威圧。レミーは息を呑む。それを見て王子は満足げに頷いた。
「良いか、レミー。民衆は奇跡を望む。王家は奇跡を示すことで国を統べる。そなたがどう思おうと、役目は変わらぬ。――祝宴は日没より。そこで婚約を正式に布告する」
有無を言わせぬ口調。だが王子が踵を返した刹那、レミーは噛み殺した声で応じた。
「……かしこまりました、殿下。ただ一つだけ、ご確認を」
王子が振り向く。
「“奇跡”をお見せした後の後始末――誰が責任をお負いになりますか?」
「当然、王家だ。我が言葉が絶対だ」
王子はそれ以上問いを許さず、そのまま玉座の間を後にした。冷たい足音が遠ざかる。
王妃は気まずげに微笑み、国王は何か思案深げに胡坐をかいたまま軽く手を振る。レミーは深い礼をし、退下を許された。扉が閉まった瞬間、彼女は胸元を押さえ、こみ上げる息を無理やり整えた。
(後始末は王家、そして王子が負う――今、そう言質を取りましたわよね?)
背筋を伸ばす。外には既に宴席準備の召使たちが駆け回り、王宮中が祝賀の朱に染まりはじめていた。触れられぬまま飾り上げられた「聖女」という仮面。その重みは恐ろしい。しかし同時に、王子が自ら放った言葉は、いつの日か必ず彼自身の鎖となる。レミーはそう確信し、細い唇にかすかな微笑を浮かべた。
「私が聖女に祭り上げられるのなら――あなたは“奇跡の後始末を引き受ける王子”として、最後まで務めを果たしていただきますわ」
煌めくシャンデリアの下で、祝宴の楽団が試し弾きを始める。弦の余韻は甘いが、レミーの決意は刃よりも冷たく研ぎ澄まされていた。
夕刻――。王城の高い尖塔が沈みゆく太陽を切り裂くように黒く浮かび上がり、朱金の雲を背に広がる。大広間《ルクレティア・ホール》では、総勢二百名を超える貴族・高官が集い、王家主催“聖女披露祝宴”の開始を今か今かと待ちわびていた。壁面の燭台にともる蝋燭の灯が揺らめき、絹のタペストリーに縫い込まれた双頭竜の胴を艶やかに照らす。響き渡るのは、楽師のリュートとヴィオラが生む優雅な旋律――その裏で、レミー・ライフリィーの鼓動だけが別のリズムを刻んでいた。
控室に設えられた姿見の前。レミーは王宮女官が選んだオパールグレーのドレスを身につけ、胸下で切り替えられた細いリボンをぎゅっと握りしめた。淡紫の刺繍が裾に踊るその装いは、なるほど“聖女”と呼ぶに相応しい神秘的な雰囲気を醸し出している。だが鏡の奥に映る瞳は不安で揺れ、艶やかな布の影で脈打つ心臓は、打楽器のように暴れていた。
(祝宴が始まったら、私は《奇跡の聖女》として紹介され、続けて王子殿下の婚約者だと宣言される。――その瞬間、私の人生は王家の掌の上)
ドレスの袖口がわずかに震える。女官が「冷えますか?」と心配げに尋ね、レミーは慌てて笑顔を作って首を振った。しかし自覚している。冷えているのは身体ではなく心だ。若返り魔法は“生を輝かせる”術。その力が“王家の権威を輝かせる道具”に転じる恐れ――いや、既にそう利用されつつある現実が、胸を締めつけた。
「聖女様、もうすぐ入場でございます」
女官の合図で扉が開き、夜会灯に照らされた回廊が現れる。歩み出した瞬間、かつん、と踵が硬い床を打ち、綻びかけた笑みの裏で息を呑む。赤絨毯の先、厚い扉の向こうに宴の喧騒、グラスの澄んだ音、甲高い笑い声が渦巻くのが聞こえた。
(怖がらないで。大丈夫。私は“出来ること”と“出来ないこと”をはっきり告げる。それが魔法士として唯一、守れる誇り)
けれど誇りだけでは足りないかもしれない。レミーは昼間の謁見で“後始末は王家が負う”と言質を取り、踏みとどまる足場を得たつもりだった。だが王子が見せたあの笑み――傲慢さと好奇心を同量に滲ませた覇王色の眼差しは、法や約定など容易く踏み越える力を持つ。言質など、後に「聞いていない」と一蹴されれば終わりだろう。
(でも、今はそれしかない。逃げ道も、助けも、手にしたのは些細な言葉の盾だけ)
回廊の角を折れたところで、ふいに息を呑む声が聞こえた。振り返れば、若い侍女が立っている。髪にリボンを結び、皺ひとつないエプロンドレスを着た少女は、王宮の格式にまだ慣れないのか、頬を上気させてペコリと頭を下げた。
「せ、聖女様! あのっ……ずっとお会いしたかったんです。いえ、あの、肌が――いえ、戦争を止めてくださったって、本当にありがとうございます!」
戸惑いながらも真っ直ぐ向けられる感謝の眼差し。そこには計算や損得勘定の影はなく、純粋な尊敬と喜びが宿っていた。レミーは驚きつつも微笑みを返して頭を下げる。
「ありがとう。けれど私は聖女ではないの。あなたと同じ、ただの人間よ」
侍女はきょとんとし、それから小さく首を振った。
「でも、今日わたしのお祖母様が“レミー様のおかげで肌がつやつやして、もう十年は生きられる”って泣いたんです。わたしは、それだけで十分だと思うんです」
胸の奥が温かくなる。大広間で待つ面倒な大人たちが語る“聖女”など虚飾に満ちているかもしれない。だが肌を撫でて喜びをくれる老女の涙は、本物だ。魔法が救う笑顔が確かに存在する。レミーは震えを抑えて深呼吸し、侍女の手を軽く握った。
「その言葉を忘れません。ありがとう」
侍女が駆け去るのを見届けると、扉の前に立つ近衛兵が槍の石突きを床に鳴らす。「ご入場」。金具が外れ、重い扉が左右へ開いた。――一瞬で襲う光と音と視線の奔流。シャンデリアは千の炎を散らし、瑠璃色の天井に咲くフレスコ画が、まるで星空のように煌めいている。
メインテーブルには国王夫妻、左側には執政官と枢機卿、そして右側最上席に第一王子エグバルトが座す。彼はレミーを見つけるとゆったりと立ち上がり、場内へ宣言した。
「民の救いの象徴――奇跡の聖女、レミー・ライフリィー嬢の御成りだ!」
一斉に上がる喝采。貴婦人は扇で顔をあおぎ、将校は剣の柄に手を当て礼を示し、若い女性は羨望のまなざしを投げる。耳をつんざくほどの拍手と歓声。しかし、レミーの胸で鳴るのは別の鼓動。表面の笑みでそれを包んで歩を進める。
赤絨毯が終わり、王子の前まで来る。エグバルトはレミーの手を取って観衆に示し、甘美な声で告げる。
「本日をもって、我が許婚はこの奇跡の聖女レミーであると布告する!」
瞬間、大広間は割れんばかりの歓声に変わった。だがレミーの耳は、夢の底で響くような鈍い水音しか捉えない。婚約――王家の意志――逃げ場なし――。 それでも、飲み下した言葉は一つ。
(いいでしょう、殿下。奇跡の後始末は、すべて負っていただきます――約束ですもの)
レミーは微笑みを崩さず、王子の手を握り返す。その指の力は、祝福の拍手が鳴り止むまで決して緩むことはなかった。
「今日のお客さまは、エルダー侯爵夫人にベルデ公爵夫人……午前と午後で二件。終わったらハーブの補充も忘れないようにしなくちゃ」
レミーは手元の予約帳をぱたんと閉じると、緊張で固くなる自分の肩を軽く叩いた。若返り魔法は繊細だ。一滴の霊水の温度、薬草オイルの撹拌速度、魔力循環のリズム――どれを欠いても効果が半減する。だが、それを完璧にやり遂げたとき、鏡の前で歓喜の悲鳴を上げる貴婦人の笑顔は格別だ。レミーがこの仕事を辞められない理由でもある。
馬車が最初の目的地、エルダー邸に到着した。正門に立つ大理石の天使像を横目に、レミーは小さなトランクを抱えて降車する。中には携行式魔法陣シート、銀製メスシリンダー、霊水を充塡したクリスタル瓶、そして自家製ハーブオイル。彼女の“秘密のレシピ”がぎっしり詰まっている。
執事に案内され、日差しがたっぷり差し込むサンルームへ通されると、侯爵夫人が両手を取って出迎えた。
「まあレミー様! 先月の施術、周りから大絶賛ですのよ。おほほ、三人も“旦那様よりお若い”って嫉妬されましたわ」
「いつもご愛顧ありがとうございます。では本日も、肌質とお色味を確認させていただきますね」
レミーは夫人の頬にそっと手を添え、魔力を指先から流す。すぐに微弱な震えが伝わり、毛穴の状態、血流の滞り、ケラチン層の乾燥度――皮膚の“悲鳴”が読み取れた。診断を終えると、携行シートをテーブルに広げ、魔法円を展開。中央へ霊水を注ぎ、オイル数滴を垂らす。甘やかなローズマリーの香が室内に漂い、侯爵夫人は早くもうっとりと目を細めた。
「詠唱は開始から五十秒。どうぞ楽に目を閉じてください」
レミーの声は囁くように静かだが、魔法詞《アルカナ・ルクシオン》が紡がれると同時にシートの紋様が淡く発光し、うねる魔力が夫人の顔を包み込む。古い角質が剝がれ、真皮層のコラーゲンが活性化し、くすんだ箇所へ新たな血色が走る。五十秒の詠唱が終わると、夫人はぱっと鏡を覗き込み――
「まあっ……十年前の私がいるわ!」
歓声。レミーはいつもの光景に微笑を浮かべるが、その胸には小さな棘が刺さったままだ。――死者蘇生? 聖女? そんな大げさな噂が、どうして広まるのかしら。私はただ、美しい笑顔を増やしたいだけなのに。
施術後、侯爵夫人からは次回三か月分の予約と、友人五名の紹介状が渡された。馬車へ戻る途中、執事が耳打ちする。
「最近、王宮にもレミー様の噂が届いているとか。なにやら“大掛かりな依頼”が来るやもしれませぬ」
「王宮、ですか……」レミーは首を傾げた。王家といえば、政治と権力と面倒の巣窟だ。そんな場所で、美容魔法がどんな役に立つと言うのだろう――。
午前の仕事を終えた馬車は、次の公爵邸へ向かって走り出す。風に揺れるタペストリーの金糸が春の陽光をはじき、石畳にきらめく模様を描いた。レミーは小さく深呼吸をして自分に言い聞かせる。
「私は“聖女”なんかじゃない。ただのエイジングケア魔法士。今日も丁寧に、いつも通りやるだけ――」
しかし、この穏やかな決意が数日後、王都全土を巻き込む騒動の序章になろうとは、まだ誰も知る由もなかった。
午後の陽射しが柔らかく差し込む《薔薇亭サロン》は、いつにも増して熱気に包まれていた。グラン・チボリでも指折りの社交ティーサロン。金糸のテーブルクロスにルビー彩の紅茶が注がれるたび、膨らむ甘い香りより早く、噂話の泡が弾ける。
「聞きまして? エルダー侯爵夫人、今朝お肌がまるで少女のようだったとか!」
「まあ! ライフリィー子爵令嬢の出張魔法だそうよ。しわもシミも一晩で消えたんですって」
「ええ、そればかりか――まるで生き返ったようだ、とご本人が仰ったそうなの」
この「生き返った」という一語が、昼下がりの風に乗って拡散を始める。サロンの給仕娘がパン職人の恋人に話し、パン職人が早朝市場の魚屋に誇張して語り、魚屋は客の旅商人に「死人すら甦る」と付け足して売り文句にした。夕刻には《都心速報瓦版》が《奇跡の聖女現る! 触れるだけで蘇生!》という大見出しを刷り上げ、通りの角で飛ぶように売れていった。
***
翌朝、王都警備隊の守衛詰所では、見習い兵が瓦版の記事を朗読し、隊長が眉をひそめる。
「死人が甦る? 魔獣討伐で倒れた兵を生き返らせたとまで書いてあるぞ。まさかとは思うが、もし本当なら軍務省案件だ」
「隊長、これ誇張だと思いますが……」
「噂は噂でも、放っておくと混乱の元だ。情報局に報告書を回せ」
情報局の机上に積まれた報告は、さらに脚色されていく。宮廷筆頭侍医は「蘇生が事実なら医学の常識を覆す」と興奮し、大聖堂の高位神官は「神の奇跡を偽装した邪術かもしれぬ」と懸念を示す。賢者会議の魔導師長は「若返りと蘇生の境界を確かめねば」と沈思黙考。立場の異なる者たちが思惑を抱え、レミーの名はあっという間に書簡と機密文のあいだを飛び交った。
***
市場の喧騒のただ中では、庶民もまた想像を膨らませていた。老いた靴屋の主人は「もし本当に若返るなら、この腰痛も治して欲しい」と呟き、嫁入り前の娘は「十歳若くなるより婚約者が欲しいわ」と笑う。一方、裏通りの高利貸しは「死者が蘇るなら債務者を生き返らせて取り立てが出来る」と目を光らせる。善意も欲望も恐怖も、すべてが渦を巻き、「聖女」の物語に肉付けをしていった。
***
三日目の夜。王宮東棟の一室では、情報局長が急遽招集した上層部会議が開かれた。
「各方面の聞き取りでは、施術後に『生き返ったよう』と言ったのが始まり。実際には美容効果だけと見られますが、“死人蘇生”に変質しております」
議長席で腕を組むのは王国摂政アンセルム公。公爵は眼鏡の奥の目を鋭く光らせた。
「貴婦人の戯言がこの短期間で“奇跡の聖女”に化けたか。情報統制を怠ったな」
「はっ。しかし噂の拡散速度は尋常ではございません。瓦版は増刷、商人は巡業で国境へも……」
「もはや鎮火は難しい。となれば先に囲い込むしかあるまい」
突如、重厚な扉が開き、第一王子エグバルトが悠然と姿を現した。
「囲い込む、とは興味深い。ならば我が王家が“奇跡の聖女”を正式に保護しよう」
摂政が目を細める。「殿下、自らお出ましとは」
「民衆は奇跡を求めている。ならば王家がその奇跡を抱え込めば、人心は揺るがぬ。……それに、聖女が美しい令嬢と聞けば、後宮に相応しいではないか」
その横顔には政治家らしい算段と、若さゆえの興味半分が交錯していた。
こうして、“ライフリィー子爵令嬢を聖女として迎える”という極秘方針が、その夜決定する。翌朝には黒塗りの馬車が子爵邸へ向かい、正式な召喚状が届けられる手筈となった。
***
一方その頃、レミーはベッドの上で施術予約帳と財布を見比べて悩んでいた。
「公爵夫人の次は侯爵夫人が五人、来週は首都外の温泉街からも招待状……嬉しいけど、体が持つかしら」
ふと窓辺を見ると、夜空に白い鳥が一羽舞っている――王家専属の伝令鳩だ。封蝋には双頭の竜紋章。
「……王宮から手紙?」
レミーは胸騒ぎを覚えながら封を切った。その瞬間、香油の匂いとともに仰々しい金文字が目に飛び込む。
《王家第一王子エグバルト・ルクレティウス・アルバレストは、貴殿を聖女として招聘し、王城へ参内することを命ず――》
読了と同時に、レミーは思わずソファへ沈み込んだ。
「聖女? わ、私が……? どうしてそうなるの?」
その呟きは、王都を包む熱狂の中心にいる当人だけが知らない戸惑いの吐息だった。伝令鳩は窓外へ舞い戻り、月明かりに黒羽をひらめかせる。翌朝から始まる“聖女騒動”の幕開けを告げるかのように――。
夜明け前のライフリィー子爵邸は、まだ湿った朝靄のなかで眠っていた。だが街の鐘が六つを告げる頃、正門前に黒塗りの礼装馬車が滑り込む。御者台には近衛騎士の紋章を刻んだ銀飾り、車体の扉には双頭の白竜。王家直轄の使節であることを示す威容だった。
当直の門番が慌てて門扉を開けると、馬車から燕尾服の初老の執事が降り立った。灰色の髪をぴしりと撫でつけ、手には朱と金の封蝋が光る羊皮紙――王家召喚状。
「ライフリィー子爵殿に緊急の奏聞がある。速やかに館主と令嬢を謁見の間へ通されたし」
低い声が石畳に響く。門番は「は、はいっ」と転げるように屋敷へ走った。
***
「いきなり王家の召喚状ですって!?」
寝間着姿のまま応接室へ駆け込んだレミーは、足を止めた。深紅の絨毯の中央に、父であるライフリィー子爵クラウスと母アナスタシア、そしてあの燕尾服の執事が並び、重々しい空気が張り詰めている。
執事は一歩前へ出て丁寧に礼を取った。
「我が主、第一王子エグバルト・ルクレティウス殿下よりの御沙汰にございます。――“ライフリィー子爵令嬢レミーを聖女として王城へ召喚し、謁見に引見する”」
金文字で綴られた宣旨が読み上げられると、父は愕然とし、母は椅子の背を掴んで息を呑んだ。
「聖女……? そ、それは何かの間違いでは?」
レミーが言うと、執事は目を伏せ穏やかに首を振る。
「殿下直々の命にて。さらに――」
執事は二通目の書簡を開示した。
《王家は“奇跡の聖女”の威光を広く示すため、正式に王家保護下へ置く。よって第一王子の婚約者として迎え入れる》
宣言を聞いた瞬間、レミーの背中に氷が這い上がった。
「婚約!? お、お待ちください! 私はただの美容魔法士で――」
「令嬢」執事の口調は柔らかいが、拒絶を許さぬ鉄の芯があった。「これは王命にございます」
父クラウスが震える声で娘を制した。
「レミー……王家のご意向とあっては抗えまい。子爵家が背けば、不敬罪。領地も爵位も剥奪される……」
母は涙ぐみながら手を取り、「心配しないで。王城に行っても、あなたなら大丈夫」と囁くが、その瞳は不安に揺れている。
しかしレミーの心を満たしたのは恐怖より疑問だった。なぜ若返り魔法が“聖女”に? 死人を蘇らせるだなんて、誰が言い始めたのだろう。施術のたび「生き返ったみたい」と笑うご婦人は確かに多かったが――それがこんな大事に発展するなんて。
「殿下は引見の折、令嬢に『奇跡の詳細』をお尋ねになるおつもりです」
執事の言葉に、レミーははっとする。奇跡でも何でもない。ただの肌細胞活性化をどう説明すればいい? 若返りは出来るが蘇生など到底不可能。もし“期待外れ”と思われたら――王子の機嫌を損ね、ライフリィー家に累が及ぶかもしれない。
「出発は明後日、辰の刻。護送馬車と近衛兵十名を差し向けます」
執事が深々と頭を下げると、用件は終わったと言わんばかりに静かに退室した。
***
応接室には沈黙が落ちた。
「父上、母上、私……どうすれば」
レミーは唇を噛む。父は重い口を開いた。
「我らは地方子爵家。王命に逆らう力はない。だが――レミー、お前は誇りを持て。美容魔法士として人を幸せにしてきた。その真実を胸に、正々堂々と王城へ行くのだ」
母は娘を抱きしめ、「あなたの優しさはきっと伝わるわ」と耳元で囁いた。
だが胸の奥の小さな声は囁く。〈若返り魔法を政治が利用しようとしている〉〈聖女という虚像を王家が作り上げようとしている〉――その危うさに、レミーの心拍は高鳴った。
彼女は深呼吸し、決意を帯びた瞳で両親を見つめる。
「分かりました。王城へ参ります。でも私は、“出来ないことは出来ない”とはっきり申し上げます」
父はほっと微笑み、母は胸に手を当て頷く。
やがて東の窓から朝日が差し込み、黄金の光が紅茶色のカーテンを照らした。新しい一日――そしてレミーの運命を揺るがす波乱の始まりを告げる陽光だった。
「聖女」としての召喚状を握りしめたレミーは、窓外の青空を見上げ、静かに呟いた。
「私は聖女じゃない。ただ、誰かの笑顔を取り戻したいだけ。――けれど王城がそれを許してくれるのかしら?」
馬車の車輪が遠ざかる音が微かに残り、屋敷には再び静寂が訪れた。だがその静けさの下で、王都最大級の誤解劇はすでに動き始めていたのである。
王城正門を越えた瞬間、ひやりと冷たい空気がレミーの頬を撫でた。四月の柔らかな陽光はここにも届いているはずなのに、巨大な花崗岩の城壁が放つ威圧感は、季節の温もりさえ押し戻すかのようだった。
ライフリィー家から護衛付きの馬車に揺られ、丸一日。辟易するほど丁重な案内の末、彼女は今、玉座の間へ通じる大回廊を歩いている。赤絨毯の左右には近衛騎士の長槍が整列し、鍬形飾りの兜が鈍い光を放つ。天井高く掲げられたステンドグラスから射す光が、床に色とりどりの紋章を描き、まるで虹の川の上を進むようだった。
だが胸は重い。数時間前、控えの間で王宮女官から渡された書面が脳裏を離れない――〈王家主催・聖女披露の祝宴〉。開催は今日の夕刻、国王を含む重臣・貴族二百名が参列予定。そして文末にはさらりとこう添えられていた。〈第一王子殿下より、聖女レミー・ライフリィーとの婚約正式発表〉。
(“相談”じゃなく“発表”……どういうこと?)
若返り魔法士であることを説明し、誤解を解いてから帰る――そんな目算は、到着と同時に崩れ去った。侍従長は「殿下はすでに万事お決めだ」と言うだけで取り付く島もない。レミーは懸命に理性を保ちながら、巨大な両開き扉の前で足を止めた。扉の向こうは謁見の間。中へ入れば、彼女の意思とは無関係に物語が進むのだ。
「ご準備はよろしいでしょうか、聖女様」
案内役の女官が小声で促す。レミーは「聖女と呼ばないで」と言いかけたが、喉の奥で飲み込んだ。今ここで抗えば、両親の爵位や領民の生活を揺るがしかねない。深呼吸。靴音を整え、扉が開かれるのを待った。
――ギイィィン。
重厚な蝶番が重たい軋みを上げ、扉はゆっくりと開いていく。半円形の玉座の間は金と深紅の絢爛たる装飾に彩られ、その中央に純白の絹衣を纏った国王、隣に豪奢なドレス姿の王妃が並んでいた。脇に控えるのは第一王子エグバルト。光沢のある紺の礼服に、紅い宝石が象嵌されたレイピアを佩き、余裕の笑みを浮かべている。
レミーは規定通りの宮廷礼「三歩進み、膝をつき、右手を胸に」で拝礼した。
「ライフリィー子爵令嬢レミー、謁見の栄誉を賜り大変光栄に存じます」
声は震えていない――はずだ。国王は柔らかな眼差しで頷いた。
「そなたが民のあいだで“奇跡の聖女”と噂される娘か。労苦に感謝する。早速じゃが、儂の息子エグバルトが直々に話があるそうだ」
王の合図でエグバルトが前に進み出た。琥珀色の瞳がレミーを値踏みするように細められる。
「レミー嬢、先の戦乱を未然に防ぐ奇跡――感服した。王家はその力を余すところなく守り、また用いたい」
“守り”“用いる”。その単語の選び方がすでに、レミーを“人”ではなく“道具”として扱う意識を物語っていた。
「よって、我が王家はそなたを正式に聖女として保護し、王家の一員――すなわち、余の婚約者として迎え入れる。これが王家の決定であり、そなたへの最大の栄誉だ」
間近で見ると王子の微笑は端正だったが、光沢の奥に見える独善的な自負心がレミーを凍えさせた。ここで「いいえ」と拒めば、王子の面子は潰れ、子爵家に災厄が及ぶだろう。しかし「はい」と頷けば、美容魔法士としての自由を、そして人々の笑顔を作る仕事を永久に手放すことになる。
数秒の沈黙。騒めきのない大広間で、近衛の鎧がきしむ音が遠くに聞こえた。レミーは口を開いた。
「光栄なお言葉、痛み入ります。ただ――」
その瞬間、王子の眉が僅かに動いた。「ただ?」を許さない空気が走る。
「ただ私は、“聖女”などという大それた者ではございません。若返りをお手伝いする魔法士に過ぎず、戦場の奇跡も偶然――」
言葉の途中で、王子が手を上げた。近衛が一斉に槍を半歩突き出し、レミーの背筋が粟立つ。
「謙遜は美徳だが、度を過ぎれば不敬だ。奇跡を否定するのであれば、そなたは我が国へ害を為す“偽奇跡師”ということになるのだぞ?」
威圧。レミーは息を呑む。それを見て王子は満足げに頷いた。
「良いか、レミー。民衆は奇跡を望む。王家は奇跡を示すことで国を統べる。そなたがどう思おうと、役目は変わらぬ。――祝宴は日没より。そこで婚約を正式に布告する」
有無を言わせぬ口調。だが王子が踵を返した刹那、レミーは噛み殺した声で応じた。
「……かしこまりました、殿下。ただ一つだけ、ご確認を」
王子が振り向く。
「“奇跡”をお見せした後の後始末――誰が責任をお負いになりますか?」
「当然、王家だ。我が言葉が絶対だ」
王子はそれ以上問いを許さず、そのまま玉座の間を後にした。冷たい足音が遠ざかる。
王妃は気まずげに微笑み、国王は何か思案深げに胡坐をかいたまま軽く手を振る。レミーは深い礼をし、退下を許された。扉が閉まった瞬間、彼女は胸元を押さえ、こみ上げる息を無理やり整えた。
(後始末は王家、そして王子が負う――今、そう言質を取りましたわよね?)
背筋を伸ばす。外には既に宴席準備の召使たちが駆け回り、王宮中が祝賀の朱に染まりはじめていた。触れられぬまま飾り上げられた「聖女」という仮面。その重みは恐ろしい。しかし同時に、王子が自ら放った言葉は、いつの日か必ず彼自身の鎖となる。レミーはそう確信し、細い唇にかすかな微笑を浮かべた。
「私が聖女に祭り上げられるのなら――あなたは“奇跡の後始末を引き受ける王子”として、最後まで務めを果たしていただきますわ」
煌めくシャンデリアの下で、祝宴の楽団が試し弾きを始める。弦の余韻は甘いが、レミーの決意は刃よりも冷たく研ぎ澄まされていた。
夕刻――。王城の高い尖塔が沈みゆく太陽を切り裂くように黒く浮かび上がり、朱金の雲を背に広がる。大広間《ルクレティア・ホール》では、総勢二百名を超える貴族・高官が集い、王家主催“聖女披露祝宴”の開始を今か今かと待ちわびていた。壁面の燭台にともる蝋燭の灯が揺らめき、絹のタペストリーに縫い込まれた双頭竜の胴を艶やかに照らす。響き渡るのは、楽師のリュートとヴィオラが生む優雅な旋律――その裏で、レミー・ライフリィーの鼓動だけが別のリズムを刻んでいた。
控室に設えられた姿見の前。レミーは王宮女官が選んだオパールグレーのドレスを身につけ、胸下で切り替えられた細いリボンをぎゅっと握りしめた。淡紫の刺繍が裾に踊るその装いは、なるほど“聖女”と呼ぶに相応しい神秘的な雰囲気を醸し出している。だが鏡の奥に映る瞳は不安で揺れ、艶やかな布の影で脈打つ心臓は、打楽器のように暴れていた。
(祝宴が始まったら、私は《奇跡の聖女》として紹介され、続けて王子殿下の婚約者だと宣言される。――その瞬間、私の人生は王家の掌の上)
ドレスの袖口がわずかに震える。女官が「冷えますか?」と心配げに尋ね、レミーは慌てて笑顔を作って首を振った。しかし自覚している。冷えているのは身体ではなく心だ。若返り魔法は“生を輝かせる”術。その力が“王家の権威を輝かせる道具”に転じる恐れ――いや、既にそう利用されつつある現実が、胸を締めつけた。
「聖女様、もうすぐ入場でございます」
女官の合図で扉が開き、夜会灯に照らされた回廊が現れる。歩み出した瞬間、かつん、と踵が硬い床を打ち、綻びかけた笑みの裏で息を呑む。赤絨毯の先、厚い扉の向こうに宴の喧騒、グラスの澄んだ音、甲高い笑い声が渦巻くのが聞こえた。
(怖がらないで。大丈夫。私は“出来ること”と“出来ないこと”をはっきり告げる。それが魔法士として唯一、守れる誇り)
けれど誇りだけでは足りないかもしれない。レミーは昼間の謁見で“後始末は王家が負う”と言質を取り、踏みとどまる足場を得たつもりだった。だが王子が見せたあの笑み――傲慢さと好奇心を同量に滲ませた覇王色の眼差しは、法や約定など容易く踏み越える力を持つ。言質など、後に「聞いていない」と一蹴されれば終わりだろう。
(でも、今はそれしかない。逃げ道も、助けも、手にしたのは些細な言葉の盾だけ)
回廊の角を折れたところで、ふいに息を呑む声が聞こえた。振り返れば、若い侍女が立っている。髪にリボンを結び、皺ひとつないエプロンドレスを着た少女は、王宮の格式にまだ慣れないのか、頬を上気させてペコリと頭を下げた。
「せ、聖女様! あのっ……ずっとお会いしたかったんです。いえ、あの、肌が――いえ、戦争を止めてくださったって、本当にありがとうございます!」
戸惑いながらも真っ直ぐ向けられる感謝の眼差し。そこには計算や損得勘定の影はなく、純粋な尊敬と喜びが宿っていた。レミーは驚きつつも微笑みを返して頭を下げる。
「ありがとう。けれど私は聖女ではないの。あなたと同じ、ただの人間よ」
侍女はきょとんとし、それから小さく首を振った。
「でも、今日わたしのお祖母様が“レミー様のおかげで肌がつやつやして、もう十年は生きられる”って泣いたんです。わたしは、それだけで十分だと思うんです」
胸の奥が温かくなる。大広間で待つ面倒な大人たちが語る“聖女”など虚飾に満ちているかもしれない。だが肌を撫でて喜びをくれる老女の涙は、本物だ。魔法が救う笑顔が確かに存在する。レミーは震えを抑えて深呼吸し、侍女の手を軽く握った。
「その言葉を忘れません。ありがとう」
侍女が駆け去るのを見届けると、扉の前に立つ近衛兵が槍の石突きを床に鳴らす。「ご入場」。金具が外れ、重い扉が左右へ開いた。――一瞬で襲う光と音と視線の奔流。シャンデリアは千の炎を散らし、瑠璃色の天井に咲くフレスコ画が、まるで星空のように煌めいている。
メインテーブルには国王夫妻、左側には執政官と枢機卿、そして右側最上席に第一王子エグバルトが座す。彼はレミーを見つけるとゆったりと立ち上がり、場内へ宣言した。
「民の救いの象徴――奇跡の聖女、レミー・ライフリィー嬢の御成りだ!」
一斉に上がる喝采。貴婦人は扇で顔をあおぎ、将校は剣の柄に手を当て礼を示し、若い女性は羨望のまなざしを投げる。耳をつんざくほどの拍手と歓声。しかし、レミーの胸で鳴るのは別の鼓動。表面の笑みでそれを包んで歩を進める。
赤絨毯が終わり、王子の前まで来る。エグバルトはレミーの手を取って観衆に示し、甘美な声で告げる。
「本日をもって、我が許婚はこの奇跡の聖女レミーであると布告する!」
瞬間、大広間は割れんばかりの歓声に変わった。だがレミーの耳は、夢の底で響くような鈍い水音しか捉えない。婚約――王家の意志――逃げ場なし――。 それでも、飲み下した言葉は一つ。
(いいでしょう、殿下。奇跡の後始末は、すべて負っていただきます――約束ですもの)
レミーは微笑みを崩さず、王子の手を握り返す。その指の力は、祝福の拍手が鳴り止むまで決して緩むことはなかった。
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