婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第4話 ――広がる噂、静かなる誇り

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第4話 ――広がる噂、静かなる誇り

王城の中庭でのあの日から、
アルティシアの嫌がらせは目に見えて増え始めた。

しばらくすると、
イメルダの耳に“ある噂”が届くようになる。

それは、侍女のひとりが震える声で報告してきた日のことだった。

「お、嬢様……っ……
 あの……イメルダ様の……その……噂が……」

イメルダは書類から目を離し、
静かに問いかけた。

「どんな噂ですの?」

侍女は顔を真っ青にして口ごもる。

「……“イメルダ様はベータ殿下を見限った”と……
 “新たに第一王子を狙った野心家だ”と……」

イメルダはまばたき一つしなかった。

(来ましたわね……)

侍女は続ける。

「それから……“アルファルファ殿下と出会った瞬間に心変わりした”とか……
 “殿下を誘惑した”とか……
 “裏で公爵家が王位を狙っている”とか……」

本当に、浅ましくて短絡的だ。

イメルダはため息すらつかず、淡々と言った。

「……出どころは、おそらく義妹でしょうね」

侍女は怯えた。

「イ、イメルダ様……!
 ご反論なさらなくてよいのですか?
 このままでは……!」

「結構ですわ」

イメルダは静かに、
しかし確信をもって言い切った。

「卑しい噂を流す者ほど、
 自分がどれほど浅ましいかを知らないものです」

その言葉に侍女は息を呑んだ。

(……強い……
 この方はどこまでも誇り高い……)

だが、噂は瞬く間に広がる。

「イメルダ様が殿下に色仕掛けを?」
「まさか、上の王子を狙うだなんて……」
「第二王子を捨てて乗り換えたとか……?」

宮廷の廊下を歩けば、
どこからかひそひそ声が聞こえてくる。

それでもイメルダは胸を張って歩いた。
一度たりとも、顔を曇らせることなく。

しかし──

彼女が知らないところで、
その噂を最も真剣に受け止めてしまった者がいた。

第一王子アルファルファだ。

◇ ◇ ◇ 

その日の夕方。
イメルダが客間に戻ると、
部屋の前でアルファルファが落ち込んだ様子で待っていた。

「……イメルダ様……」

「殿下? どうなさいましたの?」

アルファルファは
彼女の顔を見ることすらできないようで、
視線を床に落としたまま言う。

「……ぼ、僕のせいで……
 お辛い思いをさせてしまって……
 本当に……すみません……」

「?」

アルファルファは唇を噛みしめ、
勇気を振り絞るように口を開く。

「み、宮廷で……噂を聞きました。
 イメルダ様が……僕を誘惑したとか……
 そんな、根も葉もないことを……」

イメルダは静かに息を吐いた。

(……この人、全部信じてしまうのね)

アルファルファは肩を震わせながら続けた。

「い、イメルダ様が……迷惑しているのでは……
 僕のせいで……誤解されて……
 えっと……その……」

イメルダは歩み寄り、
そっと、彼の腕に触れた。

彼がびくっと震える。

そして、静かに言った。

「殿下。
 わたくしは一度たりとも、あなたを恥じたことはありません」

アルファルファは息を呑んだ。

「イ、イメルダ様……?」

「誰が何を言おうと……
 殿下は、わたくしの婚約者。
 恥じるものなど、何一つございませんわ」

その確信に満ちた言葉は、
優しいけれど、剣のように鋭かった。

アルファルファの胸が熱くなる。

「……僕を……信じて……くれるのですか……?」

「ええ。
 あなたがわたくしを信じてくださるから」

アルファルファは胸に手を当て、
涙が出そうなほど、強く震えた。

(……イメルダ様……
 僕なんかの……どこを……?
 でも……こんなふうに言われたのは初めてで……)

その瞬間。

アルファルファの中で、
噂や悪意など吹き飛ばすほどの強い感情が芽生えた。

「イメルダ様を……守りたい」

そして、
この決意がやがて、
“気弱な第一王子”を
“真の王”へと変えていく。


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