婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第14話 イメルダへの嫉妬──アルティシアの暗い笑み

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第14話 イメルダへの嫉妬──アルティシアの暗い笑み

王宮全体がイメルダとアルファルファの“穏やかで甘い空気”に染まりつつある頃、
その流れを鼻で笑いながら見つめる者がいた。

アルティシアだ。



「……最近、皆さん浮かれていますわねぇ」

廊下を歩く侍女たちの噂話を聞きながら、
アルティシアはうっとりとした顔を作ってみせた。

「『殿下が変わった』ですって?
 『奥方様のおかげ』ですって?
 まぁ……本当に、愚かですわね」

その笑みは、どこか冷たかった。

背後で控える侍女が、おそるおそる声をかける。

「アルティシア様……イメルダ様は……その、とても努力家で、
 殿下とも仲睦まじく……」

「仲睦まじく? 努力家?」
アルティシアは優雅に首を傾げた。
そして──甘く微笑んだまま、氷のような声で言い放つ。

「──わたくしの前で、二度とあの女の名前を口にしないこと」

侍女はすくみ上がり、その場で膝をついた。

アルティシアは満足げに扇を閉じる。

「まったく……あの女が少し持ち上げられた程度で、
 何を騒いでいるのかしら。
 殿下はベータ様こそが王にふさわしいと判断していますのよ?」

(……本当にそう思っているのは、あなた一人だけですわ、アルティシア様)
侍女たちは口にこそ出さなかったが、心の中でそう呟いた。



数日後。
イメルダは、外交儀礼の勉強を終え、廊下を歩いていた。

そこに、アルティシアが涼しい顔で近づいてくる。

「まぁ、イメルダ様。ごきげんよう」

「……アルティシア様、ごきげんよう」

声をかけられた瞬間、空気がひやりとした。
だが、イメルダは王妃教育で習った通り、上品な微笑みを浮かべる。

アルティシアは、あざ笑うようにイメルダの髪飾りを見て言った。

「最近、殿下のご機嫌がよろしいようで……。
 ええ、とても……滑稽ですわ」

「殿下のことを……滑稽だと言われますの?」

イメルダは落ち着いた声で返したが、
アルティシアの顔には不敵な笑みが深まる。

「ええ、もちろん。殿下は昔から緊張ばかりで、
 お優しいだけが取り柄ですもの。
 誰が見ても、“次の王”はベータ殿下ですわ」

イメルダは心の奥で小さな火が灯るのを感じた。

(殿下を……侮辱するなんて……)

だが、ここで感情的になるわけにはいかない。
イメルダは深く息を吸い、毅然と返す。

「殿下は……とても誠実なお方です。
 誠実は、何よりも尊い資質ですわ」

「誠実? ……そんなもので、国は統べられませんわよ。
 あなたは本当に……理想だけで生きているのね?」

アルティシアの嘲笑に、
イメルダの胸の奥で言葉が震えた。

(……誠実だけでは、確かに王にはなれない。
 でも──殿下は変わり始めている。
 そのことを、わたくしは知っている)

しかし、言い返す前に、アルティシアが肩を寄せ、
耳元で囁いた。

「殿下の“奇跡の変化”が、いつまで続くのかしらね……?
 結婚しただけで性格が変わるわけではないでしょう。
 そのうち、また黙り込んで……
 みんなが失望する日が来るかもしれませんわね」

イメルダはきゅっと拳を握った。

だが、表情は崩さない。

「殿下を侮辱されるのは、看過できませんわ。
 殿下は慎重で、深く考えておられるからこそ……
 わたくしは……尊敬しております」

アルティシアの眼が一瞬だけ揺れた。

イメルダは静かに一礼し、その場を離れた。



イメルダが去ったあと──
アルティシアは扇で口元を隠し、低く笑った。

「……あの女、本当に殿下を信じているのね。
 滑稽だわ……。
 でも構いませんわ。
 あの方の“本当の実力”を思い知らせてあげれば……
 すぐに目を覚ますでしょう」

背後からベータが現れ、アルティシアの肩を抱く。

「アルティシア……何を笑ってる?」
「殿下こそ……イメルダ様に、少し焦っておられるのでは?」

ベータの目がぎらりと光った。

「焦る? そんなわけがあるか。
 あいつは……俺の前座だ。
 王となるのは、この俺だ」

アルティシアは甘く微笑みながらも、
瞳の奥で別の炎を燃やしていた。

(殿下……利用価値がある限り、支えますわ……
 あなたが“王”になるまでは)

その野心は、ゆっくりと
イメルダとアルファルファの幸福な時間を
壊そうと動き始めていた。


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