婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第15話 二人の絆が深まる夜、そして小さな誤解

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第15話 二人の絆が深まる夜、そして小さな誤解

アルティシアの冷たい言葉を受けたその夜。
イメルダは寝室で、静かに鏡の前に座っていた。

(……殿下を侮辱されるのは……胸が痛みますわ……)

決して言い返せなかったわけではない。
ただ──
アルティシアに向かって感情的になることは、
殿下のためにも、王妃としても避けるべきだった。

イメルダは鏡に映る自分にそっと触れた。

(殿下のために……もっとしっかりしなくては)

そう決意していると、
寝室の扉が控えめにノックされた。

「……イメルダ、入ってもいいか……?」

アルファルファの声だ。

「もちろんですわ、殿下」

扉が静かに開き、殿下がそろりと入ってきた。
どこか落ち着かない様子で、手を胸の前にぎゅっと握りしめている。



「イメルダ……その……今日……何かあったのか……?」

唐突な問いにイメルダは目を瞬いた。

「えっ……なぜ、そう思われましたの?」

「……夕方……君の顔……少し……悲しそうだったから……」

イメルダの心がふるりと震えた。

(殿下……そんなに気にしてくださっていたの……?)

思わず微笑んでしまう。

「殿下……お気づきだったのですね」

「う……うん。
 言ったほうがいいか……言わないほうがいいか……
 ずっと……迷っていた……」

首まで赤くしながら言う殿下が、
あまりにも愛おしくて胸が痛む。

(だめ……もう……殿下のことばかり考えてしまう……)

イメルダは静かに首を振る。

「殿下……少し、嫌味を言われただけですわ。
 でも……わたくしは平気です」

殿下の眉がぎゅっと寄る。

「……誰に……?」

イメルダは一瞬だけ、答えるのをためらった。
殿下を煽るような真似は避けたい。

だが──
殿下は優しい声で言った。

「……言いたくなければ……言わなくていい。
 ただ……君が傷ついていたのなら……
 それが……嫌なんだ……」

その言葉は、
イメルダの心を一瞬で溶かした。



「殿下……」
イメルダは静かに殿下の胸に額を寄せた。
殿下は驚いたように固まり、ぎこちなくもイメルダの背に手を回す。

「わたくしは……殿下のこと……尊敬しております。
 誰が何を言おうと……殿下のお人柄を信じていますわ」

殿下の肩がびくりと震えた。

「……そ……そんなふうに言われたら……
 僕は……」

イメルダは顔を上げる。
殿下の目はうるんでいて、
まるで言葉を探している子どものようだった。

「……僕は……もっと……君にふさわしい男になりたい……」

イメルダの胸が締め付けられる。

(殿下……そんなこと……言わないで……
 もう十分、素晴らしい方ですのに……)

言葉が出てこなくなり、
その代わりにイメルダは殿下の手をそっと握った。

「殿下……ゆっくりでいいのです。
 わたくしは……殿下の歩みに合わせてまいりますわ」

殿下はゆっくりと頷き、
静かに、イメルダを抱きしめた。

そして、いつものように、
控えめなキスを額に落としてくれる。

イメルダの頬はまた紅く染まり、
胸の奥がふわりと温かくなる。



しかし──

その甘い空気は、
床に落ちた「小さなひっかかり」によって揺らぐことになる。

翌朝。
殿下が机に置かれた文書に目を通していると、
何気なく呟いた。

「……イメルダ……アルティシアとも……仲良くしたほうが……」

イメルダはぴたりと固まった。

(殿下……どうして……その名前が?)

殿下は何も知らない無邪気な表情のまま続ける。

「きょ、距離があると……国のためにも……よくないから……」

イメルダは穏やかに微笑んで返したものの──
胸の奥に、針のような痛みが残った。

(……殿下は何もご存じないから……。
 でも……あの人と仲良くなんて……できません)

小さな誤解が、
イメルダの胸に静かに沈んだまま、
解けないままでいた。

その小さな影が、
やがて大きな争いを呼ぶなど──
この時の二人はまだ気づいていなかった。


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