婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第16話 アルティシアの新たな企み──嫉妬と焦燥

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第16話 アルティシアの新たな企み──嫉妬と焦燥

イメルダとアルファルファが着実に距離を縮めていく中、
アルティシアの焦りは日増しに強くなっていった。

(なぜ……?
 なぜあの人が、“殿下を変えた”などと言われているの?
 そんなの、わたくしが許すわけないでしょう……!)



アルティシアの私室。
彼女は豪奢なソファに腰掛け、
その膝の上には宝石箱が広げられている。

宝石の輝きは美しい──
だが、アルティシア自身の瞳の方が、
もっと鋭く、もっと醜く光っていた。

扇を軽く打ち鳴らし、側に控える侍女を睨む。

「……最近、兄殿下の評判が良いそうですわね。
 “イメルダ様のおかげ”……
 “殿下が変わってきている”……そんな声が聞こえましたわ」

侍女は震えた声で答える。

「は、はい……王宮中で、そう噂されております」

「……滑稽だわ。その噂話、全部ひっくり返して差し上げますわ」

侍女が息を呑む。

「あ……あの、それは……どうされるおつもりで?」

アルティシアはゆっくりと笑みを深めた。

「簡単なことですわ。
 “イメルダ様が殿下の邪魔をしている”ように見せればいいのです」

侍女が青ざめる。

「そ、そんな……!
 イメルダ様は殿下のご公務を支えて……」

「支えている? ふふ……誰がそんなことを?」

アルティシアは足を組み替え、冷たい声で続ける。

「王妃教育と称して、殿下から距離を取らせる。
 殿下に進言し、余計な疑念を植え付ける。
 そして周囲には、
 “王妃が殿下を混乱させている”
 と囁けばよいのです」

侍女の顔が紙のように白くなる。

「……そ、それは……あまりにも……」

「わたくしが欲しいのは王妃の座ではありませんわ。
 “王の座に近い立場”ですのよ」

その言葉の響きは甘美で、
しかし背筋が凍るように冷たかった。



同じ頃──
イメルダは王妃教育を終えて廊下を歩いていた。

前方に、アルティシアの姿が見える。

イメルダの胸が一瞬だけざわついた。
昨日の言葉がまだ心に刺さっていたからだ。

(殿下は“仲良くしたほうがいい”と言ってくださったけれど……
 あの方と仲良くなど……どうすれば?)

しかし逃げることなどできない。
王妃として、彼女は堂々と歩かなければならない。

イメルダが近づくと、
アルティシアはにっこりと微笑んだ。

──その笑みが、作り物であることは明らかだった。

「まあイメルダ様。今日はずいぶんお疲れのようですわね?」

「……王妃として学ぶことは多くありますので」

イメルダが丁寧に答えると、
アルティシアは扇を口元に当てて言った。

「殿下も……
 “最近、イメルダが忙しすぎて寂しい”と仰っていましたわよ?」

イメルダの胸がぎゅっと締め付けられた。

アルティシアはわざとらしくため息をつく。

「殿下のお気持ちに寄り添うのも、王妃のお務めですわ。
 ……殿下の近くにずっといられるのは、
 本来、わたくしのはずでしたのに」

(……殿下にそんなことを言ったの……?
 まさか……わざと?)

しかしイメルダは表情を崩さない。
丁寧に礼をしてその場を離れた。

(落ち着くのよ……わたくしが動揺してどうするの……
 殿下は“そんなことを望まない”
 わたくしは……殿下の力になりたいだけ)

だがその心の陰に、
小さな影がゆっくりと根を伸ばし始めていた。



その夜。
イメルダの考え事を察したのか、
アルファルファがそっと寄ってきた。

「……イメルダ……最近……疲れてる……?」

「殿下……いえ、そのようなことは……」

殿下はイメルダの手をそっと取った。

「……無理をしないでくれ……
 君が……苦しそうに見えると……僕も……」

胸の奥の痛みが、少しだけ溶ける。

(殿下……あなたは……優しい方……
 何も知らない無垢な優しさが……逆に……怖い)

ふと、殿下がぽつりと言った。

「……アルティシアが……
 “君が忙しすぎると寂しくなる”って……言っていた……」

イメルダは息を飲んだ。

(……やはり……)
(わざと殿下に……)

殿下は続ける。

「でも……僕は……君が王妃として頑張ってるのが……誇らしい。
 ただ……少し……そばにいてほしい……それだけだ」

イメルダは胸の奥がきゅうっとなり、
殿下の胸にそっと額を寄せた。

「殿下……大丈夫ですわ……わたくしは……殿下のそばにおります」

殿下は控えめにイメルダを抱きしめ、
額にそっとキスを落とした。

その優しさが、逆に胸を締め付ける。

(殿下……
 あなたが誰を信じるのか──
 それが……とても大事なのです)

そしてイメルダは静かに決意する。

(アルティシア様の手は……放置してはいけませんわ)

物語はゆっくりと、
表には見えない火花が散り始める。


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