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第16話 アルティシアの新たな企み──嫉妬と焦燥
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第16話 アルティシアの新たな企み──嫉妬と焦燥
イメルダとアルファルファが着実に距離を縮めていく中、
アルティシアの焦りは日増しに強くなっていった。
(なぜ……?
なぜあの人が、“殿下を変えた”などと言われているの?
そんなの、わたくしが許すわけないでしょう……!)
◆
アルティシアの私室。
彼女は豪奢なソファに腰掛け、
その膝の上には宝石箱が広げられている。
宝石の輝きは美しい──
だが、アルティシア自身の瞳の方が、
もっと鋭く、もっと醜く光っていた。
扇を軽く打ち鳴らし、側に控える侍女を睨む。
「……最近、兄殿下の評判が良いそうですわね。
“イメルダ様のおかげ”……
“殿下が変わってきている”……そんな声が聞こえましたわ」
侍女は震えた声で答える。
「は、はい……王宮中で、そう噂されております」
「……滑稽だわ。その噂話、全部ひっくり返して差し上げますわ」
侍女が息を呑む。
「あ……あの、それは……どうされるおつもりで?」
アルティシアはゆっくりと笑みを深めた。
「簡単なことですわ。
“イメルダ様が殿下の邪魔をしている”ように見せればいいのです」
侍女が青ざめる。
「そ、そんな……!
イメルダ様は殿下のご公務を支えて……」
「支えている? ふふ……誰がそんなことを?」
アルティシアは足を組み替え、冷たい声で続ける。
「王妃教育と称して、殿下から距離を取らせる。
殿下に進言し、余計な疑念を植え付ける。
そして周囲には、
“王妃が殿下を混乱させている”
と囁けばよいのです」
侍女の顔が紙のように白くなる。
「……そ、それは……あまりにも……」
「わたくしが欲しいのは王妃の座ではありませんわ。
“王の座に近い立場”ですのよ」
その言葉の響きは甘美で、
しかし背筋が凍るように冷たかった。
◆
同じ頃──
イメルダは王妃教育を終えて廊下を歩いていた。
前方に、アルティシアの姿が見える。
イメルダの胸が一瞬だけざわついた。
昨日の言葉がまだ心に刺さっていたからだ。
(殿下は“仲良くしたほうがいい”と言ってくださったけれど……
あの方と仲良くなど……どうすれば?)
しかし逃げることなどできない。
王妃として、彼女は堂々と歩かなければならない。
イメルダが近づくと、
アルティシアはにっこりと微笑んだ。
──その笑みが、作り物であることは明らかだった。
「まあイメルダ様。今日はずいぶんお疲れのようですわね?」
「……王妃として学ぶことは多くありますので」
イメルダが丁寧に答えると、
アルティシアは扇を口元に当てて言った。
「殿下も……
“最近、イメルダが忙しすぎて寂しい”と仰っていましたわよ?」
イメルダの胸がぎゅっと締め付けられた。
アルティシアはわざとらしくため息をつく。
「殿下のお気持ちに寄り添うのも、王妃のお務めですわ。
……殿下の近くにずっといられるのは、
本来、わたくしのはずでしたのに」
(……殿下にそんなことを言ったの……?
まさか……わざと?)
しかしイメルダは表情を崩さない。
丁寧に礼をしてその場を離れた。
(落ち着くのよ……わたくしが動揺してどうするの……
殿下は“そんなことを望まない”
わたくしは……殿下の力になりたいだけ)
だがその心の陰に、
小さな影がゆっくりと根を伸ばし始めていた。
◆
その夜。
イメルダの考え事を察したのか、
アルファルファがそっと寄ってきた。
「……イメルダ……最近……疲れてる……?」
「殿下……いえ、そのようなことは……」
殿下はイメルダの手をそっと取った。
「……無理をしないでくれ……
君が……苦しそうに見えると……僕も……」
胸の奥の痛みが、少しだけ溶ける。
(殿下……あなたは……優しい方……
何も知らない無垢な優しさが……逆に……怖い)
ふと、殿下がぽつりと言った。
「……アルティシアが……
“君が忙しすぎると寂しくなる”って……言っていた……」
イメルダは息を飲んだ。
(……やはり……)
(わざと殿下に……)
殿下は続ける。
「でも……僕は……君が王妃として頑張ってるのが……誇らしい。
ただ……少し……そばにいてほしい……それだけだ」
イメルダは胸の奥がきゅうっとなり、
殿下の胸にそっと額を寄せた。
「殿下……大丈夫ですわ……わたくしは……殿下のそばにおります」
殿下は控えめにイメルダを抱きしめ、
額にそっとキスを落とした。
その優しさが、逆に胸を締め付ける。
(殿下……
あなたが誰を信じるのか──
それが……とても大事なのです)
そしてイメルダは静かに決意する。
(アルティシア様の手は……放置してはいけませんわ)
物語はゆっくりと、
表には見えない火花が散り始める。
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イメルダとアルファルファが着実に距離を縮めていく中、
アルティシアの焦りは日増しに強くなっていった。
(なぜ……?
なぜあの人が、“殿下を変えた”などと言われているの?
そんなの、わたくしが許すわけないでしょう……!)
◆
アルティシアの私室。
彼女は豪奢なソファに腰掛け、
その膝の上には宝石箱が広げられている。
宝石の輝きは美しい──
だが、アルティシア自身の瞳の方が、
もっと鋭く、もっと醜く光っていた。
扇を軽く打ち鳴らし、側に控える侍女を睨む。
「……最近、兄殿下の評判が良いそうですわね。
“イメルダ様のおかげ”……
“殿下が変わってきている”……そんな声が聞こえましたわ」
侍女は震えた声で答える。
「は、はい……王宮中で、そう噂されております」
「……滑稽だわ。その噂話、全部ひっくり返して差し上げますわ」
侍女が息を呑む。
「あ……あの、それは……どうされるおつもりで?」
アルティシアはゆっくりと笑みを深めた。
「簡単なことですわ。
“イメルダ様が殿下の邪魔をしている”ように見せればいいのです」
侍女が青ざめる。
「そ、そんな……!
イメルダ様は殿下のご公務を支えて……」
「支えている? ふふ……誰がそんなことを?」
アルティシアは足を組み替え、冷たい声で続ける。
「王妃教育と称して、殿下から距離を取らせる。
殿下に進言し、余計な疑念を植え付ける。
そして周囲には、
“王妃が殿下を混乱させている”
と囁けばよいのです」
侍女の顔が紙のように白くなる。
「……そ、それは……あまりにも……」
「わたくしが欲しいのは王妃の座ではありませんわ。
“王の座に近い立場”ですのよ」
その言葉の響きは甘美で、
しかし背筋が凍るように冷たかった。
◆
同じ頃──
イメルダは王妃教育を終えて廊下を歩いていた。
前方に、アルティシアの姿が見える。
イメルダの胸が一瞬だけざわついた。
昨日の言葉がまだ心に刺さっていたからだ。
(殿下は“仲良くしたほうがいい”と言ってくださったけれど……
あの方と仲良くなど……どうすれば?)
しかし逃げることなどできない。
王妃として、彼女は堂々と歩かなければならない。
イメルダが近づくと、
アルティシアはにっこりと微笑んだ。
──その笑みが、作り物であることは明らかだった。
「まあイメルダ様。今日はずいぶんお疲れのようですわね?」
「……王妃として学ぶことは多くありますので」
イメルダが丁寧に答えると、
アルティシアは扇を口元に当てて言った。
「殿下も……
“最近、イメルダが忙しすぎて寂しい”と仰っていましたわよ?」
イメルダの胸がぎゅっと締め付けられた。
アルティシアはわざとらしくため息をつく。
「殿下のお気持ちに寄り添うのも、王妃のお務めですわ。
……殿下の近くにずっといられるのは、
本来、わたくしのはずでしたのに」
(……殿下にそんなことを言ったの……?
まさか……わざと?)
しかしイメルダは表情を崩さない。
丁寧に礼をしてその場を離れた。
(落ち着くのよ……わたくしが動揺してどうするの……
殿下は“そんなことを望まない”
わたくしは……殿下の力になりたいだけ)
だがその心の陰に、
小さな影がゆっくりと根を伸ばし始めていた。
◆
その夜。
イメルダの考え事を察したのか、
アルファルファがそっと寄ってきた。
「……イメルダ……最近……疲れてる……?」
「殿下……いえ、そのようなことは……」
殿下はイメルダの手をそっと取った。
「……無理をしないでくれ……
君が……苦しそうに見えると……僕も……」
胸の奥の痛みが、少しだけ溶ける。
(殿下……あなたは……優しい方……
何も知らない無垢な優しさが……逆に……怖い)
ふと、殿下がぽつりと言った。
「……アルティシアが……
“君が忙しすぎると寂しくなる”って……言っていた……」
イメルダは息を飲んだ。
(……やはり……)
(わざと殿下に……)
殿下は続ける。
「でも……僕は……君が王妃として頑張ってるのが……誇らしい。
ただ……少し……そばにいてほしい……それだけだ」
イメルダは胸の奥がきゅうっとなり、
殿下の胸にそっと額を寄せた。
「殿下……大丈夫ですわ……わたくしは……殿下のそばにおります」
殿下は控えめにイメルダを抱きしめ、
額にそっとキスを落とした。
その優しさが、逆に胸を締め付ける。
(殿下……
あなたが誰を信じるのか──
それが……とても大事なのです)
そしてイメルダは静かに決意する。
(アルティシア様の手は……放置してはいけませんわ)
物語はゆっくりと、
表には見えない火花が散り始める。
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