婚約破棄されたけれど、頼りない第一王子様と結婚したら溺愛されました

しおしお

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第32話 国王陛下の御前裁き・前編

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第32話 国王陛下の御前裁き・前編

王城の大広間は、いつもより重い空気に満ちていた。

赤い絨毯の先、玉座には国王陛下。
その両側には老練な宰相と大臣たち。
呼び出された貴族たちが固唾を呑んで見守る中――

中央には、萎縮しきった ベータ王子 と、
引きつった笑顔すら作れない アルティシア が並んでいた。

そしてその向かいには、
姿勢正しく立つ アルファルファ殿下 と イメルダ の姿。

(緊張……しているように見えるけれど、
 殿下の目は澄んでいる……)

イメルダは胸の奥でそっと思う。

以前の殿下なら、
こんな大勢の前に立つだけで肩を縮めていた。

しかし今の殿下は……
彼女を守りたいという想いが、
弱さをすべて飲み込み、強さに変えていた。



国王陛下の厳かな声が大広間に響く。

「……ベータ。
 お前が第一王子アルファルファを陥れる噂を流布し、
 国政を混乱させたという報告が上がっている。
 事実か?」

ベータはガタガタ震え、
言葉にならない声を漏らした。

「ち、父上……ち、違……っ……!」

陛下の鋭い視線が突き刺さる。

「違うと言うのなら、説明せよ。
 噂はなぜ広まった?
 どうやって“第一王子が王の器ではない”という言葉が
 城下にまで届いたのだ?」

「そ……それは……っ……!」

その横でアルティシアが素早く口を開いた。

「申し訳ありません、陛下!
 わたくしの軽率な言動が原因ですわ!
 実はベータ殿下に“兄上の振る舞いが不安だ”と相談され……
 わたくし……殿下を案じるあまり……」

宰相が目を細める。

「案じた結果が“第一王子失脚の噂”か。
 軽率という言葉で済む話ではないぞ」

アルティシアは唇を噛みしめ、
涙で訴えるような表情を作る。

「すべて……愛ゆえの行動でしたの……」

その瞬間。

「愛? どこに愛があると言うのだ」

冷ややかな声が割り込んだ。

アルファルファ殿下だ。

静かに真っすぐ立ち――
震えもせず、堂々と父である国王に向き合っている。

「父上。
 私は、ベータとアルティシアが裏で何をしているか、
 証言や文書をもっております。
 彼らが“国を動かすため”などではなく、
 純然たる私的な野望で動いていた証拠です」

大広間がざわめいた。

イメルダは息をのむ。

(殿下……こんなに……)

以前の彼を知る者たちも、
その変化に目を見開いている。

国王は重く頷いた。

「証拠を提出せよ」

アルファルファ殿下は文書を差し出した。
宰相が手に取り、陛下の前に広げる。

そこには――

・アルティシアが密かに貴族を集め、噂を作り出していた記録
・ベータ王子が“兄上を失墜させる”と約束した書簡の写し
・協力した貴族たちの証言書
・資金の不自然な動きの報告

など、逃れようのない証拠がずらりと揃っていた。

ベータとアルティシアは真っ青になり、
震えながら後ずさる。

「そ、そんなはず……っ!
 この書類、偽物で――」

「偽物ではない。
 署名も印章も、すべて確認済みだ」

宰相の断言に、二人は崩れ落ちた。



国王は重い沈黙の中で、
ベータとアルティシアを見下ろした。

「……二人には、正式な裁きを受けてもらう。
 まずは謹慎。
 その後、尋問と調査に応じてもらう」

「ち、父上っ!
 ぼ、ぼくは……兄上のために……!」

「私のため?
 ならばなぜ、私やイメルダを貶めた?」

殿下の静かな声。

ベータは返す言葉を失い――
ただ、震えた。

アルティシアは涙を浮かべ、
必死に声を絞り出す。

「ベータ殿下が……“私だけを見ていてほしい”と……
 だから私は……殿下のために……!」

「嘘だ!!
 君が“王妃になりたい”と――!」

再び罵り合いが始まる。

国王は疲れ切ったようにため息をついた。

「このような醜態……我が王家の恥だ」

殿下は一歩前に出た。

「父上。
 どうか、この件の判断は慎重に。
 ベータは……弟です」

そう言う殿下の声は静かで、優しかった。

しかし同時に――
強い。

その優しさが、
弱さではなく、強さとして存在している。

イメルダは胸が熱くなるのを感じた。

(殿下……。
 以前なら……絶対、こんな言葉を言えなかった方なのに……)

国王はゆっくりと息を吐き、
重い声で告げた。

「アルファルファ。
 お前の言葉を尊重し、慎重に裁くとしよう。
 だが――二人の罪が軽くなることはない」

ベータとアルティシアは絶望した顔で崩れ落ちる。



こうして――
御前裁きは前編を終えた。

二人は拘束され、謹慎の部屋へと連れて行かれる。

その後ろ姿を見送りながら、
イメルダはそっと殿下の袖をつまんだ。

「殿下……とても……素敵でしたわ」

殿下は照れたように目をそらす。

「そ……そうか……?
 いや……うん……その……。
 イ、イメルダが……見ていると思ったら……
 気が抜けなくて……」

イメルダは思わず頬を染めた。

(……やっぱり、好き……)

ふたりだけにしか分からない想いが、
静かに高まっていく。

――そして物語は、
ついにザマアの核心へ進み始める。


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