選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第二十七話 広がる均衡と、消えない噂

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第二十七話 広がる均衡と、消えない噂

 南方連合との再交渉は、想像以上に穏やかにまとまった。

 王都は分散型結界の基礎理論を限定公開し、南方は希少魔石の輸出制限を緩和する。技術供与ではない。あくまで「原理共有」。運用は各国の責任。

 均衡は、支配ではなく共有。

 それが王都の新しい外交姿勢だった。

 だが、均衡が広がるほど、別のものも広がる。

 ――噂。

「北の令嬢は、実は王都を裏から操っている」

「王太子も彼女の理論に従っているらしい」

「王命すら修正されたとか」

 事実と誇張が混ざる。

 均衡は中心に立たない理論。

 だが人は中心を作りたがる。

 理解しきれないものを、誰かの影に押し込めようとする。

 王宮内でも、その噂は囁かれていた。

「北の影響が強すぎるのでは」

「王都は独立しているのか」

 アルフレッドは淡々と答える。

「王都は王都の判断で動いている」

 事実だ。

 だが噂は理屈では消えない。

 北。

 私は報告書の末尾に記された“噂”の一文を読み、静かに笑った。

「操っている、ですか」

「人は単純化したがる」

 レオンハルトが言う。

「均衡という概念より、誰かの意思の方が理解しやすい」

 私は庭に出る。

 風はやわらかい。

 噂は無視しても消える。

 だが放置すれば、いずれ歪む。

「一度、線を明確にしましょう」

「どうする」

「公開討論を提案します」

 王都。

 均衡理論公開討論会。

 南方連合、地方都市代表、王都魔術師団。

 そして北は遠隔参加。

 議題は明確。

 ――均衡理論は王都の支配構造か。

 討論会当日。

 大広間は満席。

 南方代表が口火を切る。

「均衡理論は王都の優位を固定する仕組みではないか」

 アルフレッドは冷静に答える。

「理論は共有している」

「だが運用は王都主導だ」

 ざわめき。

 私は遠隔通信で発言する。

「均衡は中心を作りません」

 静かな声。

「王都が優位に立つなら、それは理論ではなく運用の問題です」

「では北は何をしている」

「北は、北の結界を守っています」

 間。

「王都の意思決定に、北は関与していません」

 王太子が立ち上がる。

「その通りだ」

 彼の声ははっきりしている。

「王都の決定は王都の責任」

 噂は、そこで削られた。

 討論は続く。

 南方代表は最後に言う。

「均衡は支配ではない、という理解でよいか」

「ええ」

 私は答える。

「均衡は削る理論です。支配する理論ではありません」

 討論会は終わる。

 翌日の報道は穏やかだった。

「均衡理論、透明性を確認」

「北は独立維持」

 噂は勢いを失う。

 ざまぁ。

 今回は誰も失脚しない。

 だが“影の支配者”という幻想は崩れた。

 夜。

 北の空に星が瞬く。

「あなたは操っていない」

 レオンハルトが言う。

「ええ」

「だが影響はある」

「影響と支配は違います」

 私は微笑む。

 選ばれなかった令嬢は、今や噂さえ削る存在になった。

 中心に立たず、否定もせず、ただ明確にする。

 均衡は透明でなければならない。

 そうでなければ、また偏る。

 王都の光は遠く安定している。

 噂は消え、理念は残る。

 それが、次の段階だった。
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