選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

文字の大きさ
37 / 40

第三十七話 試す者と、揺らがない理論

しおりを挟む
第三十七話 試す者と、揺らがない理論

 微小歪みは消えない。

 増えもしない。

 ただ、各地で同じ方向へ、同じ角度で、同じ周期で現れる。

 王都の分散審議会は、数値上の「異常なし」を確認し続けていた。

 だが私は理解している。

 これは破壊ではない。

 宣戦布告でもない。

 問いだ。

 ――均衡は、どこまで耐えられるのか。

 北の観測室。

 私は東方ルシェル、南方補助炉、王都第三炉の波形を並べる。

 わずかな傾き。

 削れば消える。

 放置すれば吸収される。

 だが「意図」がある。

「挑発だな」

 レオンハルトが低く言う。

「ええ」

「姿を見せない」

「姿を出せば、敵になるから」

 均衡は敵を想定しない理論だ。

 破壊者は削る。

 偏りは整える。

 だが“観測者”はどうか。

 王都から通信が入る。

 アルフレッドだ。

「解析した」

「どうでした」

「歪みは炉の外からではない」

「内部?」

「いや。制度の“運用判断”に紛れている」

 私は息を止める。

「合議制の判断」

「そうだ。僅かな遅延、僅かな保留、僅かな調整」

 すべて正当。

 すべて合法。

 だが方向が揃っている。

「誰かが審議会を動かしている」

「いや」

 アルフレッドは否定する。

「動かしてはいない」

「では」

「“誘導”している」

 明確な命令はない。

 だが提案の順番。

 議題の並び。

 報告書の優先度。

 小さな選択の積み重ねが、同じ角度の歪みを生む。

 南方連合からも連絡が来る。

「我々も確認した。王都と同じ傾向だ」

 私はゆっくりと頷く。

「均衡を壊すのではなく、均衡の“合議”を試している」

 レオンハルトが腕を組む。

「犯人を探すか」

「いいえ」

「放置か」

「違います」

 私は静かに言う。

「構造を変えます」

 王都会議。

「分散審議会に“逆提案制度”を導入する」

 王太子が眉を上げる。

「逆提案?」

「議題に対して、必ず逆方向の案を提出する」

 賛成だけでなく、必ず反対も。

 補正だけでなく、保留も。

 調整だけでなく、無変更も。

「負荷が増える」

「ええ」

「だが歪みは出にくくなる」

 合議の“自然な偏り”を抑える。

 王都は承認する。

 南方も追随。

 数日後。

 微小歪みは、ゆっくりと消え始めた。

 削ったわけではない。

 制度が自ら整えた。

 王都の夜。

 アルフレッドが独り言のように呟く。

「姿を見せないまま、終わるか」

 北。

 私は星を見上げる。

 今夜は晴れている。

「試す者は、満足したでしょう」

「敵ではないのか」

 レオンハルトが問う。

「分かりません」

 だが確かなことがある。

 均衡は壊れなかった。

 制度は耐えた。

 ざまぁと呼ぶなら、相手の計算違いだ。

 削らせ続ければ疲弊すると読んだ。

 だが均衡は“吸収”した。

 そして進化した。

 試す者は、どこかで見ている。

 姿を出さず、理念を否定せず、ただ限界を測る。

 私は静かに息を吐く。

「ならば、次は私が問います」

 均衡は静的ではない。

 揺らぎを受け、変わり、強くなる。

 試す者がいるなら、こちらも進化する。

 冬は終わりに近い。

 北の空に、春の気配がわずかに混じる。

 姿なき観測者。

 名もない試験。

 だが均衡は揺らがない。

 理論は、またひとつ段階を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...