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第3話 揺らぐ王太子と、変わり始めた宮廷
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第3話 揺らぐ王太子と、変わり始めた宮廷
フェリシェールを公爵家へ送り届けた後、アレンは王城へ戻った。
長い廊下を歩く彼の背中には、普段とは違う鋭さが宿っていた。
(ミレイユ・バルティエ……そして、背後にディアス。
これは単なる令嬢同士の嫉妬劇では済まない)
彼自身がそれを誰より強く理解していた。
――そして王城では、フェリシェールのいない大広間が、まだざわめきに満ちていた。
「まさか……あの宝飾品が出てくるとは……!」
「フェリシェール様があれほど落ち着いていた理由が今わかった」
「あれでは“婚約破棄された可哀想な令嬢”ではなく、むしろ解放されたように見えたぞ」
「王太子殿下は……どうするおつもりだ?」
貴族たちの視線は、中央で呆然と立ち尽くす男――
カイル王太子に注がれていた。
「フェリシェールが……盗んだのではない?
では……ミレイユが、本当に……?」
何度も自分に問い返しているようだった。
しかし、その横で拘束されているミレイユは、すでに顔を蒼白にしている。
もはや庇いきれない。
「殿下、申し訳ございません。ミレイユ嬢の部屋からは、他にも不審な品が――」
「うるさい! 黙れ!」
カイルは叫ぶように怒鳴った。
その顔は赤く、そしてどこか泣きそうなほど歪んでいた。
(私は……間違っていたのか?
私が信じた“清楚なミレイユ”は、虚偽だった?
では、フェリシェールは……?)
頭の中がぐるぐると混乱する。
しかし、答えは一つしかない。
――彼は、フェリシェールを捨てて間違えた。
それを、本人だけがまだ認められずにいた。
しばらくして、静寂が広間に落ちた。
銀髪の第二王子が戻ったからだ。
「アレン殿下……」
「殿下……お戻りに」
アレンは貴族たちの視線を無視し、真っ直ぐにカイルのほうへ向かった。
「兄上」
「なんだ、アレン……。
私は……私は本当に、間違っていたというのか……?」
「間違っている」
アレンは一切の情けを排して言い切った。
「君がしたのは“調べもせずにフェリシェールを断罪した”という行為だ。
王太子として、あるまじき愚行だよ」
「……っ!」
カイルの拳が震えた。
しかし、返す言葉はない。
「だが……私も、彼女を傷つけるつもりは……」
「傷つけたかどうかは関係ない。
結果として、君は彼女を追いつめた」
アレンの声音には冷たさが戻っていた。
フェリシェールの前で見せた柔らかさは影も形もない。
(殿下……やはり、私のときだけ……違うのね)
侍従長もそう感じていた。
「アレン殿下。ミレイユ嬢をどう扱うべきでしょうか?」
「正規の手続きに従う。
盗品の件は王妃も黙っていないだろう。
――その前に、もう一度訊くが、ミレイユ」
アレンは拘束されたミレイユの前に立った。
「王太子妃の座を得るため、フェリシェールを陥れる計画は、誰の指示だ?」
「し、知らない……!
私はただ……殿下に選ばれたかっただけなの……!」
「嘘だな」
アレンの目が細くなる。
「伯爵令嬢ひとりに、この規模の盗品操作は無理だ。
背後に協力者がいる。答えろ」
「……っ」
ミレイユの顔が一瞬引きつった。
アレンは見逃さなかった。
(やはり……誰かが動いている。
フェリシェールを標的にした理由が“嫉妬”だけではない)
そのとき、後方からざわめきが広がった。
視線が集まった先に――
王妃がゆっくりと歩み出ていた。
「アレン、説明を」
「お母上」
王妃の表情は怒りを抑えた静かなものだった。
「ミレイユ・バルティエ嬢の件、すべて報告を受けました。
フェリシェール嬢を陥れるために、王家の宝飾品を盗み隠したと?」
「そのようです」
王妃の目が冷たく光る。
「――愚か者」
ただ一言。
その場にいる全員が息を呑んだ。
「公爵令嬢フェリシェールは、私が幼い頃から目をかけていた娘。
王太子妃候補として、最も相応しい女性でした」
カイルにとって、その言葉は鋭い刃となった。
「フェリシェール……が……?」
「そうです。
あなたは自ら、その宝を捨てたのです、カイル」
王妃の声音には、母としての哀しみがにじんでいた。
その瞬間、カイルの心に深い後悔が流れ込んだ。
(私は……何をしたんだ……?
なぜ……気づけなかった?
彼女の努力にも、優しさにも……
あの笑顔すら……)
遅すぎる後悔だった。
アレンは、静かに王太子の前に立った。
「兄上。
フェリシェールは、私が守る」
その言葉に、大広間の空気が止まった。
「ア、アレン……?
それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。
――彼女を側に置き、二度と傷つけさせないということだ」
カイルの顔が青ざめる。
「ま……待ってくれアレン!
私は……私はフェリシェールを……!」
「恋愛感情か? 責任感か?」
「そ、それは……!」
「どちらにせよ、今さら取り返しはつかない。
フェリシェールは、もう君の婚約者ではない。
――そして……
あの娘は、誰より大切にされるべき女性だ」
アレンの言葉に、周囲の女性たちが赤くなる。
(第二王子殿下が……あんな言い方を……!)
(フェリシェール様……どれほど大切にされているの……?)
しかし、当の本人――フェリシェールは今、公爵家で静かに紅茶を飲んでいた。
侍女エマが心配そうに尋ねる。
「お嬢様……お体は大丈夫ですか?」
「ええ、とても。
あれほど騒がしかったのが嘘のように、今日は静かですね」
「お嬢様……さすがですわ……」
フェリシェールは苦笑する。
(アレン殿下……あの方は、どうしてあそこまで私を庇ってくださるのでしょう)
わからない。
わからないけれど――
胸の奥に温かいものが広がっていく。
その時、扉がノックされた。
「フェリシェール嬢。アレン殿下がお越しです」
「え……?」
エマが小声で囁く。
「お嬢様……! 第二王子殿下がご訪問!?
あの冷徹殿下が、わざわざ……!?」
フェリシェールは立ち上がりながら、胸の鼓動が速くなるのを感じた。
(なぜ……こんなにも殿下が私を?)
扉がゆっくり開き、アレンが姿を現した。
銀髪に夕日の光が差し込んで、柔らかく輝いていた。
「フェリシェール」
「ど、殿下……?」
「話がある。
……君を、もっと守るための話だ」
(もっと……?)
フェリシェールが戸惑う中、アレンは静かに続けた。
「――君の“魔力”について、知っていることがある」
フェリシェールの胸が、どくん、と音を立てた。
それは、彼女の人生を変える“真実”への序章だった。
フェリシェールを公爵家へ送り届けた後、アレンは王城へ戻った。
長い廊下を歩く彼の背中には、普段とは違う鋭さが宿っていた。
(ミレイユ・バルティエ……そして、背後にディアス。
これは単なる令嬢同士の嫉妬劇では済まない)
彼自身がそれを誰より強く理解していた。
――そして王城では、フェリシェールのいない大広間が、まだざわめきに満ちていた。
「まさか……あの宝飾品が出てくるとは……!」
「フェリシェール様があれほど落ち着いていた理由が今わかった」
「あれでは“婚約破棄された可哀想な令嬢”ではなく、むしろ解放されたように見えたぞ」
「王太子殿下は……どうするおつもりだ?」
貴族たちの視線は、中央で呆然と立ち尽くす男――
カイル王太子に注がれていた。
「フェリシェールが……盗んだのではない?
では……ミレイユが、本当に……?」
何度も自分に問い返しているようだった。
しかし、その横で拘束されているミレイユは、すでに顔を蒼白にしている。
もはや庇いきれない。
「殿下、申し訳ございません。ミレイユ嬢の部屋からは、他にも不審な品が――」
「うるさい! 黙れ!」
カイルは叫ぶように怒鳴った。
その顔は赤く、そしてどこか泣きそうなほど歪んでいた。
(私は……間違っていたのか?
私が信じた“清楚なミレイユ”は、虚偽だった?
では、フェリシェールは……?)
頭の中がぐるぐると混乱する。
しかし、答えは一つしかない。
――彼は、フェリシェールを捨てて間違えた。
それを、本人だけがまだ認められずにいた。
しばらくして、静寂が広間に落ちた。
銀髪の第二王子が戻ったからだ。
「アレン殿下……」
「殿下……お戻りに」
アレンは貴族たちの視線を無視し、真っ直ぐにカイルのほうへ向かった。
「兄上」
「なんだ、アレン……。
私は……私は本当に、間違っていたというのか……?」
「間違っている」
アレンは一切の情けを排して言い切った。
「君がしたのは“調べもせずにフェリシェールを断罪した”という行為だ。
王太子として、あるまじき愚行だよ」
「……っ!」
カイルの拳が震えた。
しかし、返す言葉はない。
「だが……私も、彼女を傷つけるつもりは……」
「傷つけたかどうかは関係ない。
結果として、君は彼女を追いつめた」
アレンの声音には冷たさが戻っていた。
フェリシェールの前で見せた柔らかさは影も形もない。
(殿下……やはり、私のときだけ……違うのね)
侍従長もそう感じていた。
「アレン殿下。ミレイユ嬢をどう扱うべきでしょうか?」
「正規の手続きに従う。
盗品の件は王妃も黙っていないだろう。
――その前に、もう一度訊くが、ミレイユ」
アレンは拘束されたミレイユの前に立った。
「王太子妃の座を得るため、フェリシェールを陥れる計画は、誰の指示だ?」
「し、知らない……!
私はただ……殿下に選ばれたかっただけなの……!」
「嘘だな」
アレンの目が細くなる。
「伯爵令嬢ひとりに、この規模の盗品操作は無理だ。
背後に協力者がいる。答えろ」
「……っ」
ミレイユの顔が一瞬引きつった。
アレンは見逃さなかった。
(やはり……誰かが動いている。
フェリシェールを標的にした理由が“嫉妬”だけではない)
そのとき、後方からざわめきが広がった。
視線が集まった先に――
王妃がゆっくりと歩み出ていた。
「アレン、説明を」
「お母上」
王妃の表情は怒りを抑えた静かなものだった。
「ミレイユ・バルティエ嬢の件、すべて報告を受けました。
フェリシェール嬢を陥れるために、王家の宝飾品を盗み隠したと?」
「そのようです」
王妃の目が冷たく光る。
「――愚か者」
ただ一言。
その場にいる全員が息を呑んだ。
「公爵令嬢フェリシェールは、私が幼い頃から目をかけていた娘。
王太子妃候補として、最も相応しい女性でした」
カイルにとって、その言葉は鋭い刃となった。
「フェリシェール……が……?」
「そうです。
あなたは自ら、その宝を捨てたのです、カイル」
王妃の声音には、母としての哀しみがにじんでいた。
その瞬間、カイルの心に深い後悔が流れ込んだ。
(私は……何をしたんだ……?
なぜ……気づけなかった?
彼女の努力にも、優しさにも……
あの笑顔すら……)
遅すぎる後悔だった。
アレンは、静かに王太子の前に立った。
「兄上。
フェリシェールは、私が守る」
その言葉に、大広間の空気が止まった。
「ア、アレン……?
それは……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ。
――彼女を側に置き、二度と傷つけさせないということだ」
カイルの顔が青ざめる。
「ま……待ってくれアレン!
私は……私はフェリシェールを……!」
「恋愛感情か? 責任感か?」
「そ、それは……!」
「どちらにせよ、今さら取り返しはつかない。
フェリシェールは、もう君の婚約者ではない。
――そして……
あの娘は、誰より大切にされるべき女性だ」
アレンの言葉に、周囲の女性たちが赤くなる。
(第二王子殿下が……あんな言い方を……!)
(フェリシェール様……どれほど大切にされているの……?)
しかし、当の本人――フェリシェールは今、公爵家で静かに紅茶を飲んでいた。
侍女エマが心配そうに尋ねる。
「お嬢様……お体は大丈夫ですか?」
「ええ、とても。
あれほど騒がしかったのが嘘のように、今日は静かですね」
「お嬢様……さすがですわ……」
フェリシェールは苦笑する。
(アレン殿下……あの方は、どうしてあそこまで私を庇ってくださるのでしょう)
わからない。
わからないけれど――
胸の奥に温かいものが広がっていく。
その時、扉がノックされた。
「フェリシェール嬢。アレン殿下がお越しです」
「え……?」
エマが小声で囁く。
「お嬢様……! 第二王子殿下がご訪問!?
あの冷徹殿下が、わざわざ……!?」
フェリシェールは立ち上がりながら、胸の鼓動が速くなるのを感じた。
(なぜ……こんなにも殿下が私を?)
扉がゆっくり開き、アレンが姿を現した。
銀髪に夕日の光が差し込んで、柔らかく輝いていた。
「フェリシェール」
「ど、殿下……?」
「話がある。
……君を、もっと守るための話だ」
(もっと……?)
フェリシェールが戸惑う中、アレンは静かに続けた。
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