『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

文字の大きさ
7 / 40

第7話 結界塔の夜明けと、動き始める影

しおりを挟む
第7話 結界塔の夜明けと、動き始める影

 王宮の北端にそびえる“結界塔”は、昼間でも薄暗い神秘的な雰囲気をまとう場所だった。
 塔全体が魔力の糸で覆われ、外部からの侵入は不可能だと言われるほど厳重だ。

 その塔の入口で、フェリシェールは深く息を吸った。

(これから、ここで過ごすのね……)

 馬車から降りた彼女の隣では、アレンが静かに周囲を警戒していた。

「フェリシェール。ここは王家の中でも“最も安全な場所”だ。
 気を張りつめる必要はない」

「はい……殿下のおかげです」

 フェリシェールが微笑むと、アレンの目が少しだけ柔らかくなる。

(こんな殿下を見るなんて……
 私、本当に特別扱いされている……?)

 胸がじんわり熱くなるのを感じた。


---

結界塔・上階──王妃の部屋へ

 塔の上階に向かう途中、出迎えたのは王妃エリゼだった。

「フェリシェール。来てくれて嬉しいわ」

「お義母……いえ、王妃様……」

「“エリゼ様”で良いのですよ。
 あなたはずっと、私の娘になるはずだったのだから」

「……っ」

 フェリシェールは胸が締めつけられるのを感じた。

 王妃はそっと彼女の髪を撫でる。

「辛い思いをしたでしょう。でも感じたでしょう?
 ――アレンは、あなたを守るためなら何でもするわ」

 フェリシェールは思わずアレンを見る。
 彼は少し咳払いして視線を逸らした。

「お母上、余計な誤解を与えないでください」

「あら、誤解ではなく事実でしょう?」

「…………」

 アレンは返せない。

(あ……殿下、図星なんだ……
 でも……私なんかが……)

 胸の奥がさらに熱を帯びる。

「フェリシェール」
 王妃は穏やかに言った。

「ここはただの“避難場所”ではありません。
 あなたの魔力が安全に成長できる場所でもあります」

「私の……魔力が?」

「精密魔力は、普通の訓練では開花しない。
 でも、結界塔は“魔力の流れ”を確かめるのに最適よ」

 アレンが補足した。

「魔力の糸は、この塔の中なら視認できるだろう。
 昨日見えた光の糸――覚えているか?」

「え、あ……はい……」

「ここでは、あれがもっとはっきり見えるようになる」

 そう言われても、まだ半信半疑だった。
 だが、自分の中で何かが変わり始めているのは確かだった。

(本当に……私の魔力は特別なの……?)


---

フェリシェールの部屋

 用意された部屋は、美しく整えられていた。

「すごい……塔の中とは思えないほど綺麗……」

「王妃のご厚意だ。
 君が安心して過ごせるようにとのことだ」

「エリゼ様……」

 アレンは部屋を確認し、一通りの安全をチェックする。

「異常なし。
 ……フェリシェール、少し時間はあるか?」

「はい。なんでしょう?」

「魔力を“見て”ほしい」

「え?」

 アレンは懐から宝石のついた小さなロッドを取り出した。

「これは“魔力視認具”だ。
 君の魔力がどう流れているのか、確認したい」

「わ、私の魔力なんて見ても……」

「――見たいから言っている」

 強い目で言われ、フェリシェールは思わず固まった。

(殿下……なぜそんなに真剣に……?)

「……わかりました。お願いします」

「リラックスして。
 魔力は精神が揺れるほど乱れる」

「そ、そんなこと言われても……」

 フェリシェールはぎこちなく深呼吸した。

 アレンが彼女の手にそっと触れる。

「……えっ」

「大丈夫。魔力の流れを誘導するだけだ」

 その手は温かく、指先が触れただけで心臓が跳ねる。

(は、離れられない……)

 アレンは静かに呟いた。

「――やはり、すごい」

「え?」

「見えるか?」

 フェリシェールは戸惑いながら視線を落とす。

 すると――
 自分の手の周りに、光の糸がふわりと浮かび上がっている。

「これ……私の魔力……?」

「そうだ。
 “風”でも“火”でも“水”でもない。
 ただ“糸のように精密に動く魔力”」

 美しい。
 そう思った瞬間、光の糸が花のように広がった。

「わぁ……!」

 アレンが小さく笑う。

「君の魔力は、感情に反応するようだ。
 ……可愛らしい反応だな」

「か、可愛らしいって……!」

「本当のことだ」

 フェリシェールの頬が真っ赤になる。


---

塔の外──黒幕の影

 一方その頃、結界塔の外。
 王宮の屋根を臨む廃塔の影で、一人の男が呟いていた。

「……結界塔に入ったか。
 さすが王弟殿下、動きが早い」

 魔術師団副団長――ディアス・ローレン。

 彼の目は血走り、狂気と執着に満ちていた。

「やはり……フェリシェールの魔力は“特別”だ。
 あれを手に入れれば、私は……」

 ディアスは自らの手を見つめる。

「“心を支配する禁術”……
 あと一歩なのだ……
 そのための触媒は、彼女しかいない」

 緩やかに笑うその顔には、人間らしい温度は微塵もなかった。

「結界塔……王妃……アレン……
 どれほど守りを固めようと、無駄だ……
 私は必ず――彼女を手に入れる」

 夜風が彼の外套を揺らす。

 その目には、すでに狂気しか残っていなかった。


---

結界塔──二人の距離

 魔力視認を終えたフェリシェールは、まだ動揺していた。

「殿下……私……どうして魔力がこんなに……?」

「心配する必要はない。
 君の力は、誰かを傷つけるためのものではない。
 君自身を守るためのものだ」

「守る……」

「そうだ。
 君は優しすぎる。
 だから世界が、君を守る力を与えたのだろう」

 その言葉に、フェリシェールの胸が熱くなった。

「フェリシェール」
 アレンがそっと手を離し、深く見つめてくる。

「君の魔力を狙う者は必ず動く。
 だが安心しろ。
 君の側には――
 私がいる」

(殿下……どうしてそんな……
 まるで……)

 フェリシェールの唇が震えた。

「まるで……好きな人を守るように……」

 その一言で、空気が止まった。

 アレンの瞳がかすかに揺れる。

「……それは、君が思う通りだ」

「え……?」

「私が……どんな気持ちで君を守っているのか……
 いつか、必ず話す」

 静かな声だった。

 だが、その言葉は――
 フェリシェールの心に深く刻まれた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

灯火

松石 愛弓
恋愛
子供のいない男爵家に、幼少時に引き取られたフィーリア。 数年後、義両親に実子が授かり、フィーリアは無用とばかりに男爵令嬢の立場から使用人扱いにされる。 意地悪な義母と義妹の浪費癖のため、無償労働のメイドとしてこき使われる辛い日々。 そんなある日、フィーリアに転機が訪れて・・ 珍しくシリアスな感じのお話を書いてしまいました いつもはこんな感じなのに・・ ^^; https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/122288809/episode/2034446 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/658488266/episode/4191823 新作です。毎週土曜日に更新予定です。興味を持っていただけましたら幸いです。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/910027059/episode/10733961

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

醜くなった私をあっさり捨てた王太子と彼と婚約するために一番美しくなろうとした双子の妹と頼りない両親に復讐します

珠宮さくら
恋愛
アデライン・マルティネスは、エイベル国でも、他の国でも美しい令嬢として有名になっていた。その噂には色々と尾ひれがついていたが、美しさを利用して、子息を誘惑しては婚約を台無しにするとある一定の人たちに思われていた。 でも、実際の彼女はそんな令嬢ではなかった。そのことを一番理解してくれていて、想いあっていると思っていた相手が、実は一番酷かったことを思い知ることになった。 それを知ることになったきっかけは、妹によって美しい顔を台無しにされたことから始まるとは思いもしなかった。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

処理中です...