『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

文字の大きさ
6 / 40

第6話 迫る影と、王弟殿下の誓い

しおりを挟む
第6話 迫る影と、王弟殿下の誓い

 翌朝――。

 フェリシェールの部屋には、重い空気が漂っていた。
 夜中に感じた“影”の気配が、まだ胸に残っている。

「フェリシェール。具合はどうだ?」

「お父様……」

 公爵オスカーが心配そうに部屋に入って来る。
 その背に、公爵夫人エレーヌも従っていた。

「昨晩、屋根に不審な影を感じたと……本当か?」

「はい。見間違いではありません。
 たしかに“誰か”がいました」

「……そうか」

 オスカーは腕を組み、何かを決意したように目を閉じる。

「フェリシェール。
 ――お前はもう、個人だけの問題ではない」

「え……?」

「お前の魔力は、国家レベルで守るべきものだ。
 昨夜の件で確信した。
 あれは恐らく……君の魔力を狙った者だ」

 エレーヌが娘の肩を抱きしめる。

「フェリシェール、怖かったでしょう?
 でも、これからは私たちも、殿下もついているわ」

「……はい」

 フェリシェールは小さく頷いたが、胸の奥はざわめいていた。

(アレン殿下に迷惑を……かけてしまっている……?)

 その言葉を飲み込んだ時――
 廊下から、侍従の声が聞こえた。

「ただいま戻りました! 第二王子アレン殿下がお見えです!」

「なっ……! 殿下が?」

 エレーヌが息を呑む。

 フェリシェールは慌てて椅子から立ち上がった。

(また……私のために……?)


---

 アレン殿下の来訪

 扉が開き、アレンが姿を現した。

 昨夜よりも険しい表情で――
 だがフェリシェールを見た瞬間、その表情がわずかに和らぐ。

「フェリシェール。昨夜の件は聞いた」

「殿下……申し訳ございません……」

「なぜ謝る?」

「私が……狙われているせいで、殿下にまでご迷惑を……」

 アレンは歩み寄り、静かに言った。

「君の身に起きたことに、君の責任は一つもない。
 “迷惑”などと思うのは間違いだ」

「でも……」

「フェリシェール」

 アレンは軽く眉をひそめた。

「――君を守るのは、私が望んでしていることだ」

「……っ」

 胸が熱くなる。
 この方はなぜ、こんなにも迷いなく私を守ろうと……?

 フェリシェールが言葉を失っていると、オスカーが口を開いた。

「殿下。本日お越しいただいた理由を伺っても?」

「ああ。緊急の知らせがある」

 アレンの声が、低く落ちる。

「昨夜、王宮で“魔術師団副団長ディアス”の姿が確認されていない。
 部下によれば、二日前から無断外出が続いているという」

 空気が凍った。

「まさか……」

「はい」
 アレンは厳しい表情で続けた。

「――君を狙った黒幕は、ほぼ間違いなくディアスだ」

 フェリシェールの手が震える。

「ディアス……副団長が……?」

「彼は精神魔法の使い手で、王宮でも一目置かれる存在だ。
 “精密魔力”を観測した記録を残した本人でもある」

(私の魔力を……昔から……?)

 エレーヌが震える声で問う。

「なぜ……フェリシェールなのかしら?」

「理由は二つ考えられる」
 アレンは指を二本立てた。

「一つは――
 フェリシェールの魔力を“研究材料”として欲していること」

 フェリシェールの背筋がぞくりとした。

「もう一つは?」

「もう一つは……」
 アレンはフェリシェールを一度見つめ、言葉を選んだ。

「――精密魔力を利用すれば、禁術の発動が可能になるからだ」

「禁術……!」

「精密魔力は“心”に干渉する魔術に相性がいい。
 誰かを操る、人の心を砕く、記憶を書き換える……
 そういう類のものだ」

 エレーヌが青ざめた。

「そんな恐ろしいものを、フェリシェールに……?」

「だからこそ、彼女を狙っている」
 アレンはきっぱりと言った。

「フェリシェールの魔力は、王家でも扱えないほど繊細だ。
 それを使えば……禁術の成功率が跳ね上がる」

 フェリシェールの胸が締め付けられた。

(私が……そんな目的に……)

 するとアレンは、彼女の前に片膝をついた。

「フェリシェール。
 私は、君を“研究材料”になど絶対させない」

「殿下……」

「もしディアスが本当に動いたのなら、王都は危険だ。
 だが、君のそばにいる限り――
 絶対に手は出させない」

 紅の瞳が強く輝く。

「私の――
 この命に代えても」

「っ……!」

 フェリシェールの心は一気に揺れた。

 アレンは立ち上がり、オスカーに向き直る。

「公爵。フェリシェールを、王宮の“結界塔”へ預けたい。
 あそこなら外部の者は侵入できない」

「……しかし、殿下。
 それではフェリシェールが“監禁”されたように見えるのでは?」

「違う。
 “王家直属の守護下”に置くという意味だ。
 王妃様にも協力を仰ぐ」

 オスカーは迷い、エレーヌは不安げに娘を見た。

 そのとき――
 フェリシェール自身が静かに口を開く。

「……殿下の案に、賛成いたします」

「フェリシェール……!」

「怖いです。でも……
 私のせいで、公爵家や殿下に被害が及ぶほうがもっと嫌です」

 強い決意が宿る瞳だった。

 アレンはその瞳を見つめ、ゆっくり頷いた。

「君は……本当に強い人だな、フェリシェール」

(殿下に……そう言われると……胸が痛くなるわ……)


---

王宮──王太子カイルの動揺

 一方その頃。

 王宮の王太子執務室では、カイルが机に倒れ込んでいた。

「ディアスが……いない?
 そんな馬鹿な……」

 側近のジェラルドが苦い顔で報告する。

「殿下。もう一つ問題が。
 フェリシェール様を狙った可能性が高く……
 アレン殿下は、彼女を“結界塔”へ保護するとのことです」

「フェリシェールが……結界塔へ……?」

 カイルの顔が蒼白になる。

(なぜ……なぜ私は……あのとき……
 彼女を守れなかった……?)

 後悔が胸を締めつける。

「殿下……どうされますか?」

「…………会いたい」

「え?」

「フェリシェールに……会いたい。
 謝らなければ……」

 しかしジェラルドは首を振った。

「今は……殿下が動くほど、余計にこじれる可能性が」

「わかっている……しかし……!」

(フェリシェール……
 どうか……無事で……)

 カイルは苦しげに拳を握りしめた。


---

公爵家──決断

 フェリシェールは荷物を整え、馬車に乗り込む準備をしていた。

 そこへアレンがそっと声をかける。

「……怖くはないか?」

「少しだけ。でも……殿下がいるので」

「……そうか」

 アレンは小さく微笑み、フェリシェールの手にそっと触れた。

「君を守る。
 必ずだ」

 その言葉が、フェリシェールの胸に深く刻まれた。

(殿下……どうしてこんなにも……
 私を……)

 馬車の扉が閉まる。

 フェリシェールは、王宮の「結界塔」へ向けて出発する。

 そこには――
 彼女の運命を大きく揺るがす出来事が待っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢・レイナは、王子とその「自称ヒロイン」の公開断罪を、冷静に受け入れた――いや、むしろ内心大喜びだった。 自由を手に入れたレイナが次に出会ったのは、変人と名高い天才侯爵様。なぜか彼から猛烈な溺愛求婚が始まって……!?  「君がいい。契約結婚でも構わないから、今すぐ結婚してくれ」 「……私、今しがた婚約破棄されたばかりなのですが」 婚約破棄から始まる、予測不能な溺愛ラブコメディ。 策士な令嬢と、ちょっとズレた変人侯爵様の恋の行方は――?

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処理中です...