『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

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第16話 暴走する核、重なる光

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第16話 暴走する核、重なる光

 塔の中心部――結界核の間。

 そこはすでに、魔力の嵐の真っただ中だった。

 黒い影の残滓と、黄金の魔力の暴走が入り混じり、
 まるで生き物のように空間そのものが脈動している。

 床には金色のひび割れが走り、
 壁の魔法陣は明滅を繰り返していた。

 その中央に、巨大な結界核が鎮座していた。

 まるで半透明に輝く巨大な宝珠。
 しかし今は、内部で黒と金の奔流が激突している。

 アレンはフェリシェールの手を引きながら進んだ。

「フェリシェール。
 まずは核の暴走を押さえるために、魔力を安定させる必要がある」

「……はい」

 フェリシェールは深呼吸する。
 胸の奥の黄金が、暴れ出しそうになるのを必死に抑え込んだ。

(落ち着いて……落ち着いて……私は大丈夫……)

 しかし、核は待ってくれない。

 ドン、と大きな鼓動とともに、塔が揺れた。

 黄金と黒の光が火花のように散り、空気を焼きつける。

「時間がない。
 フェリシェール、一緒に行くぞ」

 アレンは彼女の手を握ったまま、核へ手を伸ばした。

 フェリシェールも震える手をそっと重ねる。

 二人の手の先で――魔力が混ざる。

 銀と金。

 それは、塔の暴走とは違う、穏やかで温かい光となり、
 ゆっくりと核へ流れ込んでいく。

 核の脈動が少しだけ弱まった。

「……殿下……すごい……
 落ち着いていきます……」

「君の魔力が……とても素直に反応している。
 フェリシェール、自信を持て」

(……自信……)

 フェリシェールは胸が熱くなるのを感じた。

 だが――その時。

 核の奥から、不気味な“声”が響いた。

「……まだ……終わってない……」

 フェリシェールの肩がびくりと震える。

「……ディアス……?」

 アレンが瞬時にフェリシェールを庇う。

 核の内部でうごめく黒い靄が、人の形を取るように揺らめいた。

「影は……残る……
 フェリシェール……君は……僕の……」

「黙れ」

 アレンが怒気を帯びた声で言い放つ。

「貴様の執着はもう消えたはずだ」

「消えていない……
 僕は……まだ……」

 核が激しく脈動し、塔が大きく傾いた。

 フェリシェールが倒れそうになるところを、
 アレンが抱き寄せて支えた。

「きゃ……っ!」

「大丈夫か」

「は、はい……!
 でも……ディアスの影が……」

「奴の影は核に食い込み、暴走を加速させている。
 だが、核心まで入り込んだ影は……奴自身でも制御できない」

「ということは……」

「フェリシェールの魔力なら……浄化できる」

 アレンは彼女の両肩をそっと掴み、真っ直ぐに見つめる。

「怖いか?」

 フェリシェールは少しだけ躊躇った。

 怖い。
 自分の魔力が暴れ出すのも、暴走させてしまうのも怖い。
 そして――アレンの前で崩れてしまうのも怖い。

 でも。

「……はい。でも……
 殿下がそばにいてくださるなら……怖さよりも、心が強くなります」

 アレンの瞳が柔らかく揺れた。

「そうか。
 なら、何も恐れなくていい。
 私はずっと……ここにいる」

 その言葉が、胸に深く刺さった。

 手が震えた。
 けれど恐怖ではない。
 決意の震えだった。

「殿下……一緒に……お願いできますか?」

「もちろんだ」

 二人は再び核へ手を伸ばす。

 フェリシェールの黄金魔力が、静かに解き放たれた。

 先ほどの暴走とは違う。
 意思のある、柔らかな光。

 その光が核へ触れた瞬間――

 黒い影が悲鳴を上げた。

「ああああああああああ!!」

 核の内部で渦巻く影が、一斉に金の光へ焼かれ始める。

 ディアスの声が、塔全体へ響いた。

「やめろ!!
 フェリシェール!!
 僕を……また……拒絶するのか!!」

 フェリシェールは震える声で言った。

「あなたを拒絶したのではありません。
 あなたが選んだ道が……私を拒んだだけです」

「違う……違う違う違う!!
 僕は……フェリシェールが……!」

 影が狂気のように暴れた。

 塔が大きく揺れ、天井から石片が落ちる。

 アレンがフェリシェールを抱き寄せ、影の烈風から守る。

「フェリシェール、無理をするな!」

「大丈夫……です……
 殿下の光が……私を守ってくれています」

 黄金の魔力が、さらに強く輝いた。

 それは暴走ではない。
 覚醒の直前の光。

 核の内部の影が、次々と浄化されていく。

「や……め……っ……」

 ディアスの影が小さく、薄く、弱くなっていく。

「フェリ……シェール……
 僕は……ただ……君を……」

「私も……あなたが変わらなければ……
 救いたかったです」

 フェリシェールの声は優しく、静かだった。

 影が崩れる。

 最後にディアスの影が、まるで欠片のように砕け散り――

 塔の空気が、一気に静まった。

 黒い靄は完全に消え失せ、
 核の内部は黄金の光だけが柔らかく残った。

 フェリシェールはその場に崩れ落ちそうになったが、
 アレンがすぐに抱き止めた。

「フェリシェール!」

「すみません……殿下……
 でも……ディアスは……」

「もう終わった。
 君の光が……あの影をすべて浄化した」

 フェリシェールは胸に手を当て、深く息を吐く。

 だがその時――

 核が静かに、しかし確かに“新たな脈動”を響かせた。

 黒ではない。

 暴走の音でもない。

 黄金の、規則正しい鼓動。

「殿下……結界核が……私の魔力と……?」

「……共鳴している?」

 二人は驚愕の中で顔を見合わせた。

 崩壊寸前だった結界塔が、
 フェリシェールの光を受けて、逆に“再生”を始めようとしていた。

 これは――覚醒の前兆。

 フェリシェールの力は、まだその片鱗しか見せていない。

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