17 / 40
第17話 目覚める光、継がれる鼓動
しおりを挟む
第17話 目覚める光、継がれる鼓動
結界核が脈動している。
暴走の混乱した鼓動ではない。
黄金の光とともに、規則正しく、穏やかに――まるで心臓の鼓動のように。
フェリシェールはその光を見つめながら、胸の奥に不思議な感覚を覚えていた。
(泉のよう……
深くて、透き通っていて……
私の魔力と、同じ音で響いている……)
手を結界核に向けた瞬間、
黄金の光が指先に吸い寄せられるように集まった。
アレンは彼女の変化に気づき、そっと寄り添った。
「フェリシェール……大丈夫か?」
「……はい。
不安より……安心の方が強いんです。
この塔が落ち着こうとしているのが……わかります」
塔の危機的状況の中で、
彼女の声は驚くほど静かで、澄んでいた。
結界核がもう一度、深く脈打つ。
まるで――
フェリシェールに応えるように。
「殿下……聞こえますか?」
「……何が?」
「塔の声です。
結界核が、私の魔力に……“助けを求めている”」
アレンは一瞬だけ息を呑む。
彼女の瞳は、完全に黄金へ染まり、
その光は先ほどまでの暴走ではなく、
静かな威厳を帯びていた。
その表情はまるで――
昔話に出てくる賢女か聖女のように神秘的だった。
「フェリシェール……」
「殿下、手を貸してください。
私一人では……まだ不安です」
「もちろんだ」
二人は並んで結界核へ手を伸ばす。
指先が核へ触れた瞬間、
黄金と銀の光が渦のように絡まり、塔の内部に広がった。
塔全体から響くような“呼吸”の音。
まるで塔が命を取り戻すように、結界陣が次々と再点灯していく。
ひび割れの入った魔法陣が修復され、
砕けかけた壁面が金色に輝きながら再生する。
「……すごい……」
フェリシェールは思わず呟いた。
「塔が……応えている……?」
「君の魔力が、塔を治しているんだ」
アレンの声は驚きと敬意に満ちていた。
「こんな現象、見たことがない。
結界核は王家の魔力にしか反応しないはずなのに……
君の魔力が……まるで“核の主”のように振る舞っている」
「核の……主……?」
フェリシェールが呟いた瞬間――
結界核が強く光を放ち、黄金光がフェリシェールの全身に流れ込んだ。
彼女の髪がふわりと踊り、
淡い金色の光が糸のように肩から流れ落ちる。
塔の中の空気が完全に変わった。
アレンは息を飲んだ。
「フェリシェール……その光……!」
「殿下……私……
何かが胸の奥で……ほどけていくような……」
フェリシェールの魔力が、
暴走でも、恐怖でもなく――
“自然に、正しく流れ始めている”。
(あ……これが……本当の私の魔力……)
黄金の光は、塔の隅々まで広がっていった。
結界核の破損部はすべて修復され、
塔の構造すら再構築され始めている。
まるで――
塔自身がフェリシェールに跪き、
主として受け入れようとしているかのように。
アレンはしばし言葉を失い、彼女を見つめた。
「……美しい」
「へ……殿下……!」
フェリシェールは顔を赤くする。
「ち、違います……そんな……私なんて……!」
「いいや、事実だ」
アレンの声は驚くほどまっすぐだった。
「君が力を振るう姿は……誰よりも美しい。
優しくて、強くて……
光そのものだ」
「そ、そんな……!」
顔を覆いたくなるほどの恥ずかしさ。
けれど同時に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
アレンは彼女の手を包み込むように握りしめた。
「フェリシェール。
覚えておけ。
君は恐れるべき存在じゃない。
……誇るべき存在だ」
フェリシェールの瞳に涙がにじむ。
「殿下……そんなふうに……言われたのは……初めてです……」
「なら、これから何度でも言う。
君が自分を信じられるまで……何度でも」
フェリシェールの胸に、ふわりと光が灯った。
それは彼女の魔力の灯りであり、
そして――
アレンの言葉がつけた“心の灯り”だった。
結界核がもう一度脈動する。
今度は、黄金の光のみが中心で輝いていた。
(この光は……私)
気づいた瞬間、
フェリシェールの身体を包む黄金光が一段と強くなった。
髪も瞳も、すべての魔力が黄金に染まる。
塔が生き物のように細い震えを起こす。
だが、それは崩壊ではない。
祝福のような波動。
「フェリシェール……
君は“覚醒”しつつある」
「覚醒……?」
アレンはゆっくりとうなずいた。
「君の魔力――精密魔力が、今ようやく本来の姿を現し始めている。
塔が応えたのは、君の魔力が“主”としてふさわしいからだ」
「私が……主……?」
「そうだ。
ただし……まだ完全ではない。
覚醒は、あと一歩のところまで来ている」
フェリシェールは結界核へ手を当てながら、小さく息を吐いた。
身体は軽いわけではない。
むしろ疲労は限界に近い。
それでも――
(私……まだ、できる……)
結界核が再び強く脈を打った。
塔の奥から、微かな黒の気配がまだ残っているのが感じられた。
アレンは剣を構え直し、彼女の前に立った。
「フェリシェール。
覚醒の瞬間は……私が必ず守る。
だから恐れるな」
フェリシェールは静かにうなずいた。
「殿下……私、もう逃げません。
この力を……最後まで使います」
二人の視線が重なり、
黄金と銀の魔力がひとつの光となって塔に満ちた。
覚醒は目前。
そして――
最後の影が動き始める音が、塔の奥からかすかに響いた。
結界核が脈動している。
暴走の混乱した鼓動ではない。
黄金の光とともに、規則正しく、穏やかに――まるで心臓の鼓動のように。
フェリシェールはその光を見つめながら、胸の奥に不思議な感覚を覚えていた。
(泉のよう……
深くて、透き通っていて……
私の魔力と、同じ音で響いている……)
手を結界核に向けた瞬間、
黄金の光が指先に吸い寄せられるように集まった。
アレンは彼女の変化に気づき、そっと寄り添った。
「フェリシェール……大丈夫か?」
「……はい。
不安より……安心の方が強いんです。
この塔が落ち着こうとしているのが……わかります」
塔の危機的状況の中で、
彼女の声は驚くほど静かで、澄んでいた。
結界核がもう一度、深く脈打つ。
まるで――
フェリシェールに応えるように。
「殿下……聞こえますか?」
「……何が?」
「塔の声です。
結界核が、私の魔力に……“助けを求めている”」
アレンは一瞬だけ息を呑む。
彼女の瞳は、完全に黄金へ染まり、
その光は先ほどまでの暴走ではなく、
静かな威厳を帯びていた。
その表情はまるで――
昔話に出てくる賢女か聖女のように神秘的だった。
「フェリシェール……」
「殿下、手を貸してください。
私一人では……まだ不安です」
「もちろんだ」
二人は並んで結界核へ手を伸ばす。
指先が核へ触れた瞬間、
黄金と銀の光が渦のように絡まり、塔の内部に広がった。
塔全体から響くような“呼吸”の音。
まるで塔が命を取り戻すように、結界陣が次々と再点灯していく。
ひび割れの入った魔法陣が修復され、
砕けかけた壁面が金色に輝きながら再生する。
「……すごい……」
フェリシェールは思わず呟いた。
「塔が……応えている……?」
「君の魔力が、塔を治しているんだ」
アレンの声は驚きと敬意に満ちていた。
「こんな現象、見たことがない。
結界核は王家の魔力にしか反応しないはずなのに……
君の魔力が……まるで“核の主”のように振る舞っている」
「核の……主……?」
フェリシェールが呟いた瞬間――
結界核が強く光を放ち、黄金光がフェリシェールの全身に流れ込んだ。
彼女の髪がふわりと踊り、
淡い金色の光が糸のように肩から流れ落ちる。
塔の中の空気が完全に変わった。
アレンは息を飲んだ。
「フェリシェール……その光……!」
「殿下……私……
何かが胸の奥で……ほどけていくような……」
フェリシェールの魔力が、
暴走でも、恐怖でもなく――
“自然に、正しく流れ始めている”。
(あ……これが……本当の私の魔力……)
黄金の光は、塔の隅々まで広がっていった。
結界核の破損部はすべて修復され、
塔の構造すら再構築され始めている。
まるで――
塔自身がフェリシェールに跪き、
主として受け入れようとしているかのように。
アレンはしばし言葉を失い、彼女を見つめた。
「……美しい」
「へ……殿下……!」
フェリシェールは顔を赤くする。
「ち、違います……そんな……私なんて……!」
「いいや、事実だ」
アレンの声は驚くほどまっすぐだった。
「君が力を振るう姿は……誰よりも美しい。
優しくて、強くて……
光そのものだ」
「そ、そんな……!」
顔を覆いたくなるほどの恥ずかしさ。
けれど同時に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
アレンは彼女の手を包み込むように握りしめた。
「フェリシェール。
覚えておけ。
君は恐れるべき存在じゃない。
……誇るべき存在だ」
フェリシェールの瞳に涙がにじむ。
「殿下……そんなふうに……言われたのは……初めてです……」
「なら、これから何度でも言う。
君が自分を信じられるまで……何度でも」
フェリシェールの胸に、ふわりと光が灯った。
それは彼女の魔力の灯りであり、
そして――
アレンの言葉がつけた“心の灯り”だった。
結界核がもう一度脈動する。
今度は、黄金の光のみが中心で輝いていた。
(この光は……私)
気づいた瞬間、
フェリシェールの身体を包む黄金光が一段と強くなった。
髪も瞳も、すべての魔力が黄金に染まる。
塔が生き物のように細い震えを起こす。
だが、それは崩壊ではない。
祝福のような波動。
「フェリシェール……
君は“覚醒”しつつある」
「覚醒……?」
アレンはゆっくりとうなずいた。
「君の魔力――精密魔力が、今ようやく本来の姿を現し始めている。
塔が応えたのは、君の魔力が“主”としてふさわしいからだ」
「私が……主……?」
「そうだ。
ただし……まだ完全ではない。
覚醒は、あと一歩のところまで来ている」
フェリシェールは結界核へ手を当てながら、小さく息を吐いた。
身体は軽いわけではない。
むしろ疲労は限界に近い。
それでも――
(私……まだ、できる……)
結界核が再び強く脈を打った。
塔の奥から、微かな黒の気配がまだ残っているのが感じられた。
アレンは剣を構え直し、彼女の前に立った。
「フェリシェール。
覚醒の瞬間は……私が必ず守る。
だから恐れるな」
フェリシェールは静かにうなずいた。
「殿下……私、もう逃げません。
この力を……最後まで使います」
二人の視線が重なり、
黄金と銀の魔力がひとつの光となって塔に満ちた。
覚醒は目前。
そして――
最後の影が動き始める音が、塔の奥からかすかに響いた。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
灯火
松石 愛弓
恋愛
子供のいない男爵家に、幼少時に引き取られたフィーリア。
数年後、義両親に実子が授かり、フィーリアは無用とばかりに男爵令嬢の立場から使用人扱いにされる。
意地悪な義母と義妹の浪費癖のため、無償労働のメイドとしてこき使われる辛い日々。
そんなある日、フィーリアに転機が訪れて・・
珍しくシリアスな感じのお話を書いてしまいました
いつもはこんな感じなのに・・ ^^;
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/122288809/episode/2034446
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/658488266/episode/4191823
新作です。毎週土曜日に更新予定です。興味を持っていただけましたら幸いです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/910027059/episode/10733961
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜
黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。
しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった!
不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。
そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。
「お前は、俺の宝だ」
寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。
一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……?
植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
醜くなった私をあっさり捨てた王太子と彼と婚約するために一番美しくなろうとした双子の妹と頼りない両親に復讐します
珠宮さくら
恋愛
アデライン・マルティネスは、エイベル国でも、他の国でも美しい令嬢として有名になっていた。その噂には色々と尾ひれがついていたが、美しさを利用して、子息を誘惑しては婚約を台無しにするとある一定の人たちに思われていた。
でも、実際の彼女はそんな令嬢ではなかった。そのことを一番理解してくれていて、想いあっていると思っていた相手が、実は一番酷かったことを思い知ることになった。
それを知ることになったきっかけは、妹によって美しい顔を台無しにされたことから始まるとは思いもしなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる