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第18話 アレンの密かな苛立ち
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第18話 アレンの密かな苛立ち
フェリシェールとのお茶会から二日後──。
アレンは王宮の執務室にこもり、机に広げた大量の報告書を前に、落ち着かない気分を隠せずにいた。普段はどれほどの激務でも眉一つ動かさない彼が、今日はページをめくる手が荒く、側近たちが距離を置き始めるほどだ。
理由はただひとつ。
フェリシェールが、カイルとの“正式な婚約解消の場”に呼び出されているからだった。
「……場所は謁見の間、か。」
彼が小さく呟くと、側近のレオが慎重に応じた。
「殿下。よろしければ立ち会われますか? 王弟殿下としてご出席されても──」
「いや、今日は行かない。」
抑えた声の奥に、熱く荒れた感情が渦巻いていた。
行けば、きっと彼を抑えられない。
あの場にカイルがいる。
フェリシェールを泣かせた男。
他の令嬢に騙され、必死に努力してきた彼女を切り捨てた愚か者だ。
本音を言えば、そんな男の顔など見たくもない。
だからアレンは敢えて不在を選んだ。
フェリシェールのためにも、冷静でいるべきだとわかっていたから。
しかし──。
「……本当に、あいつは。」
彼は窓の外に視線を投げる。
謁見の間のある中央塔が、遠くに見えた。
(フェリシェールは、あいつの言葉に傷ついた。
それを謝罪されていようと、過去は消えない。
“心から許せるわけがない”。)
胸の奥で沸き立つ感情は、依然として静まらない。
レオが声を潜めて言った。
「殿下。……フェリシェール様のこと、そんなにご心配で?」
アレンは返事をしなかった。
だが──図星だった。
気がつけば、彼女のことばかり考えている。
何をしているのか、何を思っているのか。
今日の謝罪を受けて、笑っているのか、悲しんでいるのか。
気がつけば、すべてが気になってしまう。
(……もう二度と彼女が涙を流すようなことは、させたくない。)
彼は拳をゆっくりと握り締めた。
そこへ、扉が叩かれた。
「アレン殿下、お伝えがあります!」
侍従の声。
アレンは顔を上げた。
「フェリシェール様から伝言です!」
アレンの心臓が跳ねた。
「……入れ。」
侍従が息を切らして入室する。
「殿下……謁見の間での婚約解消が、無事に終了したとのことです!」
「そうか。」
短い言葉。
しかし胸の奥に、重くつかえていたものがようやく落ちていく。
侍従はさらに続けた。
「そして、フェリシェール様は……“ありがとう、とお伝えください。殿下がいなければ、私は今日あの場所に立つ勇気を持てませんでした”と。」
アレンは息を呑んだ。
侍従が退室し、レオもそっと席を外す。
ひとりになったアレンは、深く息を吐き、手で目元を覆う。
「……フェリシェール。俺が……」
彼女に“ありがとう”と言われたことが、胸を締めつけるほど嬉しかった。
そして同時に──
彼女を助けられる存在でありたいと強く願った。
(いずれ、必ず……)
心にだけ、言葉が落ちる。
(君を、俺の隣に。)
彼はそっと目を閉じた。
胸に宿る感情が、もうただの“王弟としての心配”ではなくなっているのを、自分でも理解していた。
フェリシェールとのお茶会から二日後──。
アレンは王宮の執務室にこもり、机に広げた大量の報告書を前に、落ち着かない気分を隠せずにいた。普段はどれほどの激務でも眉一つ動かさない彼が、今日はページをめくる手が荒く、側近たちが距離を置き始めるほどだ。
理由はただひとつ。
フェリシェールが、カイルとの“正式な婚約解消の場”に呼び出されているからだった。
「……場所は謁見の間、か。」
彼が小さく呟くと、側近のレオが慎重に応じた。
「殿下。よろしければ立ち会われますか? 王弟殿下としてご出席されても──」
「いや、今日は行かない。」
抑えた声の奥に、熱く荒れた感情が渦巻いていた。
行けば、きっと彼を抑えられない。
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本音を言えば、そんな男の顔など見たくもない。
だからアレンは敢えて不在を選んだ。
フェリシェールのためにも、冷静でいるべきだとわかっていたから。
しかし──。
「……本当に、あいつは。」
彼は窓の外に視線を投げる。
謁見の間のある中央塔が、遠くに見えた。
(フェリシェールは、あいつの言葉に傷ついた。
それを謝罪されていようと、過去は消えない。
“心から許せるわけがない”。)
胸の奥で沸き立つ感情は、依然として静まらない。
レオが声を潜めて言った。
「殿下。……フェリシェール様のこと、そんなにご心配で?」
アレンは返事をしなかった。
だが──図星だった。
気がつけば、彼女のことばかり考えている。
何をしているのか、何を思っているのか。
今日の謝罪を受けて、笑っているのか、悲しんでいるのか。
気がつけば、すべてが気になってしまう。
(……もう二度と彼女が涙を流すようなことは、させたくない。)
彼は拳をゆっくりと握り締めた。
そこへ、扉が叩かれた。
「アレン殿下、お伝えがあります!」
侍従の声。
アレンは顔を上げた。
「フェリシェール様から伝言です!」
アレンの心臓が跳ねた。
「……入れ。」
侍従が息を切らして入室する。
「殿下……謁見の間での婚約解消が、無事に終了したとのことです!」
「そうか。」
短い言葉。
しかし胸の奥に、重くつかえていたものがようやく落ちていく。
侍従はさらに続けた。
「そして、フェリシェール様は……“ありがとう、とお伝えください。殿下がいなければ、私は今日あの場所に立つ勇気を持てませんでした”と。」
アレンは息を呑んだ。
侍従が退室し、レオもそっと席を外す。
ひとりになったアレンは、深く息を吐き、手で目元を覆う。
「……フェリシェール。俺が……」
彼女に“ありがとう”と言われたことが、胸を締めつけるほど嬉しかった。
そして同時に──
彼女を助けられる存在でありたいと強く願った。
(いずれ、必ず……)
心にだけ、言葉が落ちる。
(君を、俺の隣に。)
彼はそっと目を閉じた。
胸に宿る感情が、もうただの“王弟としての心配”ではなくなっているのを、自分でも理解していた。
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