『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

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第19話 フェリシェール、静かなる決意

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第19話 フェリシェール、静かなる決意

婚約解消の場を後にし、フェリシェールは王宮の中庭をゆっくりと歩いていた。

冬の始まりを告げる風が吹き、庭園の白薔薇がかすかに揺れている。
あれほど恐れていた謁見の間。
あれほど傷ついた相手との対話。

それが終わったという事実を、まだ身体が完全に受け止めきれていなかった。

深く息を吸い込む。

胸の奥につかえていた重しが、ゆっくりと溶けていくようだった。

「……終わったのですね。」

声に出すと、白い息と共に静かに消えていく。

だが、涙は出なかった。
悲しみではなく、安堵が勝ったからだ。

(カイル殿下の謝罪は……形だけのものだったとしても。
もう私は、あの場所には戻らない。)

フェリシェールは自分の手を見つめた。

震えていない。
強く、しっかりと地を踏みしめている。

(私は、私の道を歩く。)

そこへ、ふと影が差す。

アレンだった。

彼は歩み寄ると、無言でフェリシェールを見つめた。
彼女も静かに頭を下げる。

「アレン殿下。」

「……終わったのか。」

「はい。」

わずかな間が落ちる。

アレンは、彼女の表情を一瞬で読み取った。
泣き腫らしたような気配もなく、怯えた顔でもない。

むしろ、どこか晴れやかな色さえ浮かべている。

その姿に、胸の奥がきゅっと強く締めつけられた。

(……よく頑張ったな。)

声に出すのは容易だった。
だが、言葉にしてしまえば、感情が溢れ出してしまいそうで。

アレンは代わりに、静かに問う。

「……辛くなかったのか?」

フェリシェールは少しだけ目を伏せた。

「辛くなかったと言えば嘘になります。でも……殿下が支えてくださったおかげで、私は恐れずにあの場に立てました。」

アレンの瞳が揺れた。

フェリシェールは続ける。

「もし……殿下があの日、私の話を聞いてくださらなければ。私はきっと、今も怯えたままでした。」

彼女の声は穏やかで、澄みきっていた。

「本当に……ありがとうございました。」

深く頭を下げる。

アレンは言葉を飲み込むように眉を寄せ、少しだけ視線を逸らした。

「……礼を言われるほどのことはしていない。」

「いいえ。殿下がいなければ、私はここまで来られませんでした。」

アレンは一瞬、何かを言いかけたように口を開く。しかし、思い直したように閉じる。

フェリシェールはそんな彼を見て、静かに微笑んだ。

彼女の微笑みは、やわらかく、どこか新しい決意に満ちていた。

「私は……これから、自分の人生を歩みます。誰かのためではなく、私自身のために。」

アレンはゆっくりとうなずいた。

「……それでいい。」

フェリシェールは深呼吸し、空を仰ぐ。

夕焼けが王宮の塔を金色に照らし、その光が彼女の横顔を温かく包んだ。

「殿下。もしよろしければ──」

その瞬間、アレンの胸が跳ねる。

フェリシェールは穏やかに続けた。

「これからも……少しだけ、お力をお借りしてもよろしいでしょうか。」

アレンは答えを返すまでに、どれほど強く胸を打たれたか自覚していた。

しかし声は驚くほど静かだった。

「……もちろんだ。いくらでも頼れ。」

フェリシェールは、ほっとしたように笑う。

その笑顔に、アレンの心の奥で何かが決定的に動いた。

(もう、引き返せない。)

彼は密かにそう悟る。

フェリシェールの隣に立つ未来を、もう考えずにはいられなかった。

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