24 / 40
第24話 忍び寄る黒衣の気配
しおりを挟む
第24話 忍び寄る黒衣の気配
フェリシェールは、アレンが帰ったあともしばらく机の前から動けなかった。
「黒衣の影……」
そう呟いた声は、自分でも驚くほど震えていた。
王都で噂される謎の魔術師。
姿を現さず、標的の周囲を徘徊し、その人物の秘密を探り、弱みを握る──。
そんな人物が、もし本当に自分を狙っているのだとしたら。
(なぜ……わたくしなの?
わたくしには、狙われるような価値など……)
だが、そこで思考が途切れた。
「……いいえ。」
胸に浮かぶ不安を、強く押し返すように。
(殿下が……アレン殿下が守ってくださる。
わたくしは、ただ怯えているだけではいけない。)
それでも、紙片に書かれた“見ている”の文字が脳裏にこびり付き、胸を締めつける。
フェリシェールは深く息を吸い、なんとか落ち着かせようとした。
その夜。
屋敷は静まり返り、侍女たちの寝息だけが廊下の向こうに微かに聞こえる。
フェリシェールは自室のベッドにいるが、眠気はまったく訪れなかった。
(こんな夜に、影が……)
考えたくもない想像が胸をざわつかせる。
灯りを弱くした部屋の中で、彼女は膝を抱えて小さく息をついた。
そのとき──。
カタリ。
窓の外で、何かが動く音がした。
フェリシェールは反射的に顔を上げた。
だが、窓の外は暗く、庭の灯りも届いていない。
風かもしれない──そう言い聞かせようとした。
しかし、今夜の空気は静まり返っている。
風ひとつ吹いていない。
彼女の手が震える。
(だめ……落ち着かないと。
でも……今の音は……)
じっと耳を澄ませる。
静寂。
その静けさが余計に怖い。
しばらく待ったあと、ようやくフェリシェールは決意し、ベッドを出た。
控えの間に置かれたベルを手に取り、ぎゅっと握る。
(何かあれば、このベルを鳴らせば……アレン殿下が手配してくださった護衛が駆けつけてくれる。)
だが、同時に考えてしまう。
(本当に……あの“黒衣の影”が……)
そのとき。
コン。
窓が、ノックされたように鳴った。
「っ……!」
フェリシェールの全身が凍りついた。
コン……コン。
まるで誰かが、そこにいるように。
逃げ出したい。
叫びたい。
しかし、足が動かない。
やがて──ノックが止んだ。
息が詰まる。
心臓の鼓動だけが耳の奥で響くようだった。
(いない……?)
恐る恐る、フェリシェールはカーテンに近づいた。
その瞬間──。
白い紙片が窓の隙間から滑り落ちた。
フェリシェールは蒼白になりながら拾い上げる。
そこには、先ほどと同じ筆跡で短く書かれていた。
「近くにいる。」
フェリシェールは、ベルを握りしめたまま後ずさる。
胸が強く、苦しいほど脈打つ。
(怖い……怖い……!
殿下……アレン殿下……)
その名前を心で呼んだ瞬間、廊下に足音が走り込んできた。
「フェリシェール様!」
護衛の声だ。
フェリシェールは震える声で返した。
「……ここです……!」
扉が開き、護衛が二人、剣を構えて部屋に入ってきた。
「何がありましたか!」
フェリシェールは震える指先で紙片を示す。
護衛はそれを見ると、表情を険しくした。
「すぐに王弟殿下へ連絡を!
これは──完全に敵意ある者の仕業です!」
護衛が駆け去る。
フェリシェールは壁にもたれ、力が抜けたように床に座り込む。
(殿下……来てくださるでしょうか……)
その不安と安堵が混ざる中、扉が勢いよく開かれた。
「フェリシェール!」
アレンだった。
鎧をつける暇もなく、急いで駆けつけたのだろう。
息を切らし、しかし鋭い目で部屋中を確認する。
そして彼女の元へ駆け寄ると、強く抱きしめた。
「無事か……? どこも怪我は……?」
フェリシェールは震える声で答えた。
「だ、大丈夫……です……殿下……」
アレンは彼女を抱きしめたまま、静かに言った。
「俺が来た。怖くない。もう大丈夫だ。」
その声は決意と怒りに満ち、しかし誰よりも優しかった。
フェリシェールはその胸に顔をうずめ、震えを止めることができなかった。
アレンは彼女を抱きしめたまま、窓に落ちた紙片を睨んだ。
目に宿るのは、強烈な殺気。
「……必ず捕まえる。
黒衣の影──容赦しない。」
彼の腕の中で、フェリシェールは初めて心から安堵し、そっと目を閉じた。
フェリシェールは、アレンが帰ったあともしばらく机の前から動けなかった。
「黒衣の影……」
そう呟いた声は、自分でも驚くほど震えていた。
王都で噂される謎の魔術師。
姿を現さず、標的の周囲を徘徊し、その人物の秘密を探り、弱みを握る──。
そんな人物が、もし本当に自分を狙っているのだとしたら。
(なぜ……わたくしなの?
わたくしには、狙われるような価値など……)
だが、そこで思考が途切れた。
「……いいえ。」
胸に浮かぶ不安を、強く押し返すように。
(殿下が……アレン殿下が守ってくださる。
わたくしは、ただ怯えているだけではいけない。)
それでも、紙片に書かれた“見ている”の文字が脳裏にこびり付き、胸を締めつける。
フェリシェールは深く息を吸い、なんとか落ち着かせようとした。
その夜。
屋敷は静まり返り、侍女たちの寝息だけが廊下の向こうに微かに聞こえる。
フェリシェールは自室のベッドにいるが、眠気はまったく訪れなかった。
(こんな夜に、影が……)
考えたくもない想像が胸をざわつかせる。
灯りを弱くした部屋の中で、彼女は膝を抱えて小さく息をついた。
そのとき──。
カタリ。
窓の外で、何かが動く音がした。
フェリシェールは反射的に顔を上げた。
だが、窓の外は暗く、庭の灯りも届いていない。
風かもしれない──そう言い聞かせようとした。
しかし、今夜の空気は静まり返っている。
風ひとつ吹いていない。
彼女の手が震える。
(だめ……落ち着かないと。
でも……今の音は……)
じっと耳を澄ませる。
静寂。
その静けさが余計に怖い。
しばらく待ったあと、ようやくフェリシェールは決意し、ベッドを出た。
控えの間に置かれたベルを手に取り、ぎゅっと握る。
(何かあれば、このベルを鳴らせば……アレン殿下が手配してくださった護衛が駆けつけてくれる。)
だが、同時に考えてしまう。
(本当に……あの“黒衣の影”が……)
そのとき。
コン。
窓が、ノックされたように鳴った。
「っ……!」
フェリシェールの全身が凍りついた。
コン……コン。
まるで誰かが、そこにいるように。
逃げ出したい。
叫びたい。
しかし、足が動かない。
やがて──ノックが止んだ。
息が詰まる。
心臓の鼓動だけが耳の奥で響くようだった。
(いない……?)
恐る恐る、フェリシェールはカーテンに近づいた。
その瞬間──。
白い紙片が窓の隙間から滑り落ちた。
フェリシェールは蒼白になりながら拾い上げる。
そこには、先ほどと同じ筆跡で短く書かれていた。
「近くにいる。」
フェリシェールは、ベルを握りしめたまま後ずさる。
胸が強く、苦しいほど脈打つ。
(怖い……怖い……!
殿下……アレン殿下……)
その名前を心で呼んだ瞬間、廊下に足音が走り込んできた。
「フェリシェール様!」
護衛の声だ。
フェリシェールは震える声で返した。
「……ここです……!」
扉が開き、護衛が二人、剣を構えて部屋に入ってきた。
「何がありましたか!」
フェリシェールは震える指先で紙片を示す。
護衛はそれを見ると、表情を険しくした。
「すぐに王弟殿下へ連絡を!
これは──完全に敵意ある者の仕業です!」
護衛が駆け去る。
フェリシェールは壁にもたれ、力が抜けたように床に座り込む。
(殿下……来てくださるでしょうか……)
その不安と安堵が混ざる中、扉が勢いよく開かれた。
「フェリシェール!」
アレンだった。
鎧をつける暇もなく、急いで駆けつけたのだろう。
息を切らし、しかし鋭い目で部屋中を確認する。
そして彼女の元へ駆け寄ると、強く抱きしめた。
「無事か……? どこも怪我は……?」
フェリシェールは震える声で答えた。
「だ、大丈夫……です……殿下……」
アレンは彼女を抱きしめたまま、静かに言った。
「俺が来た。怖くない。もう大丈夫だ。」
その声は決意と怒りに満ち、しかし誰よりも優しかった。
フェリシェールはその胸に顔をうずめ、震えを止めることができなかった。
アレンは彼女を抱きしめたまま、窓に落ちた紙片を睨んだ。
目に宿るのは、強烈な殺気。
「……必ず捕まえる。
黒衣の影──容赦しない。」
彼の腕の中で、フェリシェールは初めて心から安堵し、そっと目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
灯火
松石 愛弓
恋愛
子供のいない男爵家に、幼少時に引き取られたフィーリア。
数年後、義両親に実子が授かり、フィーリアは無用とばかりに男爵令嬢の立場から使用人扱いにされる。
意地悪な義母と義妹の浪費癖のため、無償労働のメイドとしてこき使われる辛い日々。
そんなある日、フィーリアに転機が訪れて・・
珍しくシリアスな感じのお話を書いてしまいました
いつもはこんな感じなのに・・ ^^;
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/122288809/episode/2034446
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/658488266/episode/4191823
新作です。毎週土曜日に更新予定です。興味を持っていただけましたら幸いです。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/910027059/episode/10733961
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜
黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。
しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった!
不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。
そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。
「お前は、俺の宝だ」
寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。
一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……?
植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!
醜くなった私をあっさり捨てた王太子と彼と婚約するために一番美しくなろうとした双子の妹と頼りない両親に復讐します
珠宮さくら
恋愛
アデライン・マルティネスは、エイベル国でも、他の国でも美しい令嬢として有名になっていた。その噂には色々と尾ひれがついていたが、美しさを利用して、子息を誘惑しては婚約を台無しにするとある一定の人たちに思われていた。
でも、実際の彼女はそんな令嬢ではなかった。そのことを一番理解してくれていて、想いあっていると思っていた相手が、実は一番酷かったことを思い知ることになった。
それを知ることになったきっかけは、妹によって美しい顔を台無しにされたことから始まるとは思いもしなかった。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる