『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

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第25話 揺れる灯火の中で交わされた誓い

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第25話 揺れる灯火の中で交わされた誓い

アレンに抱きしめられたまま、フェリシェールはしばらく震えが止まらなかった。

窓の外から聞こえた不気味な音。
落ちてきた紙片。
「近くにいる」と告げる冷たい文字。

恐怖が胸を締めつけ、息がうまく吸えないほどだった。

アレンは彼女の背をゆっくりと撫でながら、静かに囁いた。

「フェリシェール……怖かったな。もう大丈夫だ。」

その声は、いつもの落ち着きとは違い、明らかに深い怒りを押し殺していた。

フェリシェールはようやく少しだけ顔を上げ、震える声で言った。

「殿下……ごめんなさい……。こんなことで……お手を煩わせて……」

アレンはすぐに首を振る。

「謝るのは俺の方だ。
こんなことが起きる前に……対処すべきだった。」

フェリシェールの顔を見つめるアレンの瞳は、暗い闇の奥に炎を宿しているようだった。

その表情に、フェリシェールは胸が締め付けられた。

「殿下……本当に、もう大丈夫ですわ。少し驚いただけで……」

「驚いただけ、では済まない。」
アレンは低く呟く。

「窓に書き置きを置くためには、屋敷の防護をすり抜けたということだ。
黒衣の影……おそらく魔術による侵入だ。」

フェリシェールは息を飲んだ。

(魔術で、こんなに近くに?
本当に……“近くにいる”と?)

アレンは窓際へ歩み寄り、外を睨んだ。
夜風がカーテンを揺らし、その隙間から冷たい空気が忍び込む。

「……すぐにこの部屋に結界を張る。
俺の直属の魔術師を呼ぶ。侍従にも二十四時間体制で張りつかせる。」

フェリシェールは戸惑いながらも、思わず口を挟んだ。

「で、殿下……そこまでしていただくのは──」

「必要だ。」

アレンは即座に断言した。

「君は狙われている。そして、それは“偶然”ではない。」

フェリシェールは、小さく唇を噛んだ。

目を伏せ、震える両手を胸の前で強く握りしめる。

アレンはその手をそっと包み込んだ。

「……怖かったんだろう?」

フェリシェールは否定しようとしたが、声が出ない。
その沈黙こそが、何よりも答えだった。

アレンは小さくため息をつき、フェリシェールの額に触れるように近づいた。

「君が震えているのを見るのが……一番嫌だ。」

彼の低い声に、フェリシェールの心臓が大きく跳ねた。

アレンは続ける。

「君が危険に晒されるくらいなら、王宮中を敵に回してでも守る。
……俺は、君を失いたくない。」

フェリシェールの胸に、熱いものが込み上げてきた。

(アレン殿下……こんなにも……わたくしのことを……)

恐怖の中で泣きそうだった心が、少しずつ溶けていく。

フェリシェールはようやく、震える声で返した。

「殿下が来てくださって……とても安心しました……。」

アレンの瞳が柔らかく揺れる。

「これからも、必ず守る。
だから……もう怯えなくていい。」

フェリシェールは静かにうなずいた。

その瞬間──。

屋敷の外から“風ではない何か”が走り抜ける気配がした。

アレンはすぐに剣に手を伸ばした。

「……まだいる。」

フェリシェールは背筋を凍らせた。

アレンは彼女の前へ立つようにして囁く。

「フェリシェール。このまま後ろへ。」

その背中は大きく、頼もしく、恐怖を押し返してくれるようだった。

廊下の方から護衛の怒号が聞こえる。

「影が……速いぞ! 離れた! 次の位置を確認しろ!」

「屋敷の周囲に痕跡あり! 魔力反応を感知!」

アレンの瞳が鋭く光る。

「フェリシェール。今夜は、この部屋から出るな。
俺が……必ず捕まえてくる。」

フェリシェールは彼の背中に向けて、小さく祈るように言った。

「どうか……お気をつけて。」

アレンは振り返り、微笑む。

その微笑みは、どこか切なく、しかし強い決意に満ちていた。

「君を守れるなら……危険など恐れない。」

そして彼は部屋を出ていった。

扉が閉まる直前、フェリシェールには確かに見えた。

アレンの瞳に宿った──
“誰かを愛し、守る者”の強い光が。


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