『婚約破棄された令嬢ですが、王太子殿下に一途に愛されまして? 気づいたら王妃候補ですわ』

しおしお

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第28話 地下に潜む気配、揺れる心

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第28話 地下に潜む気配、揺れる心

アレンは護衛たちと共に地下へ向かっていた。

屋敷の地下は、古い貯蔵庫や使用人用の通路が複雑に入り組み、迷路のようになっている。
夜の静寂の中、足音だけが重く反響する。

「魔力反応は、この先の通路です!」

先頭の護衛が緊張した声で伝える。

アレンは剣を構え、慎重に進んだ。

(奴は……ここに潜んでいる。
ただの魔術師ではない。もっと……歪んだ執念のようなものを感じる。)

フェリシェールを狙う理由が、まったく読めない。

だからこそ、アレンの心はざわついていた。

彼はふと思い出す。

数時間前、フェリシェールが見せた震える肩。
眠りながら涙を流し、怯えた声で「来ないで……」と呟いた姿。

(……俺が必ず守る。)

決意をさらに強く握りしめると、アレンは通路の先へ踏み込んだ。

***

一方その頃、フェリシェールは浅い眠りの中で揺れていた。

怖い夢を見ているわけではない。
だが、心の奥に絡みつくような不気味な気配が、眠りを不安定にしていた。

(アレン殿下……どうか……ご無事で……)

夢とも現ともつかぬ意識の中で、彼女は何度も祈った。

ふと、声が聞こえた気がした。

──フェリシェール。

その声は、冷たく、湿った闇の底から響くようだった。

フェリシェールの眉がわずかに動く。

(誰……?)

──お前には“価値”がある。

その言葉が鋭く胸を貫いた。

夢の中の暗闇で、フェリシェールは小さく後じさる。

(価値……? なぜ……?
わたくしは……ただの……)

──選ばれた者だ。

「……っ!」

その瞬間、フェリシェールは目を開いた。

心臓が激しく脈打っている。

(今の……夢?
いいえ……夢じゃない……もっと、直接……触れられたような……)

結界が張られた部屋は静かだが、胸騒ぎが収まらない。

(殿下……大丈夫でしょうか……?)

フェリシェールはベッドからゆっくりと起き上がる。

そのとき──
結界の膜が一瞬だけふるりと揺らいだ。

フェリシェールの表情が固まる。

「……殿下……?」

***

地下通路。

護衛が一歩前に出た瞬間、突風のような魔力が通路を駆け抜けた。

「くっ……!」

「退け!」

アレンは護衛の肩を押して前に出る。

風の中に──微かな影が見えた。

人の形をしているようで、していない。
黒い布のように揺れ、空気そのものをねじ曲げている。

アレンは剣を構え、影に向かって声を放つ。

「ここで終わりだ。姿を現せ!」

影は薄く笑ったように揺れた。

「……守る。あの娘を。
お前のような者に、守りきれるのか……?」

アレンの眉が鋭く吊り上がる。

「黙れ。」

「フェリシェールには、あの娘には──
“血”がある。」

その言葉。

アレンも護衛も一瞬固まる。

影はゆっくりと、満足げに続けた。

「選ばれた血。
目覚めれば、世界は揺らぐ。」

「……世界?」

「だから狙われる。奪われる価値。
彼女は……“鍵”だ。」

アレンは剣を強く握りしめる。

胸の奥に冷たい感情が走った。

(フェリシェールが……鍵?
何か重大な秘密を……彼女自身が知らないまま抱えているのか?)

影が低く囁く。

「守りたいのか……王弟。
だが守れるか?
あれほど弱い心を……」

アレンの瞳が燃え上がる。

「フェリシェールを侮辱するな。」

影がふっとかすれた笑い声を立てた。

「では……証明してみせろ。」

次の瞬間、影は勢いよく通路を突き抜け──
地下のさらに奥へと消えていった。

護衛が叫ぶ。

「殿下! 深追いは危険です!」

だがアレンは迷わなかった。

「追う。
必ず捕まえる。」

そして心の中で強く誓う。

(フェリシェールは……俺が守る。
たとえ彼女が何者であろうと。
世界を揺るがす存在であろうと──それで恐れたりはしない。)

その足取りは迷いなく、真っ暗な地下の奥へ向かっていった。

***

同じ頃、地上の部屋で。

フェリシェールは胸を押さえて立ちすくんだ。

結界の膜が、先ほどより大きく揺れている。

「……殿下……?」

彼女の声が震える。

心に浮かんだ一つの不安。

──アレン殿下の結界が、破られかけている……?

フェリシェールは恐怖に突き動かされるように、
扉へ手を伸ばした。

そして──
結界の内側であるにも関わらず、ふわりと誰かの声が彼女の耳元をかすめた。

──フェリシェール。

彼女は思わず息を呑んだ。

「誰……? 誰なの……?」

しかし返事はなかった。

ただ、結界がさらに強く揺れた。

フェリシェールの胸が強く締め付けられ、
気がつけば──
アレンを追うため、廊下へ一歩踏み出していた。
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