見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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4-2 喧嘩

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4-2 喧嘩

廊下に、昼下がりのざわめきが響いていた。
平民の子供たちの笑い声、走り回る足音――その中を、セリカは控えめな足取りで歩いていた。
今日もまた、給食の件で何か手がかりがないか探るために、学校内を調べていたのだ。

(この辺りに帳簿室があるはず……)

そう考えながら角を曲がった瞬間――
「ドンッ!」
不意に何か大きなものがぶつかり、セリカの体がよろけた。

「きゃっ……!」

とっさに壁に手をついて体勢を立て直す。
見上げると、そこには背丈の倍はあろうかという大柄な少年が立っていた。
手に木製の玩具を持ち、何かに夢中になっていたらしい。

「ちょっと、気をつけなさいよ!」
思わず声を荒げる。
だが、少年は悪びれる様子もなく、むしろ眉をひそめて睨み返してきた。

「なんだよ、ちびのくせに生意気なんだよ、このちび!」

――ちび?

セリカのこめかみがピクンと動いた。
冷静さの糸が、ぷつりと切れる音がした。

「……今、なんて言ったの?」

「ち・び! 見りゃわかるだろ。頭一つどころか肩までしかないじゃねぇか!」

その瞬間、セリカの中で何かが弾けた。
彼女の表情は一瞬で凛と引き締まり、口元が挑戦的に歪む。

「ふん、身長だけが取り柄のウドの大木が何を偉そうに言ってるのかしら?
 でかいのは体と態度だけで、中身はスッカスカじゃない!」

「なっ……!」

少年の顔が真っ赤になる。
周囲にいた子供たちが「おおーっ」と小声でどよめいた。
誰も止めようとせず、むしろ見物の目をしている。

「なんだと、ちびが! 俺に口答えすんな!」

「謝りなさい! ぶつかってきたのはそっちでしょ!」

「謝る? なんで俺が? お前こそ貴族ぶりやがって!」

「私は“ぶってる”んじゃないわ、本当に貴族なのよ!」

「……はぁ!?」

セリカの一言に、少年が一瞬たじろぐ。
だが、彼女が平民の服を着ているせいで、冗談だと思ったのか、すぐに鼻で笑った。

「はっ、そんな嘘ついてもバレバレだっての!」

「嘘じゃないわ。そんなに信じられないなら、今すぐ土下座して確かめてみる?」

「誰がするかっ!」

「だったら、もう知らないっ!」

セリカはふんっと顔をそむけた。
だが少年も譲らず、互いに一歩、また一歩と間合いを詰めていく。
廊下の空気がぴりぴりと張り詰め、見物していた子供たちは息を飲んだ。

(このままじゃ、本当に殴り合いになる……!)

と、誰かが思ったその瞬間――

「こらっ! 君たち、何をしているんですか!」

鋭い声が廊下に響いた。
駆け寄ってきたのは、若い男性教師だった。
眉間に皺を寄せ、腕を組んで二人を睨む。

「ここは学校ですよ。大声で言い争うなんて、恥ずかしいと思わないんですか?」

セリカと少年はハッとし、互いに視線をそらした。
少年は口を尖らせ、セリカはそっとスカートの裾を整えながら深呼吸する。

「……申し訳ありません、先生。少し、意見が合わなかっただけです」

「ふん……」少年が小さく呟いた。「ちびのくせに、口は立派だな」

「もう一度言ってみなさい? 今度は先生の前でも殴るわよ」

「やめなさい!」教師が割って入る。
「まったく……二人とも反省しなさい。廊下で騒ぐなんて、子供たちの手本になりませんよ」

周囲で見物していた生徒たちも、教師の登場で散り散りになっていく。
セリカと少年はしぶしぶ頭を下げ、それぞれ逆方向へと歩き出した。

角を曲がったところで、セリカは小さくため息をつく。

「……まったく、平民の学校って、思ったより賑やかだわね」

だが、その唇の端には、わずかな笑みが浮かんでいた。
心のどこかで――“この世界の普通”に触れられることが、少しだけ楽しいと感じていたのだ。


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