見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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4-3 理性と護衛

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4-3 理性と護衛

「お嬢様、あなたはもっと理性的な方だと思っていましたが――」
部屋に入るなり、ドライドの声は冷たく張りつめていた。
「子供らしさをこういう場所でアピールするのは、控えていただきたいものです」

セリカは椅子に腰を下ろし、わざと肩をすくめてみせた。
「まぁまぁ、そんな怖い顔しないで。あれはちょっとしたストレス発散よ」

「……ストレス、発散?」
ドライドは目を細める。

「そう。本気で怒ってたわけじゃないの。ただ、あの子の態度がどうしても気に入らなかったのよ」
セリカはぷいっと顔をそむけた。
「まるで私を馬鹿にするみたいに見下してきて……それで、つい」

「お嬢様は公爵令嬢です」
ドライドの言葉は、静かだが鋭かった。
「感情に流されて平民と喧嘩など、あってはなりません。次は――自制をお願いします」

セリカは頬を膨らませ、むすっとしながらも小声で答えた。
「わかってるわよ……でも、たまには息抜きしないと爆発しちゃうの」

ドライドは眉をひそめたが、少しだけ声の調子を和らげた。
「他人を巻き込むのは、控えていただきたいだけです」

「はいはい、反省してますって」
セリカが軽く両手を上げて降参ポーズを取ると、ドライドの肩がわずかに緩む。

だが彼はすぐに真剣な表情に戻り、静かに言葉を続けた。
「お嬢様。平民として潜入している今こそ、冷静さが必要です。……それに、つまらぬことで怪我などされたら元も子もありません」

「怪我ね……たしかに、それは困るわ」
セリカは頬杖をつきながらつぶやく。

ドライドは短くうなずくと、決断したように言った。
「ですから、安全のために――ジーンを学校に通わせることを提案します」

「えっ? 私がですか!?」
部屋の隅で待機していたジーンが、椅子から飛び上がるように声を上げた。

ドライドはその反応を無視するかのように淡々と説明を続けた。
「お嬢様が平民として通っている以上、露骨な護衛は不自然です。
 しかしジーンならば――子供として潜入できます」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私は立派な大人です!」
ジーンは顔を真っ赤にして抗議する。

「ええ、立派ですよ」
ドライドは皮肉気に微笑む。
「ですが、見た目だけなら……十二、三歳に見えなくもありません」

「見えません!」
ジーンの絶叫が部屋に響いた。
セリカは思わず吹き出す。

「ふふっ……いいじゃない、ジーン。あなたと一緒に学校生活を送るなんて、ちょっと楽しそうだわ」

「お嬢様まで……!」
ジーンは肩を落とし、途方に暮れたようにため息をついた。


---

翌朝。
いつもは凛々しい甲冑姿のジーンが、よれた麻布の上着と短いズボン姿でセリカの前に現れた。

「……なんで、私がこんな格好を……」
慣れない衣服を何度も引っ張りながら、顔を真っ赤にしている。

「似合ってますよ、ジーン」
ドライドがわずかに口角を上げて言う。
「普段のいかつい甲冑より、ずっと自然です」

「褒められた気がしません!」
ジーンが即座に反論する。

その横で、セリカはくすくすと笑っていた。
「もう、二人ともやめて。朝から漫才してるみたいじゃない」

彼女自身も質素な服に身を包み、髪をリボンでまとめただけの素朴な少女に変装していた。
貴族の気配は一切ない。

ジーンはその姿を見て、少しだけ目を細める。
(……この方が本当に平民の子供に見えるなんて、改めて恐ろしい演技力だわ)

「それじゃあ、行きましょう。今日から新しい“クラスメイト”ね」
セリカは軽やかに笑いながら歩き出す。

「……了解しました、お嬢様。平民の子供として、お供いたします」
ジーンは小声で呟き、ぎこちない笑みを浮かべた。

ドライドは二人を見送りながら、静かに言った。
「……どうか、くれぐれも理性的に」

「わかってるわ、もう喧嘩なんてしないわよ」
セリカが振り返って微笑む。

「本当ですか?」
「ええ――たぶん」

その曖昧な返答に、ドライドは深いため息をついた。

――こうして、セリカとジーンの“二重潜入任務”が始まった。
表向きはただの平民の子供たち。
だがその裏では、給食の裏金疑惑を暴くための静かな戦いが進もうとしていた。


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