見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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20-2 策略の始動

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20-2 策略の始動

 リュミエール王国――四季に恵まれた豊饒の国。
 金色の麦畑は風にそよぎ、王都リュミエールの尖塔群は陽光を浴びて白く輝いていた。
 だが、王宮の奥では静かな火花が散っていた。
 三人の王子たちが、それぞれの「未来」を賭けて、同じ少女――セリカ・ディオール――を見つめていた。


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第一王子・アコード ――理性の鎖

 アコード王子は、父王の隣で報告書を読み上げながらも、心の片隅でひとつの言葉を反芻していた。

> 「では、すぐに結婚というわけではありませんし――とりあえず“キープ”でもよろしかったのでは?
大人になって、私が期待にそぐわない成長をしたときに、捨てるという発想でもよかったのではないですか?」



 ――あの時、四歳の少女にそう言われた。
 何気ない皮肉のつもりだった。だが今もなお、胸の奥で鈍い痛みとして残っている。

 彼は公的な場では理性と誠実の象徴。
 だがその心の奥で、セリカという存在は徐々に“後悔”へと姿を変えていた。
 王位を継ぐ者としての義務と、ひとりの男としての本音――その狭間で揺れていた。

(あの時、なぜ彼女の手を放したのだろう。……いや、今さら悔いても遅い)

 アコードは唇を引き結び、書類に目を戻した。
 だが彼の視線は、もはや文字を追ってはいなかった。


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第三王子・シビック ――静かなる策士

 王宮西翼の回廊。
 陽光を背に受けながら、シビック王子は薄く笑んだ。
 磨き上げられた大理石の床に、彼の靴音が乾いた音を立てて響く。

「――彼女を手に入れた者が、王国を制する。そう言っても過言ではあるまいな。」

 ディオール領――経済の心臓部。
 豊穣な大地と商業の要衝を併せ持つその地を掌握すれば、王都の貴族たちをも屈服させることができる。
 シビックはそれを知っていた。
 そして、手段を選ばない覚悟もとうに決めていた。

 彼は机の上に地図を広げ、指先でディオール領をなぞる。
 その指が、やがて王都へと滑って止まった。

「……“偶然の不作”から始めよう。助け舟を出すのは私だ。恩を着せれば、心も縛れる」

 その声は、冷ややかに、しかし妙に楽しげでもあった。


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第四王子・セドリック ――誠実という刃

 一方、セドリック王子は中庭の噴水前に立ち、風に舞う花弁を見上げていた。
 その表情は穏やかだが、瞳の奥には確かな炎が宿っている。

「――彼女を利用するなど、あり得ない。共に歩む、それが正道だ」

 彼は他の兄弟のように権謀を好まない。
 だがそれは、無策という意味ではない。
 彼の“誠実さ”は時に最大の武器となり、敵すら惹きつける。

 彼は自らの侍従に命じた。

「セリカ嬢の研究資料を入手してくれ。……学ぶためだ。理解なくして支援はできない」

 知ること、そして信じること――
 それこそが彼の“策略”だった。


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セリカ・ディオール ――静寂の瞳

 その頃、ディオール領の書斎では、たった四歳の少女が地図を広げていた。
 赤いリボンで髪を結び、金色の瞳が真剣に紙上を走る。
 幼い指が、鉱山と港を結ぶ線を指し示す。

「……ここが動けば、王都がざわめくわね」

 その声はあまりにも冷静で、幼児のものとは思えなかった。
 侍女のミレーユが思わず息を呑む。

「お嬢様……まさか、王子方の動きを――」

「ええ。動くわ、近いうちに。
 兄弟たちがどう動くか……王国の次の形が、決まるもの。」

 窓から差し込む光が、セリカの横顔を照らした。
 その瞳の奥に映るのは、恐れでも野心でもない。
 ただ――冷静な観察者の光。

 彼女は知っていた。
 この“婚約”を巡る動きが、いずれ王国の勢力図を塗り替えると。

(誰が動こうと、ディオールは屈しない。
 ……私は、領民の未来を守る。それだけよ)


---

晩餐会の幕開け

 数日後、王宮では豪奢な晩餐会が催された。
 金糸のカーテンが揺れ、クリスタルのシャンデリアが光を乱反射する。
 中央のテーブルには、三人の王子と――まだ小さなセリカが座っていた。

 会話は穏やかに見えて、実のところ全員が腹の底を探り合っていた。

「ディオール領の新しい交易路は見事ですね」
 シビックの笑みは優雅だが、声の底に微かな棘。

「ええ、皆の努力のおかげです」
 セリカは無邪気な笑顔を浮かべつつ、内心ではその棘を正確に観測していた。

「私は君の考えに学びたい」
 セドリックの真摯な視線。
 だが、その正しさすら、場の緊張を和らげはしない。

 そしてアコード――最年長の王子は、ただ静かに二人を見ていた。
 理性の奥で、ひとつの決意が芽生え始めていた。

(……彼女を軽んじた過去を、償う機会があるなら――)

 晩餐会の音楽が鳴り響く中、誰もが笑っていた。
 だがその笑顔の下では、見えない駒がすでに動き始めていた。


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 こうして、リュミエール王国の王宮では――
 「婚約」という名の静かな戦争が、幕を開けた。

 そして、誰も知らなかった。
 四歳の公爵令嬢セリカこそが、後に王国の運命を変える中心点になることを。


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