見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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20- 3 運命の決戦

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20- 3 運命の決戦

 ――その日、王都リュミエールの空は、不穏な鈍色に染まっていた。
 ディオール領では、雨が途絶えてひと月が経とうとしている。
 だがセリカは、窓辺に座りながら静かに呟いた。

「……おかしいわね。天候記録と風向きが合わない。これは――干ばつじゃなくて、誰かの仕業」

 金の瞳が、幼子とは思えぬ冷ややかさを帯びる。
 その視線の先、地図の上では商業街道に赤い印がいくつも記されていた。

「輸送路を断ち、穀物の流通を止めれば、民は困窮し、領は混乱する。……それで“助け舟”を出すつもりね、シビック王子」

 セリカの唇が、かすかに弧を描いた。


---

◆シビック王子の最後の賭け

 王宮の一室。
 第三王子シビックは、部下からの報告を受けて薄く笑った。

「ディオール領の交易路は封鎖済みです。穀物も港で滞留中、間もなく民が動揺を始めるかと」

「いい。混乱こそが契機だ。――セリカ嬢は聡い。いずれ私を頼らざるを得なくなる」

 窓辺に立つシビックの横顔には、勝利を確信するような光があった。
 だがその背後で、沈黙していた側近が小さくつぶやく。

「殿下……もし露見すれば、謀反の嫌疑を受けます」

「露見しなければいい。いや――仮に露見しても、勝てば正義だ」

 その声は、王族としての冷徹な覚悟に満ちていた。
 だが、シビックは知らない。
 すでにその策略の一部始終が、四歳の公爵令嬢の手帳に克明に記されていることを。


---

◆セリカの決意

 ディオール邸。
 執務机の上には、報告書の束と地図、そして一枚の手紙。
 差出人は――第四王子、セドリック。

> 『困難なときこそ、共に立ちましょう。
私は貴女の誠実なる友として、力を惜しみません。』



 セリカは小さく息をついた。
 まだ四歳。けれど彼女は知っていた。
 信頼と同盟こそが、最大の盾であり剣であることを。

「……エレナ、セドリック殿下の申し出を受けます。
 ただし、正面からではなく――あくまで王国のための協力という形で」

 侍女のエレナがうなずく。

「かしこまりました、お嬢様。それと……第五王子ランディ殿下からも伝言が。
 “困ったときは風を読め”と」

「ふふ……あの方らしいわね。
 表には出ないけれど、ちゃんと見ている」

 窓の外で、ようやく一筋の風が吹き抜けた。
 それは、干ばつの終わりを告げる風ではない。
 ――決戦の幕開けを告げる風だった。


---

◆王宮・対策会議の朝

 王宮の大広間には、重厚な空気が満ちていた。
 各地の貴族たちが集い、ディオール領の“干ばつ”への対策を協議するためだ。
 その中央に、ひときわ小さな椅子が用意されていた。

 そこに座るのは、幼き公爵令嬢――セリカ・ディオール。

「皆様、状況は把握しております。
 しかし、これは自然災害ではありません。人為的な工作によるものです」

 ざわめきが広がる。
 シビック王子の眉がわずかに動いた。

「ほう? そのような証拠があるのかね、セリカ嬢」

「ええ、ございますわ」

 セリカは小さな手を伸ばし、机の上に束ねられた書簡と証拠書を並べた。
 そこには――シビック王子の部下たちが商業路の封鎖を指示した命令書の写し。
 そして、偽装された天候操作魔道具の設計図。

「これらは、私の領地の調査員が直接回収したものです。
 王国のためにも、この真実を無視するわけにはいきませんわね?」

 場の空気が一変した。
 重臣たちが顔を見合わせ、ざわめきは怒号へと変わっていく。

「ま、待て! それは偽造だ!」
 シビックが声を荒げる。

 だがセリカは一歩も退かない。
 彼女の瞳は、王族すら射抜く冷たさを宿していた。

「もし偽造であるというのなら、堂々と調査を受ければよろしいでしょう?
 ――それとも、都合が悪い理由でも?」

 言葉は静かだった。
 だがその瞬間、シビック王子の頬を汗が伝った。
 彼の沈黙が、全てを物語っていた。


---

◆崩壊と救済

 王宮の広間に響いたのは、王の重い声だった。

「シビック、そなたの説明を聞こう」

 もはや逃れられぬと悟ったシビックは、拳を握りしめた。
 だが、その口から出たのは――かすかな嘆息だった。

「……あの子に、負けたのか。たった四歳の娘に」

 その夜、シビックは自ら謹慎を申し出、王宮の奥へと消えた。
 彼の策は潰え、ディオール領は再び安定を取り戻す。

 会議後、セドリック王子が静かにセリカの前に膝をついた。

「あなたの勇気が、王国を救いました。
 この恩は決して忘れません」

「いいえ。私はただ――自分の家と、民を守っただけですわ」

 セリカは微笑んだ。
 その姿はまるで、神殿の聖女のようでありながら、鋼の意志を秘めた小さな将だった。


---

◆エピローグ ――風は再び吹く

 翌朝、ディオール領に雨が降った。
 乾ききった大地が水を吸い、花々が一斉に咲き誇る。

 エレナが微笑みながら言う。
「やはり、お嬢様の勝利ですね」

「勝利……? ふふ、違うわ。
 ただ、これでまた――お昼寝ができるということよ」

 そう言って、セリカは小さくあくびをした。
 その無邪気な笑みの奥に、再び新たな策を秘めながら。
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