婚約破棄されたけど、むしろ好都合ですわ!

しおしお

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第3章:蠢(うごめ)く陰謀と、私が選ぶ未来

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 王太子アルベルトとの婚約破棄、そして“聖女”リリアの急な台頭。
 私の身辺は、以前とは比べものにならないほど慌ただしく変化していた。だが、その変化は私自身が望んだものでもある。王太子妃という重圧から解放され、今こそ自分の道を歩む――そう決心したはずだった。

 しかし、実際に行動に移すのは簡単ではない。なにしろ公爵家の令嬢として、この国を離れるとなれば相応の覚悟が必要だ。隣国エグゼルバ王国の第一王子・レオニスは私の意思を尊重すると言ってくれているが、すべてを投げ打って飛び込むには、あまりにも不透明な点が多すぎる。

 その上、王太子アルベルトとリリアは私を“悪女”としたまま、私の前に再三姿を現そうとはしない。一方で、王都には奇妙な噂が絶えず流れ、**「リリアの『聖女』としての力が果たして本物なのか」**という疑問がちらほらと囁かれはじめていた。

 ――混沌とした状況の中で、私が手探りしながらも前に進もうとする物語の幕が、いま再び開く。


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1.父との対峙、そして私の決断

「セイラ、またあの隣国の王子と会っているそうだな?」

 アークライト公爵家の執務室。
 朝早く、私は父に呼び出されていた。相変わらず机の上には書類が山のように積まれており、その中には王太子との婚約破棄に関する報告や、他の貴族との連絡事項などが混在しているらしい。父はそれらを整理する合間に、私の行動を注意深く見張っているのだ。

「ええ、先日、レオニス殿下が茶会を開かれましたので、招かれたからには失礼のないように行ってまいりました。それが何か問題でしょうか?」

 このところ私は、できる限り落ち着いた態度を保つよう心がけている。先日の茶会では王太子たちが乱入してきて騒ぎかけたが、レオニスのおかげで大事には至らなかった。むしろ、あの一件で改めて「隣国の王子」という存在に大きな安心感を覚えたくらいだ。

 父は眉をひそめ、疲れ切った溜め息を漏らす。

「問題は大ありだ。王太子アルベルト殿下との関係が断たれた今、我が家は国王陛下にどう顔を向ければいいのか分からん。私があれこれ手を尽くしても、あのリリアとやらが王太子の耳元で何を吹き込んでいるのか……とにかく、殿下は我が家に冷たい。おまけに、おまえはその隙に隣国の王子と懇意にしている……周囲がどう思うか想像してみろ」

「……それは、公爵家の威信が下がるとか、そういったことでしょうか?」

 父はうんざりしたように頭を振る。

「威信の問題だけではない。政治的にも好ましくないんだ。もし隣国の王子と懇意になり、そちらへ嫁ぐなどという話になれば、国内の貴族は『アークライト家はもうこの国を見捨てたのだな』と受け止めるだろう。王太子との関係が拗(こじ)れたと思った途端に、隣国の王子に走ったなどと……」

 そこまで言われると、私も言い返しづらい。私自身、まだはっきりした決断を下していないが、レオニスの誘いがある以上、その可能性はゼロとは言えないからだ。

「……お父様は、私にどうしてほしいのですか? このまま何もしないで、王太子殿下の寵愛を取り戻せとでも?」

「それは……正直、今のままでは難しいだろう。アルベルト殿下は完全にリリアを信じきっている。だが、おまえは公爵家の娘だ。もしこのまま外に逃げるようにして隣国へ行ったら、私どもは『国を裏切った』と見なされる恐れがある。そんなことになれば、我が家がこれまで築いてきた信用も地に落ちるだろう」

 要するに、父としては「出て行かれるのは困る」ということだろう。もちろん、その気持ちは理解できる。私が王太子妃になることは、家にとって非常に大きな意味があった。婚約破棄そのものですら公爵家の威信を揺るがしているのに、さらに私が隣国へ嫁ぐとなれば、「アークライト公爵家が王家に反旗を翻した」と思われてもおかしくはない。

 けれど、それでも私にとっては大事な人生だ。今さら「公爵家のために犠牲になれ」と言われても、もう戻る場所はアルベルトのもとにはない。どう説得されようが、あの王太子の下で再び生きるつもりなど、微塵も抱けないのだ。

「お父様。私も、この家を軽んじているわけではありません。アークライト家を支えてくださった皆様には感謝しかありませんし、私が家のために何かできることがあるならやりたいです。でも、王太子妃になる道はもう閉ざされました。私は悪女とされ、彼からも捨てられた。それでも戻れというのは、あまりにも理不尽ではないでしょうか」

 淡々と話す私に、父は苦しそうな顔を浮かべる。きっと私の言い分が分からないわけではないのだろう。ただ、「公爵家の当主」としての義務が、彼を縛りつけている。

「……分かった、これ以上は無理強いせん。だが、頼むからしばらくは軽率な行動は控えてくれ。アルベルト殿下やリリアの真意も定かでない以上、下手に外へ飛び出すのは危険すぎる。もしおまえが“国外脱出”と受け止められるような真似をすれば、この国の貴族社会に波紋を広げることになる」

 苦渋に満ちた声。私が黙っていると、父は手元の書類に視線を落とした。
 ――これが、今の私たち親子の精一杯なのだろう。絶対に国外へ行くなと強要するわけではないが、少なくとも慎重に動け、と。私はうなずき、深くお辞儀して執務室を後にした。

「……分かりました。しばらくは変に騒ぎを起こさないように気をつけます。でも、お父様。私もじっとしているばかりではいられません。必ず、何かしらの形で“自分の進む道”を見つけてみせますから」

 父は答えず、ただ小さくため息を漏らした。私もそれ以上言わず、そっとドアを閉める。いつか、この国を出るにせよ出ないにせよ、まずは王太子とリリアの動向を探る必要がある。もし彼らが近い将来、私にまた何かしらの形で干渉してくるのなら、その時は堂々と立ち向かわねばならない。


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2.噂の真偽と、リリアの聖女疑惑

 父との一件から数日後、私は王都の片隅にある“大聖堂”を訪れていた。もともと宗教行事や礼拝などには顔を出していたが、ここ最近は足が遠のいていた場所だ。しかし、今こそこの聖堂に行く意味があると感じていた。

「セイラお嬢様。今日はどのようなご用向きでしょうか?」

 そう声をかけてきたのは、この聖堂の神官長であるフランチェスコ司祭。白髪まじりの柔和な笑顔を湛えつつ、黒い法衣を揺らして歩み寄ってくる。彼は幼い頃からよく知っている人物だ。私がまだ小さかった頃、母に連れられて初めて聖堂を訪れたときからの付き合いになる。

「お久しぶりですわ、司祭様。……少し、お話を伺いたいことがあるのです」

「ええ、もちろん。どうぞ奥の部屋に。ほかの神官たちには席を外してもらいましょう」

 司祭は慣れた様子で私を奥へと誘導する。聖堂の白い回廊を進み、厳かな装飾が施された扉を抜けると、そこは小さな応接間になっていた。テーブルと椅子が置かれ、壁には古い絵画が掛けられている。かつて私が母とともに相談ごとを打ち明けたのも、この部屋だった。

 中に入り、椅子に腰を下ろした私は、ゆっくりと息を整えて切り出す。

「……司祭様。いま、王都で“聖女リリア”という女性が話題になっているのはご存じですよね? 彼女の奇跡が本物だという噂もあれば、疑わしいという声もあって……その真偽について、何かご存じではありませんか?」

 フランチェスコ司祭は静かな目で私を見つめる。数秒の沈黙が流れ、やがて彼は低い声で答えた。

「リリア・エルステッド……確かに王太子殿下が『本物の聖女』と呼んでいる女性ですね。私も詳しく調べてみましたが、はっきりしたことは分かっておりません。というのも、彼女が“奇跡”を起こしたとされる場面の情報があまりにも断片的で……現場に居合わせた者が極端に少ないのですよ」

「少ない、というのは?」

「ええ。例えば、ある村の魔物の被害を食い止めたとか、重い病を患う人を完治させたとか、いろいろと噂は耳にしますが、そのどれも確かな証言がほとんどない。しかも、多くの場合、リリアさん本人の周囲にいた数人が“聖女の力はすごい”と喧伝しているだけのように見えます。実際に直接の目撃者や、回復した患者当人に会えたという話は少ないのです」

 私は唸るように呼吸を吐く。まさか大聖堂の司祭でさえ、「詳しくは分からない」と言うとは。もっとも、王太子が認めた人物だからといって、すべての聖職者が無条件に彼女を信じるわけでもない。フランチェスコ司祭は慎重に物事を判断するタイプだし、むしろ鵜呑みにしない姿勢には好感を覚える。

「……なるほど。それでは、彼女がなぜ王太子殿下に認められたのか、その経緯についてはご存じありませんか?」

「表向きには“リリアの力でアルベルト殿下が救われた”と耳にしています。殿下が何か病気にかかっていたわけではないはずですが……もしかすると、何らかの精神的な悩みを抱えていたとか。いずれにせよ、まるで引き寄せられるようにリリアさんを傍に置き、今では彼女を“真の王妃”に据えたいとまで言っていると……」

 やはり王太子も正気を疑われるような様子なのだ。確かに、リリアがまるで薬物のようにアルベルトを虜にしている可能性もあるのではないか、などと物騒な噂すらささやかれる。

「司祭様は、もしリリアが“偽物”の聖女だとしたら、どうなると思われますか? ――今はあの方が王宮で大きな権勢を振るい、王太子殿下の心を支配しているようにも見えます。まさかとは思いますが、この国が彼女に乗っ取られるなんてことは……」

 少し突飛な話かもしれないが、私にとっては実感のある不安だった。私を悪女に仕立て上げてまで王太子との婚約を破棄させ、いまや王宮の誰もが彼女の顔色をうかがっている――そんな状況が続けば、いずれ国政にも悪影響が及ぶだろう。

 フランチェスコ司祭は神妙な面持ちで目を伏せた。

「まだそこまで言い切るには情報が足りません。しかし、私も事態を静観してよいとは思っていない。リリアさんが本当に“神の声を受けて奇跡を起こす聖女”なのかどうか、早急に確認が必要でしょう。……セイラお嬢様、もし何か分かったことがあれば、私にも教えてください。私からも協力できることがあるかもしれません」

「はい、分かりました。こちらこそ、何か進展がありましたらお伝えします」

 そう言葉を交わしながら、私は胸の中に一つの思いを固めていた。「このまま真相が闇の中に葬られるのはごめんだ。私が動いてでも、リリアが本物かどうか確かめる手立てを探らなくては」――そうでなければ、王太子に断罪されたままの私が不名誉を晴らすことなど到底できない。

 聖堂を後にする前、フランチェスコ司祭は私の肩にそっと手を置いて言った。

「セイラお嬢様、辛い立場かもしれませんが、負けないでください。必ず、真実は明らかになるはずですから……」

 その優しい声に、少しだけ救われる思いがした。


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3.図書館での再会、そして隣国王子の秘策

 聖堂を後にした私は、次に王宮の外れにある王立図書館へ足を運んだ。実は、王太子妃候補だった頃からこの図書館にはたびたび通っており、古文書や歴史書の調査をしていたのだ。――といっても、婚約破棄以降はあまり来る気にはなれなかったが、リリアの“奇跡”についての何らかの資料があるかもしれないと思い、思い切って再訪することにした。

 ただ、王立図書館といっても広大な蔵書の中から“聖女に関する記録”を見つけるのは容易ではない。過去に聖女と呼ばれた人物や、神の奇跡を記した書物は膨大で、手当たり次第に漁っていては途方に暮れてしまうだろう。

(でも、何かしら手がかりが得られれば……)

 そんな淡い期待を胸に、私はひたすら書棚を巡り、古めかしい本を抜き出してはページを捲っていた。

 しかし、数時間たってもめぼしい情報は見つからない。確かに、過去に“聖女”と呼ばれた存在は数名記録されているが、いずれも伝説や神話に近い扱いで、具体的な奇跡の様子や科学的根拠などが書かれているわけではない。

「はあ……さすがに疲れたわね」

 私は大きなため息をつき、近くの机に腰を下ろした。これでは徒労に終わりそうだ。しかも、王太子の許可証が必要な“王家専用の書庫”には、もう立ち入ることができない。私は今や、王太子に切り捨てられた身なのだから。

 がっくりと肩を落としていると、図書館の奥から見慣れた影がやってくるのが視界に入った。淡い光が差し込む石造りの廊下をゆったりと歩く姿は、まぎれもなくレオニス・フォン・エグゼルバ王子。

「レオニス殿下……?」

 まさかこんなところで会うとは思わず、私は思わず立ち上がる。彼も私に気づき、軽く手を挙げて微笑んだ。

「セイラ。こんなところで何をしている? 今日はたまたま、古い記録を確認しに来たのだが……まさか君と鉢合わせるとはね」

 王立図書館は一般の貴族にも開放されているが、ここまで奥まった資料室に来る貴族は多くない。レオニスも、どうやら何か重要な文書を探しているらしい。私が来た理由を正直に話すと、彼は眉を寄せながらも興味深そうにうなずいた。

「リリアの“聖女伝説”の裏を取ろうとしている、というわけか。……なるほど、君らしいな。悪女と呼ばれたまま黙っているより、自分で真実を追い求める方が性に合っているのだろう」

「ええ。放っておけば、私も公爵家も危ないかもしれませんもの。何より、あの人たちにいいように振り回されるのはごめんですわ」

 レオニスはやや苦笑しながら、あたりを見回す。

「だが、この国の図書館には限界があるだろう。もし王太子専用の書庫にアクセスできないのなら、得られる情報は限られる。むしろ、私の国のほうが何か手がかりを持っているかもしれないぞ」

 私は首をかしげる。

「隣国に“聖女”に関する記録があるのですか?」

「実は、昔、エグゼルバ王国でも“神の巫女”と呼ばれた存在がいたとされていてね。彼女にまつわる古い史料が城の地下書庫に保管されているんだ。私も詳しくは知らなかったが、最近になって少し探してみたら、それらしき書物が見つかった。内容までは読み込めていないけど、もしかするとリリアの正体を探るヒントになるかもしれない」

 思いがけない情報に、胸が高鳴る。もし隣国の史料に“聖女”の秘密が記されているのなら、リリアが偽物かどうかを照らし合わせることができるかもしれない。

 しかし、同時に頭をよぎるのは**「エグゼルバ王国に行く」という選択肢**。果たして、今の私がそれを実行できるのか? 父の言葉が脳裏をちらつく。外に出れば公爵家が「裏切り者」と見なされるかもしれない。でも、このまま何もしなければ私は“悪女”と呼ばれたまま。

 逡巡する私を見て、レオニスは静かに口を開く。

「もちろん、今すぐ行く必要はない。だが、君が本気でリリアの正体を暴きたいのなら、我が国の史料を調べる価値はあるだろう。……せめて“短期の訪問”という形なら、外交上も大きな問題にはならないはずだ。公爵家の承諾を得られるように、私が王族として正式な“研究協力”の名目を出すこともできる」

 研究協力。
 確かにそれなら「嫁ぐ」のではなく、あくまで公務に近い形で隣国へ渡ることができるかもしれない。父も、いきなり一生戻らないというのではなく、一時的な訪問であれば反対しづらい。

「……そんな都合のいい話、受け入れてもらえるでしょうか?」

「私が王宮に申し出れば、まず王都の上層部も拒否はしにくい。何しろ、エグゼルバ王国との友好関係を深めるのは、この国にとっても悪い話ではないからね。王太子殿下とリリアが反対しようとも、陛下や貴族院の許可を得られればそれで十分だ。――セイラが本当に望むなら、私が道を開こう」

 その提案は、まさに私が欲しかった“突破口”の一つかもしれない。
 ただ、もちろんリスクはある。私が隣国に向かったと知れば、王太子やリリアが黙っているとは思えない。何か妨害工作をしてくる可能性も高い。だが、今ここで動かずにいては何も変わらない。

「ありがとうございます、殿下。……私、少し考えてみます。父や母とも相談しなければなりませんし、どう動くのが最善なのか、もう少しだけ検討したいのです」

「もちろん。君の意思を尊重する。……だが、万が一危険が及ぶようなことがあれば、すぐに知らせてほしい。私は君を守りたいと思っているからね」

 その真摯な瞳に見つめられると、さすがに胸の奥が熱を帯びる。何より、私が“悪女”扱いされているにもかかわらず、レオニスは一度も疑念を向けなかった。むしろ、彼は私の力になろうとしてくれている。それはとても心強く、私にとって救いでもあった。

 (王太子ではなく、この方が私を信じてくれている……)

 その事実に、不思議な感慨が湧く。かつて、アルベルトが私に見せていた優しさは一体何だったのか。今や「悪女」と呼んで関わろうとしないのに対し、レオニスは国境を超えて私を手助けしたいと言ってくれる。――思わず、胸が締め付けられるようなもどかしさを覚える。

(私の未来は、もしかしたらこの人のもとで……)

 そう思ってしまう自分がいることに気づき、頬が熱くなる。すぐに首を横に振り、余計な妄想を振り払う。まずはリリアの真実を突き止めるのが先決。それからでも、遅くはないはずだ。


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4.暗躍する王太子、迫る脅威

 レオニスと別れた後、私は自宅に戻り、さっそく両親に話を切り出してみることにした。
 「隣国に一時的に滞在し、古文書の調査協力をするかもしれない。それによってリリアの秘密が分かるかもしれない」と。

 当然、父は難しい顔をした。母もまた心配を隠せない様子だ。

「本当に、そんなことをして大丈夫なの? もしアルベルト殿下やリリアが怒って、セイラに危害を加えたり、公爵家に不利益をもたらしたりするかもしれませんわよ」

「ええ……でも、リリアの正体を確かめることができれば、私が“悪女”ではないと証明できるかもしれません。少なくとも、このまま黙っているよりは得策かと」

 父は深いため息をつき、机に頬杖をつきながら呟く。

「……今のままでは打つ手もないし、セイラの言う通り、黙っていれば事態は悪化するだけかもしれん。王太子殿下があのリリアという女に骨抜きにされている以上、いずれ公爵家が無用な嫌疑をかけられる可能性もある。……しかし、隣国へ行くとなると、この国の貴族社会がどう反応するか。外聞を気にする者たちが騒ぎ立てるのは目に見えている」

「ですから、あくまで“短期の研究協力”として、正式にアークライト公爵家から認められた形で行くのです。帰ってこないわけではありませんし、エグゼルバ王国側もレオニス殿下を通じて、ちゃんとした書類を用意してくださるはず。――そのくらいの余裕がないと、私も動きようがありませんから」

 母はやや心配そうだが、父のほうは私の必死の説明を聞きながら、眉間にしわを寄せたまま考え込んでいる。やがて、長い沈黙のあと、重々しく頷いた。

「……分かった。そこまで言うなら、私も可能な限り段取りを整えてみよう。ただし、一気にことを進めるのは危険だ。王太子殿下やリリア側がどう出るか分からないからな。少なくとも、王太子不在のタイミングを狙って準備を進めたほうがいいだろう」

「ありがとう、お父様……!」

 さすがは公爵家の当主、冷静な判断力を持っている。ただ感情的に私を引き止めるのではなく、リスクを考慮しつつも最善策を探してくれているのだ。私は安堵して、深く頭を下げた。

 ――こうして、私は「隣国へ一時滞在する」という道を本格的に模索しはじめた。まだ何も確定したわけではないが、少なくとも両親からは「完全拒否」という結論は出なかったのだから、大きな一歩と言える。


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 しかし、その翌日から事態は急展開を迎える。
 私が朝食をとっていると、執事が青ざめた表情で駆け込んできたのだ。

「お嬢様、大変でございます! 王太子殿下の命により、アークライト公爵家の使用人が数名、王宮に拘束されました!」

「――何ですって!」

 思わず椅子から立ち上がる。使用人の拘束? 一体なぜ?
 詳しい話を聞くと、王太子が「公爵家の者が王宮内で不審な動きをしている」という疑いをかけ、そのまま捕らえたのだという。具体的にどんな容疑をかけられているのかは分からないが、王太子が命じた以上、王宮の衛兵も逆らえずに強制連行してしまったらしい。

 父も慌ててやってきて、憤怒に震える声で叫ぶ。

「許せん! 一体何の権限で、使用人たちを……! そもそも、我が家の使用人が王宮で何か悪事を働くはずがないだろう!」

 激昂する父を落ち着かせながら、私は事態を整理しようとする。おそらく、アルベルトとリリアが公爵家に対して揺さぶりをかけてきたのだ。もしくは、私が隣国へ行こうとしている気配を嗅ぎつけ、先手を打って妨害するつもりかもしれない。

(ここで黙っていたら、ますますエスカレートしそう……)

 父は「すぐに王宮へ行くぞ!」と叫んでいるが、下手に乗り込めば拘束されかねない。母や家臣たちも口々に「どうか冷静に……」と止める。私も考える。今、ここで正面衝突しても状況は改善しないだろう。アルベルトやリリアが仕掛けてくるのは分かりきっている以上、もっと別のアプローチが必要だ。

 そう判断した私は、思い切ってレオニスへ助力を仰ぐことに決めた。
 彼なら隣国の王子として、王太子に対して一定の抑止力を働かせることができるかもしれない。それに、外交の場であれば、たとえアルベルトでも好き勝手にはできないはずだ。

「お父様……私、レオニス殿下に連絡してみます。どうにか王太子の行動を抑止できないか、相談してみましょう」

 父は逡巡した末、やがて大きくうなずいた。

「そうだな……このままでは事態が悪化するだけだ。分かった、好きにしろ。私も王太子に直談判する準備を進めるが、下手に突っ込んで家そのものが潰されては元も子もない……頼むぞ、セイラ」

「はい、お父様。必ず使用人たちを救い出してみせます」

 こうして私は、急ぎメッセンジャーを走らせ、レオニスへ面会を求める手紙を送る。隣国の王子である彼がどこまで動けるかは分からないが、今の私には彼を頼るほかに選択肢がなかった。


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5.暴走する宮廷、そして王太子への宣戦布告

 翌日、レオニスからの返事は驚くほど早かった。手紙には「すぐに会おう。王都の離宮に来てくれ」とだけ書かれており、彼が滞在するという“公的な”場所での面会を指定してくれている。おそらく私を迎えるための安全策だろう。

 私は急いで馬車に乗り込み、王都のはずれにある離宮を目指す。そこは普段はあまり使われない建物らしく、周囲には王宮の衛兵がちらほら見えるだけだ。正門をくぐると、レオニスの部下らしき騎士たちが出迎え、私を奥へと案内してくれた。

 重厚な扉を抜けると、そこは簡素ながら上品な応接室。テーブルの上には既に温かいお茶が用意され、レオニスが椅子に腰を下ろしていた。彼は私を見て、表情を曇らせる。

「セイラ、聞いたよ。公爵家の使用人が拘束されたとか……まったく、王太子殿下のやり方はあまりに横暴だな。詳細を教えてくれないか?」

 私はうなずき、知り得る限りの情報をすべて伝える。王太子が言うには「公爵家の使用人が王宮で密かに悪事を企んでいる」とのことで、証拠らしきものは示されていない。にもかかわらず、力ずくで連れ去られたというのだ。

「……分かった。これはもう、単なる嫉妬や風評被害のレベルではない。王太子は明確に公爵家を追い詰める意思を持っていると見ていいだろう。リリアが何を吹き込んだのかは分からないが……そう遠くないうちに、さらに大きな行動に出てくるかもしれない」

 レオニスの声音はどこか苛立ちを帯びているが、同時に冷静な分析もしてくれているのが分かる。私は手元のカップを握りしめながら、大きく息を吐いた。

「私としては、早急にこの拘束を解いてほしいのです。使用人たちを助け出し、その上でリリアの正体を探り、王太子の謀略を食い止めたい……。けれど、どうすればいいのか皆目見当がつきません。……殿下、私に力を貸していただけませんか?」

 改めて頼み込むと、レオニスは少し考え込んでから静かに口を開く。

「もちろん助力するとも。だが、王太子殿下がここまで強硬な姿勢に出ている以上、私一人の発言力だけでどうにかなるかは微妙なところだ。……ただし、“外交問題”に持ち込むのは有効かもしれない」

「外交問題……ですか?」

「うむ。今、私はこの国との間で新たな貿易協定を結ぶ準備を進めている。国王陛下とも正式に会談する予定だ。それだけに、もし王太子が勝手な振る舞いで公爵家を弾圧しているとなれば、隣国としては見過ごせない。――そこを突けば、王太子もそう簡単には強行できなくなるだろう」

 確かに、王太子が隣国との友好を壊しかねない行動を取り続けるなら、国王陛下や貴族院も黙っていられないはずだ。今このタイミングで、王太子が公爵家を潰そうとするのは、国全体にとっても損失が大きいと周囲に認識させられれば、アルベルトも動きづらくなる。

 私は小さく頷き、レオニスの提案をじっくり噛みしめる。

「分かりました。では、私や父が“公爵家は隣国との外交を円滑に進めたい”という姿勢をはっきり示せばいいのですね? もしそれを王太子が妨害してくるなら、隣国を敵に回す危険がある、と周囲にも示すことができる……」

「そういうことだ。具体的には、近々開かれる『国王陛下とエグゼルバ王国との親善晩餐会』の場が狙い目だ。私もそこに出席するが、君や公爵も公式に参加すればいい。王太子も当然同席するはずだ。そこで正面から、使用人たちの不当拘束について問いただせば、アルベルトも簡単には逃げられない」

 親善晩餐会――確かに近々、大々的に行われるという噂を耳にしていた。国王陛下が主催し、隣国からの賓客を歓待する場だ。王太子や主要貴族が集うのはもちろんのこと、リリアも“聖女”として招かれるかもしれない。

(まさに、あの二人と直接対峙する機会が訪れるというわけね……)

 緊張が走る。だが、ここで逃げていたら何も解決しないだろう。使用人たちを救い、私自身が無実であることを証明するには、もはや公の場で争うしかない。これが正念場だと思った。

「分かりました。……私も、その晩餐会に出席して、王太子とリリアに正面から問いただしてみます。どうして私を悪女呼ばわりするのか、本当にリリアが聖女なのか――もしあの人たちが言い逃れを続けるのなら、この国の面前で恥をかくことになるでしょう」

 そう言うと、レオニスは満足げにうなずき、私の手をそっと取った。

「心強い言葉だ。……怖いかもしれないが、君になら必ずやり遂げられると信じている。私も全力で協力しよう」

 大きく温かな手の感触が、ほんの少し私の不安を和らげてくれる。頬が熱を帯びるのを感じながら、私は深く息を吸って意志を固めた。

(大丈夫。私はもう逃げない。王太子が何を仕掛けてこようと、リリアがどんな策略を持っていようと、私が正面から打ち破ってみせるわ)

 そして、もしこの戦いの先に“私の進むべき未来”があるのなら――その時は、きっと新しい道を選び取る覚悟を持とう。隣国へ行くにせよ、この国に留まるにせよ、私は自分で決める。


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6.嵐を呼ぶ親善晩餐会の幕開け

 数日後、国王陛下が主催する親善晩餐会の当日がやって来た。
 場所は王宮の大広間。歴史ある大理石の床に巨大なシャンデリアが輝き、招かれた貴族や要人たちが思い思いの正装で集う。私も父とともに“公爵家代表”として参加することを決め、母も心配そうに見守りながら送り出してくれた。

 ドレスは、深い青の生地に銀の刺繍を施した落ち着いたものを選んだ。過度に華やかではないが、公爵令嬢としての品位は保ちたい。髪は侍女の手で上品にまとめられ、首元には家宝である小さな宝石のペンダント。これには「絶対に負けない」という私の決意も込められている。

「セイラ、くれぐれも気をつけろ。もし向こうが何を仕掛けてきても、感情的にならないようにな」

 馬車の中、父が神妙な口調で言う。彼もまた正装に身を包み、公爵の名に恥じぬ威厳を漂わせていた。ただ、私が知る限り、父も内心は相当に緊張しているはずだ。

「大丈夫です、お父様。……私たちにはレオニス殿下の後ろ盾もありますし、何よりも“隣国との友好”という大義名分がある。いくら王太子殿下でも、そう簡単には動けないでしょう」

「そうだな……。だが、やはり心配は尽きんよ。王太子がリリアの言いなりになっている限り、何をしてくるか分からん。……まあ、万が一の場合は、おまえだけでも逃がす算段を考えてある。とにかく無理はするなよ」

 父がそんなことを口にするなんて、よほど追い詰められているのだろう。しかし、私は心強く微笑んだ。もう、逃げるわけにはいかないのだから。

 王宮に到着すると、夜の帳が下り始めた庭園がライトアップされ、煌びやかな音楽が遠くから聞こえてくる。馬車を降りて大広間へ向かう廊下を歩くうちに、緊張感が高まっていくのを感じる。それでも私は胸を張り、足を止めることなく進んだ。

 そして――ドアを開けて広間に入ると、まるで宝石箱のような光景が目に飛び込んでくる。
 王都の名だたる貴族や騎士、隣国エグゼルバ王国の使節団、そして何よりも国王陛下とレオニス殿下が中央に並んでいる。その周囲には王太子アルベルトとリリアの姿もあった。リリアは純白のドレスに身を包み、透き通る銀髪をきらめかせている。――その眩いばかりの姿に、周囲の貴族たちは目を奪われているようだ。

「おお、アークライト公爵。よく来てくれたな」

 国王陛下が穏やかな笑みで迎えてくださった。私と父は丁寧にお辞儀をする。
 陛下はやや年配ではあるものの、まだまだ健在な様子で、その人格者としての評判は王都でも高い。もともと王太子アルベルトが戴冠するのはまだ先だと思われていたが、リリアが現れて以降、王太子を推す動きが急速に高まっているという噂もある。

「はい、陛下。本日は我が家も、隣国との友好を深めたいと心から願っております」

 父がそう申し上げると、陛下は頷き、レオニス殿下のほうへ視線をやる。

「エグゼルバ王国の第一王子、レオニス殿下も大変喜んでおられる様子だ。どうか、今日の晩餐会を楽しんでいってほしい」

 その後ろで控えるアルベルトが私たちを睨むように見ているのが分かる。リリアはしおらしげな顔で微笑んでいるが、どこか鬱屈したものを感じさせる。私と父は、彼らに挨拶するフリをして視線を交わすが、挨拶以上の言葉は交わさない。――今はまだ時機ではない。


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7.決戦の行方──そして次章への布石

 晩餐会が始まり、絢爛豪華な食事や音楽が次々と振る舞われる。各テーブルでは貴族たちが楽しげに談笑しているが、その裏ではピリピリした緊張感が漂っていた。何しろ、王太子とリリア、そして私たち公爵家の対立は周知の事実。それを隣国の王子レオニスがどう裁くのか、あるいは国王陛下がどう判断を下すのか――誰もが興味津々ながらも、迂闊には口を挟めない。

 やがて、国王陛下の合図でパイプオルガンの演奏が止み、会場が静まり返った。陛下はゆっくりと立ち上がり、列席者たちを見渡す。

「本日は、我が国とエグゼルバ王国との親善を深めるために、こうして集まっていただいた。大いに楽しんでいただければ幸いだ。――ところで、最近、王太子アルベルトとリリア殿が聖女の奇跡をもたらしているという話を耳にした。国の安寧のためにも、もし何かあればぜひ教えてほしいと思っている」

 リリアが微笑み、ゆっくりと立ち上がる。彼女はまるで神殿で祈りを捧げる巫女のように上品な仕草で周囲に一礼した。

「陛下、そして皆さま。私などが聖女と呼ばれるのは恐れ多いのですが、神のご加護によって多くの方を救う力を授かったのは事実でございます。……ですから、この場でその一端をお示しできればと考えております」

 その言葉に、会場はざわめいた。まさか晩餐会の席で“奇跡”を披露するつもりなのか? 王太子アルベルトは誇らしげに胸を張り、リリアを見つめている。

「リリアは本物の聖女だ。ここにいる貴族たちも、彼女の力を目の当たりにすれば、私が彼女を王妃に迎えようとしている理由が分かるだろう!」

 王太子の声が響き渡る。まるで先制攻撃だ。
 私は胸が痛む。――これこそが、彼らの策かもしれない。公衆の面前でリリアが“奇跡”を示し、私の悪女疑惑を一気に既成事実化しようというのだろうか。

 レオニスは私のそばに来て、小声で囁く。

「落ち着け。もしリリアの奇跡が本物なら、それを逆手に取ればいい。偽物なら、今ここで暴かれる可能性もある」

「……分かりました。けれど、彼女は一体何を見せるつもりなのかしら」

 リリアは王太子から促され、会場の中央へ進む。そして、静かに両手を組んで目を閉じた。銀髪がふわりと揺れ、周囲に薄い光が漂うように見える。――まるで、本当に神の奇跡でも起こせるかのような神秘的な雰囲気だ。

「……神よ。どうか、この場にいるすべての人へ、あなたの慈悲を示したまえ……」

 淡々と紡がれるリリアの祈りの言葉。すると、突然、会場の天井に飾られた装飾が淡い光を放ち始めた――ように見えた。実際には光源がどこからともなく現れたかのような、不思議な眩しさに包まれる。

「すごい……!」
「まるで天上の光だわ!」

 驚嘆や歓声が上がる。私も一瞬、息を飲んだ。これは単なる手品や演出ではないのか? それとも本当に聖女の奇跡なのか? リリアは微笑みながら、周囲を見渡し――私と目が合う。そして、その瞳は薄く笑ったように見えた。

(……やはり、この人は何かを仕掛けている。油断できないわ)

 会場が浮足立つ中、レオニスがわずかに険しい顔でリリアを見つめているのが分かる。どうやら、この光には何か仕掛けがあると疑っているようだ。私も注意を凝らして観察すると――何やら天井の装飾にはクリスタルの細工があり、光源が差し込めば強く反射する構造になっている。それを使えば、あたかも“神秘の光”のような演出ができるかもしれない。

(つまり、これは“奇跡”でもなんでもなく、巧妙な仕掛け? でも、どうやって光源をコントロールしているの……?)

 私が唇を噛んでいると、突然、リリアが声を張り上げる。

「神よ、この場にいる心清らかなる者へ、さらなる祝福を――そして、心穢れし者には、償いの日々をお与えください……!」

 すると、一部の貴族たちが奇妙に体を震わせたり、「熱い……!」とうめいたりしはじめた。どうやら何かしらの熱や光が集まっているようだが……一体どんな仕掛けなのか。

「……こ、これはなんだ……?」
「わ、私の足元に光の輪が……」

 歓声とも悲鳴ともつかぬ声が飛び交う。王太子は勝ち誇ったような笑みを浮かべているが、私はまったく納得がいかない。明らかに何らかのトリックを使っているように見えるし、そもそも「心穢れし者」という基準が曖昧すぎる。

 そんな中、私の目の前にも弱々しい光が降り注いだ――が、それはすぐに消えてしまった。周囲からは「セイラにはあまり反応がないのでは?」という囁きが聞こえる。まるで私の“穢れ”を示す光が不完全だったかのように見えるが、いや、そもそもこんな演出に意味があるのだろうか。

 リリアは息を整え、ゆっくりとこちらを振り返る。銀髪がさらりと揺れ、その瞳には勝ち誇った色が宿っているように見えた。

「皆さま、これが私のささやかな奇跡です。……王太子殿下からは、セイラ・フォン・アークライト公爵令嬢が悪女であると聞いていましたが、どうやら彼女は“悔い改めの余地”があるようですわ。……ですから、これ以上私たちに敵対しなければ、きっと光に救われることでしょう」

 露骨すぎる“上から目線”に、思わず私の血が逆流するのを感じた。しかし、周囲の貴族たちは見惚れたように「さすが聖女様……」などと呟いており、完全にリリアのペースだ。このままでは、私が“悔い改めるべき悪女”として既成事実化されてしまう。

 だが、ここで私が声を荒げても場を壊すだけだろう。せめて、今のうちに何らかの形でリリアの仕掛けを暴ければ……そう思い、私はレオニスと視線を交わす。すると、彼は小さく頷き、席を立った。

「リリア殿の“奇跡”……大変素晴らしかった。だが、私は隣国の王子として、ぜひ科学的な見地からも検証したいと考えている。――もしお差し支えなければ、そちらの仕掛けを少し調べてもよろしいだろうか?」

 会場がざわつく。王太子は「科学的な見地だと?」と眉を上げるが、リリアはかすかに微笑んだ。

「構いませんわ。もし私が偽物などという疑いを持たれているのなら、どうぞご自由にご覧になって。……ただし、“本物”をお見せするためには相応の代償が要るのですけれど」

 リリアの言葉が、薄ら寒い響きをもって私の耳に届く。――この場はまだまだ荒れそうだ。私は堪えきれない緊張と怒りを抱きながら、次の瞬間、何が起きるのかを見逃すまいと身構えた。

 ――晩餐会は、まだ始まったばかり。嵐の中心で、私たちの運命はどこへ向かうのか。

 物語は、さらに波乱の予感を孕みながらも、次章へと続く……。

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