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第4話 婚約破棄の儀式、始まる
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第4話 婚約破棄の儀式、始まる
王宮の大広間は、煌びやかなシャンデリアの光に照らされていた。
無数の燭台が揺らめき、磨き上げられた大理石の床にその光が反射して、まるで星空のように輝いている。
集まった廷臣や貴族たちは、息を潜めて中央の玉座を見守っていた。
そこに、第一王子エドモンドが立っていた。
金髪を優雅に流し、深紅のマントを羽織った彼は、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべている。
その隣には、クラリッサ・フォン・ローゼンベルクが、緊張した面持ちで立っていた。
分厚いすりガラスのような眼鏡をかけ、アホ毛が天を突く髪をなんとか押さえつけ、ドレスを整えている。
しかし、彼女の指先はわずかに震えていた。
エドモンドがゆっくりと口を開いた。
「クラリッサ・フォン・ローゼンベルク。貴様との婚約を、今この場で破棄する!」
その声が大広間に響き渡った瞬間、場内がざわついた。
貴族たちの視線が一斉にクラリッサに向けられる。
クラリッサは眼鏡をずり上げ、ぽかんと口を開けた。
「……は、はい? 今……なんと……?」
彼女の声は小さく、震えていた。
まるで信じられないという表情で、エドモンドを見つめる。
「とぼけるな! お前が悪女であることは、すでに広く知れ渡っている!」
エドモンドの声は冷たく、容赦ない。
「わ、悪女!? わ、わたくしが!?」
クラリッサはあたふたと両手を振り回す。
その拍子に、裾を踏んで――
「きゃあっ!」
大広間のど真ん中で盛大に転倒。
眼鏡が宙を舞い、床を転がる。
アホ毛がばさっと広がり、ドレスが乱れる。
「……メ、メガネ……メガネが……」
必死に床を這って眼鏡を探す姿は、どう見ても悪女というよりポンコツそのもの。
廷臣たちは「悪事を隠すために取り乱しているのだ」と勝手に解釈し、ひそひそ声を交わした。
「見苦しい……」
「取り乱し方が、かえって怪しいな」
「悪女め、最後まで往生際が悪い」
クラリッサは必死に弁明しようとした。
「ま、待ってくださいませ! わたくしは――」
だが王子は彼女の言葉を遮るように、声を張り上げた。
「黙れ! お前の悪行の数々、すでに証人もいる!」
――証人?
クラリッサの心臓がどくんと跳ねた。
それはつまり、誰かが自分を裏切ったということ。
場内の空気は一気に「悪女糾弾」の方向へ傾いていく。
「証人を呼べ!」
エドモンドの声に応じ、大広間にひとりの影が進み出た。
クラリッサの心臓が止まりそうになる。
「……ソフィア……!?」
そこに現れたのは、他ならぬ彼女の忠実なメイド。
いつもはそっと支えてくれた彼女が、今は王子の隣に立っている。
ソフィアは深々と一礼し、冷徹な声音で口を開いた。
「――お嬢様は長年にわたり、わたくしども使用人に理不尽な命令を繰り返し、日常的に嫌がらせをなさっていました」
「え……?」
クラリッサは絶句する。
「廊下で転ぶと『掃除が行き届いていないからだ!』と罵倒なさる。
髪が決まらないと『櫛の手入れがなっていない!』と折檻される。
その影に怯え、わたくしども使用人一同は常に震えておりました」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! あれは……わたくしが勝手に転んだだけで……!」
「偶然、何度も同じことが起こるでしょうか? すべて、お嬢様の性分ゆえです」
廷臣たちがざわめき、「やはり悪女か」と噂し合う。
クラリッサは必死にソフィアへ歩み寄ろうとした。
「ソフィア……あなた、どうして……!」
だが、ソフィアは王子の背に身を隠すようにして、冷ややかにクラリッサを見返す。
そして――口元に「ふっ」と、冷酷な笑みを浮かべた。
この場面で、絶対に現れるはずのないと思われていた人物が証人として姿を現したのだ。
クラリッサの動揺ぶり、その狼狽した様子こそが、彼女が本当に悪女である証拠――
廷臣も貴族も、皆そう納得してしまった。
エドモンドは満足げに頷き、ソフィアに向き直った。
「ソフィア、よくぞ言った」
ソフィアは控えめに頭を垂れる。
「これで、クラリッサは婚約者としての資格がないことが証明された。
よって、婚約破棄は正式に決定する」
大広間が静まり返る。
クラリッサは床に膝をついたまま、ただ呆然としていた。
眼鏡の奥で、瞳が揺れる。
しかし――
その瞳の奥底で、ほんの一瞬、冷たい光がきらめいた。
(……完璧ですわ。予定通り)
ソフィアは王子の隣で、静かに微笑んでいた。
その笑みは、忠実なメイドのものではなく、すべてを見通した者の確信に満ちたものだった。
クラリッサはゆっくりと立ち上がり、眼鏡をずり上げた。
「……わかりましたわ、殿下」
彼女の声は小さく、震えていた。
しかし、その震えは、誰も気づかないほどの微かなものだった。
エドモンドは勝ち誇ったように笑う。
「追放は即日とする。明日までに王都を去れ」
クラリッサは深く頭を下げた。
「かしこまりました……」
彼女はゆっくりと大広間を後にする。
背中を丸め、足取りは重く、まるで敗北した者のように。
しかし――
誰も見ていない廊下に出た瞬間、彼女は足を止めた。
そして、静かに呟いた。
「さあ……本当の幕開けですわ」
その声は、ポンコツ令嬢のものとは思えないほど、冷たく、確信に満ちていた。
大広間では、エドモンドがソフィアに近づき、耳元で囁く。
「よくやった。これからはお前が私のそばにいる」
ソフィアは控えめに微笑んだ。
「御意のままに、殿下」
その笑みの奥に、誰も知らない冷たい光が宿っていた。
婚約破棄の儀式は、無残に幕を閉じた。
しかし――
それは、クラリッサとソフィアが仕掛けた、壮大な逆転劇の、ほんの序章に過ぎなかった。
王宮の大広間は、煌びやかなシャンデリアの光に照らされていた。
無数の燭台が揺らめき、磨き上げられた大理石の床にその光が反射して、まるで星空のように輝いている。
集まった廷臣や貴族たちは、息を潜めて中央の玉座を見守っていた。
そこに、第一王子エドモンドが立っていた。
金髪を優雅に流し、深紅のマントを羽織った彼は、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべている。
その隣には、クラリッサ・フォン・ローゼンベルクが、緊張した面持ちで立っていた。
分厚いすりガラスのような眼鏡をかけ、アホ毛が天を突く髪をなんとか押さえつけ、ドレスを整えている。
しかし、彼女の指先はわずかに震えていた。
エドモンドがゆっくりと口を開いた。
「クラリッサ・フォン・ローゼンベルク。貴様との婚約を、今この場で破棄する!」
その声が大広間に響き渡った瞬間、場内がざわついた。
貴族たちの視線が一斉にクラリッサに向けられる。
クラリッサは眼鏡をずり上げ、ぽかんと口を開けた。
「……は、はい? 今……なんと……?」
彼女の声は小さく、震えていた。
まるで信じられないという表情で、エドモンドを見つめる。
「とぼけるな! お前が悪女であることは、すでに広く知れ渡っている!」
エドモンドの声は冷たく、容赦ない。
「わ、悪女!? わ、わたくしが!?」
クラリッサはあたふたと両手を振り回す。
その拍子に、裾を踏んで――
「きゃあっ!」
大広間のど真ん中で盛大に転倒。
眼鏡が宙を舞い、床を転がる。
アホ毛がばさっと広がり、ドレスが乱れる。
「……メ、メガネ……メガネが……」
必死に床を這って眼鏡を探す姿は、どう見ても悪女というよりポンコツそのもの。
廷臣たちは「悪事を隠すために取り乱しているのだ」と勝手に解釈し、ひそひそ声を交わした。
「見苦しい……」
「取り乱し方が、かえって怪しいな」
「悪女め、最後まで往生際が悪い」
クラリッサは必死に弁明しようとした。
「ま、待ってくださいませ! わたくしは――」
だが王子は彼女の言葉を遮るように、声を張り上げた。
「黙れ! お前の悪行の数々、すでに証人もいる!」
――証人?
クラリッサの心臓がどくんと跳ねた。
それはつまり、誰かが自分を裏切ったということ。
場内の空気は一気に「悪女糾弾」の方向へ傾いていく。
「証人を呼べ!」
エドモンドの声に応じ、大広間にひとりの影が進み出た。
クラリッサの心臓が止まりそうになる。
「……ソフィア……!?」
そこに現れたのは、他ならぬ彼女の忠実なメイド。
いつもはそっと支えてくれた彼女が、今は王子の隣に立っている。
ソフィアは深々と一礼し、冷徹な声音で口を開いた。
「――お嬢様は長年にわたり、わたくしども使用人に理不尽な命令を繰り返し、日常的に嫌がらせをなさっていました」
「え……?」
クラリッサは絶句する。
「廊下で転ぶと『掃除が行き届いていないからだ!』と罵倒なさる。
髪が決まらないと『櫛の手入れがなっていない!』と折檻される。
その影に怯え、わたくしども使用人一同は常に震えておりました」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! あれは……わたくしが勝手に転んだだけで……!」
「偶然、何度も同じことが起こるでしょうか? すべて、お嬢様の性分ゆえです」
廷臣たちがざわめき、「やはり悪女か」と噂し合う。
クラリッサは必死にソフィアへ歩み寄ろうとした。
「ソフィア……あなた、どうして……!」
だが、ソフィアは王子の背に身を隠すようにして、冷ややかにクラリッサを見返す。
そして――口元に「ふっ」と、冷酷な笑みを浮かべた。
この場面で、絶対に現れるはずのないと思われていた人物が証人として姿を現したのだ。
クラリッサの動揺ぶり、その狼狽した様子こそが、彼女が本当に悪女である証拠――
廷臣も貴族も、皆そう納得してしまった。
エドモンドは満足げに頷き、ソフィアに向き直った。
「ソフィア、よくぞ言った」
ソフィアは控えめに頭を垂れる。
「これで、クラリッサは婚約者としての資格がないことが証明された。
よって、婚約破棄は正式に決定する」
大広間が静まり返る。
クラリッサは床に膝をついたまま、ただ呆然としていた。
眼鏡の奥で、瞳が揺れる。
しかし――
その瞳の奥底で、ほんの一瞬、冷たい光がきらめいた。
(……完璧ですわ。予定通り)
ソフィアは王子の隣で、静かに微笑んでいた。
その笑みは、忠実なメイドのものではなく、すべてを見通した者の確信に満ちたものだった。
クラリッサはゆっくりと立ち上がり、眼鏡をずり上げた。
「……わかりましたわ、殿下」
彼女の声は小さく、震えていた。
しかし、その震えは、誰も気づかないほどの微かなものだった。
エドモンドは勝ち誇ったように笑う。
「追放は即日とする。明日までに王都を去れ」
クラリッサは深く頭を下げた。
「かしこまりました……」
彼女はゆっくりと大広間を後にする。
背中を丸め、足取りは重く、まるで敗北した者のように。
しかし――
誰も見ていない廊下に出た瞬間、彼女は足を止めた。
そして、静かに呟いた。
「さあ……本当の幕開けですわ」
その声は、ポンコツ令嬢のものとは思えないほど、冷たく、確信に満ちていた。
大広間では、エドモンドがソフィアに近づき、耳元で囁く。
「よくやった。これからはお前が私のそばにいる」
ソフィアは控えめに微笑んだ。
「御意のままに、殿下」
その笑みの奥に、誰も知らない冷たい光が宿っていた。
婚約破棄の儀式は、無残に幕を閉じた。
しかし――
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