傍若無人の悪役令嬢 ―幸せになりたいなら黙って私に従いなさい―

しおしお

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第2話 言論封殺王子? ならば罰しに来なさいませ

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 婚約破棄騒動から一夜明け、王宮では私の名前が昨日より二割増しでささやかれていた。

「第一王子を完全に論破したらしい……」
「殴らなかったことを褒めろと言ったとか……」
「いやむしろ殴られていたほうがマシなのでは……?」

 そんな声が回廊のあちこちで聞こえる。
 皆、私を見るとそっと視線を逸らし、道を空ける。

(まあ、当然ですわね)

 私、ヴァイオレット・アーデルハイトは今日も元気に、誤解を気にせず生きている。

 

◆側近、忠告を試みるが…

「お嬢様……昨日のご発言は、いささか過激では……?」

 忠臣アルフレッドが恐る恐る口を開いた。
 聡明で有能、私にもっとも近い側近のはずなのに、最近はずっと胃を押さえている。

「何がいけませんの? 本当のことを申し上げただけですわ」

「いや、しかし……あれではまるで、殿下を侮辱――」

「罰したければ来なさいと言いましたわよ?
 あの腰抜けにできるものなら、ぜひ」

 にっこり笑って言い切ると、アルフレッドは白目をむきかけた。

「お嬢様ァ……! 殿下は第一王子ですぞ!?
 罰しにきたらどうするのです!」

「それは大変。
 ――その瞬間、彼が“腰抜けではなかった”という証明になりますわね」

 アルフレッドの口がパクパクしている。
 魚かしら? それとも餌が欲しいのかしら?

「だいたい、殿下は“私が怖い”と言ったのです。
 怖い人間に会いに来る? そんな矛盾、私には理解できませんわ」

「……それは、確かに」

「でしょ?」

 

◆王宮での噂:言論封殺王子

 その日の午後――
 なぜか私の耳に、面白い噂が届いた。

「第一王子殿下が、ヴァイオレット嬢への反論を禁じたらしい」
「言論封殺だと……?」
「逆らった者は公開謝罪だとか!」

 ふむ。

「まあ……ずいぶんと往生際が悪いのね」

 私は紅茶を口に運びながら呟く。

「お嬢様、あの……本当に、殿下に逆らわないほうが……」

「逆らう? 私が?
 なぜそんな必要がありますの?」

「え、ええと……その……」

「私、王子の命令を聞く義務はありませんわ。
 “婚約者ではない”と殿下が昨日おっしゃいましたもの」

 側近たちが絶望的な顔になる。

「そもそも、
 私が黙ると本気で思っているの?」

 私は紅茶のカップを置き、さらりと言った。

 

◆ヴァイオレット、宣戦布告(してるつもりはない)

「殿下が本気で私を罰したいなら、正々堂々と会いに来ればいいのです。
 逃げ隠れしないで」

 アルフレッドが蒼白になり、椅子から転げ落ちた。

「お嬢様ああああ!!
 それは挑発です!!」

「挑発?違いますわ。“事実の指摘”です」

 私は心底あきれたようにため息をついた。

「怖いと言うなら、距離を置けばいいだけの話。
 それなのに、陰で噂を流したり、反論を禁じたり。
 ――まるで子供の癇癪ですわね?」

「ひ、ひいい……!」
側近たちが涙目で震える。

(どうして皆そんなに怖がるのかしら?
 私はいつも正しいだけなのに)

 

◆ざまぁの始まり

 その日の夕刻。
 宮廷中に、新たな火の手のような噂が広がった。

「第一王子殿下、ヴァイオレット嬢に“罰を与える”ために呼び出そうとしたが――」

「……断られたらしい」

「“用件がないなら会わない”と言われたとか……!」

 皆、信じられない顔で私を見つめる。

(何がそんなに驚くのかしら?)

 私はただ、当たり前のことしか言っていない。

 

◆ヴァイオレットの一言が宮廷を再び凍らせた

「第一王子殿下が本当に罰するおつもりなら、
 “まずご自身が私に勝てる”と証明なさいませ。
 ――無理でしょうけれど」

 宮廷が再び凍った。
 第一王子の顔は、きっと熟れすぎたトマトより真っ赤になっているだろう。

こうして、言論封殺王子ルーファスの“第一のざまぁ”が始まった。

しかしこれは――まだ序章にすぎない。

次に私が壊すのは、
領地のスラム街 である。


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