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第3話 スラム視察、即・破壊命令
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婚約破棄から数日後。
私は久しぶりに自領へ戻り、馬車で城下町を視察していた。
澄んだ青空。遠くに広がる森。
本来なら優雅な視察になるはずだったのだが――。
「……臭いですわね?」
窓を閉めても侵入してくる、鼻を刺すような悪臭。
私は眉をひそめ、扇子で鼻先を隠した。
「お嬢様、この先にスラム街が……」
と、側近アルフレッドが震え声で説明する。
「スラム?そんなもの、いつできましたの?」
「い、いえ……以前から……その、見て見ぬふりが……」
「見て見ぬふり?
誰がそんな非合理的な真似を許可したのかしら?」
アルフレッドが青ざめる。
(ああ、なるほど。私以外の全員ね)
馬車はやがて、汚れた路地へと入った。
そこは“街”というより、“放置された廃墟の集合体”に近い。
地面はぬかるみ、異臭が立ちこめ、
子どもがぼろ布のような服をまとって走り回り、
大人は疲れ果てて壁にもたれかかっている。
私の目に映るのは――
汚い、くさい、治安が悪い、そして不衛生。
(……許せませんわね)
◆ヴァイオレット、瞬時に決断する
「馬車を止めなさい。降りますわ」
側近たちが一斉に焦りだす。
「お嬢様!?危険です!ここは治安が――」
「見ればわかりますわよ。治安が悪いから、壊しますの」
「は、壊……!?」
私は靴を汚さぬようスカートを軽く持ち上げ、地面に降り立つ。
周囲の住民が驚いた目で私を見る。
「あなたが……領主……様……?」
かろうじて声をかけてきた老人に、私は優雅に微笑む。
「いいえ。――“領主を動かす者”ですわ」
◆不満?反乱?聞いていませんわ
アルフレッドが横から必死に耳打ちする。
「お嬢様、住民たちはおそらく不満を抱えております。
強引に動けば反発が――」
「その不満、以前に私へ正式に申請しました?」
「い、いえ……していませんが……」
「なら聞く必要ありませんわ」
アルフレッド、崩れ落ちる。
◆暴虐改革・第一号命令
「周囲の役人を全員ここに集めなさい」
私は扇子を軽く鳴らして命じた。
間もなく、緊張した顔の役人たちが整列する。
「さて。あなた方に命じます」
私はスラムの惨状をぐるりと見渡し、冷たく言い放った。
「――このスラム街、全部壊しなさい」
住民「えっ?」
役人「は、はいっ……?」
「汚い。臭い。治安が悪い。健康被害もある。
理由は十分。壊しなさい」
役人A「ですが、住民の行き場が――!」
「難民キャンプを作ります。番号札を配布して順番に入場させなさい。
食事、衣服、寝床は最低限保証します」
「な、難民キャンプを……そんな早急に作るのは……!」
「できない理由を探す暇があるなら、手を動かしなさい。
“できる方法”は探すものですわ」
役人たちが一斉に口をつぐむ。
◆住民の反応:混乱と恐怖
住民たちはざわめき始めた。
「追い出されるのか……?」
「でも、住む場所が……」
「本当に作ってくれるのか……?」
そして、一人の少女が私のドレスの裾をつまんだ。
「……お姉さま……ほんとに、おうち……くれるの?」
痩せた少女。のちに私の腹心となるミーナである。
私はしゃがみ、彼女の目線に合わせて微笑んだ。
「当然ですわ。私が壊すのですもの、責任を持ちます」
ミーナの目に涙が浮かぶ。
「ほんと……?」
「嘘をつくくらいなら、こんな場所見に来ませんわ」
◆改革の始まりと、悪評の拡散
私は立ち上がり、側近に命じた。
「壊す区画から順に、住民を避難させなさい。
明日から工事開始ですわ」
「明日!? は、はいッ!」
役人たちが蜘蛛の子を散らすように動き出す。
その夜、城下では噂が飛び交った。
「ヴァイオレット様がとうとうスラムを破壊したらしい」
「婚約破棄の八つ当たりでは……?」
「住民が犠牲に……!」
非難は嵐のようだった。
しかし私は――。
「八つ当たり?
ええ、立派な八つ当たりですわ。
私の領地に、汚物のような場所があるのが我慢できなかっただけ」
と紅茶を飲みながら、優雅に答えた。
その姿を見て、アルフレッドは気を失いかけた。
こうして、暴虐改革は動き出した。
私は久しぶりに自領へ戻り、馬車で城下町を視察していた。
澄んだ青空。遠くに広がる森。
本来なら優雅な視察になるはずだったのだが――。
「……臭いですわね?」
窓を閉めても侵入してくる、鼻を刺すような悪臭。
私は眉をひそめ、扇子で鼻先を隠した。
「お嬢様、この先にスラム街が……」
と、側近アルフレッドが震え声で説明する。
「スラム?そんなもの、いつできましたの?」
「い、いえ……以前から……その、見て見ぬふりが……」
「見て見ぬふり?
誰がそんな非合理的な真似を許可したのかしら?」
アルフレッドが青ざめる。
(ああ、なるほど。私以外の全員ね)
馬車はやがて、汚れた路地へと入った。
そこは“街”というより、“放置された廃墟の集合体”に近い。
地面はぬかるみ、異臭が立ちこめ、
子どもがぼろ布のような服をまとって走り回り、
大人は疲れ果てて壁にもたれかかっている。
私の目に映るのは――
汚い、くさい、治安が悪い、そして不衛生。
(……許せませんわね)
◆ヴァイオレット、瞬時に決断する
「馬車を止めなさい。降りますわ」
側近たちが一斉に焦りだす。
「お嬢様!?危険です!ここは治安が――」
「見ればわかりますわよ。治安が悪いから、壊しますの」
「は、壊……!?」
私は靴を汚さぬようスカートを軽く持ち上げ、地面に降り立つ。
周囲の住民が驚いた目で私を見る。
「あなたが……領主……様……?」
かろうじて声をかけてきた老人に、私は優雅に微笑む。
「いいえ。――“領主を動かす者”ですわ」
◆不満?反乱?聞いていませんわ
アルフレッドが横から必死に耳打ちする。
「お嬢様、住民たちはおそらく不満を抱えております。
強引に動けば反発が――」
「その不満、以前に私へ正式に申請しました?」
「い、いえ……していませんが……」
「なら聞く必要ありませんわ」
アルフレッド、崩れ落ちる。
◆暴虐改革・第一号命令
「周囲の役人を全員ここに集めなさい」
私は扇子を軽く鳴らして命じた。
間もなく、緊張した顔の役人たちが整列する。
「さて。あなた方に命じます」
私はスラムの惨状をぐるりと見渡し、冷たく言い放った。
「――このスラム街、全部壊しなさい」
住民「えっ?」
役人「は、はいっ……?」
「汚い。臭い。治安が悪い。健康被害もある。
理由は十分。壊しなさい」
役人A「ですが、住民の行き場が――!」
「難民キャンプを作ります。番号札を配布して順番に入場させなさい。
食事、衣服、寝床は最低限保証します」
「な、難民キャンプを……そんな早急に作るのは……!」
「できない理由を探す暇があるなら、手を動かしなさい。
“できる方法”は探すものですわ」
役人たちが一斉に口をつぐむ。
◆住民の反応:混乱と恐怖
住民たちはざわめき始めた。
「追い出されるのか……?」
「でも、住む場所が……」
「本当に作ってくれるのか……?」
そして、一人の少女が私のドレスの裾をつまんだ。
「……お姉さま……ほんとに、おうち……くれるの?」
痩せた少女。のちに私の腹心となるミーナである。
私はしゃがみ、彼女の目線に合わせて微笑んだ。
「当然ですわ。私が壊すのですもの、責任を持ちます」
ミーナの目に涙が浮かぶ。
「ほんと……?」
「嘘をつくくらいなら、こんな場所見に来ませんわ」
◆改革の始まりと、悪評の拡散
私は立ち上がり、側近に命じた。
「壊す区画から順に、住民を避難させなさい。
明日から工事開始ですわ」
「明日!? は、はいッ!」
役人たちが蜘蛛の子を散らすように動き出す。
その夜、城下では噂が飛び交った。
「ヴァイオレット様がとうとうスラムを破壊したらしい」
「婚約破棄の八つ当たりでは……?」
「住民が犠牲に……!」
非難は嵐のようだった。
しかし私は――。
「八つ当たり?
ええ、立派な八つ当たりですわ。
私の領地に、汚物のような場所があるのが我慢できなかっただけ」
と紅茶を飲みながら、優雅に答えた。
その姿を見て、アルフレッドは気を失いかけた。
こうして、暴虐改革は動き出した。
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