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第4話 強制退去と、前代未聞の難民キャンプ
しおりを挟む翌朝。
スラム街は、昨日までの静けさが嘘のように騒然としていた。
「こっちの家族から退去だ!」
「番号札を配れ!順番を間違えるな!!」
「荷物は最小限でいい!すぐに離脱させろ!」
役人たちが半泣きで走り回り、住民は混乱し、子供は泣き、
大人たちは怒鳴り、叫び、祈る――まさに混乱の坩堝。
その中心で私は、扇子を優雅に広げていた。
「……ちっとも進んでいませんわね?」
側近アルフレッドが、疲れ切った顔で報告する。
「お嬢様……っ! 住民たちが“急すぎる”と抗議して……
それに、スラムには路地が多く、荷物の搬出も――」
「なら壊しながら進めればよろしいでしょう?」
「壊、壊しながら……!?」
「物理的に道がなければ造ればいいだけの話ですわ。
“工事しながら整理”――そんな簡単な理屈も分からないのかしら?」
アルフレッドはまた膝をついた。今日だけで二十回目である。
◆住民の混乱と恐怖
「待ってくれ! 家を壊すなんて聞いてない!」
「こんな急に追い出されるなんて……!」
「俺たち、どこへ行けば……!」
住民の叫びが飛び交う。
しかし私は、その中にひそむ“本音”を聞き取っていた。
(行き場が不安なだけですわね)
そこで私は役人に向かって声を張る。
「番号札は全員に配布しなさい!
同じ番号を持っていれば、必ず住む場所が与えられます」
「えっ……?」
住民たちが一斉にこちらを見る。
「あなた方を見捨てるぐらいなら、最初から壊しませんわよ。
――壊すからには、必ず新しく作ります」
住民の間に、困惑と安堵が混ざったざわめきが広がる。
「……本当に……?」
「嘘だったら許さねぇ……」
「でも、こんな貴族、初めて見た……」
◆難民キャンプ、前代未聞のスピード設営
「工兵隊を呼びなさい。
ここに、難民キャンプを今日中に作りますわ」
「きょ、今日中!? む、無理ですっ!!」
「無理かどうかは、あなた方ではなく“私”が決めます」
その一言で、役人たちが走り出した。
“命令が絶対”というのは、こういう時に便利である。
▼キャンプ設営の内容
・大型テント
・共同炊事場、洗い場
・簡易シャワー
・衣服配布
・医師の派遣
・治安維持のための衛兵常駐
わずか数時間で見違えるように整備されていく。
「お嬢様……っ、こんな短時間でここまで……!」
「人間、本気を出せば何でもできますわ」
アルフレッドの目に光が戻る。
◆ミーナとの出会い
その時、また昨日の少女――ミーナが、番号札を握りしめて走ってきた。
「ヴァイオレット様! 私も……これ、もらった!」
手には 番号札24番。
「ええ、良かったですわね。
その番号で、公営住宅が完成したら優先的に入れます」
「ほんと? ほんとに、おうち……?」
「そう言いましたでしょう?
嘘をつくのは、嫌いなんですの」
ミーナは、ぽろぽろ泣きながら微笑んだ。
「……ありがとう……!」
この純粋さは毒のように胸に刺さる――
いや、これは感動だ。多分。
◆悪評の広がりとヴァイオレットの“無関心”
一方その頃、外では――。
「ヴァイオレット様が、住民を強制退去させた!」
「八つ当たりだ!怖い!」
「災厄の令嬢だ!」
悪評は燃え広がっていた。
だが。
「お嬢様! 世間は誤解だらけです!対処しないと――!」
「誤解?最初から気にしていませんわ。
私は汚い場所を壊して、住む場所を作っているだけですもの」
「……っ!」
アルフレッドは頭を抱えた。
「本当に、誤解だと思っていないのですね……」
「ええ。“八つ当たり”でしたもの。
私の領地にこんな場所があるのが、急に許せなくなっただけ」
さらりと言った瞬間、
アルフレッド「お嬢様ああああああっ!!」
地面に倒れ込む。
(何をそんなに驚いているのかしら?)
こうしてヴァイオレットは、非難も恐怖も何一つ気にせず、
ただ“正しいと思うこと”を実行していくのであった。
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