18 / 32
第18話 第二王子の本音 ——“優秀すぎて邪魔”と言われた男
しおりを挟む前日の大口論から一夜明けた朝。
しかし二人はまるで何事もなかったかのように、
同じテーブルで並んで朝食を取っていた。
(……なぜこうなっているのかしら?)
エマは紅茶を飲みながら震えていた。
昨日あれだけ怒鳴り合っていた二人が、
当たり前のように隣り合って座っているのだ。
当人たちはといえば。
「パンが硬い。焼き直せ」
「なら自分で焼けばよろしいでしょう?」
「なっ……!」
「文句を言うなら行動で示しなさいませ」
「お前は教育係か!」
この調子である。
---
◆◆セドリック、本音を漏らす◆◆
ふと、ヴァイオレットが鋭く切り込んだ。
「昨日の話ですけれど……
“扱いづらいから王位候補から外された”とは、どういう意味かしら?」
「……聞かれていたか」
「目の前で叫んでいましたもの。聞こえますわよ」
「ぐ……!」
セドリックはしぶしぶ、フォークを置いた。
「あれは……本当に、そのままの意味だ」
「側近や政治家たちが言うには、
俺は“理詰めすぎて可愛げがない”らしい。
どんな案件でも正論で押し通し、妥協しない。
だから“扱いづらい王になる”と判断された」
「つまり——」
「“有能すぎると都合が悪い”ってことだ」
自嘲気味に笑った。
「国には、表向きの王が必要なのだと。
俺のような“論破の塊”は、前に立つべきではないと」
自分で言いながらも、少しだけ悔しさが滲んでいる。
「……わかっただろう?
俺は王家から外されたんだよ。
だから、王都の政治も……少し冷めて見ている」
(この男……プライドが高いくせに、傷つき方が不器用……)
ヴァイオレットは静かに紅茶を置く。
---
◆◆ヴァイオレット、彼を否定しない◆◆
「……それで?あなたは、何が不満ですの?」
「は……?」
「王位に興味がありましたの?違うでしょう?」
「ぐ……!」
「あなたは王位に“立てなかった”のではなく、
“向いていなかった側”が勝手に外しただけですわ」
セドリックは目を見開いた。
「あなたの欠点はただ一つ——妥協しないこと。
でも、それは欠点である以上に、美徳ですわよ」
「美……徳……?」
「当然でしょう。
改革は妥協で進みませんわ。
我が領地を見ていれば、理解できるはずですけど?」
「……っ!」
「それに」
ヴァイオレットはふっと笑った。
「“扱いづらい”のは、あなたが正しい方向を知っているから。
間違いをごまかさないから。
そんな殿下のほうが、私はよほど信頼できますわ」
セドリックの耳まで一気に赤く染まった。
「な、なにを堂々と言って……!!」
「褒めただけですわよ?
褒められ慣れていないのかしら?」
「う、うるさい!!」
しかし、彼が顔をそらしても、横顔はどこか嬉しそうだった。
---
◆◆周囲の反応◆◆
エマ
(ああ……終わったわ……この二人、完全に相性最悪で……完璧に相性最高……)
ミーナ
「殿下、褒められて照れてる……かわいい……」
アルフレッド
(ああ……ここから“恋の火種”になるのですね……胃薬……)
---
◆◆セドリックの逆襲◆◆
しかし、照れながらも王子は黙らない。
「……だがな、ヴァイオレット」
「なんですの?」
「そんな俺を褒めるなら、覚悟しておけ」
「覚悟?」
「俺は一度興味を持った相手には……
容赦なく踏み込むタイプだ」
「まあ」
「逃がす気はないからな?」
一瞬、ヴァイオレットの呼吸が止まった。
(……この男……言うことがいちいち直球……!)
そして——
「望むところですわ。
私も、逃げるつもりはありませんもの」
二人の間の空気が、微かに熱を帯びた。
---
◆◆最後の一言◆◆
セドリック
「……それともう一つ」
ヴァイオレット
「?」
セドリック
「昨日の“腰抜け”って言葉……二度と使うな」
ヴァイオレット
「ふふ。では、使われないよう努力なさって?」
「お前という女はッ!!!」
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
王太子妃に興味はないのに
藤田菜
ファンタジー
眉目秀麗で芸術的才能もある第一王子に比べ、内気で冴えない第二王子に嫁いだアイリス。周囲にはその立場を憐れまれ、第一王子妃には冷たく当たられる。しかし誰に何と言われようとも、アイリスには関係ない。アイリスのすべきことはただ一つ、第二王子を支えることだけ。
その結果誰もが羨む王太子妃という立場になろうとも、彼女は何も変わらない。王太子妃に興味はないのだ。アイリスが興味があるものは、ただ一つだけ。
婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。
ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる