傍若無人の悪役令嬢 ―幸せになりたいなら黙って私に従いなさい―

しおしお

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第26話 住民が気づいたこと――悪役令嬢は救いの女帝?

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昼下がりの公営住宅街。
新しく舗装された広場には子どもたちが走り回り、
商店街には活気が満ちていた。

そこに、ヴァイオレットが視察に訪れる。

「ふむ。
……以前のスラムより、ずっとマシになりましたわね。」

周囲が一瞬静まり返る。

(“以前のスラム”という単語だけで地元住民の心臓が縮むのは、
もう条件反射だった。)

しかし――次の瞬間。

「お嬢様!!」

若い母親が飛び出してきた。
その腕には、元気に笑う赤ん坊が抱かれている。

「この子……ずっと咳が止まらなかったのに、
下水道ができてから、すっかり良くなって!
……本当に、ありがとうございます!」

周囲の住民たちも次々と集まる。

「道路が整ってから、荷物を運ぶ仕事が増えました!」
「夜でも街灯があって、安全で……妻が安心して外に出られます!」
「公営住宅のおかげで、雨の日も家族で暖かく過ごせます!」

ヴァイオレットは扇子をぱちんと閉じた。

「……何のつもりですの?
私はただ、汚いものを壊して、合理的に作り直しただけですわ。」

住民たちは顔を見合わせた。

そして、ひとりの老人が一歩前へ出る。

「……ふむ。
お嬢様はご自身が善行をしているという自覚が、全くないようじゃの。」

「善行……?」
ヴァイオレットは小さく眉を寄せる。

老人は穏やかに言った。

「皆、気づいておるのじゃ。
恐ろしく見えるが……あなた様は、一度たりとも私らを見捨てなんだ。」

その言葉に、住民たちが一斉に頷く。

「恐ろしく見える」
「暴君に見える」
「でも一番、私たちの生活を良くしてくれた」

そんな声が次々と上がった。

ミーナは感極まって涙ぐんでいる。

「お嬢様……!
みんな、ちゃんと見てます……!」

ヴァイオレットは視線を逸らした。

「……勘違いなさらないで。
私は、貧困も不衛生も非合理も、ただ気に入らなかっただけですわ。」

老人が笑う。

「では、その“気に入らなかった”というお気持ちに――
この領地は救われたのじゃな。」

住民一同、拍手。

ぱちぱちぱちぱち……

ヴァイオレットは扇子で顔を隠しながら呟いた。

「……勝手にすればよろしいですわ。
私は褒められるためにしたわけではありません。」

すると、遠くから声が飛んだ。

「おい、ヴァイオレット!」

セドリック第二王子が歩いてきた。

「何だこの騒ぎは?」

「……領民が勝手に騒いでいるだけですわ。」

セドリックは周囲を見る。

子どもたちの笑顔、賑わう商店、
そしてヴァイオレットを見つめる住民の温かな目。

彼は感心したように眉を上げた。

「――すげぇじゃねぇか。
アンタ、本気で国を変える気あるんだな。」

「ありませんわ。
私はただ、自分の領地が汚れているのが嫌だっただけですの。」

住民全員(※心の声)
(絶対そんな単純じゃない……)

セドリックは苦笑して言った。

「素直じゃねぇな、悪役令嬢。」

「あなたこそ、口を慎みなさいませ。」

二人が口論を始める。

しかし――その姿を見た住民たちは、
自然と笑顔を浮かべていた。

「……間違いない。
このお嬢様は、史上最高の領主様だ。」

「怖いけど、頼れる!」

「口は悪いが、やることは正しい!」

かつての悪評は消え、
ヴァイオレットはついに――

“救世の女帝”

と呼ばれ始めるのであった。


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