公爵令嬢、爵位を弟に譲って隠居したのにどうして悪党狩りなんてしているのでしょう?

しおしお

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第4章 裁きと本当の隠居

4-4 アメリア、ようやく静けさを手に入れる

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第4章 4-4 アメリア、ようやく静けさを手に入れる

――「これでようやく……ゆっくり隠居できますわね」

 王都でのすべてが片付き、
 裁きが終わり、弟の立派な後ろ姿を見届け、
 アメリアは、深く静かな息を吐いた。

 森の小鳥たちのさえずりが、どこまでも澄んで聞こえる。

 ここは――
 彼女が選んだ、静かな森の別邸だった。

 城からの帰り道、馬車の窓から見える緑は優しく揺れ、
心に染み渡るようで、彼女は思わず目を細めてしまう。

「やっと……戻ってこられましたわね」

◆ ◆ ◆

◆森の別邸、静寂への帰還

 別邸の扉を開けた瞬間、ひんやりとした木の香りが広がった。

 アメリアは深呼吸した。

「……落ち着きますわぁ……」

 壁一面の本棚。
 柔らかな絨毯。
 丸窓から差し込む午後の日差し。

 何より――
 この家には、誰もいない。誰も干渉しない。

 ただ静けさだけが、優しく寄り添っている。

(ようやく……本当に隠居できますわ)

 そう心の中で呟くと、胸の重さがふっと消えるのを感じた。

◆ ◆ ◆

◆日常の再開――お茶、読書、そして昼寝

 旅の荷物を片付けるより先に、
彼女はキッチンへ向かい、こだわりの茶葉を取り出した。

 王都では慌ただしすぎて味わえなかった――
 お気に入りの香り。

「やっぱり、これですわ……」

 湯気とともに立ち上る柔らかな香りに目を細めながら、
アメリアは紅茶を片手に窓辺のソファへ向かった。

 外では風が木々を揺らし、
 日差しがゆらゆら揺れて影を落とす。

 その光と影のリズムは、
アメリアをふわりとした眠りへ誘う魔法のようだった。

 ページをめくりながら――
 目が自然と落ちていく。

「……ふぁ……あぁ……」

 気づけば、紅茶は半分も減らずに冷めていた。

 彼女はソファに身体を横たえ――
 静かに眠りに落ちた。

◆ ◆ ◆

◆猫との新しい生活

 夕刻。
 目を覚ますと、胸の上に重みがあった。

「……? まぁ、あなたでしたのね」

 森で拾った灰色の猫――モッカだ。

 アメリアが目を覚ますと、
モッカは喉をくぐらせながら、頭をアメリアの頬にこすりつけた。

「ただいま、モッカ。寂しかった?」

「……にゃぁ」

 小さな返事が、胸の奥まで沁みる。

「ふふ……これですわ。私の幸せは」

 王都での戦いでは、
 この柔らかい日常を何度も思い出して頑張れた。

 アメリアはモッカを抱き上げ、
暖炉の近くに置いた猫用クッションへそっと乗せた。

「今日からまた……のんびり過ごしましょうね」

◆ ◆ ◆

◆村人たちの“噂”

 翌日。
 アメリアが畑に種を植えていると、
村の老婆、ミーナが籠を抱えてやって来た。

「アメリア様、おかえりなさいまし」

「あら、ミーナさん。ただいま戻りましたわ」

 他愛ない会話が続いた後、ミーナがふと周囲を見回して声を潜めた。

「……仮面の令嬢は、もう現れませんかねぇ?」

 アメリアは土をならしながら、微笑を崩さずに聞き返した。

「まぁ……それはどうでしょうね?」

「この村では、
 “悪人を懲らしめてくれる守護者がいる”って噂になってましてねぇ。
 森におわす、仮面の令嬢様だって……」

「そんな、おとぎ話のようですわね」

「えぇ、本当に。……でも、みんな信じてるんですよ。
 あの方のおかげで、村が守られたって」

 アメリアは優しく笑った。

「安心してくださいな。
 この村は、これからも安全ですわ」

「そうであると嬉しいわねぇ。
 ……あ、それと、これ。焼きたてのパンです」

「まぁ!ありがとうございます。嬉しいですわ」

 ミーナが帰ったあと、アメリアは小さく呟いた。

(……守護者、ですか。
 嬉しい呼び名ではありますけれど……私はただ、平穏に暮らしたいだけですの)

 モッカが足元ですり寄る。

「ねぇ、モッカ。
 もう働きたくないですわよね?」

「にゃぁ」

「でしょう? だから、もう事件は起こらないで欲しいものですわ……」

 その願いは切実だった。

◆ ◆ ◆

◆静かに流れる時間――誰にも邪魔されない日々

 午後は庭でティータイム。
 夕刻は小川まで散歩。
 夜は暖炉の前でお気に入りの毛布にくるまって本を読む。

 そして――
 眠くなったら、眠る。

 そのどれもが、アメリアにとっては贅沢だった。

(ああ……これですわ。
 これこそが、私の求めた隠居生活です)

 心の中でそっと呟き、目を閉じる。

◆ ◆ ◆

◆誰も知らない未来――仮面の令嬢の伝説

 その頃、王都では――
「仮面の令嬢」と呼ばれる人物が民衆の間で語られ、
彼女が闇を払ったという噂は半ば伝説となっていた。

 だが、その人物が
森の隠居令嬢アメリアだと知る者はいない。

 弟ルシアンですら、
「姉上なら、今ごろ昼寝しているはず」としか思っていない。

◆ ◆ ◆

◆アメリアの本音

 夜、猫を抱きながらベッドに入ったアメリアは、
満ち足りたため息をついた。

「……これでようやく……ゆっくり隠居できますわね」

 森の風が窓から吹き込み、
 カーテンが優しく揺れた。

 もう、騒がしい婚約者に怒鳴られることも、
 領地で責任に押しつぶされることも、
 他人に期待され続ける日々もない。

 静かで、温かくて、
 どこまでも穏やかな日々だけがある。

 それこそが――
 アメリアの選んだ幸福だった。

「明日は……
 昼まで寝て、午後はお茶を飲んで、
 夜は猫と一緒に暖炉の前でくつろぎますわ」

 そう決めて、彼女は優しく笑い――
そのまま静かに眠りについた。
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