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第二話 森で襲撃、熊のぬいぐるみ召喚
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第二話
森で襲撃、熊のぬいぐるみ召喚
森は、想像以上に静かだった。
――静かすぎる、と言ったほうが正しい。
教会を追放されてから、どれほど歩いただろう。
足は重く、喉は乾き、肩にかかる夕闇が少しずつ濃くなっていく。
「……日が、落ちる……」
私は立ち止まり、空を見上げた。
木々の隙間から見える空は、すでに赤から紫へと変わりつつある。
まずい。
森で夜を迎える危険性は、何度も聞かされてきた。
夜行性の魔物、獣、そして――人ではない“何か”。
武器はない。
護衛もいない。
教会の加護も、もうない。
「……追放って……
本当に……放り出すだけなのね……」
自嘲気味に呟いた声は、すぐに木々に吸い込まれた。
そのとき。
――ガサッ。
背後の茂みが、わずかに揺れた。
「……?」
気のせいだと、思いたかった。
でも。
――ガサガサ。
今度は、はっきりとした音。
背中を、冷たいものが走る。
「……まさか……」
私は、ゆっくりと振り返った。
闇の中。
木々の影の奥。
赤く光る、複数の点。
「……目……?」
瞬間、理解する。
「……モンスター……」
姿を現したのは、狼に似た魔物だった。
筋肉質の体。
剥き出しの牙。
唸り声が、低く喉を震わせる。
一体、二体――三体。
「……嘘……」
足が、動かない。
逃げなきゃ。
分かっているのに、体が言うことを聞かない。
魔物たちは、じりじりと距離を詰めてくる。
「……やだ……」
声が、震えた。
「……こんな……
こんな終わり方……」
追放されて、
誰にも必要とされず、
森で――
「……嫌……」
胸の奥が、熱くなる。
恐怖。
悔しさ。
そして――生きたいという、必死な願い。
「……私は……」
私は、震える手を前に突き出した。
「……役立たずでも……」
教会で、何度も嘲笑された光景が脳裏をよぎる。
「タンスしか呼べない聖女様だ」
「ぬいぐるみで戦えというのか?」
――それでも。
「……今……使えるのは……」
喉が、ひくりと鳴る。
「……これしか……ない……!」
私は、叫んだ。
「――召喚!!」
淡い光が、弾ける。
魔物たちが、一瞬だけ動きを止めた。
次の瞬間。
私の目の前に現れたのは――
「……くま……?」
少し汚れた、
熊のぬいぐるみだった。
両手を広げた、間の抜けた姿。
ふさふさした毛並み。
「……また……ぬいぐるみ……」
自嘲が、喉に詰まる。
「……やっぱり……」
役に立たない。
逃げる時間すら、稼げない。
魔物が、跳躍した。
「……っ!」
私は、思わず目を閉じた。
――終わりだ。
そう、思った瞬間。
――ドン。
重い音が、地面を揺らした。
「……?」
恐る恐る、目を開く。
そこには――
立ち上がった熊のぬいぐるみがいた。
「……え……?」
ぬいぐるみのはずの身体が、
確かな質量をもって大地を踏みしめている。
熊は、ゆっくりと首を動かし、
魔物たちを見据えた。
その瞬間。
視界に、文字が浮かぶ。
> 《覚醒スキル発動》
《付喪神》
《非生物に魂を付与します》
「……覚醒……?」
理解が追いつかない。
次の瞬間。
熊のぬいぐるみが、動いた。
――ズンッ!
その腕が、振るわれる。
一体の魔物が、
宙を舞った。
「……え……?」
――ドサッ。
地面に叩きつけられ、動かなくなる。
残りの魔物が、怯えたように後ずさる。
だが、熊は止まらない。
――ドン!
――ズン!
次々と、魔物を殴り倒す。
「……な……」
あまりにも、一方的だった。
牙も、爪も、
熊のぬいぐるみには届かない。
最後の一体は、逃げようとして――
熊に押さえつけられ、沈黙した。
森に、静けさが戻る。
「…………」
私は、その場に立ち尽くしていた。
熊のぬいぐるみは、
ゆっくりとこちらへ振り返る。
丸い目が、私を映す。
「……あ……」
声が、震える。
「……助けて……くれたの……?」
返事はない。
けれど、熊は私の前に立ち、
守る位置を取った。
まるで――
それが当然であるかのように。
私は、膝から力が抜け、その場に座り込んだ。
「……生きて……る……」
胸が、どくどくと鳴る。
視界に、再び文字が浮かんだ。
> 《付喪神:熊のぬいぐるみ》
《状態:安定》
《守護対象:召喚者》
「……付喪神……」
口の中で、言葉を転がす。
教会では、聞いたこともないスキルだった。
「……役立たず……じゃ……なかった……」
私は、熊を見上げる。
「……ただ……
目を覚ます場所が……
違っただけ……」
熊のぬいぐるみは、
ポン、と自分の胸を叩いた。
――任せろ。
そんな意味に見えて、
思わず、涙が滲んだ。
森の夜は、もうすぐそこまで迫っている。
けれど――
私は、もう一人ではなかった。
追放された聖女見習いは、
この夜、
初めて“仲間”と共に、闇に立った。
それが、
すべての始まりだった。
森で襲撃、熊のぬいぐるみ召喚
森は、想像以上に静かだった。
――静かすぎる、と言ったほうが正しい。
教会を追放されてから、どれほど歩いただろう。
足は重く、喉は乾き、肩にかかる夕闇が少しずつ濃くなっていく。
「……日が、落ちる……」
私は立ち止まり、空を見上げた。
木々の隙間から見える空は、すでに赤から紫へと変わりつつある。
まずい。
森で夜を迎える危険性は、何度も聞かされてきた。
夜行性の魔物、獣、そして――人ではない“何か”。
武器はない。
護衛もいない。
教会の加護も、もうない。
「……追放って……
本当に……放り出すだけなのね……」
自嘲気味に呟いた声は、すぐに木々に吸い込まれた。
そのとき。
――ガサッ。
背後の茂みが、わずかに揺れた。
「……?」
気のせいだと、思いたかった。
でも。
――ガサガサ。
今度は、はっきりとした音。
背中を、冷たいものが走る。
「……まさか……」
私は、ゆっくりと振り返った。
闇の中。
木々の影の奥。
赤く光る、複数の点。
「……目……?」
瞬間、理解する。
「……モンスター……」
姿を現したのは、狼に似た魔物だった。
筋肉質の体。
剥き出しの牙。
唸り声が、低く喉を震わせる。
一体、二体――三体。
「……嘘……」
足が、動かない。
逃げなきゃ。
分かっているのに、体が言うことを聞かない。
魔物たちは、じりじりと距離を詰めてくる。
「……やだ……」
声が、震えた。
「……こんな……
こんな終わり方……」
追放されて、
誰にも必要とされず、
森で――
「……嫌……」
胸の奥が、熱くなる。
恐怖。
悔しさ。
そして――生きたいという、必死な願い。
「……私は……」
私は、震える手を前に突き出した。
「……役立たずでも……」
教会で、何度も嘲笑された光景が脳裏をよぎる。
「タンスしか呼べない聖女様だ」
「ぬいぐるみで戦えというのか?」
――それでも。
「……今……使えるのは……」
喉が、ひくりと鳴る。
「……これしか……ない……!」
私は、叫んだ。
「――召喚!!」
淡い光が、弾ける。
魔物たちが、一瞬だけ動きを止めた。
次の瞬間。
私の目の前に現れたのは――
「……くま……?」
少し汚れた、
熊のぬいぐるみだった。
両手を広げた、間の抜けた姿。
ふさふさした毛並み。
「……また……ぬいぐるみ……」
自嘲が、喉に詰まる。
「……やっぱり……」
役に立たない。
逃げる時間すら、稼げない。
魔物が、跳躍した。
「……っ!」
私は、思わず目を閉じた。
――終わりだ。
そう、思った瞬間。
――ドン。
重い音が、地面を揺らした。
「……?」
恐る恐る、目を開く。
そこには――
立ち上がった熊のぬいぐるみがいた。
「……え……?」
ぬいぐるみのはずの身体が、
確かな質量をもって大地を踏みしめている。
熊は、ゆっくりと首を動かし、
魔物たちを見据えた。
その瞬間。
視界に、文字が浮かぶ。
> 《覚醒スキル発動》
《付喪神》
《非生物に魂を付与します》
「……覚醒……?」
理解が追いつかない。
次の瞬間。
熊のぬいぐるみが、動いた。
――ズンッ!
その腕が、振るわれる。
一体の魔物が、
宙を舞った。
「……え……?」
――ドサッ。
地面に叩きつけられ、動かなくなる。
残りの魔物が、怯えたように後ずさる。
だが、熊は止まらない。
――ドン!
――ズン!
次々と、魔物を殴り倒す。
「……な……」
あまりにも、一方的だった。
牙も、爪も、
熊のぬいぐるみには届かない。
最後の一体は、逃げようとして――
熊に押さえつけられ、沈黙した。
森に、静けさが戻る。
「…………」
私は、その場に立ち尽くしていた。
熊のぬいぐるみは、
ゆっくりとこちらへ振り返る。
丸い目が、私を映す。
「……あ……」
声が、震える。
「……助けて……くれたの……?」
返事はない。
けれど、熊は私の前に立ち、
守る位置を取った。
まるで――
それが当然であるかのように。
私は、膝から力が抜け、その場に座り込んだ。
「……生きて……る……」
胸が、どくどくと鳴る。
視界に、再び文字が浮かんだ。
> 《付喪神:熊のぬいぐるみ》
《状態:安定》
《守護対象:召喚者》
「……付喪神……」
口の中で、言葉を転がす。
教会では、聞いたこともないスキルだった。
「……役立たず……じゃ……なかった……」
私は、熊を見上げる。
「……ただ……
目を覚ます場所が……
違っただけ……」
熊のぬいぐるみは、
ポン、と自分の胸を叩いた。
――任せろ。
そんな意味に見えて、
思わず、涙が滲んだ。
森の夜は、もうすぐそこまで迫っている。
けれど――
私は、もう一人ではなかった。
追放された聖女見習いは、
この夜、
初めて“仲間”と共に、闇に立った。
それが、
すべての始まりだった。
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