2 / 17
1-2 王弟殿下の求婚と“安全な結婚”
しおりを挟む
承知しました。
では第1章第2節――
「王弟殿下の求婚と“安全な結婚”」
を3000文字以上で丁寧にお届けします。
前話(1-1)で屈辱を味わったリリアーナが、王弟アランと出会い、“安全な偽装結婚”という契約を選ぶまでを、心理描写を中心に描きます。
---
第1章 婚約破棄と“安全な結婚”のはずが
1-2 王弟殿下の求婚と“安全な結婚”
翌日の昼下がり、王城の東庭はまだ冬の冷気をまとっていた。
噴水の縁に薄く氷が張り、風が通るたびに小さな鈴のような音を立てる。
昨日の夜会の喧騒が嘘のように静まり返ったその場所で、リリアーナ・ヴェルナーは一人、足を止めた。
彼女を呼び出したのは王弟殿下アラン・クレイド。
王太子レオナルドの腹違いの弟にして、若くして政治の中枢に関わる聡明な王子だ。
昨夜、断罪の場で唯一、彼女を侮蔑の目で見なかった人物。
その彼が何の用なのか――。
冬枯れの枝の向こうに、白い外套の男が立っていた。
彼の銀髪は日差しを受けて淡く光り、その佇まいは静謐そのものだった。
「来てくださったのですね」
「殿下のお誘いを無視するほど、私は愚かではありませんわ」
軽く礼を交わし、二人は並んで歩き出した。
雪の解け残る石畳を踏むたびに、冷たい音が響く。
「昨日のことは……お気の毒でした」
アランの声は穏やかだった。
同情というより、静かな尊敬を含んだような響きがある。
「お気の毒、とは?」
「公衆の面前であのように扱われてなお、あなたは微笑みを崩さなかった。
普通の令嬢なら、その場で気絶してもおかしくなかったでしょう」
リリアーナは小さく息を吐いた。
「微笑むしかありませんでしたの。泣いたら、あの人の“正しさ”が証明されてしまうでしょう?」
「……なるほど」
アランの灰色の瞳に、一瞬、柔らかい光が宿る。
そして彼は立ち止まり、真っすぐに彼女を見た。
「そんなあなたにこそ、お願いがあります」
「お願い?」
「私と結婚していただけませんか?」
あまりに唐突な言葉に、リリアーナは目を瞬かせた。
冗談ではない――その声音が真剣だったからこそ、心臓がひとつ跳ねる。
「……殿下、それは一体……」
「あなたの立場を守るためです」
彼の声は落ち着いていた。
「王太子の元婚約者というだけで、今後あなたに群がる貴族は少なくない。
政略や噂、同情を利用しようとする者も出るでしょう。
私はそれを防ぎたい。あなたに“守り”を与えるための結婚です」
リリアーナは唇を引き結ぶ。
「つまり……政略的な、形式だけの結婚を?」
「ええ。あなたに不自由を強いるつもりはありません。
私はあなたに“妻としての役割”を求めません。
ただ、あなたが傷つかずに生きる場所を用意したいのです」
その言葉に、胸の奥が微かに揺れた。
愛を語るでもなく、情を匂わせるでもなく。
ただ「守る」と言う男。
――そんな提案を受けたのは、人生で初めてだった。
「なぜ、そこまでしてくださるのですか?」
リリアーナの声は、かすかに震えていた。
アランは少しだけ笑みを浮かべた。
「三年前の春を覚えていますか? 宮廷の慈善会。
あなたが孤児院の子供たちの前でピアノを弾かれた日です」
「……まさか、殿下がいらしたとは知りませんでした」
「あなたの演奏を聞いて、私は救われた。
当時、私は兄の陰に隠れ、存在を消すように生きていた。
けれどあの旋律を聞いた瞬間、世界にまだ“温かさ”があるのだと知ったのです」
リリアーナは、息を呑んだ。
あの慈善会など、誰も覚えていないと思っていた。
人前で演奏することすら久しくなかった頃、ただ無心で鍵盤を叩いたあの日。
その音を覚えている人がいたなんて。
「……そんなことを、今も覚えていてくださったのですね」
「忘れられるはずがありません。
あなたは氷のように冷たいと言われていたが、実際は違う。
誰よりも、傷つきやすく、優しい方だ」
優しい――その一言が、胸の奥を突いた。
誰もそんな風に言ってくれたことはなかった。
“冷たい女”“計算高い令嬢”“王太子にふさわしくない”。
そんな言葉しか浴びてこなかった。
リリアーナは、そっと視線を落とす。
「……殿下のお気持ちは嬉しく思います。
けれど、私はもう、誰かに期待することに疲れてしまいましたの」
「期待しなくていいのです」
アランの言葉が即座に返る。
「これは愛を語る求婚ではありません。
あなたにとって“安全”で“静か”な契約でありたいのです」
安全――その響きに、心が微かに傾いた。
愛という名の幻で傷つくくらいなら、
最初から“偽り”とわかっている結婚のほうが、どれほど楽だろう。
だが彼女の理性が囁く。
――そんな契約に、本当に救いがあるのかしら。
「もし……私が承諾したら、殿下は得をなさるのですか?」
リリアーナの問いに、アランは少しだけ笑った。
「得、ですか? そうですね。あなたが私の隣にいることで、
“結婚しない理由”を問われずに済む。それくらいでしょう」
「結婚しない理由……?」
彼は一瞬だけ目を伏せ、何かを隠すように微笑む。
「私は社交界が苦手でしてね。あなたのように賢く立ち回れる方がいれば助かるのです」
そう言われれば、彼にとっても利はある。
互いに利用し合う――それなら対等だ。
リリアーナは少し考え、静かにうなずいた。
「……条件があります」
「お聞かせください」
「互いに干渉しないこと。
わたくしはあなたの行動に口を出しませんし、あなたも私の生活に立ち入りません」
「構いません。それがあなたの望む自由なら」
その言葉に、胸の奥がすっと軽くなった。
まるで、長い間閉じ込められていた扉が少しだけ開いたように。
「では、契約成立ですわね」
「はい」
二人は握手を交わした。
その瞬間、リリアーナは小さく笑った。
この人なら、裏切らないかもしれない――そんな錯覚を抱くほど、彼の手は温かかった。
「これであなたは“王弟妃”です。
もう誰もあなたを笑わないでしょう」
「……本当にそうなるといいですわね」
庭を吹き抜けた風が、彼女の淡い髪を揺らした。
アランはその横顔を見つめ、低く呟く。
「偽りでも構わない。あなたを守れるのなら」
その独白を、リリアーナは聞かなかった。
ただ、遠くで鐘が鳴る。
新しい契約の始まりを告げるように――。
---
では第1章第2節――
「王弟殿下の求婚と“安全な結婚”」
を3000文字以上で丁寧にお届けします。
前話(1-1)で屈辱を味わったリリアーナが、王弟アランと出会い、“安全な偽装結婚”という契約を選ぶまでを、心理描写を中心に描きます。
---
第1章 婚約破棄と“安全な結婚”のはずが
1-2 王弟殿下の求婚と“安全な結婚”
翌日の昼下がり、王城の東庭はまだ冬の冷気をまとっていた。
噴水の縁に薄く氷が張り、風が通るたびに小さな鈴のような音を立てる。
昨日の夜会の喧騒が嘘のように静まり返ったその場所で、リリアーナ・ヴェルナーは一人、足を止めた。
彼女を呼び出したのは王弟殿下アラン・クレイド。
王太子レオナルドの腹違いの弟にして、若くして政治の中枢に関わる聡明な王子だ。
昨夜、断罪の場で唯一、彼女を侮蔑の目で見なかった人物。
その彼が何の用なのか――。
冬枯れの枝の向こうに、白い外套の男が立っていた。
彼の銀髪は日差しを受けて淡く光り、その佇まいは静謐そのものだった。
「来てくださったのですね」
「殿下のお誘いを無視するほど、私は愚かではありませんわ」
軽く礼を交わし、二人は並んで歩き出した。
雪の解け残る石畳を踏むたびに、冷たい音が響く。
「昨日のことは……お気の毒でした」
アランの声は穏やかだった。
同情というより、静かな尊敬を含んだような響きがある。
「お気の毒、とは?」
「公衆の面前であのように扱われてなお、あなたは微笑みを崩さなかった。
普通の令嬢なら、その場で気絶してもおかしくなかったでしょう」
リリアーナは小さく息を吐いた。
「微笑むしかありませんでしたの。泣いたら、あの人の“正しさ”が証明されてしまうでしょう?」
「……なるほど」
アランの灰色の瞳に、一瞬、柔らかい光が宿る。
そして彼は立ち止まり、真っすぐに彼女を見た。
「そんなあなたにこそ、お願いがあります」
「お願い?」
「私と結婚していただけませんか?」
あまりに唐突な言葉に、リリアーナは目を瞬かせた。
冗談ではない――その声音が真剣だったからこそ、心臓がひとつ跳ねる。
「……殿下、それは一体……」
「あなたの立場を守るためです」
彼の声は落ち着いていた。
「王太子の元婚約者というだけで、今後あなたに群がる貴族は少なくない。
政略や噂、同情を利用しようとする者も出るでしょう。
私はそれを防ぎたい。あなたに“守り”を与えるための結婚です」
リリアーナは唇を引き結ぶ。
「つまり……政略的な、形式だけの結婚を?」
「ええ。あなたに不自由を強いるつもりはありません。
私はあなたに“妻としての役割”を求めません。
ただ、あなたが傷つかずに生きる場所を用意したいのです」
その言葉に、胸の奥が微かに揺れた。
愛を語るでもなく、情を匂わせるでもなく。
ただ「守る」と言う男。
――そんな提案を受けたのは、人生で初めてだった。
「なぜ、そこまでしてくださるのですか?」
リリアーナの声は、かすかに震えていた。
アランは少しだけ笑みを浮かべた。
「三年前の春を覚えていますか? 宮廷の慈善会。
あなたが孤児院の子供たちの前でピアノを弾かれた日です」
「……まさか、殿下がいらしたとは知りませんでした」
「あなたの演奏を聞いて、私は救われた。
当時、私は兄の陰に隠れ、存在を消すように生きていた。
けれどあの旋律を聞いた瞬間、世界にまだ“温かさ”があるのだと知ったのです」
リリアーナは、息を呑んだ。
あの慈善会など、誰も覚えていないと思っていた。
人前で演奏することすら久しくなかった頃、ただ無心で鍵盤を叩いたあの日。
その音を覚えている人がいたなんて。
「……そんなことを、今も覚えていてくださったのですね」
「忘れられるはずがありません。
あなたは氷のように冷たいと言われていたが、実際は違う。
誰よりも、傷つきやすく、優しい方だ」
優しい――その一言が、胸の奥を突いた。
誰もそんな風に言ってくれたことはなかった。
“冷たい女”“計算高い令嬢”“王太子にふさわしくない”。
そんな言葉しか浴びてこなかった。
リリアーナは、そっと視線を落とす。
「……殿下のお気持ちは嬉しく思います。
けれど、私はもう、誰かに期待することに疲れてしまいましたの」
「期待しなくていいのです」
アランの言葉が即座に返る。
「これは愛を語る求婚ではありません。
あなたにとって“安全”で“静か”な契約でありたいのです」
安全――その響きに、心が微かに傾いた。
愛という名の幻で傷つくくらいなら、
最初から“偽り”とわかっている結婚のほうが、どれほど楽だろう。
だが彼女の理性が囁く。
――そんな契約に、本当に救いがあるのかしら。
「もし……私が承諾したら、殿下は得をなさるのですか?」
リリアーナの問いに、アランは少しだけ笑った。
「得、ですか? そうですね。あなたが私の隣にいることで、
“結婚しない理由”を問われずに済む。それくらいでしょう」
「結婚しない理由……?」
彼は一瞬だけ目を伏せ、何かを隠すように微笑む。
「私は社交界が苦手でしてね。あなたのように賢く立ち回れる方がいれば助かるのです」
そう言われれば、彼にとっても利はある。
互いに利用し合う――それなら対等だ。
リリアーナは少し考え、静かにうなずいた。
「……条件があります」
「お聞かせください」
「互いに干渉しないこと。
わたくしはあなたの行動に口を出しませんし、あなたも私の生活に立ち入りません」
「構いません。それがあなたの望む自由なら」
その言葉に、胸の奥がすっと軽くなった。
まるで、長い間閉じ込められていた扉が少しだけ開いたように。
「では、契約成立ですわね」
「はい」
二人は握手を交わした。
その瞬間、リリアーナは小さく笑った。
この人なら、裏切らないかもしれない――そんな錯覚を抱くほど、彼の手は温かかった。
「これであなたは“王弟妃”です。
もう誰もあなたを笑わないでしょう」
「……本当にそうなるといいですわね」
庭を吹き抜けた風が、彼女の淡い髪を揺らした。
アランはその横顔を見つめ、低く呟く。
「偽りでも構わない。あなたを守れるのなら」
その独白を、リリアーナは聞かなかった。
ただ、遠くで鐘が鳴る。
新しい契約の始まりを告げるように――。
---
0
あなたにおすすめの小説
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。
戦う聖女さま
有栖多于佳
恋愛
エニウェア大陸にある聖教国で、千年ぶりに行われた聖女召喚。
聖女として呼ばれた魂の佐藤愛(さとうめぐみ)は、魂の器として選ばれた孤児の少女タビタと混じり、聖教国を聖教皇から乗っ取り理想の国作りをしながら、周辺国も巻き込んだ改革を行っていく。
佐藤愛は、生前ある地方都市の最年少市長として改革を進めていたが、志半ばで病に倒れて死んでしまった。
やり残した後悔を、今度は異世界でタビタと一緒に解決していこうと張り切っている。悩んだら走る、困ったらスクワットという筋肉は裏切らない主義だが、そこそこインテリでもある。
タビタは、修道院の門前に捨てられていた孤児で、微力ながら光の属性があったため、聖女の器として育てられてきた。自己犠牲を生まれた時から叩き込まれてきたので、自己肯定感低めで、現実的でシニカルな物の見方もする。
東西南北の神官服の女たち、それぞれ聖教国の周辺国から選ばれて送り込まれた光の属性の巫女で、それぞれ国と個人が問題を抱えている。
小説家になろうにも掲載してます。
悪役令嬢としての役目を果たしたので、スローライフを楽しんでもよろしいでしょうか
月原 裕
恋愛
黒の令嬢という称号を持つアリシア・アシュリー。
それは黒曜石の髪と瞳を揶揄したもの。
王立魔法学園、ティアードに通っていたが、断罪イベントが始まり。
王宮と巫女姫という役割、第一王子の婚約者としての立ち位置も失う。
天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます
白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。
たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ
仮面の下の秘密とは?
わたしたちの庭
犬飼ハルノ
恋愛
「おい、ウェスト伯。いくらなんでもこんなみすぼらしい子どもに金を払えと?」
「まあまあ、ブルーノ伯爵。この子の母親もこんな感じでしたが、年ごろになると見違えるように成熟しましたよ。後妻のアリスは元妻の従妹です。あの一族の女は容姿も良いし、ぽんぽんと子どもを産みますよ」
「ふうん。そうか」
「直系の跡継ぎをお望みでしょう」
「まあな」
「しかも伯爵以上の正妻の子で年ごろの娘に婚約者がいないのは、この国ではこの子くらいしかもう残っていませんよ」
「ふ……。口が上手いなウェスト伯。なら、買い取ってやろうか、その子を」
目の前で醜悪な会話が繰り広げられる中、フィリスは思った。
まるで山羊の売買のようだと。
かくして。
フィリスの嫁ぎ先が決まった。
------------------------------------------
安定の見切り発車ですが、二月中に一日一回更新と完結に挑みます。
ヒロインのフィリスが自らの力と人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、
序盤は暗く重い展開です。
タグを途中から追加します。
他サイトでも公開中。
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる