9 / 17
2-4 小さな嫉妬と、初めての名前呼び
しおりを挟む
第2章 2-4 小さな嫉妬と、初めての名前呼び
仮面舞踏会から数日が経った。
その夜の記事――『氷の侯爵、ついに氷解す』――は王都中の話題となり、貴族たちの間で噂が絶えなかった。
「侯爵夫妻は理想の夫婦」「あの微笑みは真実の愛の証」――そんな憶測が飛び交い、彼らの知らぬところで“完璧な愛妻家”という称号が勝手に定着していく。
もちろん、当の本人たちは困惑していた。
「……困りましたわね、旦那様。もう買い物にも出られません」
新聞を畳みながら、レティシアが苦笑する。
「まったく……王都の記者は筆が軽すぎる」
セドリックはため息をついた。
「次に外に出れば、また妙な記事にされるだろう」
「“氷の侯爵、ついに溶けて愛に溺れる”――なんて見出しが出たらどうしましょう」
「冗談ではない」
セドリックの苦々しい表情に、レティシアは思わず吹き出した。
「ふふ……失礼。けれど、皆様がそう信じてくださるのなら、それも悪くありませんわ。
少なくとも、私たちの“形式結婚”を疑う人はいなくなる」
「……それはそうだな」
彼の口調は冷静だが、どこか不機嫌に聞こえた。
レティシアはその違和感に首をかしげる。
(どうしたのかしら……まるで、何か気にしているような)
翌日。
侯爵邸には、社交界の有力者たちからの手紙が山のように届いた。
招待状、祝辞、そして――噂の真偽を確かめたいという下心混じりの訪問依頼。
レティシアはそれらを整理していたが、その中にひときわ鮮やかな封筒を見つけた。
金の縁取りに、薔薇の紋章。差出人は――第二王子ハーヴェイ。
「……第二王子殿下?」
文面を開くと、流麗な筆跡でこう記されていた。
“先日の舞踏会にて、貴殿の夫人のご姿を拝見し、深く感銘を受けました。
ぜひ次回の晩餐会にご夫婦でご臨席願いたい。”
――夫人のご姿に感銘、という一文に、レティシアはわずかに眉をひそめる。
それでも、丁寧な文体に悪意は感じられなかった。
「侯爵様にお見せしなければ」
そう思って書斎を訪れると、セドリックはすでにその手紙を読んでいた。
「……殿下からの招待か」
「ええ。出席なさるおつもりですか?」
彼は無言のまま、手紙を机に置いた。
そして、低い声で言った。
「……あの男の目は信用できん」
「殿下を、ですか?」
「昔から、気に入ったものは何でも自分のものにしようとする癖がある。
特に、美しいものには目がない」
その言葉に、レティシアの胸がわずかに跳ねた。
“美しいもの”――それは今、彼女のことを指している。
「ふふ……まさか、私が奪われるとでも?」
「油断は禁物だ」
短い返答。
それは護るようでもあり、どこか苛立ちを含んでいた。
(……もしかして、嫉妬?)
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。
まさか、氷の侯爵が嫉妬を――?
彼が顔を背けたのを見て、確信に変わった。
晩餐会の夜。
レティシアは淡い青のドレスに身を包み、髪には白い小花を飾った。
セドリックは黒の燕尾服に青のタイ。
二人並ぶと、まるで月と夜空のように調和していた。
王子主催の晩餐会は、思ったよりも形式ばったものだった。
長いテーブルに並ぶ貴族たち。
第二王子ハーヴェイは中央に座り、穏やかに微笑んでいる。
「おお、アークハート侯爵。ようこそ」
彼は立ち上がり、両手を広げた。
「そして――レティシア夫人。あなたの美しさは、まるで夜明けの女神のようだ」
その口ぶりに、セドリックの眉がわずかに動いた。
「光栄に存じます、殿下」
レティシアは完璧な笑みで応じる。
だが、彼の隣でセドリックのグラスがわずかに鳴った。
周囲の視線が集まる中、ハーヴェイは構わず続ける。
「侯爵、ご夫人を少しお借りしても?」
「……何のご用でしょうか」
「この会の主催として、夫人に乾杯の音頭をお願いしたいのです」
一瞬の沈黙。
セドリックは明らかに不快そうに目を細めたが、レティシアが先に微笑んだ。
「もちろん、光栄ですわ。――旦那様?」
その一言で、彼は小さく息を吐いた。
彼女を信じるように、頷く。
レティシアはグラスを掲げ、優雅に立ち上がった。
「皆様、本日はこの素晴らしい場にお招きいただき、誠にありがとうございます。
夫として、そして臣下として、侯爵が国を支えていることを、妻として誇りに思っております」
その言葉に、会場が静まり返った。
そして拍手が起こる。
ハーヴェイでさえ、言葉を失っていた。
レティシアが席に戻ると、セドリックは低く囁いた。
「……見事だ」
「お褒めいただけて光栄です、旦那様」
彼の声が、わずかに掠れていた。
帰りの馬車の中。
レティシアは、外の夜景を眺めながら微笑んでいた。
彼の横顔が窓の光に照らされる。
いつもより、少しだけ険しい。
「旦那様。まさか、本当に嫉妬なさったの?」
唐突な問いに、セドリックはわずかに肩を強張らせた。
「……何の話だ」
「ふふ。顔に出ていますわよ」
彼はしばらく沈黙した後、低く呟いた。
「……もし、君が他の男に笑いかけたら――私は不快だ。
それが何と呼ばれる感情なのかは、私にも分からない」
その言葉に、レティシアの胸が一気に熱を帯びた。
言葉にならないほど、心が震える。
「……それは、嫉妬ですわ、旦那様」
「……そうか」
彼の指が、そっと彼女の手に触れる。
その一瞬のぬくもりが、すべてを語っていた。
屋敷に戻ると、夜の風がひんやりと頬を撫でた。
東棟へ向かう途中、レティシアは足を止めた。
「旦那様」
「何だ?」
「……名前で呼んでいただけませんか?」
「名前、を?」
「ええ。“夫人”でも“妻”でもなく、私自身として。
この結婚が形式だけだとしても、せめて――名前で呼ばれたいのです」
セドリックは目を伏せ、しばらく何も言わなかった。
静かな夜気が流れ、遠くでフクロウの声が響く。
そして――
「……レティシア」
その声は驚くほど優しく、低く響いた。
まるで、長い冬を越えた春の風のようだった。
レティシアは息を呑み、そして微笑んだ。
「はい、旦那様」
彼はゆっくりと首を振る。
「……今は、“旦那様”ではなく、セドリックでいい」
「――セドリック」
名前を呼んだ瞬間、二人の間の距離が、確かに一歩、近づいた。
その夜、レティシアの寝室の机には一輪の白いバラがあった。
だが、いつもと違い――その花弁の中心には、淡い赤が差していた。
彼が摘んだのだろう。
“白い契約”の象徴に、初めて色が宿る。
レティシアは花を胸に抱き、静かに目を閉じた。
(――これは、恋ではない。
でも、恋よりも確かな何かが、私たちの間に生まれ始めている)
形式だけの結婚が、少しずつ色を帯びていく。
氷の侯爵が呼んだ、たった一言の名前。
それは、レティシアの心に灯った“初恋”の音だった。
🌹
仮面舞踏会から数日が経った。
その夜の記事――『氷の侯爵、ついに氷解す』――は王都中の話題となり、貴族たちの間で噂が絶えなかった。
「侯爵夫妻は理想の夫婦」「あの微笑みは真実の愛の証」――そんな憶測が飛び交い、彼らの知らぬところで“完璧な愛妻家”という称号が勝手に定着していく。
もちろん、当の本人たちは困惑していた。
「……困りましたわね、旦那様。もう買い物にも出られません」
新聞を畳みながら、レティシアが苦笑する。
「まったく……王都の記者は筆が軽すぎる」
セドリックはため息をついた。
「次に外に出れば、また妙な記事にされるだろう」
「“氷の侯爵、ついに溶けて愛に溺れる”――なんて見出しが出たらどうしましょう」
「冗談ではない」
セドリックの苦々しい表情に、レティシアは思わず吹き出した。
「ふふ……失礼。けれど、皆様がそう信じてくださるのなら、それも悪くありませんわ。
少なくとも、私たちの“形式結婚”を疑う人はいなくなる」
「……それはそうだな」
彼の口調は冷静だが、どこか不機嫌に聞こえた。
レティシアはその違和感に首をかしげる。
(どうしたのかしら……まるで、何か気にしているような)
翌日。
侯爵邸には、社交界の有力者たちからの手紙が山のように届いた。
招待状、祝辞、そして――噂の真偽を確かめたいという下心混じりの訪問依頼。
レティシアはそれらを整理していたが、その中にひときわ鮮やかな封筒を見つけた。
金の縁取りに、薔薇の紋章。差出人は――第二王子ハーヴェイ。
「……第二王子殿下?」
文面を開くと、流麗な筆跡でこう記されていた。
“先日の舞踏会にて、貴殿の夫人のご姿を拝見し、深く感銘を受けました。
ぜひ次回の晩餐会にご夫婦でご臨席願いたい。”
――夫人のご姿に感銘、という一文に、レティシアはわずかに眉をひそめる。
それでも、丁寧な文体に悪意は感じられなかった。
「侯爵様にお見せしなければ」
そう思って書斎を訪れると、セドリックはすでにその手紙を読んでいた。
「……殿下からの招待か」
「ええ。出席なさるおつもりですか?」
彼は無言のまま、手紙を机に置いた。
そして、低い声で言った。
「……あの男の目は信用できん」
「殿下を、ですか?」
「昔から、気に入ったものは何でも自分のものにしようとする癖がある。
特に、美しいものには目がない」
その言葉に、レティシアの胸がわずかに跳ねた。
“美しいもの”――それは今、彼女のことを指している。
「ふふ……まさか、私が奪われるとでも?」
「油断は禁物だ」
短い返答。
それは護るようでもあり、どこか苛立ちを含んでいた。
(……もしかして、嫉妬?)
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。
まさか、氷の侯爵が嫉妬を――?
彼が顔を背けたのを見て、確信に変わった。
晩餐会の夜。
レティシアは淡い青のドレスに身を包み、髪には白い小花を飾った。
セドリックは黒の燕尾服に青のタイ。
二人並ぶと、まるで月と夜空のように調和していた。
王子主催の晩餐会は、思ったよりも形式ばったものだった。
長いテーブルに並ぶ貴族たち。
第二王子ハーヴェイは中央に座り、穏やかに微笑んでいる。
「おお、アークハート侯爵。ようこそ」
彼は立ち上がり、両手を広げた。
「そして――レティシア夫人。あなたの美しさは、まるで夜明けの女神のようだ」
その口ぶりに、セドリックの眉がわずかに動いた。
「光栄に存じます、殿下」
レティシアは完璧な笑みで応じる。
だが、彼の隣でセドリックのグラスがわずかに鳴った。
周囲の視線が集まる中、ハーヴェイは構わず続ける。
「侯爵、ご夫人を少しお借りしても?」
「……何のご用でしょうか」
「この会の主催として、夫人に乾杯の音頭をお願いしたいのです」
一瞬の沈黙。
セドリックは明らかに不快そうに目を細めたが、レティシアが先に微笑んだ。
「もちろん、光栄ですわ。――旦那様?」
その一言で、彼は小さく息を吐いた。
彼女を信じるように、頷く。
レティシアはグラスを掲げ、優雅に立ち上がった。
「皆様、本日はこの素晴らしい場にお招きいただき、誠にありがとうございます。
夫として、そして臣下として、侯爵が国を支えていることを、妻として誇りに思っております」
その言葉に、会場が静まり返った。
そして拍手が起こる。
ハーヴェイでさえ、言葉を失っていた。
レティシアが席に戻ると、セドリックは低く囁いた。
「……見事だ」
「お褒めいただけて光栄です、旦那様」
彼の声が、わずかに掠れていた。
帰りの馬車の中。
レティシアは、外の夜景を眺めながら微笑んでいた。
彼の横顔が窓の光に照らされる。
いつもより、少しだけ険しい。
「旦那様。まさか、本当に嫉妬なさったの?」
唐突な問いに、セドリックはわずかに肩を強張らせた。
「……何の話だ」
「ふふ。顔に出ていますわよ」
彼はしばらく沈黙した後、低く呟いた。
「……もし、君が他の男に笑いかけたら――私は不快だ。
それが何と呼ばれる感情なのかは、私にも分からない」
その言葉に、レティシアの胸が一気に熱を帯びた。
言葉にならないほど、心が震える。
「……それは、嫉妬ですわ、旦那様」
「……そうか」
彼の指が、そっと彼女の手に触れる。
その一瞬のぬくもりが、すべてを語っていた。
屋敷に戻ると、夜の風がひんやりと頬を撫でた。
東棟へ向かう途中、レティシアは足を止めた。
「旦那様」
「何だ?」
「……名前で呼んでいただけませんか?」
「名前、を?」
「ええ。“夫人”でも“妻”でもなく、私自身として。
この結婚が形式だけだとしても、せめて――名前で呼ばれたいのです」
セドリックは目を伏せ、しばらく何も言わなかった。
静かな夜気が流れ、遠くでフクロウの声が響く。
そして――
「……レティシア」
その声は驚くほど優しく、低く響いた。
まるで、長い冬を越えた春の風のようだった。
レティシアは息を呑み、そして微笑んだ。
「はい、旦那様」
彼はゆっくりと首を振る。
「……今は、“旦那様”ではなく、セドリックでいい」
「――セドリック」
名前を呼んだ瞬間、二人の間の距離が、確かに一歩、近づいた。
その夜、レティシアの寝室の机には一輪の白いバラがあった。
だが、いつもと違い――その花弁の中心には、淡い赤が差していた。
彼が摘んだのだろう。
“白い契約”の象徴に、初めて色が宿る。
レティシアは花を胸に抱き、静かに目を閉じた。
(――これは、恋ではない。
でも、恋よりも確かな何かが、私たちの間に生まれ始めている)
形式だけの結婚が、少しずつ色を帯びていく。
氷の侯爵が呼んだ、たった一言の名前。
それは、レティシアの心に灯った“初恋”の音だった。
🌹
1
あなたにおすすめの小説
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
あなたの瞳に私を映してほしい ~この願いは我儘ですか?~
四折 柊
恋愛
シャルロッテは縁あって好意を寄せていた人と婚約することが出来た。彼に好かれたくて距離を縮めようとするが、彼には好きな人がいるようで思うようにいかない。一緒に出席する夜会で彼はいつもその令嬢を目で追っていることに気付く。「私を見て」その思いが叶わずシャルロッテはとうとう婚約の白紙を望んだ。その後、幼馴染と再会して……。(前半はシリアスですが後半は甘めを目指しています)
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
別れたいようなので、別れることにします
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。
魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。
命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。
王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
「君のような地味でつまらない女は僕には相応しくない」
侯爵令嬢イルセアは、婚約者である第三王子からある日そう言われて婚約破棄された。
彼は貴族には華やかさが重要であると考えており、イルセアとは正反対の派手な令嬢を婚約者として迎えることを、独断で決めたのである。
そんな彼の行動を愚かと思いながらも、イルセアは変わる必要があるとも考えていた。
第三王子の批判は真っ当なものではないと理解しながらも、一理あるものだと彼女は感じていたのである。
そこでイルセアは、兄の婚約者の手を借りて派手過ぎない程に自らを着飾った。
そして彼女は、婚約破棄されたことによって自身に降りかかってきた悪評などを覆すためにも、とある舞踏会に臨んだのだ。
その舞踏会において、イルセアは第三王子と再会することになった。
彼はイルセアのことを誰であるか知らずに、初対面として声をかけてきたのである。
意気揚々と口説いてくる第三王子に対して、イルセアは言葉を返した。
「地味でつまらない私は、殿下の婚約者として相応しくなかったのではありませんか?」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる