『婚約破棄された私、偽装結婚の果てに真実の結婚にたどり着きました。――もうBL王子には興味ありません!』

しおしお

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4-4 聖女の儀と真紅の裁き

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第4章 4-4 聖女の儀と真紅の裁き

 夜明けの鐘が、王都の空を裂くように響いた。
 灰色の雲を突き抜け、王立大聖堂の尖塔が朝の光を受けて輝く。
 人々は「神の奇跡を再び見る」と期待に胸を膨らませ、その中心に立つ王は満足げに微笑んでいた。

「聖女リリアよ。今日、神の御心を示すのだ」

 王の言葉に、白衣の聖女リリアが跪く。
 だがその目には“信仰”ではなく、まるで“操られた機械”のような光が宿っていた。
 儀式の壇上には巨大な魔法陣が刻まれ、中央に聖遺晶が浮かんでいる。
 周囲には数百の兵士、そして王侯貴族が居並ぶ。

 その最奥、紅の絨毯を踏みしめて現れたのは――アークハート侯爵夫妻。


---

 セドリックは堂々と歩み、レティシアはその隣に立つ。
 彼女の瞳は静かに輝き、胸元には紅い指輪が確かに光っていた。

「アークハート侯爵、並びにその妻。神託の確認に立ち会う栄誉を与える」
 玉座の上から王が言い放つ。

「栄誉……ですか」
 セドリックの声は低く、しかし鋭く響いた。
「我が王よ、これは“確認”ではなく、“生贄”ではないのですか?」

 その場の空気が凍りつく。
 貴族たちがざわめき、王の表情がわずかに歪む。

「……言葉に気をつけよ、セドリック。これは神の御業だ」
「神の御業を名乗るなら、なぜ血を捧げる必要がある?」

 その問いに、誰も答えられなかった。


---

 そのとき、壇上の聖遺晶が不気味に光を放つ。
 リリアが両手を掲げ、祈りの言葉を唱え始めた。

 だが、彼女の口から漏れるのは古代語――“人の祈り”ではなく、“封印解除の呪文”。

 魔法陣が赤く輝き、空気が震える。
 大聖堂のステンドグラスが一斉に共鳴し、光が歪んでいく。

「やはり……これは聖女の儀などではない!」
 セドリックが叫ぶ。

「王よ、これは何を――」

「黙れ!」
 王が杖を振りかざす。
 光の鎖が放たれ、セドリックの体を縛り上げた。

「貴様は神に背いた! その身をもって贖うがよい!」

 レティシアが駆け寄ろうとするが、兵士たちが彼女を取り囲む。
 王の冷笑が響く。

「そして――“偽りの聖女”レティシア・ドラン。
 お前こそ、神罰を受けるべき存在だ。お前の血をもって、この儀を完成させよう」


---

「……偽り?」
 レティシアの瞳が揺れる。

 王が指を鳴らすと、空中に幻影が映し出された。
 そこには、レティシアが聖女の血を持つ証拠――彼女の母が“初代聖女”だったという古文書が。

「やはり……あなたは最初から、わたくしを狙っていたのですね」

「そうだ。お前の血があれば、神の力を完全に取り戻せる」

「それは――神の力ではなく、あなたの欲望ですわ!」

 叫ぶ声が大聖堂に響く。
 レティシアは紅の指輪を掲げた。

「セドリック様! どうか信じて! この指輪には“真実”が宿っています!」

 指輪が光を放ち、王の魔法陣に干渉する。
 赤と白、二つの光が激しくぶつかり合い、空間が揺らいだ。


---

「なに……!? 力が乱れるだと!」
 王が叫ぶ。

 その瞬間、聖女リリアの身体が震え、糸の切れた操り人形のように膝をつく。
 その胸から、血ではなく“光の欠片”が溢れ出した。

「……私は……誰?」

 リリアの瞳に、初めて“人の色”が宿る。
 そして、震える声で呟いた。

「神の声なんて……聞こえなかった……ただ、誰かの命令だけが、頭の中で……」

 レティシアはその手を取った。
「もう大丈夫。あなたは偽物なんかじゃない。あなたも……誰かに利用された被害者です」

 その言葉に、リリアの瞳から涙がこぼれた。


---

 だが、王は狂気の笑みを浮かべた。

「くだらぬ情けだ! 聖女の血は、すべて我がものとなる!」

 杖の先に黒い魔力が集まり、巨大な影が顕現する。
 それは“神”を騙る魔の化身――かつて封じられた闇の王。

「おお……偉大なる存在よ! 再び我に力を!」

「――それ以上はさせない!」
 セドリックが鎖を断ち切り、剣を抜いた。
 紅の光が剣を包み、レティシアの指輪と共鳴する。

「アークハートの名に誓い、偽りの王と闇を断つ!」

 刃が閃き、黒き魔の影と激突した。


---

 大聖堂全体が震え、光と闇が渦を巻く。
 レティシアは両手を合わせ、祈りの言葉を紡いだ。

> 「真なる神よ、どうか聞き届けてください……
欲にまみれた偽りの信仰ではなく、
愛と誓いに生きる者の祈りを……!」



 紅の指輪がまばゆく輝き、セドリックの剣と一体化した。
 二人の力が重なり、炎のような光が王と魔を包み込む。

 断末魔のような叫びが響き、光がすべてを焼き尽くす――。


---

 やがて、静寂。
 崩れ落ちた壇上に、二人の姿だけが残った。

 セドリックが剣を手に、息を切らして立っている。
 レティシアが駆け寄り、彼の胸に抱きついた。

「……終わったの?」
「ああ。もう、偽りの神はいない」

 王は崩れ落ち、床に散った杖が粉々に砕けていた。
 その残骸から、黒い霧が消えていく。

 外から、朝日が差し込んだ。
 ステンドグラスが光を受け、紅と白の模様を描き出す。


---

 リリアがゆっくりと目を開け、涙を浮かべて呟いた。

「あなたたちの光……とても、あたたかい」

 レティシアは微笑んだ。
「もう、あなたも自由ですわ」

 セドリックが彼女の肩に手を置き、静かに告げる。
「――これが、本当の“白い結婚”なのだろうな」

「え?」

「愛ではなく、誓いから始まった絆。だが、今は確かに――心が結ばれている」

 レティシアの頬が紅に染まる。
 そして、彼女は指輪を見つめながら小さく笑った。

「名ばかりの妻、ではなくなりましたわね」

 セドリックは微笑み、彼女の手を取る。

「これからは、名実ともに“妻”として傍にいてくれ」

 大聖堂の鐘が再び鳴り響く。
 それは、神が新たな契約を祝福する音のように澄んでいた。

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