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第二部 第4章:夜会に響く宣誓と、終わりを告げる破滅
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1.高鳴る鼓動と“決意”の朝
エルフィンベルク公爵家の館に、いつにも増して張り詰めた空気が漂っていた。今日こそ、シルフィーネ・エルフィンベルクが“エドワルド王太子”との正式な婚約を発表する夜会が開かれる日であり、館の者たちは朝から大忙しだ。ドレスや装飾、控え室のアレンジ、侍女や従者たちの配置――何から何まで最終チェックを行い、万全の状態で夜を迎えたいという一心がある。
当のシルフィーネは、自室の窓辺に立ち、ゆっくりと深呼吸を繰り返していた。以前よりも体力は戻ったが、まだ急激に動くと眩暈(めまい)が起きる可能性がある。無理は禁物だと分かっていても、今日はどれほど静養していても心が落ち着かない。胸が高鳴り、緊張と期待、そして不安が入り混じった状態から抜け出せないのだ。
(今日、私は“政略結婚から始まる恋”を公式に認めることになる。エドワルド王太子は、そんな私を選んでくれた。本当に、ここまで来たのね……)
長い眠りにつく前の“ライオネルとの婚約破棄”や、意識不明のまま過ぎ去った時間。あの頃の自分は“幼く見える”と馬鹿にされ、翻弄されるだけだった。けれど今は違う。成長した身体と揺るぎない意思を持ち、「誰かに押し流されるだけ」の人生ではなく、自ら選んだ道を進もうとしている。
ドアをノックする音がし、侍女の声が響く。「お嬢様、そろそろお支度を始めてもよろしいでしょうか?」
「……ええ、お願い」
返事と同時に、ドアが開き、複数の侍女たちが流れるように入ってくる。彼女たちは大きな布に包んだドレスを丁寧に広げ、アクセサリーや髪飾り、靴などを次々と並べていく。ドレスは深いロイヤルブルーのベルライン型。胸元には金糸の繊細な刺繍が施され、気品と華やかさを両立したデザインだ。背の伸びたシルフィーネの体に合わせて仕立てられた、特別な一着。
「お嬢様、今日がいよいよ“運命の日”ですね。どうか、お体を大切にしつつ、ご自分のペースで……」
「ええ、分かってる。ありがとう」
侍女の優しい声にシルフィーネは微笑み、意を決するようにドレスへ両腕を通す。胸元から背にかけてしっかりとコルセットで支え、スカートの裾を整え、最後に金色の髪をアップスタイルにまとめてゴージャスな髪飾りを付ける。鏡に映る自分は、あの“幼かった頃”とは別人のように大人びていた。
(本当に、私なのよね……もう二度と“子供”とは呼ばせない。今度こそ誇りを持って、この場に立つわ)
鏡越しに自分の瞳を見つめ、そう心の中で誓う。
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2.王宮の夜会―婚約宣言という舞台
夜の帳が降り始めた頃、エルフィンベルク家の馬車が王宮へ向けて出立した。ルドルフ公爵とマリア夫人、そしてシルフィーネが揃って夜会に参加する。護衛の兵や侍女たちも同行し、もしもの時の対応ができる体制を敷いている。以前の事件――アメリアに階段から突き落とされた惨劇を、もう二度と繰り返さないために。
王宮は大勢の貴族や要人で埋め尽くされ、煌(きら)びやかな照明が廊下や広間を照らしていた。各国からの外交使節も参列し、談笑や取引の話があちこちで飛び交っている。豪奢な服装に身を包んだ客たちは、じきに始まる“王太子からの重大な発表”を待ちわびているようでもある。――何を隠そう、この夜会はエドワルドが主催し、“国際交流の場”と銘打ちながら、実質的には“自身の婚約発表”を行う場として用意されたのだ。
「シルフィーネ、頑張ってきなさい。もし何かあれば、必ず私たちに頼るのよ」
会場入り口で、マリア夫人が娘にそっと囁く。その言葉にシルフィーネは小さく頷き、胸の奥に湧き上がる鼓動を抑えながら、広間の中へ足を踏み入れた。
すぐにエドワルド王太子の姿が目に飛び込む。彼は深い紺色のタキシードに身を包み、その端正な容姿が人混みの中でも際立っている。周囲の貴族たちが羨望の眼差しで彼を見る中、エドワルドはシルフィーネに気づくと、優雅な足取りで真っ直ぐに近づいてきた。
「シルフィーネ。待っていましたよ」
短い言葉に込められた想いが、まるで“もう自分の婚約者”だと言わんばかりだ。人目を憚(はばか)ることなく、その瞳には熱が宿っている。
周囲の客たちが“噂の公爵令嬢”を一斉に見つめ、ひそひそと囁く声が広がる。中には「なんて美しい……」と賞賛する声もあれば、「本当に体調は大丈夫なのか?」「病弱だという話を聞いたが……」といった心ない言葉も混じっている。しかし、シルフィーネはエドワルドの隣に立つと決めているからこそ、ここで怯むわけにはいかない。
「王太子閣下……どうか、今夜はよろしくお願いします」
「ええ、私の方こそ。……あなたの歩幅に合わせて、無理なく進められるよう心がけます。もし体調が悪くなったら、すぐに言ってください」
エドワルドのさりげない気遣いが、シルフィーネをさらに勇気づける。寄せられる視線にはどんな敵意が混じっていても、彼が味方でいてくれる限り大丈夫――そう思えるのだ。
彼女は軽くエドワルドの腕を取り、肩を並べて会場の中央へ向かう。今日の夜会は、しばらく社交の時間が続き、その後、王太子が正式なスピーチを行う段取りになっている。そこで“婚約宣言”を行うわけだ。
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3.忍び寄る悪意―毒と破滅の罠
華やかな音楽が流れ、シルフィーネとエドワルドは貴族たちから祝福の言葉をかけられながら、落ち着かない時間を過ごす。一部の者は明らかに不満そうな態度を示していたが、王太子の前では何も言えず、ただ会釈するに留まっている。
そんな中、給仕の者たちがワインやシャンパン、各種の飲み物を配っている姿が目に留まった。大勢の客がいるため、グラスが無数に用意され、給仕たちは忙しく動き回っている。
「お嬢様、お飲み物をいかがでしょう」
そう声をかけられて、シルフィーネは一瞬迷った。実は、医師から「強いアルコールは控えた方がいい」と言われているのだ。エドワルドも「もし飲むなら、ごく少量か葡萄ジュース程度にした方がいい」と助言してくれている。
給仕のトレイには赤ワインと白ワインが並んでいたが、彼女は「すみません、私にはお酒以外のものを……」と小声で頼んだ。すると、給仕は「承知しました」と一礼して下がっていく……はずだったが、ほんの一瞬、その男の視線に奇妙な違和感が宿ったように思えた。
(なんだろう……? 今の給仕、どこかで見た顔のような……)
だが、周囲の人ごみと忙しさに紛れて、すぐに彼の姿は消えてしまい、シルフィーネは追及できないまま。胸の奥に小さな不快感が芽生えつつも、エドワルドの隣で挨拶を交わすうちに、その違和感を一時忘れる。
――しかし、その陰で、あの給仕の男はトレイの中のグラスにこっそりと細工をしていた。ほんの少し前に廊下で誰かと密談を交わした形跡がある。彼の表情には暗い決意が浮かんでおり、その手の中には小瓶が握られている。そこに含まれた薬品は、摂取すれば頭痛や吐き気、さらには意識を失う恐れもあるという危険なものだ。
それは決して即死毒のようなものではないが、この場で公爵令嬢が醜態を晒すには充分な威力を持つ。病弱な身体に追い討ちをかけ、周囲に「やはりあの令嬢は欠陥がある」と思わせるのが狙いだろう。犯人は巧妙にグラスを毒入りとそうでないものに仕分けし、シルフィーネの手元へ運ぶタイミングを見計らっている。
(絶対に失敗は許されない。……そうさえすれば、“あの方”に俺たちは報酬をもらえる)
給仕の男は焦りを押し殺しながら、トレイを抱えて再び会場を巡回する。目的はただ一つ――シルフィーネが毒入りのグラスを口にするよう誘導し、夜会の最中に体調不良を引き起こさせること。
それが成功すれば、この夜の婚約発表はメチャクチャになるはずだ。噂好きの貴族たちは一斉に「やはり病弱だった」「あんな女が王太子妃など論外」と囃し立てるだろう。狙い通りに行けば、エドワルドとの縁談にも大きな影響を与える――と、彼は信じて疑わない。
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4.崩れゆく計画と、王太子の守り
一方、エドワルドはシルフィーネの様子を細やかに気遣いながら、そろそろスピーチの準備に向かおうとしていた。夜会の中盤で彼が正式に婚約を宣言し、国王からの祝辞を仰ぐ段取りになっている。
広間の中央には小さな演壇が設置され、王家の紋章が飾られている。音楽が一時止まり、会場の視線がそこへ集中し始める。エドワルドはシルフィーネに微笑み、手を差し伸べる。
「いよいよ、ですね。……お忙しいのは承知ですが、あなたも隣に来てくれますか?」
「ええ……私でよければ」
互いに頷き合い、歩き出そうとした時、周囲の給仕たちがさっと集まり、グラスを差し出しながら言う。「閣下、スピーチの前に一口いかがですか?」
このタイミングでの勧めは不自然ではない。多くの貴族たちも演壇へ上がる前に軽く飲み物を口にして心を落ち着ける光景が一般的だ。しかし、この中に“毒入りのグラス”が紛れているのだとしたら……。
エドワルドはチラリとシルフィーネを見やり、「君はどうする?」と問いかける。彼女は以前から言われているとおり「アルコールは控えたいので、お水かジュースなら」と答える。すると、給仕の一人が差し出したのは葡萄ジュースのような色合いのグラス。ところが、それを手に取ろうとした瞬間、エドワルドがふと制止した。
「……失礼、私が確認してもいいかな?」
「えっ……?」
周囲がざわつく中、エドワルドは落ち着いた目でグラスを見つめる。どうやら彼は何かに気づいたらしく、そっと匂いを嗅いだ。――そして軽く眉をひそめる。
「これ、香りが少し変だぞ。もしや別の果汁が混ざっているのでは?」
給仕たちが困惑の表情を浮かべるが、当の男は「い、いえ、たぶん葡萄の種類が違うからでしょう……」などと苦しい言い訳をする。だが、エドワルドの瞳は鋭く光り、その表情は“確信”を得たかのように見えた。
「申し訳ないが、今は大事な時なので、ほかの給仕が持ってきた別のグラスをいただきます。あなたもそれでいいね、シルフィーネ?」
「え、ええ……そうですね」
急遽、別の給仕が用意したジュースを受け取り、シルフィーネは安堵の息をつく。先ほどの一瞬、エドワルドがなぜそこまで強い疑いを抱いたのか分からないが、彼の直感と警戒心が働いたのだろう。――結果的に、毒入りのグラスを手にするのは避けられたようだ。
このやり取りを遠巻きに見ていた男は、明らかに焦りの色を浮かべる。しかし騒ぎを起こすわけにもいかず、そのままトレイを抱えて後退するしかない。毒入りグラスはあえなく無駄に終わり、計画は不首尾だった。
(くそ……どうして王太子が勘づいたんだ? まだ別の手を考えないと……)
男は悔しげに舌打ちし、脇の廊下へ隠れるように消えていく。背後には既に警戒を厳しくしている公爵家の護衛たちの姿が見える。いずれにしても、これ以上派手な行動を起こせば即座に取り押さえられるだろう。ここで無理をするのは得策ではない、と判断したのかもしれない。
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7.婚約宣言―そして“ざまぁ”の終幕
一方、エドワルドとシルフィーネは演壇の前へと歩みを進め、会場の注目を集める。騎士たちが周囲を警護し、国王の近侍が深々と礼を取ると、静寂が広がった。ここが正式な場――王太子が何を語るか、息を呑んで待ち受ける人々。
「皆さま、本日はお忙しい中、この夜会にお集まりいただき感謝いたします。私はノルディア王国第一王太子、エドワルド・フォン・ノルディア。改めまして貴国との絆を深めるために滞在しております」
落ち着いた声で、まずは形式的な挨拶を済ませる。その後、エドワルドは隣に立つシルフィーネへ微笑みかけ、再び会場へ向き直った。
「さて、本日お伝えしたいことがございます。私、エドワルドは――エルフィンベルク公爵家の令嬢、シルフィーネ・エルフィンベルクと、正式に“婚約”することを宣言いたします」
一瞬の静寂の後、場内は大きなどよめきに包まれた。事前に薄々知っていた者も多いが、こうして公の場で直接“王太子自ら”言葉にするのは重みが違う。大半の客は拍手を送り、感嘆や祝福の声を上げる。しかし、一部の者は明らかに不満げな表情で、口を噤んでいる。
「シルフィーネ令嬢は、かつて様々な困難を乗り越え、いまもなお病を完全に克服したわけではありません。しかし、私は彼女の強さと優しさを心から尊敬しております。どんな噂が流れようとも、私は揺るがない。そして、私の祖国ノルディア王国も、彼女を“次の王太子妃”として迎える用意があることを、ここに宣言いたします」
明確な意思表明。会場は再びざわめき、拍手が広がっていく。シルフィーネの胸には込み上げるものがあった。――ここまで堂々と“彼女を守る”と明言されれば、もはや噂や中傷など吹き飛ぶに違いない。
彼女は緊張を抑えながら、わずかに会釈して言葉を紡ぐ。
「私も……エドワルド王太子閣下と共に歩む決意をいたしました。まだ至らぬ点が多く、身体も万全ではありませんが、できる限り努力し、ノルディア王国とこの国の架け橋となれるよう励みたいと思います」
静かながらも力を込めた声。これが“子供扱い”されていた頃の彼女と同一人物とは思えないほど、凛とした美しさがあった。拍手はさらに大きくなり、王家の使者や国王の近侍も微笑ましく見守っている。
そして――アメリアやライオネル、かつての婚約破棄騒動の影が完全に払拭される瞬間でもある。人々は「もう過去の話だ」と考え始め、シルフィーネが抱いていた負のレッテルは徐々に消えていくだろう。
これこそが、彼女にとっての“ざまぁ”だ。過去に馬鹿にし、陥れようとした者たちが、いまや自分を嘲笑できないどころか、認めざるを得ない立場に追い込まれているのだから。
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8.ざまぁ―痛快なる決着と、未来への序章
拍手が落ち着き、夜会は祝宴のモードに切り替わる。シルフィーネとエドワルドは貴族たちから祝福の言葉を受け、一部の者は渋々ながらも口先だけは「おめでとう」と言うしかない状況だ。そんな中、彼女の目には“あの給仕”の姿が見えなくなっていたが、気にする暇はなかった。
(あの毒入りのグラスは失敗に終わったのね。きっと護衛や周囲の警戒もあって、もう手を出せないはず)
実際、その男は王宮の廊下で衛兵に怪しまれ、取り押さえられそうになって逃げたと後で判明する。まだ誰が黒幕かまでは突き止められていないが、当面は大きな動きはできまい。ライオネル派やロドリゲス公爵派の残党が狙っていた妨害は、結局失敗に終わった格好だ。
(ざまぁ……)
シルフィーネは心の中でそう呟く。かつて意識不明にさせられ、アメリアによって命の危機に瀕(ひん)した自分が、いまや王太子から溺愛され、堂々と婚約を発表する立場に立っている。アンチたちにとっては“痛恨の事態”だろうが、彼女にしてみれば“ざまぁ”以外の言葉が見つからない。
夜会の終盤、エドワルド王太子はシルフィーネとともに舞踏を披露する。ワルツの曲が鳴り、二人が華麗に踊る姿に、会場からは感嘆の声が上がる。彼女の動きは完全とは言えないが、エドワルドが巧みにリードし、身体を支えているおかげでまるで欠点など見えない。むしろ、愛し合う二人の優雅な舞いとして、観客たちを魅了していた。
「大丈夫? 息が辛くない?」
「うん、少し疲れたけれど……とても幸せ……」
シルフィーネは笑みを浮かべ、エドワルドの肩にそっと寄りかかる。彼は腕の力をわずかに強め、演奏が終わったタイミングで彼女をそっと包み込んだ。人々の前で大胆な所作ではあるが、もうとやかく言われることはない。むしろ「なんてロマンチックなんだ」と拍手が湧き起こる。
こうして、壮大な夜会は“ハッピーエンド”の空気のまま幕を閉じた。シルフィーネとエドワルドの婚約は正式に宣言され、周囲もそれを祝福する。噂の残党が動こうにも、王太子の後ろ盾と公爵家の警戒態勢でどうにもならない。
かつて彼女を辱め、踏みにじろうとした者たちこそ、ひっそりと影の中へ退散するしかない。ある者は「いずれ隙ができる」と思っているかもしれないが、今はとても手出しできない。結果的に“ざまぁ”を味わうのは彼らに違いなかった。
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9.幕引きと、新たな地平へ
夜会が終わり、控え室でドレスを着替え終えたシルフィーネは、部屋の窓から夜空を眺めていた。少し前まで、この場所に立つと不安ばかりが先立っていたが、今は心地よい達成感がある。身体に疲労は残るけれども、心が満たされているのをはっきり感じるからだ。
(本当に……私、幸せになっていいのかな。ライオネルの時は散々だったのに、こんなにも優しい人に溺愛されるなんて……)
エドワルドは今後、いくつかの公務を済ませた後、ノルディア王国へ一時帰国するという。シルフィーネも体調が落ち着き次第、彼に伴ってノルディアへ向かうことになる予定だ。結婚式をどちらの国で挙げるかはまだ議論中だが、婚約者として正式にお披露目された以上、もう後戻りはない。
まさに“政略結婚から始まる溺愛恋愛ざまぁ”の結末――そこでは、かつての悪意に満ちた裏切りや陰謀がすべて空回りし、シルフィーネが心からの祝福を受ける立場へと昇華したのだ。
廊下から足音が聞こえ、ドアがノックされる。「お嬢様、そろそろ馬車の準備が整いました」
案内に従って外へ出ると、エドワルドがまだ待ってくれていた。すでに大半の客は帰路につき、王宮は少し静けさを取り戻している。
「……シルフィーネ、今日は本当にお疲れ様。無理をさせてしまったけれど、どうかゆっくり休んでくださいね」
「閣下こそ、お疲れさまでした。……私、幸せです。ありがとう」
自然と微笑み合い、手を取り合う。周囲には騎士や従者がいるが、もう気にすることもない。むしろ“王太子と公爵令嬢”という枠を越え、愛し合う二人の姿がそこにあった。
この夜を境に、シルフィーネの人生は大きく変わる。かつての呪縛を断ち切り、新たな地平へ――ノルディア王国での結婚生活が待っている。そこでも障害はあるかもしれないが、今の彼女には乗り越えるだけの覚悟と力、そして“王太子の溺愛”という強力な支えがある。
第二部完結――ここに、“婚約破棄ざまぁ”を経た公爵令嬢シルフィーネの物語は、一つの終着点を迎える。
アメリアやライオネルに翻弄され、命を落としかけた過去も、今となっては遠い記憶。陰謀を巡らせた者たちは自らの策略に溺れ、ざまあみろと言わんばかりに退散していく。一方、シルフィーネは堂々と王太子の隣を歩き、周囲の貴族たちから讃えられる立場になったのだ。
の足音
エルフィンベルク公爵家の館に、いつにも増して張り詰めた空気が漂っていた。今日こそ、シルフィーネ・エルフィンベルクが“エドワルド王太子”との正式な婚約を発表する夜会が開かれる日であり、館の者たちは朝から大忙しだ。ドレスや装飾、控え室のアレンジ、侍女や従者たちの配置――何から何まで最終チェックを行い、万全の状態で夜を迎えたいという一心がある。
当のシルフィーネは、自室の窓辺に立ち、ゆっくりと深呼吸を繰り返していた。以前よりも体力は戻ったが、まだ急激に動くと眩暈(めまい)が起きる可能性がある。無理は禁物だと分かっていても、今日はどれほど静養していても心が落ち着かない。胸が高鳴り、緊張と期待、そして不安が入り混じった状態から抜け出せないのだ。
(今日、私は“政略結婚から始まる恋”を公式に認めることになる。エドワルド王太子は、そんな私を選んでくれた。本当に、ここまで来たのね……)
長い眠りにつく前の“ライオネルとの婚約破棄”や、意識不明のまま過ぎ去った時間。あの頃の自分は“幼く見える”と馬鹿にされ、翻弄されるだけだった。けれど今は違う。成長した身体と揺るぎない意思を持ち、「誰かに押し流されるだけ」の人生ではなく、自ら選んだ道を進もうとしている。
ドアをノックする音がし、侍女の声が響く。「お嬢様、そろそろお支度を始めてもよろしいでしょうか?」
「……ええ、お願い」
返事と同時に、ドアが開き、複数の侍女たちが流れるように入ってくる。彼女たちは大きな布に包んだドレスを丁寧に広げ、アクセサリーや髪飾り、靴などを次々と並べていく。ドレスは深いロイヤルブルーのベルライン型。胸元には金糸の繊細な刺繍が施され、気品と華やかさを両立したデザインだ。背の伸びたシルフィーネの体に合わせて仕立てられた、特別な一着。
「お嬢様、今日がいよいよ“運命の日”ですね。どうか、お体を大切にしつつ、ご自分のペースで……」
「ええ、分かってる。ありがとう」
侍女の優しい声にシルフィーネは微笑み、意を決するようにドレスへ両腕を通す。胸元から背にかけてしっかりとコルセットで支え、スカートの裾を整え、最後に金色の髪をアップスタイルにまとめてゴージャスな髪飾りを付ける。鏡に映る自分は、あの“幼かった頃”とは別人のように大人びていた。
(本当に、私なのよね……もう二度と“子供”とは呼ばせない。今度こそ誇りを持って、この場に立つわ)
鏡越しに自分の瞳を見つめ、そう心の中で誓う。
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2.王宮の夜会―婚約宣言という舞台
夜の帳が降り始めた頃、エルフィンベルク家の馬車が王宮へ向けて出立した。ルドルフ公爵とマリア夫人、そしてシルフィーネが揃って夜会に参加する。護衛の兵や侍女たちも同行し、もしもの時の対応ができる体制を敷いている。以前の事件――アメリアに階段から突き落とされた惨劇を、もう二度と繰り返さないために。
王宮は大勢の貴族や要人で埋め尽くされ、煌(きら)びやかな照明が廊下や広間を照らしていた。各国からの外交使節も参列し、談笑や取引の話があちこちで飛び交っている。豪奢な服装に身を包んだ客たちは、じきに始まる“王太子からの重大な発表”を待ちわびているようでもある。――何を隠そう、この夜会はエドワルドが主催し、“国際交流の場”と銘打ちながら、実質的には“自身の婚約発表”を行う場として用意されたのだ。
「シルフィーネ、頑張ってきなさい。もし何かあれば、必ず私たちに頼るのよ」
会場入り口で、マリア夫人が娘にそっと囁く。その言葉にシルフィーネは小さく頷き、胸の奥に湧き上がる鼓動を抑えながら、広間の中へ足を踏み入れた。
すぐにエドワルド王太子の姿が目に飛び込む。彼は深い紺色のタキシードに身を包み、その端正な容姿が人混みの中でも際立っている。周囲の貴族たちが羨望の眼差しで彼を見る中、エドワルドはシルフィーネに気づくと、優雅な足取りで真っ直ぐに近づいてきた。
「シルフィーネ。待っていましたよ」
短い言葉に込められた想いが、まるで“もう自分の婚約者”だと言わんばかりだ。人目を憚(はばか)ることなく、その瞳には熱が宿っている。
周囲の客たちが“噂の公爵令嬢”を一斉に見つめ、ひそひそと囁く声が広がる。中には「なんて美しい……」と賞賛する声もあれば、「本当に体調は大丈夫なのか?」「病弱だという話を聞いたが……」といった心ない言葉も混じっている。しかし、シルフィーネはエドワルドの隣に立つと決めているからこそ、ここで怯むわけにはいかない。
「王太子閣下……どうか、今夜はよろしくお願いします」
「ええ、私の方こそ。……あなたの歩幅に合わせて、無理なく進められるよう心がけます。もし体調が悪くなったら、すぐに言ってください」
エドワルドのさりげない気遣いが、シルフィーネをさらに勇気づける。寄せられる視線にはどんな敵意が混じっていても、彼が味方でいてくれる限り大丈夫――そう思えるのだ。
彼女は軽くエドワルドの腕を取り、肩を並べて会場の中央へ向かう。今日の夜会は、しばらく社交の時間が続き、その後、王太子が正式なスピーチを行う段取りになっている。そこで“婚約宣言”を行うわけだ。
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3.忍び寄る悪意―毒と破滅の罠
華やかな音楽が流れ、シルフィーネとエドワルドは貴族たちから祝福の言葉をかけられながら、落ち着かない時間を過ごす。一部の者は明らかに不満そうな態度を示していたが、王太子の前では何も言えず、ただ会釈するに留まっている。
そんな中、給仕の者たちがワインやシャンパン、各種の飲み物を配っている姿が目に留まった。大勢の客がいるため、グラスが無数に用意され、給仕たちは忙しく動き回っている。
「お嬢様、お飲み物をいかがでしょう」
そう声をかけられて、シルフィーネは一瞬迷った。実は、医師から「強いアルコールは控えた方がいい」と言われているのだ。エドワルドも「もし飲むなら、ごく少量か葡萄ジュース程度にした方がいい」と助言してくれている。
給仕のトレイには赤ワインと白ワインが並んでいたが、彼女は「すみません、私にはお酒以外のものを……」と小声で頼んだ。すると、給仕は「承知しました」と一礼して下がっていく……はずだったが、ほんの一瞬、その男の視線に奇妙な違和感が宿ったように思えた。
(なんだろう……? 今の給仕、どこかで見た顔のような……)
だが、周囲の人ごみと忙しさに紛れて、すぐに彼の姿は消えてしまい、シルフィーネは追及できないまま。胸の奥に小さな不快感が芽生えつつも、エドワルドの隣で挨拶を交わすうちに、その違和感を一時忘れる。
――しかし、その陰で、あの給仕の男はトレイの中のグラスにこっそりと細工をしていた。ほんの少し前に廊下で誰かと密談を交わした形跡がある。彼の表情には暗い決意が浮かんでおり、その手の中には小瓶が握られている。そこに含まれた薬品は、摂取すれば頭痛や吐き気、さらには意識を失う恐れもあるという危険なものだ。
それは決して即死毒のようなものではないが、この場で公爵令嬢が醜態を晒すには充分な威力を持つ。病弱な身体に追い討ちをかけ、周囲に「やはりあの令嬢は欠陥がある」と思わせるのが狙いだろう。犯人は巧妙にグラスを毒入りとそうでないものに仕分けし、シルフィーネの手元へ運ぶタイミングを見計らっている。
(絶対に失敗は許されない。……そうさえすれば、“あの方”に俺たちは報酬をもらえる)
給仕の男は焦りを押し殺しながら、トレイを抱えて再び会場を巡回する。目的はただ一つ――シルフィーネが毒入りのグラスを口にするよう誘導し、夜会の最中に体調不良を引き起こさせること。
それが成功すれば、この夜の婚約発表はメチャクチャになるはずだ。噂好きの貴族たちは一斉に「やはり病弱だった」「あんな女が王太子妃など論外」と囃し立てるだろう。狙い通りに行けば、エドワルドとの縁談にも大きな影響を与える――と、彼は信じて疑わない。
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4.崩れゆく計画と、王太子の守り
一方、エドワルドはシルフィーネの様子を細やかに気遣いながら、そろそろスピーチの準備に向かおうとしていた。夜会の中盤で彼が正式に婚約を宣言し、国王からの祝辞を仰ぐ段取りになっている。
広間の中央には小さな演壇が設置され、王家の紋章が飾られている。音楽が一時止まり、会場の視線がそこへ集中し始める。エドワルドはシルフィーネに微笑み、手を差し伸べる。
「いよいよ、ですね。……お忙しいのは承知ですが、あなたも隣に来てくれますか?」
「ええ……私でよければ」
互いに頷き合い、歩き出そうとした時、周囲の給仕たちがさっと集まり、グラスを差し出しながら言う。「閣下、スピーチの前に一口いかがですか?」
このタイミングでの勧めは不自然ではない。多くの貴族たちも演壇へ上がる前に軽く飲み物を口にして心を落ち着ける光景が一般的だ。しかし、この中に“毒入りのグラス”が紛れているのだとしたら……。
エドワルドはチラリとシルフィーネを見やり、「君はどうする?」と問いかける。彼女は以前から言われているとおり「アルコールは控えたいので、お水かジュースなら」と答える。すると、給仕の一人が差し出したのは葡萄ジュースのような色合いのグラス。ところが、それを手に取ろうとした瞬間、エドワルドがふと制止した。
「……失礼、私が確認してもいいかな?」
「えっ……?」
周囲がざわつく中、エドワルドは落ち着いた目でグラスを見つめる。どうやら彼は何かに気づいたらしく、そっと匂いを嗅いだ。――そして軽く眉をひそめる。
「これ、香りが少し変だぞ。もしや別の果汁が混ざっているのでは?」
給仕たちが困惑の表情を浮かべるが、当の男は「い、いえ、たぶん葡萄の種類が違うからでしょう……」などと苦しい言い訳をする。だが、エドワルドの瞳は鋭く光り、その表情は“確信”を得たかのように見えた。
「申し訳ないが、今は大事な時なので、ほかの給仕が持ってきた別のグラスをいただきます。あなたもそれでいいね、シルフィーネ?」
「え、ええ……そうですね」
急遽、別の給仕が用意したジュースを受け取り、シルフィーネは安堵の息をつく。先ほどの一瞬、エドワルドがなぜそこまで強い疑いを抱いたのか分からないが、彼の直感と警戒心が働いたのだろう。――結果的に、毒入りのグラスを手にするのは避けられたようだ。
このやり取りを遠巻きに見ていた男は、明らかに焦りの色を浮かべる。しかし騒ぎを起こすわけにもいかず、そのままトレイを抱えて後退するしかない。毒入りグラスはあえなく無駄に終わり、計画は不首尾だった。
(くそ……どうして王太子が勘づいたんだ? まだ別の手を考えないと……)
男は悔しげに舌打ちし、脇の廊下へ隠れるように消えていく。背後には既に警戒を厳しくしている公爵家の護衛たちの姿が見える。いずれにしても、これ以上派手な行動を起こせば即座に取り押さえられるだろう。ここで無理をするのは得策ではない、と判断したのかもしれない。
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7.婚約宣言―そして“ざまぁ”の終幕
一方、エドワルドとシルフィーネは演壇の前へと歩みを進め、会場の注目を集める。騎士たちが周囲を警護し、国王の近侍が深々と礼を取ると、静寂が広がった。ここが正式な場――王太子が何を語るか、息を呑んで待ち受ける人々。
「皆さま、本日はお忙しい中、この夜会にお集まりいただき感謝いたします。私はノルディア王国第一王太子、エドワルド・フォン・ノルディア。改めまして貴国との絆を深めるために滞在しております」
落ち着いた声で、まずは形式的な挨拶を済ませる。その後、エドワルドは隣に立つシルフィーネへ微笑みかけ、再び会場へ向き直った。
「さて、本日お伝えしたいことがございます。私、エドワルドは――エルフィンベルク公爵家の令嬢、シルフィーネ・エルフィンベルクと、正式に“婚約”することを宣言いたします」
一瞬の静寂の後、場内は大きなどよめきに包まれた。事前に薄々知っていた者も多いが、こうして公の場で直接“王太子自ら”言葉にするのは重みが違う。大半の客は拍手を送り、感嘆や祝福の声を上げる。しかし、一部の者は明らかに不満げな表情で、口を噤んでいる。
「シルフィーネ令嬢は、かつて様々な困難を乗り越え、いまもなお病を完全に克服したわけではありません。しかし、私は彼女の強さと優しさを心から尊敬しております。どんな噂が流れようとも、私は揺るがない。そして、私の祖国ノルディア王国も、彼女を“次の王太子妃”として迎える用意があることを、ここに宣言いたします」
明確な意思表明。会場は再びざわめき、拍手が広がっていく。シルフィーネの胸には込み上げるものがあった。――ここまで堂々と“彼女を守る”と明言されれば、もはや噂や中傷など吹き飛ぶに違いない。
彼女は緊張を抑えながら、わずかに会釈して言葉を紡ぐ。
「私も……エドワルド王太子閣下と共に歩む決意をいたしました。まだ至らぬ点が多く、身体も万全ではありませんが、できる限り努力し、ノルディア王国とこの国の架け橋となれるよう励みたいと思います」
静かながらも力を込めた声。これが“子供扱い”されていた頃の彼女と同一人物とは思えないほど、凛とした美しさがあった。拍手はさらに大きくなり、王家の使者や国王の近侍も微笑ましく見守っている。
そして――アメリアやライオネル、かつての婚約破棄騒動の影が完全に払拭される瞬間でもある。人々は「もう過去の話だ」と考え始め、シルフィーネが抱いていた負のレッテルは徐々に消えていくだろう。
これこそが、彼女にとっての“ざまぁ”だ。過去に馬鹿にし、陥れようとした者たちが、いまや自分を嘲笑できないどころか、認めざるを得ない立場に追い込まれているのだから。
---
8.ざまぁ―痛快なる決着と、未来への序章
拍手が落ち着き、夜会は祝宴のモードに切り替わる。シルフィーネとエドワルドは貴族たちから祝福の言葉を受け、一部の者は渋々ながらも口先だけは「おめでとう」と言うしかない状況だ。そんな中、彼女の目には“あの給仕”の姿が見えなくなっていたが、気にする暇はなかった。
(あの毒入りのグラスは失敗に終わったのね。きっと護衛や周囲の警戒もあって、もう手を出せないはず)
実際、その男は王宮の廊下で衛兵に怪しまれ、取り押さえられそうになって逃げたと後で判明する。まだ誰が黒幕かまでは突き止められていないが、当面は大きな動きはできまい。ライオネル派やロドリゲス公爵派の残党が狙っていた妨害は、結局失敗に終わった格好だ。
(ざまぁ……)
シルフィーネは心の中でそう呟く。かつて意識不明にさせられ、アメリアによって命の危機に瀕(ひん)した自分が、いまや王太子から溺愛され、堂々と婚約を発表する立場に立っている。アンチたちにとっては“痛恨の事態”だろうが、彼女にしてみれば“ざまぁ”以外の言葉が見つからない。
夜会の終盤、エドワルド王太子はシルフィーネとともに舞踏を披露する。ワルツの曲が鳴り、二人が華麗に踊る姿に、会場からは感嘆の声が上がる。彼女の動きは完全とは言えないが、エドワルドが巧みにリードし、身体を支えているおかげでまるで欠点など見えない。むしろ、愛し合う二人の優雅な舞いとして、観客たちを魅了していた。
「大丈夫? 息が辛くない?」
「うん、少し疲れたけれど……とても幸せ……」
シルフィーネは笑みを浮かべ、エドワルドの肩にそっと寄りかかる。彼は腕の力をわずかに強め、演奏が終わったタイミングで彼女をそっと包み込んだ。人々の前で大胆な所作ではあるが、もうとやかく言われることはない。むしろ「なんてロマンチックなんだ」と拍手が湧き起こる。
こうして、壮大な夜会は“ハッピーエンド”の空気のまま幕を閉じた。シルフィーネとエドワルドの婚約は正式に宣言され、周囲もそれを祝福する。噂の残党が動こうにも、王太子の後ろ盾と公爵家の警戒態勢でどうにもならない。
かつて彼女を辱め、踏みにじろうとした者たちこそ、ひっそりと影の中へ退散するしかない。ある者は「いずれ隙ができる」と思っているかもしれないが、今はとても手出しできない。結果的に“ざまぁ”を味わうのは彼らに違いなかった。
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9.幕引きと、新たな地平へ
夜会が終わり、控え室でドレスを着替え終えたシルフィーネは、部屋の窓から夜空を眺めていた。少し前まで、この場所に立つと不安ばかりが先立っていたが、今は心地よい達成感がある。身体に疲労は残るけれども、心が満たされているのをはっきり感じるからだ。
(本当に……私、幸せになっていいのかな。ライオネルの時は散々だったのに、こんなにも優しい人に溺愛されるなんて……)
エドワルドは今後、いくつかの公務を済ませた後、ノルディア王国へ一時帰国するという。シルフィーネも体調が落ち着き次第、彼に伴ってノルディアへ向かうことになる予定だ。結婚式をどちらの国で挙げるかはまだ議論中だが、婚約者として正式にお披露目された以上、もう後戻りはない。
まさに“政略結婚から始まる溺愛恋愛ざまぁ”の結末――そこでは、かつての悪意に満ちた裏切りや陰謀がすべて空回りし、シルフィーネが心からの祝福を受ける立場へと昇華したのだ。
廊下から足音が聞こえ、ドアがノックされる。「お嬢様、そろそろ馬車の準備が整いました」
案内に従って外へ出ると、エドワルドがまだ待ってくれていた。すでに大半の客は帰路につき、王宮は少し静けさを取り戻している。
「……シルフィーネ、今日は本当にお疲れ様。無理をさせてしまったけれど、どうかゆっくり休んでくださいね」
「閣下こそ、お疲れさまでした。……私、幸せです。ありがとう」
自然と微笑み合い、手を取り合う。周囲には騎士や従者がいるが、もう気にすることもない。むしろ“王太子と公爵令嬢”という枠を越え、愛し合う二人の姿がそこにあった。
この夜を境に、シルフィーネの人生は大きく変わる。かつての呪縛を断ち切り、新たな地平へ――ノルディア王国での結婚生活が待っている。そこでも障害はあるかもしれないが、今の彼女には乗り越えるだけの覚悟と力、そして“王太子の溺愛”という強力な支えがある。
第二部完結――ここに、“婚約破棄ざまぁ”を経た公爵令嬢シルフィーネの物語は、一つの終着点を迎える。
アメリアやライオネルに翻弄され、命を落としかけた過去も、今となっては遠い記憶。陰謀を巡らせた者たちは自らの策略に溺れ、ざまあみろと言わんばかりに退散していく。一方、シルフィーネは堂々と王太子の隣を歩き、周囲の貴族たちから讃えられる立場になったのだ。
の足音
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