氷の王女と影の騎士 ――誓いの逆転婚姻

しおしお

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第5章「王国の夜明け」

5-1 王都奪還戦

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5-1 王都奪還戦

夜の王都は、血と炎の匂いに包まれていた。
燃え上がる城門。
黒煙の中、白銀の旗が掲げられる。

その旗印には――氷の花。
民が“希望の印”と呼んだ、ルナリエの象徴だった。

「進め――! 王都を取り戻せ!」
オルヴィンの怒号が夜空に響く。
雪のように降りしきる灰の中、氷の軍が突入した。

兵たちの足音、剣と剣のぶつかる音、叫びと祈り。
そのすべてが、ルナリエの心に刻まれていく。

彼女は城壁の上からその光景を見下ろし、手をかざした。
「――氷よ、道を創りなさい!」

瞬間、凍てつく魔力が走り、
崩れかけた橋が氷のアーチで再生される。
兵たちが歓声を上げ、その上を駆け抜けた。

「姫様! あれが……!」
報告の声が上がる。
視線の先、王城の屋上に立つ影――それは、金の髪を風になびかせたエリザだった。

彼女の手には、奇妙な光を放つ魔導宝珠。
その背後に、かつての王太子セドリックが立っている。
瞳は虚ろで、まるで糸に操られた人形のよう。

「セドリック……」
ルナリエは息を呑む。

エリザの笑い声が風に乗る。
「ルナリエ様。
 あなたがいなければ、私は“真の聖女”として王国を手に入れられたのに。
 でも大丈夫。あなたの氷で、すべてを終わらせてあげる!」

宝珠から放たれた魔力が空を裂き、
灼熱の光が降り注いだ。

「ルナリエ、下がれ!」
オルヴィンが咄嗟に前に出る。
彼が剣を振ると、氷の盾が展開し、炎を受け止めた。
だが、光の衝撃で地面が揺れる。

「オルヴィン!」
「問題ない……! まだ、立てる!」

彼は血を拭い、再び立ち上がる。
その背にルナリエが手を添えた。
「あなたの背を、私が守ります」
「そして俺は、お前の未来を守る」

二人は視線を交わし、前を見た。

「突入する! 王城を落とせ!」

氷の軍が雪嵐のように動き出す。
民が掲げた松明が列となり、王都の通りを照らす。
その光の波が、暗黒に染まった都を少しずつ照らし返していった。

***

王城内――大広間。

そこには、かつて夜会が開かれた同じ場所があった。
婚約破棄を告げられた、あの忌まわしい夜。
だが今、その中心に立つのは涙でも絶望でもなく――決意の女王。

「セドリック。あなたを取り戻しに来ました」

彼女の声に、王太子の瞳がわずかに揺れる。
だがエリザが魔導宝珠をかざし、叫ぶ。
「黙りなさい! この国は私のものよ!」

宝珠が赤く脈動し、セドリックの身体から黒い炎が溢れ出した。
「……ルナリエ、逃げろ!」
オルヴィンが彼女の前に立ち、剣を構える。

「逃げません。あの人も、この国の一部です」

ルナリエが氷の魔力を解き放つと、
炎と氷が激しくぶつかり合い、轟音が響く。

「氷の盾――《フロスト・エンブレイス》!」

氷の花弁が広がり、黒炎を包み込む。
その中から、セドリックの苦悶の声が漏れた。
「ルナ……リエ……」

「思い出して、セドリック。あなたが守りたかったものは……民の笑顔でしょう?」

彼の瞳に、かすかな光が戻る。
だが、エリザの叫びがそれをかき消した。
「やめて! 私から奪わないでぇぇぇっ!!」

宝珠が砕け、暴走した魔力が王城を呑み込もうとする。

「オルヴィン!」
「任せろ!」

彼がルナリエを抱き寄せ、
二人の魔力が重なり合う。

「氷と影よ、我らを包め――《フロスト・ヴェール》!」

眩い光の中、炎が鎮まり、雪が舞った。
やがて、静寂が訪れる。

崩れた瓦礫の中、立っていたのはルナリエとオルヴィンだけ。
そして――操られていたセドリックが、膝をつきながら呟いた。

「……俺は……何を……」

「あなたは、夢を見ていたのです。
 愛を名乗る、偽りの夢を」

ルナリエの瞳は冷たくも優しい。
「でも――夢から覚めたなら、罪を償えばいい」

その言葉に、セドリックは涙を落とした。
ルナリエは背を向ける。

「行きましょう、オルヴィン。
 戦いは、まだ終わっていません」

「――ああ」

外では、夜明け前の空が淡く染まり始めていた。
雪が降り止み、空の端に光が差す。
それはまるで、長い冬の終わりを告げるようだった。



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