氷の王女と影の騎士 ――誓いの逆転婚姻

しおしお

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第5章「王国の夜明け」

5-2 氷の王女の裁き

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5-2 氷の王女の裁き

王都――中央広場。

長い夜が明け、曇天の間から光が差し始めていた。
破壊された建物の跡、焦げた匂い。
その中に、静寂が広がる。

広場の中央には、王城の大理石の階段。
そこにルナリエは立っていた。
純白の外套を纏い、氷の花を胸に飾って。

彼女の前には三人の囚人。
王太子セドリック、伯爵ヴァルデマー、そして聖女を名乗った女、エリザ。
彼らは鎖につながれ、民衆の視線にさらされていた。

「――裁きを始めます」
その声は冷たくも、どこまでも澄んでいた。

民衆が息を呑む。
風が吹き抜け、氷の粉が舞い、まるで雪が舞い戻ったかのように見えた。

「まず、王太子セドリック・エルグレイン。
 あなたは王国の指導者としての誇りを忘れ、私を裏切り、
 国を操る伯爵の傀儡と化しました。――弁明はありますか?」

セドリックはうなだれたまま、かすかに唇を震わせる。
「……私は……愛を……信じてしまった。
 自分が選んだ“愛”が正しいと思い込んで……
 結果、この国を……」

「愛とは、奪うことではなく、与えること。
 あなたが信じたのは“自分への愛”だけです」

ルナリエの声に、王都の空気が凍りついた。

彼は何も言い返せなかった。
かつて“氷の姫”と呼ばれた女が、いまは真の“女王”としてそこに立っている。

ルナリエは次に視線を移す。

「ヴァルデマー伯爵」
「……」

男は顔を上げた。憎悪の中に焦燥が混じっている。

「お前の理想の国は崩壊した。
 それでもなお、この民を支配するつもりですか?」

伯爵は乾いた笑みを浮かべた。
「理想? 愚かだな。国など所詮、力で動くものだ。
 愛だの正義だの、そんな幻想で腹は満たせん」

ルナリエは静かに目を閉じ、そして微笑んだ。
「……そうですか。
 では、あなたの“力”を凍らせてあげます」

彼女が手をかざすと、伯爵の足元から氷の蔓が伸び、
瞬く間にその身体を包み込む。

「ひ、ひぃっ……!? な、何を――!」
「恐れることはありません。
 この氷は、あなたの悪意を封じるためのもの。
 ――罪を凍らせ、時の中で己と向き合いなさい」

氷の蔓が伯爵を完全に閉じ込め、
その身体は氷像のように静止した。

民の間にざわめきが走る。
だが、誰一人として恐れは抱かなかった。
むしろ、清らかな空気が広場を包み込んでいく。

最後に、ルナリエはエリザの前に立つ。

女は地に膝をつき、髪を乱しながら笑っていた。
「どうせ私を殺すんでしょ? “聖女”を偽った女として!」

ルナリエは首を横に振った。
「いいえ。私はあなたを殺しません」

「……なに、ですって?」

「あなたは確かに多くの罪を犯しました。
 けれど……あなたが心の底で望んでいたのは“誰かに必要とされること”だったはず。
 だからこそ、伯爵の甘言に縋った」

エリザの瞳が揺れる。
その奥に、ほんの一瞬だけ、少女のような脆さが見えた。

「人は誰でも、間違えます。
 ――ですが、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、生きてください」

「……生きて、償えと?」
「ええ。あなたの“力”を、今度は誰かを癒すために使いなさい」

エリザは崩れるように泣き出した。
その涙が地面に落ち、凍りながら光を放つ。

ルナリエは静かに告げる。
「判決を下します。
 セドリック王太子、ヴァルデマー伯爵、エリザ――
 あなたたち三人を国外追放とします」

どよめきが起こる。
だが、すぐに民の間に静寂が広がった。
誰もが悟ったのだ。
この“赦し”こそが、最も重い裁きであることを。

「あなたたちの罪は、この国に残さない。
 けれど、あなたたちが残した痛みは、私が背負います」

オルヴィンが一歩前に出た。
「……ルナリエ、それは――」
「いいのです。
 憎しみの連鎖は、ここで終わらせなければ」

彼女は空を見上げた。
雪雲の隙間から、初めて青空が覗く。

「これが、氷の王女としての最後の裁き。
 ――そして、人としての新しい始まりです」

その言葉に、民たちは一斉に膝をつき、
「氷の女王に栄光を!」と声を上げた。

雪が光となって降り注ぎ、王都全体が白く輝く。
まるで、長い冬が静かに終わりを告げたかのようだった。


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