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第5章「王国の夜明け」
5-3 即位の申し出
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5-3 即位の申し出
夜明けの光が王都を照らしていた。
雪に覆われた屋根が黄金色に輝き、
長く続いた闇の時代がようやく終わったことを、人々は感じていた。
ルナリエは、崩れた王城の塔の上に立っていた。
風が髪を揺らし、白いマントの裾がはためく。
隣には、彼女の誓いの騎士――オルヴィンが静かに立っている。
広場には民衆が集まり、老若男女がひざまずいていた。
誰もが口をそろえて叫ぶ。
「氷の姫殿下を女王に!」
「ルナリエ様こそ、真の王だ!」
「新しい時代を導く方だ!」
声は次第に大きくなり、波のように城壁を震わせる。
その中で、老いた大司教が歩み出た。
「ルナリエ=アストレイア殿下。
王家が滅びし今、民と神々はあなたに再興の光を見ています。
どうか、この王冠をお受け取りください」
差し出されたのは、古代より王が戴いてきた白銀の王冠。
氷の花を模した細工が施され、まるで彼女のために作られたように美しい。
ルナリエはしばらく黙ってそれを見つめた。
風の音が止み、時間が凍りつく。
――かつて、婚約破棄された夜。
侮辱され、冷たく突き放された自分が、今や王に推されている。
皮肉でもあり、運命でもあった。
しかし、彼女の心は静かだった。
「……私は、この冠を受け取ることはできません」
広場がざわめく。
「なぜです!? あなたこそが、この国を救った英雄ですぞ!」
「誰もが殿下を望んでおります!」
ルナリエは微笑んだ。
その笑みは、春の雪解けのように柔らかく、人々の胸を温めた。
「私は、支配するために戦ったのではありません。
この国のために命を懸けたのは、ただ――
“誰かが泣かずに生きられる明日”を見たかったからです」
沈黙が広がる。
そして彼女は、隣に立つオルヴィンを見た。
「この人がいなければ、私はここまで来られなかった。
オルヴィン・シュヴァルツ――
彼は、王ではなく、ただの一人の騎士として、私の隣に立ち続けてくれた人です」
オルヴィンは慌てて頭を下げた。
「私は、あなたの剣であり、盾です。
けれど……あなたの隣に立つ資格など、ありません」
ルナリエはその言葉に首を振った。
「資格など、誰が決めるのですか?
王の血より、貴族の名より、
“人を守りたい”と思う心こそが、真の高貴だと私は知りました」
そう言って、彼の手を取る。
民衆が息を呑んだ。
女王に推される女性が、ひとりの騎士の手を――
恋人のように、同じ高さで握っている。
ルナリエは振り返り、広場に声を響かせた。
「この国は、もう“誰かのもの”ではありません。
王も、聖女も、伯爵も――
誰かの支配のために存在する国ではなく、皆の国として再生すべきです」
その声に、空が晴れ渡るようだった。
朝の陽光が差し込み、氷の城壁に反射して七色の光を放つ。
「ですから、私は王位を辞退します。
ですが、王国再建の礎を築くため、
オルヴィン・シュヴァルツを新たな指導者として推挙します」
どよめきが広がる。
オルヴィンは目を見開いた。
「ルナリエ、何を……!?」
「あなたはこの国を救いました。
誰よりも多くの命を守った人。
私は、あなたと共に歩みます。
王ではなく、共に生きる者として」
民衆は再び沈黙したが、やがて誰かが声を上げた。
「ならば――その二人こそ、我らの希望だ!」
拍手が起こり、歓声が雪解けの川のように広がる。
「ルナリエ様!」「オルヴィン様!」と名前が重なり、
王都の空に響き渡った。
その瞬間、風が吹き抜け、
ルナリエの髪を撫で、彼女の胸の氷のペンダントがきらめいた。
「……ありがとう、皆さん」
ルナリエはそっと囁いた。
「氷の王女は、もういません。
ここにいるのは、ただの“ルナ”です」
オルヴィンが隣で微笑む。
「それでも、俺はずっとあなたを“殿下”と呼ぶかもしれません」
「構いませんわ。そのときは、“あなたのルナ殿下”として返します」
二人の笑い声が重なり、王都に新しい朝が訪れる。
雪が静かに降り注いだ。
それは、祝福のようで、永遠の約束のようだった。
---
夜明けの光が王都を照らしていた。
雪に覆われた屋根が黄金色に輝き、
長く続いた闇の時代がようやく終わったことを、人々は感じていた。
ルナリエは、崩れた王城の塔の上に立っていた。
風が髪を揺らし、白いマントの裾がはためく。
隣には、彼女の誓いの騎士――オルヴィンが静かに立っている。
広場には民衆が集まり、老若男女がひざまずいていた。
誰もが口をそろえて叫ぶ。
「氷の姫殿下を女王に!」
「ルナリエ様こそ、真の王だ!」
「新しい時代を導く方だ!」
声は次第に大きくなり、波のように城壁を震わせる。
その中で、老いた大司教が歩み出た。
「ルナリエ=アストレイア殿下。
王家が滅びし今、民と神々はあなたに再興の光を見ています。
どうか、この王冠をお受け取りください」
差し出されたのは、古代より王が戴いてきた白銀の王冠。
氷の花を模した細工が施され、まるで彼女のために作られたように美しい。
ルナリエはしばらく黙ってそれを見つめた。
風の音が止み、時間が凍りつく。
――かつて、婚約破棄された夜。
侮辱され、冷たく突き放された自分が、今や王に推されている。
皮肉でもあり、運命でもあった。
しかし、彼女の心は静かだった。
「……私は、この冠を受け取ることはできません」
広場がざわめく。
「なぜです!? あなたこそが、この国を救った英雄ですぞ!」
「誰もが殿下を望んでおります!」
ルナリエは微笑んだ。
その笑みは、春の雪解けのように柔らかく、人々の胸を温めた。
「私は、支配するために戦ったのではありません。
この国のために命を懸けたのは、ただ――
“誰かが泣かずに生きられる明日”を見たかったからです」
沈黙が広がる。
そして彼女は、隣に立つオルヴィンを見た。
「この人がいなければ、私はここまで来られなかった。
オルヴィン・シュヴァルツ――
彼は、王ではなく、ただの一人の騎士として、私の隣に立ち続けてくれた人です」
オルヴィンは慌てて頭を下げた。
「私は、あなたの剣であり、盾です。
けれど……あなたの隣に立つ資格など、ありません」
ルナリエはその言葉に首を振った。
「資格など、誰が決めるのですか?
王の血より、貴族の名より、
“人を守りたい”と思う心こそが、真の高貴だと私は知りました」
そう言って、彼の手を取る。
民衆が息を呑んだ。
女王に推される女性が、ひとりの騎士の手を――
恋人のように、同じ高さで握っている。
ルナリエは振り返り、広場に声を響かせた。
「この国は、もう“誰かのもの”ではありません。
王も、聖女も、伯爵も――
誰かの支配のために存在する国ではなく、皆の国として再生すべきです」
その声に、空が晴れ渡るようだった。
朝の陽光が差し込み、氷の城壁に反射して七色の光を放つ。
「ですから、私は王位を辞退します。
ですが、王国再建の礎を築くため、
オルヴィン・シュヴァルツを新たな指導者として推挙します」
どよめきが広がる。
オルヴィンは目を見開いた。
「ルナリエ、何を……!?」
「あなたはこの国を救いました。
誰よりも多くの命を守った人。
私は、あなたと共に歩みます。
王ではなく、共に生きる者として」
民衆は再び沈黙したが、やがて誰かが声を上げた。
「ならば――その二人こそ、我らの希望だ!」
拍手が起こり、歓声が雪解けの川のように広がる。
「ルナリエ様!」「オルヴィン様!」と名前が重なり、
王都の空に響き渡った。
その瞬間、風が吹き抜け、
ルナリエの髪を撫で、彼女の胸の氷のペンダントがきらめいた。
「……ありがとう、皆さん」
ルナリエはそっと囁いた。
「氷の王女は、もういません。
ここにいるのは、ただの“ルナ”です」
オルヴィンが隣で微笑む。
「それでも、俺はずっとあなたを“殿下”と呼ぶかもしれません」
「構いませんわ。そのときは、“あなたのルナ殿下”として返します」
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