氷の王女と影の騎士 ――誓いの逆転婚姻

しおしお

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第5章「王国の夜明け」

5-4 氷の誓い

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5-4 氷の誓い

夜明け。
雪が静かに降り積もり、王都の廃墟に淡い光が宿っていた。

長く続いた戦いのあと、街には再び人々の笑い声が戻り始めている。
商人たちは瓦礫の中に仮設の屋台を出し、
子供たちはその雪の上を走り回っていた。

ルナリエは城壁の上から、その光景を見下ろしていた。
彼女の頬にあたる風は、もう刺すような冷たさではない。
まるで――春を知らせる風のように、柔らかかった。

「ようやく、終わりましたね」
背後からオルヴィンの声がする。
彼は鎧を脱ぎ、軍装の上に白い外套を羽織っていた。
その姿はもはや戦士ではなく、ひとりの男としての穏やかさを纏っている。

ルナリエは振り返り、微笑んだ。
「ええ。……長い冬でしたわね」

オルヴィンは頷き、彼女の隣に立つ。
眼下には、民たちが協力しながら瓦礫を片付け、焚き火を囲んで笑っている。
その光景は、かつての栄華よりもずっと美しかった。

「あなたがいたから、ここまで来られた。
 もしあの日、あなたが雪の中で私を拾ってくれなければ――」

ルナリエが言いかけると、オルヴィンが小さく首を振った。
「拾ったのは、俺の方だ。
 お前が俺を“生かしてくれた”。
 氷の姫が、俺の心に火を灯したんだ」

一瞬、風が吹き、二人の髪を揺らす。
雪片が頬に触れ、すぐに溶けて消えた。

ルナリエは目を細める。
「……そう。なら、今度は私が“灯す”番ですわね」

彼女は胸元の氷のペンダントを外し、それを手のひらに乗せた。
光が反射して、小さな虹を描く。

「この氷は、ずっと私の心を閉ざしていました。
 けれど今は……あなたと出会い、民と過ごし、
 “凍らせるため”ではなく、“守るため”に使いたいと思えるのです」

そう言って、彼女はそのペンダントをオルヴィンの首にかけた。

「これは、私の誓いです。
 ――あなたと共に、生きること」

オルヴィンの瞳に、熱いものが宿る。
「ルナリエ……」

彼はそっと彼女の手を取り、跪いた。
「なら、俺からも誓おう。
 どんな闇が訪れようと、何度でも光を見せる。
 お前が氷に閉ざされぬよう、俺が炎で照らし続ける」

二人の手が重なり合い、
指先から小さな光が生まれ、空へと舞い上がる。
それは氷の花のように広がり、王都の空を覆った。

民衆が見上げ、歓声を上げる。
「見て! 空が――!」
「氷の姫様が祝福しているんだ!」

ルナリエは小さく笑った。
「いいえ、違いますわ。
 ――これは、私たち“みんな”の春です」

雪解けの水が街の石畳を流れ、
その音がまるで祝福の鐘のように響いた。

オルヴィンがそっと彼女の肩を抱く。
「これから、どうしますか? 殿下」
「まずは……庭に花を植えます。
 氷の国にも、春は来るのだと証明するために」

彼は笑い、頷いた。
「なら、俺は水を汲もう」
「……それなら、ついでに紅茶も淹れてくださいな」
「命令ですか?」
「いいえ、お願いですわ」

二人は顔を見合わせ、穏やかに笑う。
遠く、鐘の音が響く。

その音に導かれるように、ルナリエは空を見上げた。
白い雲の向こうに、青空が広がる。
そして、陽の光が二人を包み込む。

「あなたと見る朝焼けが、私の王国です」

その言葉とともに、風が吹く。
氷の花びらが舞い、世界が輝き始める。

――氷の王女は、ついに春を迎えた。


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