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第十三話 消えた後ろ盾
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第十三話 消えた後ろ盾
その朝、執務室に一通の封書が届きました。
差出人は――私の実家、エヴァレット公爵家。
封蝋の紋章を見た瞬間、義母の顔色が変わりました。
「……あなたのご実家から?」
「ええ」
私は静かに封を切りました。
内容は、予想通り。
――侯爵家との商取引契約の一部を、予定通り満了とする。
――更新は、財務状況の再確認後に再協議。
丁寧な文面。非難も責任追及もない。
ただ、淡々とした“停止”。
それは支援の打ち切りではありません。
けれど、実質的な後ろ盾の消失。
「……更新しない、ということ?」
義母の声がわずかに震えます。
「満了でございますわ」
私は落ち着いて答えました。
「契約通りに」
「あなた、何も言わなかったの?」
「申し上げる立場ではございません」
義母は立ち上がりました。
「あなたの実家でしょう!」
「ええ」
「ならば一言くらい……!」
「干渉しない契約です」
静かな言葉。
義母は言葉を失いました。
私は続けます。
「実家の判断は、実家のもの。私は嫁いだ身です」
それは事実。
実家は、私の様子を見ているだけ。
助けを求めなければ、動かない。
求めることは、干渉。
私は約束を守っている。
午後、アレクシスが封書を読んでいました。
「更新が止まれば、資金繰りはさらに厳しくなる」
「そうでしょうね」
「君は本当に何も伝えなかったのか」
「ええ」
彼は私を見ました。
「なぜだ」
「契約です」
「……それだけか」
「それだけです」
彼の視線が、揺らぐ。
「君の実家は、侯爵家を支えていた」
「契約に基づいて」
「ならば今も」
「条件が満たされれば」
彼は拳を握りました。
「満たされていないと判断されたのか」
「数字が示しているのでしょう」
静かな答え。
彼は机に手をつき、俯きました。
「私は……家を守れていないのか」
「守るのは当主の役目です」
私は穏やかに告げます。
「私は体裁を守る立場」
その夜、屋敷内の空気は明らかに変わりました。
使用人たちの間にも動揺が広がる。
「公爵家の支援が止まったらしい」
「本当に危ないのでは」
声は抑えられているが、不安は隠せない。
義弟が執務室で怒鳴りました。
「なぜだ! あの家は義姉上の実家だろう!」
「静かにしなさい!」
義母の声も震えている。
私は廊下の奥で、そのやり取りを聞いていました。
止めることはできる。
一言伝えれば、実家は再考するでしょう。
けれど私は動かない。
干渉しない。
選ばれなかった助言は、もう戻らない。
夜更け。
アレクシスが私の部屋を訪れました。
疲労と焦燥が、はっきりと顔に出ている。
「……頼む」
低い声。
「実家に一言」
私はゆっくりと立ち上がりました。
「何と申し上げれば?」
「支援を継続してほしいと」
「理由は?」
彼は詰まります。
「立て直す」
「具体策は?」
沈黙。
彼は目を逸らしました。
私は静かに告げます。
「干渉しない契約です」
「……家が傾いてもか」
「原因を正す前に、支援を求めれば繰り返します」
彼は苦く笑いました。
「君は、どこまでも容赦がない」
「正確なだけです」
彼は扉に向かい、足を止めました。
「君は、この家がどうなっても平気なのか」
私はわずかに目を伏せました。
「平気ではございません」
初めての本音。
「けれど、約束は守ります」
彼は何も言わず、去っていきました。
後ろ盾は消えた。
支えは外れた。
均衡はさらに揺らぐ。
それでも私は動かない。
干渉しない。
助けない。
見ているだけ。
消えた後ろ盾の重みが、今、確実に侯爵家を押し始めている。
約束は守られている。
その代償もまた、守られているのです。
その朝、執務室に一通の封書が届きました。
差出人は――私の実家、エヴァレット公爵家。
封蝋の紋章を見た瞬間、義母の顔色が変わりました。
「……あなたのご実家から?」
「ええ」
私は静かに封を切りました。
内容は、予想通り。
――侯爵家との商取引契約の一部を、予定通り満了とする。
――更新は、財務状況の再確認後に再協議。
丁寧な文面。非難も責任追及もない。
ただ、淡々とした“停止”。
それは支援の打ち切りではありません。
けれど、実質的な後ろ盾の消失。
「……更新しない、ということ?」
義母の声がわずかに震えます。
「満了でございますわ」
私は落ち着いて答えました。
「契約通りに」
「あなた、何も言わなかったの?」
「申し上げる立場ではございません」
義母は立ち上がりました。
「あなたの実家でしょう!」
「ええ」
「ならば一言くらい……!」
「干渉しない契約です」
静かな言葉。
義母は言葉を失いました。
私は続けます。
「実家の判断は、実家のもの。私は嫁いだ身です」
それは事実。
実家は、私の様子を見ているだけ。
助けを求めなければ、動かない。
求めることは、干渉。
私は約束を守っている。
午後、アレクシスが封書を読んでいました。
「更新が止まれば、資金繰りはさらに厳しくなる」
「そうでしょうね」
「君は本当に何も伝えなかったのか」
「ええ」
彼は私を見ました。
「なぜだ」
「契約です」
「……それだけか」
「それだけです」
彼の視線が、揺らぐ。
「君の実家は、侯爵家を支えていた」
「契約に基づいて」
「ならば今も」
「条件が満たされれば」
彼は拳を握りました。
「満たされていないと判断されたのか」
「数字が示しているのでしょう」
静かな答え。
彼は机に手をつき、俯きました。
「私は……家を守れていないのか」
「守るのは当主の役目です」
私は穏やかに告げます。
「私は体裁を守る立場」
その夜、屋敷内の空気は明らかに変わりました。
使用人たちの間にも動揺が広がる。
「公爵家の支援が止まったらしい」
「本当に危ないのでは」
声は抑えられているが、不安は隠せない。
義弟が執務室で怒鳴りました。
「なぜだ! あの家は義姉上の実家だろう!」
「静かにしなさい!」
義母の声も震えている。
私は廊下の奥で、そのやり取りを聞いていました。
止めることはできる。
一言伝えれば、実家は再考するでしょう。
けれど私は動かない。
干渉しない。
選ばれなかった助言は、もう戻らない。
夜更け。
アレクシスが私の部屋を訪れました。
疲労と焦燥が、はっきりと顔に出ている。
「……頼む」
低い声。
「実家に一言」
私はゆっくりと立ち上がりました。
「何と申し上げれば?」
「支援を継続してほしいと」
「理由は?」
彼は詰まります。
「立て直す」
「具体策は?」
沈黙。
彼は目を逸らしました。
私は静かに告げます。
「干渉しない契約です」
「……家が傾いてもか」
「原因を正す前に、支援を求めれば繰り返します」
彼は苦く笑いました。
「君は、どこまでも容赦がない」
「正確なだけです」
彼は扉に向かい、足を止めました。
「君は、この家がどうなっても平気なのか」
私はわずかに目を伏せました。
「平気ではございません」
初めての本音。
「けれど、約束は守ります」
彼は何も言わず、去っていきました。
後ろ盾は消えた。
支えは外れた。
均衡はさらに揺らぐ。
それでも私は動かない。
干渉しない。
助けない。
見ているだけ。
消えた後ろ盾の重みが、今、確実に侯爵家を押し始めている。
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