白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお

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第十八話 揺り戻しの気配

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第十八話 揺り戻しの気配

 削減と条件変更が続いてから一週間。

 侯爵家の屋敷は、目に見えて“引き締まった”ように見えました。

 無駄な灯りは消え、庭園の手入れは最低限、馬車の使用も制限。

 外から見れば、堅実な運営。

 けれど内側は違う。

 それは再建ではなく、延命。

 私は朝の廊下を歩きながら、その違いを感じていました。

 使用人たちの挨拶は丁寧です。

 けれど、以前のような温度がない。

 信頼は、削減の対象にできない。

 午前中、商会の代表が再び訪れました。

 今度は一人。

 以前のような強硬な態度ではありません。

「当主の姿勢は確認いたしました」

 応接室で、代表は静かに言いました。

「前払いの条件は維持しますが、期限は若干延ばしましょう」

 揺り戻し。

 完全に切られたわけではない。

 アレクシスはわずかに安堵の表情を見せました。

「感謝する」

「信用回復の兆しが見えれば、我々も判断します」

 代表は私に視線を向けます。

「奥様は変わらず冷静ですね」

「体裁を守るのが役目です」

 それ以上は言わない。

 代表は意味深に微笑み、去っていきました。

 午後、義弟が私のもとへ来ました。

「……条件が少し緩んだ」

「ええ」

「義姉上が何かしたのか」

「いいえ」

「本当に?」

 私は彼を見つめました。

「当主が姿勢を示した結果です」

 義弟は沈黙する。

 助けたわけではない。

 けれど、崩れ切らなかったのは事実。

 夕刻、アレクシスが庭園に立っていました。

 剪定が行き届かず、枝が少し乱れている。

「家はまだ立っている」

「ええ」

「だが、弱っている」

 私は彼の隣に立ちました。

「揺り戻しはあります」

「なぜだ」

「完全に崩れる前に、立て直す意思が見えたから」

 彼は私を見ました。

「君は、そこまで読んでいたのか」

「帳簿は正直です」

 彼は小さく笑いました。

「君は、本当に何もしていないのか」

 私は少し考えました。

「未払いを放置しなかっただけです」

「それは助言ではないのか」

「体裁の範囲です」

 彼は目を伏せました。

「私は……まだ間に合うのか」

「選択次第です」

 それ以上は踏み込まない。

 夜。

 使用人の一人が私に声をかけました。

「奥様、最近少しだけ、空気が変わった気がします」

「そうかしら」

「当主様が、直接声をかけてくださるようになりました」

 私はわずかに目を細めました。

 変化。

 小さな、しかし確かな。

 干渉しない契約は守られている。

 けれど、彼の中で何かが動き始めている。

 揺り戻しは一時的なものかもしれない。

 けれど流れは止まっていない。

 削るだけではなく、見直す。

 初めて、その兆しが見えた。

 私は夜空を見上げました。

 雲の隙間から、月がのぞく。

 完全な崩壊ではない。

 けれど再建でもない。

 今は、分岐の途中。

 私は変わらず動かない。

 干渉しない。

 助けない。

 けれど、崩れきらなかったことが、次の波を呼び始めている。

 揺り戻しの気配は、確かにこの屋敷に漂い始めているのでした。
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