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第二十話 加速する傾斜
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第二十話 加速する傾斜
高利の短期融資が成立してから、屋敷の空気は一見落ち着きを取り戻しました。
義弟は自信を取り戻し、義母も「これで流れが変わる」と口にする。
アレクシスは、何も言わず執務室に籠もる時間が増えました。
私は変わらず、体裁を整える。
夜会への返書。寄付の名簿確認。外部契約の期限整理。
干渉はしない。
けれど、崩れた形が露呈しないよう整える。
それが私の役目。
午前中、義弟が満面の笑みで執務室から出てきました。
「利益が出始めた」
「早いですわね」
「短期の回転だ。予想通りだ」
私は彼を見つめました。
「元本はまだです」
「当然だろう」
当然。
その言葉が軽い。
午後、商会から一通の通知が届きました。
小さな文面。
市場の変動。
仕入れ価格の急騰。
短期回転を前提にした計画が、わずかに狂う。
わずか、です。
けれど短期高利は“わずか”に弱い。
夕刻、義弟の顔色が変わっていました。
「一時的なものだ」
誰に向けた言葉でもない。
自分への言い聞かせ。
私は何も言わない。
止めない。
夜。
アレクシスが私の部屋へ来ました。
「市場が荒れている」
「存じております」
「利率が高すぎる」
「承知の上での契約です」
彼は額に手を当てました。
「私は、止めるべきだった」
「当主です」
それ以上は言わない。
選択の責任は、選んだ側にある。
翌日。
回収予定だった資金の一部が遅延。
小さな綻び。
けれど高利契約は待たない。
義弟が焦り始める。
「次で取り返せる」
その言葉が、以前より弱い。
義母は口数が減った。
使用人たちも、再び不安げな視線を交わす。
揺り戻しは、終わり。
傾斜は加速する。
私は執務室の前で立ち止まりました。
中から言い争う声。
「もう一度資金を回せば」
「それは傷口を広げるだけだ」
アレクシスの声が、はっきりと拒絶を含んでいる。
変化。
初めて、彼が“止める”側に立った。
夜更け。
彼が私の部屋に来る。
「レナードを止めた」
「そうですか」
「だが損失は出る」
「はい」
彼は静かに言いました。
「私は、ようやく理解した」
「何を」
「延命と再建は違う」
私はわずかに目を細める。
「気づかれましたか」
「遅すぎたか」
「まだ崩壊ではございません」
それが事実。
彼は椅子に腰を下ろした。
「君は、最初から分かっていたのだろう」
「帳簿は正直です」
「なぜ止めなかった」
「干渉しない契約です」
彼は苦く笑った。
「私は、その契約に救われ、同時に縛られている」
「選ばれた形です」
沈黙。
傾斜は止まらない。
けれど方向は、わずかに変わった。
加速していた転落に、初めてブレーキがかかった。
まだ浅い。
まだ遅いかもしれない。
けれど――
止めないという選択が、彼に“止める”という決断を教えた。
私は窓を開け、夜風を吸い込む。
高利契約の重みは消えない。
損失も消えない。
それでも今、初めて再建の芽が生まれた。
干渉しない。
助けない。
けれど、彼が選び直すことは止めない。
加速していた傾斜は、わずかに角度を変えた。
それがどちらへ向かうのか。
答えは、これから示されるのです。
高利の短期融資が成立してから、屋敷の空気は一見落ち着きを取り戻しました。
義弟は自信を取り戻し、義母も「これで流れが変わる」と口にする。
アレクシスは、何も言わず執務室に籠もる時間が増えました。
私は変わらず、体裁を整える。
夜会への返書。寄付の名簿確認。外部契約の期限整理。
干渉はしない。
けれど、崩れた形が露呈しないよう整える。
それが私の役目。
午前中、義弟が満面の笑みで執務室から出てきました。
「利益が出始めた」
「早いですわね」
「短期の回転だ。予想通りだ」
私は彼を見つめました。
「元本はまだです」
「当然だろう」
当然。
その言葉が軽い。
午後、商会から一通の通知が届きました。
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わずか、です。
けれど短期高利は“わずか”に弱い。
夕刻、義弟の顔色が変わっていました。
「一時的なものだ」
誰に向けた言葉でもない。
自分への言い聞かせ。
私は何も言わない。
止めない。
夜。
アレクシスが私の部屋へ来ました。
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「存じております」
「利率が高すぎる」
「承知の上での契約です」
彼は額に手を当てました。
「私は、止めるべきだった」
「当主です」
それ以上は言わない。
選択の責任は、選んだ側にある。
翌日。
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小さな綻び。
けれど高利契約は待たない。
義弟が焦り始める。
「次で取り返せる」
その言葉が、以前より弱い。
義母は口数が減った。
使用人たちも、再び不安げな視線を交わす。
揺り戻しは、終わり。
傾斜は加速する。
私は執務室の前で立ち止まりました。
中から言い争う声。
「もう一度資金を回せば」
「それは傷口を広げるだけだ」
アレクシスの声が、はっきりと拒絶を含んでいる。
変化。
初めて、彼が“止める”側に立った。
夜更け。
彼が私の部屋に来る。
「レナードを止めた」
「そうですか」
「だが損失は出る」
「はい」
彼は静かに言いました。
「私は、ようやく理解した」
「何を」
「延命と再建は違う」
私はわずかに目を細める。
「気づかれましたか」
「遅すぎたか」
「まだ崩壊ではございません」
それが事実。
彼は椅子に腰を下ろした。
「君は、最初から分かっていたのだろう」
「帳簿は正直です」
「なぜ止めなかった」
「干渉しない契約です」
彼は苦く笑った。
「私は、その契約に救われ、同時に縛られている」
「選ばれた形です」
沈黙。
傾斜は止まらない。
けれど方向は、わずかに変わった。
加速していた転落に、初めてブレーキがかかった。
まだ浅い。
まだ遅いかもしれない。
けれど――
止めないという選択が、彼に“止める”という決断を教えた。
私は窓を開け、夜風を吸い込む。
高利契約の重みは消えない。
損失も消えない。
それでも今、初めて再建の芽が生まれた。
干渉しない。
助けない。
けれど、彼が選び直すことは止めない。
加速していた傾斜は、わずかに角度を変えた。
それがどちらへ向かうのか。
答えは、これから示されるのです。
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