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第二十一話 選び直す者
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第二十一話 選び直す者
高利融資の一部損失が確定した朝、屋敷は奇妙な静けさに包まれていました。
怒鳴り声も、言い訳もない。
代わりにあるのは、重い現実。
義弟は執務室に閉じこもり、義母は祈るように指を組んでいる。
アレクシスは、帳簿を前に黙っていた。
私はいつも通り、朝の書簡を確認する。
社交界からの返答は減ったまま。
けれど完全に途絶えたわけではない。
信用は、まだ残っている。
薄く、かすかに。
午前中、アレクシスが私を呼びました。
「損失は痛いが、致命傷ではない」
「そうでしょうね」
「だが、次はない」
私は彼を見つめました。
「止められました」
「君に止められたのではない」
「ええ」
彼は小さく頷く。
「私が止めた」
その言葉に、わずかな重みがある。
初めて、自分の選択を口にした。
「再建に舵を切る」
「具体策は」
彼は深く息を吸った。
「不要な契約の見直し。短期回転の停止。支払いの優先順位整理」
「遅延分の清算は」
「最優先だ」
私はわずかに目を細める。
「正しい順番です」
彼は苦笑した。
「君の線引きに、ようやく近づいた」
「私は動いておりません」
「だが、見せられた」
沈黙が落ちる。
干渉していない。
助けてもいない。
けれど、崩れた現実が彼を動かした。
午後、義弟が執務室から出てきました。
顔は青白い。
「本当に、止めるのか」
アレクシスが静かに言う。
「止める。これ以上は広げない」
「損を確定させるのか」
「これ以上は深くなる」
義弟は拳を握った。
「俺は……」
「責めない」
アレクシスの声は、以前より落ち着いている。
「だが、任せない」
その一言が、はっきりと響いた。
義弟は何も言えず、視線を落とす。
夕刻、使用人たちに通達がなされました。
追加の整理は行わない。
未払いは順次清算。
最低限の安定を取り戻すための再構築。
廊下に漂っていた不安が、ほんの少しだけ緩む。
夜。
アレクシスが庭園に立っていた。
「私は、選び直せるのか」
「何度でも」
私は答える。
「代償は残ります」
「承知している」
彼は夜空を見上げる。
「君は、本当に一歩も動かなかった」
「契約です」
「だが、私は動いた」
「ええ」
彼は小さく笑った。
「初めて、当主になった気がする」
その言葉は軽くない。
私は静かに頷く。
「遅くはございません」
まだ、崩壊ではない。
まだ、立て直せる。
干渉しない契約は守られている。
けれど、その枠の中で彼は選び直した。
それは誰にも奪えない。
屋敷の灯りが、以前より安定して見える。
傾斜はまだ残る。
損失も消えない。
けれど、転げ落ちる速度は止まった。
私は動かない。
助けない。
干渉しない。
それでも、選び直す者が立ち上がる瞬間を、見届けることはできる。
侯爵家は今、初めて再建の入口に立った。
その一歩は、彼自身のもの。
そして私は、変わらず隣に立つだけなのです。
高利融資の一部損失が確定した朝、屋敷は奇妙な静けさに包まれていました。
怒鳴り声も、言い訳もない。
代わりにあるのは、重い現実。
義弟は執務室に閉じこもり、義母は祈るように指を組んでいる。
アレクシスは、帳簿を前に黙っていた。
私はいつも通り、朝の書簡を確認する。
社交界からの返答は減ったまま。
けれど完全に途絶えたわけではない。
信用は、まだ残っている。
薄く、かすかに。
午前中、アレクシスが私を呼びました。
「損失は痛いが、致命傷ではない」
「そうでしょうね」
「だが、次はない」
私は彼を見つめました。
「止められました」
「君に止められたのではない」
「ええ」
彼は小さく頷く。
「私が止めた」
その言葉に、わずかな重みがある。
初めて、自分の選択を口にした。
「再建に舵を切る」
「具体策は」
彼は深く息を吸った。
「不要な契約の見直し。短期回転の停止。支払いの優先順位整理」
「遅延分の清算は」
「最優先だ」
私はわずかに目を細める。
「正しい順番です」
彼は苦笑した。
「君の線引きに、ようやく近づいた」
「私は動いておりません」
「だが、見せられた」
沈黙が落ちる。
干渉していない。
助けてもいない。
けれど、崩れた現実が彼を動かした。
午後、義弟が執務室から出てきました。
顔は青白い。
「本当に、止めるのか」
アレクシスが静かに言う。
「止める。これ以上は広げない」
「損を確定させるのか」
「これ以上は深くなる」
義弟は拳を握った。
「俺は……」
「責めない」
アレクシスの声は、以前より落ち着いている。
「だが、任せない」
その一言が、はっきりと響いた。
義弟は何も言えず、視線を落とす。
夕刻、使用人たちに通達がなされました。
追加の整理は行わない。
未払いは順次清算。
最低限の安定を取り戻すための再構築。
廊下に漂っていた不安が、ほんの少しだけ緩む。
夜。
アレクシスが庭園に立っていた。
「私は、選び直せるのか」
「何度でも」
私は答える。
「代償は残ります」
「承知している」
彼は夜空を見上げる。
「君は、本当に一歩も動かなかった」
「契約です」
「だが、私は動いた」
「ええ」
彼は小さく笑った。
「初めて、当主になった気がする」
その言葉は軽くない。
私は静かに頷く。
「遅くはございません」
まだ、崩壊ではない。
まだ、立て直せる。
干渉しない契約は守られている。
けれど、その枠の中で彼は選び直した。
それは誰にも奪えない。
屋敷の灯りが、以前より安定して見える。
傾斜はまだ残る。
損失も消えない。
けれど、転げ落ちる速度は止まった。
私は動かない。
助けない。
干渉しない。
それでも、選び直す者が立ち上がる瞬間を、見届けることはできる。
侯爵家は今、初めて再建の入口に立った。
その一歩は、彼自身のもの。
そして私は、変わらず隣に立つだけなのです。
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