白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお

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第二十二話 静かな清算

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第二十二話 静かな清算

 再建に舵を切った翌朝、屋敷の空気は不思議なほど澄んでいました。

 重さは消えていない。
 けれど、迷いが減った。

 迷いは空気を濁らせる。

 決断は、たとえ苦くとも、輪郭を与える。

 私は執務室へ向かうアレクシスの背を見送りました。

 歩幅が一定になっている。

 昨日までの躊躇が、わずかに消えていた。

 午前中、商会へ正式な書簡が送られました。

 未払い分の清算計画。

 短期高利契約の一部損失確定。

 追加借り入れの停止。

 誤魔化さない。

 先送りしない。

 それは痛みを伴う。

 けれど、信用の第一歩。

 義弟は執務室で数字を追っていました。

 以前のような勢いはない。

 代わりに、慎重さがある。

「ここを切れば、回る」

 彼が小さく呟く。

 アレクシスが短く答える。

「切る」

 私は扉の外で、そのやり取りを聞いていました。

 干渉しない。

 助けない。

 けれど、選択が変わったことは分かる。

 午後、解雇した庭師へ支払いがなされました。

 未払い分、全額。

 彼は深く頭を下げる。

「約束を守ってくださり、ありがとうございます」

 その声は、屋敷の中に小さく響いた。

 私は遠くから見守る。

 未払いを放置しなかったこと。

 それだけ。

 けれど、その“だけ”が、崩れかけた名を支える。

 夕刻、義母が私のもとへ来ました。

「……支払いを終えたそうね」

「ええ」

「あなたが言った通りだったわ」

「何も申し上げておりません」

 義母は苦く笑う。

「いいえ、言わなくても分かるのよ」

 私は視線を伏せる。

 干渉はしていない。

 けれど、彼女も少しだけ理解し始めている。

 夜。

 アレクシスが私の部屋を訪れました。

「商会から返答があった」

「どのように」

「条件は維持だが、姿勢を評価すると」

 小さな前進。

 信用は一度に戻らない。

 けれど、積み直すことはできる。

「損失は痛い」

「はい」

「だが、止血はできた」

 彼は静かに椅子に腰を下ろした。

「私は、ずっと誤魔化していたのかもしれない」

「多くは、そうです」

 私は穏やかに答える。

「名があるから大丈夫だと」

「名は結果です」

 彼は小さく頷く。

「結果を積み直す」

 その言葉は、以前よりも確かだった。

 窓の外、庭園はまだ整いきっていない。

 枝は乱れ、芝は薄い。

 けれど、放置されてはいない。

 清算とは、切ることではなく、正すこと。

 それは静かで、地味で、目立たない。

 けれど確実に土台を固める。

 私は変わらず動かない。

 助けない。

 干渉しない。

 けれど、清算が進む様子は見ている。

 屋敷の灯りが、以前より落ち着いて見える。

 まだ完全ではない。

 まだ余裕はない。

 それでも――

 静かな清算は、確かに侯爵家を支え始めている。

 そして私は、隣に立つだけ。

 約束は守られたまま、家は少しずつ形を取り戻していくのです。
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