白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお

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第三十四話 白い結婚の終わり

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第三十四話 白い結婚の終わり

 ヴァレンティンとの取引が公になった日、王都の噂は一気に広がりました。

 かつて侯爵家を揺らした商人が、今は条件付きで支援を受け、監視下に置かれている。

 立場は逆転した。

 けれど、屋敷の中は驚くほど静かでした。

 午前、王宮から正式な感謝状が届く。

 港湾再編は順調に進み、透明化により他家の不満も抑えられたという。

「侯爵夫妻の判断に謝意を」

 義母が小さく微笑む。

「名誉ね」

「名誉は副産物です」

 私は淡々と答える。

 午後、アレクシスが書斎に私を呼んだ。

 机の上には、例の契約書。

 干渉を拒まない契約。

「覚えているか」

「もちろん」

「この契約は、家を守った」

「ええ」

「だが、もう必要ない」

 静かな宣言。

 私は彼を見つめる。

「なぜそう思われますか」

「私は、君の助言を拒まない」

 彼の声は揺れない。

「契約がなくても、共有できる」

 私はしばらく沈黙した。

 白い結婚。
 干渉しない距離。

 それは私を守る壁だった。

「壁がなければ、不安ではありませんか」

「不安だ」

 正直な答え。

「だが、壁に頼り続ければ、共に立てない」

 夕刻、庭園に出る。

 灯りは穏やか。

「君は、私を試した」

「試してはおりません」

「放置された私は、初めて自分の判断と向き合った」

 彼は続ける。

「それがなければ、今も焦っていただろう」

 私は目を伏せる。

「約束は守られました」

「だから終われる」

 その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。

 夜。

 食卓で、義母がぽつりと呟く。

「最近、あなたたちはよく話しているわね」

 義弟が笑う。

「前より夫婦らしい」

 私は軽く首を傾げる。

「契約上の関係でした」

「今は?」

 問いに、私は答えない。

 翌朝。

 書斎で、契約書を広げる。

 署名。
 日付。

 破棄の一文を加える。

 アレクシスが署名する。

 紙の音。

 それは終わりの音であり、始まりの音。

「これで、壁はない」

「ええ」

「逃げ道もない」

「当然です」

 彼は小さく笑う。

「私は、君と共に決めたい」

 私は静かに答える。

「助言は続けます」

「それだけでは足りない」

 沈黙。

 白い結婚は終わった。

 干渉しない距離も消えた。

 残ったのは、共有する責任。

 そして、隣に立つ意思。

 屋敷の灯りは変わらない。

 だが、空気は少しだけ柔らかい。

 侯爵家は、契約に守られる家ではなくなった。

 信頼で立つ家へと変わった。

 私は彼の隣に立つ。

 今度は、壁の向こう側ではなく。

 同じ側に。

 白い結婚は終わりを告げた。

 それはざまあよりも静かで、けれど確かな勝利だったのです。
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