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第三十七話 王宮の温度差
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第三十七話 王宮の温度差
王家直轄の財務監査補佐に就任してから、一月が過ぎました。
王宮の空気は、屋敷とは違う。
整えられた廊下。
磨き上げられた床。
けれど、その奥に流れる温度は一定ではありません。
歓迎。
警戒。
嫉妬。
すべてが混ざっている。
午前、最初の監査報告会。
王宮財務局の重鎮たちが並ぶ中、アレクシスは淡々と資料を提示した。
「短期債の利率が過剰です」
広間にわずかなざわめき。
「慣例だ」
年配の貴族が言う。
「慣例が損失を生みます」
静かな声。
以前なら、感情がにじんだだろう。
今は違う。
私は一歩後ろで、補足資料を配る。
「直近五年の収支推移です。
利率上昇と連動して赤字幅が拡大しています」
数字は嘘をつかない。
沈黙。
「侯爵家は港湾で成功したからといって……」
若い貴族が言いかける。
「成功ではありません」
アレクシスが遮る。
「失敗から学んだ」
その一言が、空気を変えた。
午後、別室で非公式の会談。
「改革が急すぎる」
「王宮の慣習は重い」
反発は当然。
私は静かに言う。
「段階的導入を」
「何?」
「短期債の上限設定を一年目は一割減。
二年目にさらに一割」
急激な切り替えは反発を生む。
段階的なら、飲み込める。
その案は採用された。
夜、屋敷に戻る馬車の中。
「温度差がある」
アレクシスが呟く。
「当然です」
「正論だけでは進まない」
「ええ」
彼は少しだけ笑う。
「君がいなければ、私は強く押しすぎていた」
「共有です」
王宮は屋敷よりも複雑だ。
利害が絡み、派閥が絡む。
その中で、焦れば敵を増やす。
翌週、財務局の一部から密かな抵抗があった。
書類提出の遅延。
報告の不備。
意図は明白。
義弟が憤る。
「兄上、処罰を」
だがアレクシスは首を振った。
「処罰は最終手段だ」
「だが舐められる」
「違う」
彼は静かに言う。
「理由を聞く」
呼び出された官吏は、やや怯えた様子で言った。
「急な改革で、現場が混乱しております」
事実だった。
抵抗だけではない。
不安もある。
「期限を再設定する」
アレクシスは言う。
「だが、提出は必須だ」
厳しさと理解。
その姿勢に、官吏は深く頭を下げた。
夜。
庭園で彼が言う。
「私は、以前なら敵を作っていた」
「ええ」
「今は違う」
「焦りも慢心もないからです」
ざまあは終わった。
今は制度との戦い。
王宮の温度差は簡単に消えない。
だが、段階的な変化は確実に浸透している。
侯爵家は、名ではなく実務で評価され始めた。
私は隣に立つ。
壁はない。
共有だけがある。
王宮の温度差の中で、彼は確実に歩を進めている。
そして私は、その歩幅を共に整えているのです。
王家直轄の財務監査補佐に就任してから、一月が過ぎました。
王宮の空気は、屋敷とは違う。
整えられた廊下。
磨き上げられた床。
けれど、その奥に流れる温度は一定ではありません。
歓迎。
警戒。
嫉妬。
すべてが混ざっている。
午前、最初の監査報告会。
王宮財務局の重鎮たちが並ぶ中、アレクシスは淡々と資料を提示した。
「短期債の利率が過剰です」
広間にわずかなざわめき。
「慣例だ」
年配の貴族が言う。
「慣例が損失を生みます」
静かな声。
以前なら、感情がにじんだだろう。
今は違う。
私は一歩後ろで、補足資料を配る。
「直近五年の収支推移です。
利率上昇と連動して赤字幅が拡大しています」
数字は嘘をつかない。
沈黙。
「侯爵家は港湾で成功したからといって……」
若い貴族が言いかける。
「成功ではありません」
アレクシスが遮る。
「失敗から学んだ」
その一言が、空気を変えた。
午後、別室で非公式の会談。
「改革が急すぎる」
「王宮の慣習は重い」
反発は当然。
私は静かに言う。
「段階的導入を」
「何?」
「短期債の上限設定を一年目は一割減。
二年目にさらに一割」
急激な切り替えは反発を生む。
段階的なら、飲み込める。
その案は採用された。
夜、屋敷に戻る馬車の中。
「温度差がある」
アレクシスが呟く。
「当然です」
「正論だけでは進まない」
「ええ」
彼は少しだけ笑う。
「君がいなければ、私は強く押しすぎていた」
「共有です」
王宮は屋敷よりも複雑だ。
利害が絡み、派閥が絡む。
その中で、焦れば敵を増やす。
翌週、財務局の一部から密かな抵抗があった。
書類提出の遅延。
報告の不備。
意図は明白。
義弟が憤る。
「兄上、処罰を」
だがアレクシスは首を振った。
「処罰は最終手段だ」
「だが舐められる」
「違う」
彼は静かに言う。
「理由を聞く」
呼び出された官吏は、やや怯えた様子で言った。
「急な改革で、現場が混乱しております」
事実だった。
抵抗だけではない。
不安もある。
「期限を再設定する」
アレクシスは言う。
「だが、提出は必須だ」
厳しさと理解。
その姿勢に、官吏は深く頭を下げた。
夜。
庭園で彼が言う。
「私は、以前なら敵を作っていた」
「ええ」
「今は違う」
「焦りも慢心もないからです」
ざまあは終わった。
今は制度との戦い。
王宮の温度差は簡単に消えない。
だが、段階的な変化は確実に浸透している。
侯爵家は、名ではなく実務で評価され始めた。
私は隣に立つ。
壁はない。
共有だけがある。
王宮の温度差の中で、彼は確実に歩を進めている。
そして私は、その歩幅を共に整えているのです。
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