白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお

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第三十八話 揺り戻し

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第三十八話 揺り戻し

 改革は、前進すれば必ず揺り戻す。

 王宮財務局で短期債の上限が段階的に引き下げられてから三か月。
 表向きは順調に見えた。

 赤字幅は縮小。
 帳簿の透明化も進む。

 だが、静かな反発は消えていなかった。

 午前、王宮の一室に緊急招集がかかる。

「地方領からの抗議が相次いでいる」

 年配の貴族が書状を叩いた。

「資金調達が難しくなったと」

 短期債の利率が抑えられたことで、これまで高利に頼っていた領が不満を訴えている。

「急ぎすぎたのではないか」

 視線が集まる。

 アレクシスは静かに答える。

「段階的導入です」

「だが現場は混乱している」

 私は資料を広げる。

「混乱は一時的です。
 代替手段の整備が遅れているだけ」

「代替手段?」

「長期債への移行。
 共同基金の創設」

 室内がざわつく。

 利率を下げるだけでは不十分。
 仕組みそのものを整えなければ反発は続く。

「基金を王家主導で?」

「ええ。透明化された運用で」

 それは、短期的な利益を削る代わりに安定を与える案だった。

 午後、非公式の場で若い貴族が近づく。

「侯爵様は理想論だ」

「理想ではない」

 アレクシスは淡々と返す。

「持続可能性だ」

 その言葉は、以前の彼からは出なかった。

 夜。

 屋敷に戻ると、義弟が報せを持ってくる。

「兄上、地方で侯爵家への不満が広がっている」

「当然だ」

 彼は驚く。

「当然?」

「改革は痛みを伴う」

 私は静かに続ける。

「痛みを放置すれば、揺り戻しが大きくなります」

 翌週、王宮での公開説明会。

 地方領の代表が並び、不満をぶつける。

「利率が下がれば我々の裁量が減る」

「短期資金が回らない」

 アレクシスは一つずつ応じる。

「だから基金を創設する」

「王家の監視下で?」

「透明化のためだ」

 強制ではなく、選択肢として提示する。

 拒む領もあるだろう。
 だが選べる形にすることで、反発は弱まる。

 会議後、ヴァレンティンが言った。

「あなたは敵を減らしている」

「増やしても意味がない」

 彼は小さく笑う。

「以前の侯爵家なら、押し通した」

「揺り戻しで崩れます」

 夜。

 庭園で彼が呟く。

「私は怖かった」

「何が」

「支持を失うことだ」

 私は灯りを見つめる。

「支持は結果で生まれます」

「だが途中は孤立する」

「孤立していません」

 彼は私を見る。

「そうだな」

 揺り戻しは必ず来る。

 だが今の侯爵家は、焦らない。

 反発を受け止め、仕組みを整え、選択肢を示す。

 ざまあの爽快さはない。

 代わりにあるのは、粘り強さ。

 改革は派手ではない。

 けれど、揺り戻しに耐える形を作れば、崩れない。

 私は隣に立つ。

 壁はない。

 共有だけがある。

 王宮の波の中で、彼は確実に足場を固めている。

 揺り戻しを越えた先に、本当の安定があるのです。
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