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即位式と戴冠
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4-4
夜明け前の王都アウラリア。
東の空がわずかに紫を孕むころ、聖グラティナ大聖堂の鐘がゆっくり鳴り始めた。日に三度だけ鳴る最高位の鐘――王の戴冠を告げる合図だ。
石造りの通りには未明から人波が押し寄せ、どの店も窓辺に王家の百合旗を掲げている。露店の菓子鍋から立ちのぼる甘い蒸気が朝霧と混ざり、街全体が高揚の息を吐き出していた。
宮廷では第七時剣(けん)の刻。
フェブラリーは王妃付き侍女たちに囲まれ、純白の女王礼装に袖を通していた。
ドレスは真珠を紡いだ極薄の絹に、王家の紋章とヴァルナ家の桜を交差させた金糸刺繍。背中には蒼銀のマントが垂れ、足下のクリスタルヒールがろうそくの火を鏡のように返す。
胸元のエメラルド指輪は、昨夜の誓いを今も淡く輝かせていた。
「深呼吸を」
鏡越しにエリナが微笑む。フェブは頷き、控えめに脈打つ心臓を押さえた。
――恐れではない。期待でもない。ただ、人生で二度と訪れぬ一瞬を刻む鼓動。
扉が開き、イシュタルが現れた。彼は白金のローブに金徽章を付け、戴冠用のサークレットを腕に携えている。
「準備は?」
「はい、殿下――いいえ、陛下になりますわね」
「まだだ。君が隣に立ってこそ、王冠は落ち着く」
彼は手を差し伸べ、フェブをエスコートする。
二人が大聖堂へ向かう回廊には、紅白の花弁が絨毯のように撒かれていた。灯籠の炎と朝の薄光が交わり、金色の霧が足首を包む。
* * *
大聖堂の高窓から射し込む陽光が、虹彩ガラスを通って七色の柱を落とす。
参列者は王家親族、五大公爵、国外よりの使節、そして選抜された市民代表。
中央の階段をゆっくり昇るイシュタルとフェブを、無数の視線が追った。
合唱隊が古来の戴冠歌を奏で、白衣の司教が王杖と宝珠を捧げ持つ。
「イシュタル・ルーセントよ」
司教の声が大聖堂に響く。
「汝は王国と民に永劫の忠と慈愛を誓うか」
「誓う」――澄んだ声。
次に司教はフェブへ顔を向けた。
「フェブラリー・ヴァルナよ。汝は王を助け、民に光を捧げると誓うか」
「誓います」――揺るぎない声。
王冠儀式は二段階。
まず司教がイシュタルの額に聖油を引き、王冠を掲げる。王太子は膝をつき、油の香に満ちた祈祷が終わると、重厚な白金の王冠がそっと戴かれた。
同時に宝珠と王杖が授けられ、イシュタルは新王として立ち上がる。
万雷の拍手。パイプオルガンが雷鳴のように轟き、窓の鳩がいっせいに羽ばたいた。
続いて王妃戴冠。
フェブは一歩前へ進む。イシュタル自ら薄緑の宝石王妃冠を取り、彼女の額へ慎重に置いた。
王と妃の視線が交わり、二人だけの静かな約束が光の中で結ばれる。
オルガンが再び高らかに響き、聖歌が空を満たした。
* * *
式後の即位宣言は宮殿正門のバルコニー。
広場に集まった数万の民衆が、王と王妃の姿を一目見ようと空を埋め尽くした。
金色のバナーが風に翻り、太鼓隊がリズムを刻む。
重い扉が開く。イシュタルが先に進み、フェブが半歩後ろに続く。
目の前に広がる歓声の大海に、一瞬息を呑む。だがイシュタルの手が背中を支えた。
「アルヴィレオの民よ!」
王は朗々と宣言した。
「今日より私は第57代国王、イシュタル・ルーセントである。そして、我が唯一の王妃はフェブラリー・ヴァルナ・ルーセントだ!」
歓声が爆ぜる。花火が昼の空で光を散らし、紙吹雪が陽光を反射して川のように流れ落ちた。
フェブは胸に手を当て、深く礼を取る。民衆の波の中から「王妃陛下!」の声が轟き、次第に合唱へと広がった。
その音の圧と熱が彼女の魂まで震わせる。――義務で拾った椅子が、今は愛と覚悟の玉座に変わったのだ。
イシュタルがそっと囁く。
「君の笑顔を贈ってくれ」
「……はい」
フェブは顔を上げ、晴れやかな微笑を広場に向けた。鳴り止まぬ喝采が響き、誰もがその瞬間を王国の転生と刻む。
* * *
夕刻、祝宴の間。
金杯に蜂蜜酒が注がれ、長テーブルには各地の珍味が並んだ。
イシュタルとフェブは高座を辞し、参列者の間を周りながら杯を交わした。
ベルトラン公爵ら旧弊派も恭順を示すほかなく、王妃の前で深々と膝を折る。
フェブは気負わず、しかし誇り高く頷いた。氷を溶かすのは剣ではなく、真摯な品位であると理解していた。
「王国は新たな時代へ入る」
イシュタルが小声で呟く。
「君と歩む日々が、全ての始まりだ」
「私も王妃として、そして一人の妻として、貴方を支え続けます」
盃が鳴り合い、琥珀の液が螺旋を描いて揺れる。
* * *
夜、白磁の間。
式の疲れをほぐすように、フェブは肩をすくめながら鏡の前で冠を外していた。
そこへ背後から腕が回り、温かな体温が密着する。
「重かったか?」
「いいえ。不思議ですが、まるで羽根のようでした」
「君が支えてくれたからだ」
イシュタルは冠を受け取り、テーブルに並べ、彼女を振り向かせた。
「今日からは王と妃。だが、この部屋では変わらず夫と妻だ」
「ええ。では――妻から夫へ、最初の命令を」
「命令?」
「今夜は静かに眠りましょう。式でお疲れでしょう?」
イシュタルは目を細め、柔らかく笑った。
「従おう。ただし……手を繋いで眠っていいか?」
「最優先で許可します」
ふたりは寝台へ腰を下ろし、指を絡めた。
窓越しに戴冠を祝う花火が夜空で咲き、遠い爆ぜる音が子守歌のように響く。
フェブはその光を瞼に映しながら、そっと囁いた。
「政略で始まった航海が、ようやく同じ羅針盤を手に入れましたわね」
「羅針盤は君の心だ。私はその針を永遠に見失わない」
唇が触れ合い、深い安堵が胸に満ちる。
――王冠の重量と王妃冠の輝き。その重さを等しく分け合えば、どこまでも歩いていける。
外で最後の花火が大輪を描き、火の粉が星に溶けた。
夜空の下、新しい王国の鼓動が静かに、しかし確かに拍動を始めている。
夜明け前の王都アウラリア。
東の空がわずかに紫を孕むころ、聖グラティナ大聖堂の鐘がゆっくり鳴り始めた。日に三度だけ鳴る最高位の鐘――王の戴冠を告げる合図だ。
石造りの通りには未明から人波が押し寄せ、どの店も窓辺に王家の百合旗を掲げている。露店の菓子鍋から立ちのぼる甘い蒸気が朝霧と混ざり、街全体が高揚の息を吐き出していた。
宮廷では第七時剣(けん)の刻。
フェブラリーは王妃付き侍女たちに囲まれ、純白の女王礼装に袖を通していた。
ドレスは真珠を紡いだ極薄の絹に、王家の紋章とヴァルナ家の桜を交差させた金糸刺繍。背中には蒼銀のマントが垂れ、足下のクリスタルヒールがろうそくの火を鏡のように返す。
胸元のエメラルド指輪は、昨夜の誓いを今も淡く輝かせていた。
「深呼吸を」
鏡越しにエリナが微笑む。フェブは頷き、控えめに脈打つ心臓を押さえた。
――恐れではない。期待でもない。ただ、人生で二度と訪れぬ一瞬を刻む鼓動。
扉が開き、イシュタルが現れた。彼は白金のローブに金徽章を付け、戴冠用のサークレットを腕に携えている。
「準備は?」
「はい、殿下――いいえ、陛下になりますわね」
「まだだ。君が隣に立ってこそ、王冠は落ち着く」
彼は手を差し伸べ、フェブをエスコートする。
二人が大聖堂へ向かう回廊には、紅白の花弁が絨毯のように撒かれていた。灯籠の炎と朝の薄光が交わり、金色の霧が足首を包む。
* * *
大聖堂の高窓から射し込む陽光が、虹彩ガラスを通って七色の柱を落とす。
参列者は王家親族、五大公爵、国外よりの使節、そして選抜された市民代表。
中央の階段をゆっくり昇るイシュタルとフェブを、無数の視線が追った。
合唱隊が古来の戴冠歌を奏で、白衣の司教が王杖と宝珠を捧げ持つ。
「イシュタル・ルーセントよ」
司教の声が大聖堂に響く。
「汝は王国と民に永劫の忠と慈愛を誓うか」
「誓う」――澄んだ声。
次に司教はフェブへ顔を向けた。
「フェブラリー・ヴァルナよ。汝は王を助け、民に光を捧げると誓うか」
「誓います」――揺るぎない声。
王冠儀式は二段階。
まず司教がイシュタルの額に聖油を引き、王冠を掲げる。王太子は膝をつき、油の香に満ちた祈祷が終わると、重厚な白金の王冠がそっと戴かれた。
同時に宝珠と王杖が授けられ、イシュタルは新王として立ち上がる。
万雷の拍手。パイプオルガンが雷鳴のように轟き、窓の鳩がいっせいに羽ばたいた。
続いて王妃戴冠。
フェブは一歩前へ進む。イシュタル自ら薄緑の宝石王妃冠を取り、彼女の額へ慎重に置いた。
王と妃の視線が交わり、二人だけの静かな約束が光の中で結ばれる。
オルガンが再び高らかに響き、聖歌が空を満たした。
* * *
式後の即位宣言は宮殿正門のバルコニー。
広場に集まった数万の民衆が、王と王妃の姿を一目見ようと空を埋め尽くした。
金色のバナーが風に翻り、太鼓隊がリズムを刻む。
重い扉が開く。イシュタルが先に進み、フェブが半歩後ろに続く。
目の前に広がる歓声の大海に、一瞬息を呑む。だがイシュタルの手が背中を支えた。
「アルヴィレオの民よ!」
王は朗々と宣言した。
「今日より私は第57代国王、イシュタル・ルーセントである。そして、我が唯一の王妃はフェブラリー・ヴァルナ・ルーセントだ!」
歓声が爆ぜる。花火が昼の空で光を散らし、紙吹雪が陽光を反射して川のように流れ落ちた。
フェブは胸に手を当て、深く礼を取る。民衆の波の中から「王妃陛下!」の声が轟き、次第に合唱へと広がった。
その音の圧と熱が彼女の魂まで震わせる。――義務で拾った椅子が、今は愛と覚悟の玉座に変わったのだ。
イシュタルがそっと囁く。
「君の笑顔を贈ってくれ」
「……はい」
フェブは顔を上げ、晴れやかな微笑を広場に向けた。鳴り止まぬ喝采が響き、誰もがその瞬間を王国の転生と刻む。
* * *
夕刻、祝宴の間。
金杯に蜂蜜酒が注がれ、長テーブルには各地の珍味が並んだ。
イシュタルとフェブは高座を辞し、参列者の間を周りながら杯を交わした。
ベルトラン公爵ら旧弊派も恭順を示すほかなく、王妃の前で深々と膝を折る。
フェブは気負わず、しかし誇り高く頷いた。氷を溶かすのは剣ではなく、真摯な品位であると理解していた。
「王国は新たな時代へ入る」
イシュタルが小声で呟く。
「君と歩む日々が、全ての始まりだ」
「私も王妃として、そして一人の妻として、貴方を支え続けます」
盃が鳴り合い、琥珀の液が螺旋を描いて揺れる。
* * *
夜、白磁の間。
式の疲れをほぐすように、フェブは肩をすくめながら鏡の前で冠を外していた。
そこへ背後から腕が回り、温かな体温が密着する。
「重かったか?」
「いいえ。不思議ですが、まるで羽根のようでした」
「君が支えてくれたからだ」
イシュタルは冠を受け取り、テーブルに並べ、彼女を振り向かせた。
「今日からは王と妃。だが、この部屋では変わらず夫と妻だ」
「ええ。では――妻から夫へ、最初の命令を」
「命令?」
「今夜は静かに眠りましょう。式でお疲れでしょう?」
イシュタルは目を細め、柔らかく笑った。
「従おう。ただし……手を繋いで眠っていいか?」
「最優先で許可します」
ふたりは寝台へ腰を下ろし、指を絡めた。
窓越しに戴冠を祝う花火が夜空で咲き、遠い爆ぜる音が子守歌のように響く。
フェブはその光を瞼に映しながら、そっと囁いた。
「政略で始まった航海が、ようやく同じ羅針盤を手に入れましたわね」
「羅針盤は君の心だ。私はその針を永遠に見失わない」
唇が触れ合い、深い安堵が胸に満ちる。
――王冠の重量と王妃冠の輝き。その重さを等しく分け合えば、どこまでも歩いていける。
外で最後の花火が大輪を描き、火の粉が星に溶けた。
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